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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第二章 修行編、究極の肉体美を求めて
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第32.2 優しい人たち


「意外と呆気ないな」


Tシャツを着直しながら、浮かんだコメントをそのまま口にした。

たった今診察を終えたところだが、その内容は血液の採取、そしてCT機器に似た魔具に乗ると言った、非常に平凡なものだった。

ファンタジーを無視してる点以外は、特に変わった部分がない。


「初めから騒ぎ立てる必要など無かったのじゃ。それなのに汝と言う奴は、全く」

「ですよね〜」


ぶつくさ文句を垂らしながらも、テキパキと様々のデータを書類やグラフに纏める、白衣姿の二人。リアルの白衣の天使と悪魔である。


屋敷の内装も外見とは反対に、至って普通で機能的な住居だった。

研究所として使われてるスペースも整理整頓が行き届いており、雑菌されたてと思えるくらい清潔だ。

俺はもっとこう、壁に血糊が付いてたり、骨格標本がコレクションされてたり、UMAのホルマリン漬けが転がってたり、マッドな雰囲気を想像してたんだがな。


「ここまで普通なら、返って何故外見がああなってるのか気になるな」

「狂科学者の嗜みだとか言っておったな」

「あと〜、防犯機能もあって一石二鳥だって、自慢してましたね〜」


なじゃそりゃ。

今俺の中で、そのカラクリ女王のイメージがガクッと残念な奴になり下がったぞ。


そう駄弁ってる間に、早くもデータが揃えられる 。

カッサンドラさんが一度だけ書類を見直してから、トントンと 束ねてクリップで止めた。


俺は、無意識に背筋を伸ばした。

さてと、診断は如何なるものか。


「ん?別に今結果が解る物ではないぞ?」

「へ?……そうなの?」

「ああ。恥ずかしながら、機材の使い方は教わってるが、情報分析に必要な専門知識は持ち合わせておらぬのでな」


緊張気味だった俺に、カッサンドラさんはあっけらんと答える。

いや、解析できないって、そじゃあ丸っ切りここに来た意味ねぇじゃねぇか。


「うむ、じゃから、それはカラクリ女王の奴に任せる」

「え?でも、その人今村にいねぇんだろ?」

「ですから〜、ここはアリアちゃんの出番なので〜す」

「アリアちゃん? って、うお!?いつの間に!?」

「もっちゃ  もっちゃ  もっちゃ」


気付いたら、俺の横にでっかい白金色のリャマが立っていた 。

相変わらず、眠気を誘うツラで永久咀嚼してやがる。

なんて神出鬼没なやつなんだ。心臓に悪い。


驚く俺をよそに、カッサンドラさんがアリアちゃんに書類の束を咥えさせた。

餌、じゃないよな?さっき朝飯食ったばっかだし。一体何を………おお、そうか!


「なるほど!アリアちゃんに書類を直接届けさせるんだな?光速の伝令ってわけか!光の速さなら距離も問題にならな…」

「むっしゃ  もっちゃ  むっしゃ  もっちゃ」

「って、やっぱ餌じゃねぇかっ!」


え?ちょっと、食べちゃってるんですけど?

大事なデータ、美味そうに食べちゃってるんですけど!

届けるんじゃなかったの!?


困惑して、当たり前のように紙を食べるアリアちゃんと横の二人を交互に見る。

だが、焦る俺に対して、ラファエラさんとカッサンドラさんはジッと見守ってるだけだった。

やがて、書類はそのまま丸呑みにされ、


「よし、行ったな」

「お疲れ様です〜」


二人とも安心したように頷いた。


FAXか?今、FAXを送ったのか!?

そもそもこいつ、一歩も動いてねぇじゃねぇか!

いや、例の如く捕捉できない速さで行って帰って来たのかもしんねぇけどさ!


「とまあ、いささか面妖じゃが、こうやって我々は外の仲間と通信しておる」

「お世話になる事ですし〜、ハルくんも一筆挨拶しときますか〜?」

「え!? あ、はい」


面妖だって自覚してるんだ、と、ある意味感心してると、思わず素直に紙とペンを受け取ってしまった。


えーっと、挨拶って何て書けばいいんだ?

自己紹介とか?………手紙形式で行くか?


『拝啓カラクリ女王アルファ様、此度お世話に—————かくかくしかじか—————敬具』


ふと、この世界の文字が書けるかどうか心配したが、【全言語理解】のおかげで杞憂に終わった。今更だが、こいつが一番役に立ってるギフトの気がする。

知らない文字を扱ったせいか、随分と格式張った挨拶になってしまったが、失礼には値しないだろう。

誤字がないか確認してから、恐る恐るアリアちゃんに咥えさせる。


また食べる。


「もっちゃ  むっしゃ  もっちゃ」

「……えーっと……行った、のか?」

「行きましたね〜」

「うむ、認識するのに少々コツが必要じゃがな………む?ハルキ、返事が来とるぞ?」

「返事!?」

「は〜い、手を前に出してくださ〜い」


状況に付いて行けず、言われるがまま右手を出すと、


「もっちゃ  もっちゃ  もっちゃ     すぺぇえっ!」



ビチャッ



唾液まみれのヨレヨレの紙切れが、掌に吐き出された。


「…………」


たっぷり三十秒間、己の中で暴れ出す殺意と無言で葛藤しから、それを広げる。


『よろしくだお (^○^)/』


………………。

…………。

……。


かっるぅぅうううううう!?(心の中の叫び)


「絵文字付きか、珍しいの」

「これは〜、気に入られたみたいですね〜」

「そう言う解釈なんだ?!」

「うむ、気を損ねた折、句読点で返信されたこともあったからの。それより、暫しの間手をそのままにするがよい。これで汝にもマーキングが定着して、何処でもアリアから文を受けられる様になる」

「あ?あ、ああ、マーキングね。うん」


何だ、そう言うことか。本気に毛刈りしてやろうかと思っちまったぜ。

ん?待てよ?


右手をベトベトにしたまま落ち着くと同時に、説明を聞いてふとある可能性に気付いた。

もしや、アリアちゃんに頼めばクラスメートの奴らとも連絡取れるのでは、と

この珍獣の神出鬼没っぷりなら、あのやばそうなヴィクトル糞団長でも感知できまい。


けど、かなり良い案だと思ったが、残念ながらすぐにボツとなってしまった。


「アリアちゃん、【神結界】に叩かれるんですよね〜」


申し訳なさそうにラファエラさんは言う。


神が人類の存亡のために築き上げた結界には、環境を調整する他に一定以上の強さの魔物を拒む効果があるのだ。

もちろん、レベル8000代の天体精霊=デルタアリエスになんてバリバリ反応する。

村人達は事前にそれを知ってるので、あの手この手を使って通信できてるのだが、当然クラスの奴らにその手段はない。


それを聞いて少し落胆した。


だが、次に紡がれた言葉が、急成長を含むこの日に起きた全ての出来事を、まるっきり塗り替える事となった。


「あ、じゃが、汝等を元に世界に返すための装置の作成を、既にアルファのやつに依頼したぞ」

「……………え!!??」


声が脳に浸透し、意味ある情報に変換させるのに不思議と苦労した。

それは、衝撃的どころではない話だった。


「え!?今なんて……は!?!どゆこと!!?」

「わ〜、驚いてます〜」

「ふふっ、どう言うことも何も、元から汝は帰る積りなのだろう?」

「いや、そりゃあそうだが……」


元の世界に帰って、兄妹たちと再会する。

折原、藤堂、海老名、皆んなを日本に、親の元に返す。

その決意に揺るぎはない。


でも、不意打ち過ぎるだろ!?

いや、だって、異世界に来て未だ一週間も経ってねぇんだぜ?今日でやっと五日目で平日の最終日って感じだ。

俺としては、とにかくあの国の騎士共をブッ飛ばせるくらい強くなって、この世界の情報を集めて、面倒事を一つ一つ解決しながら帰還の方法を探そうと思ってたのに、何この急展開!?


「いや、だが、そう簡単な物でもねぇだろう」

「『おもろそー (@゜▽゜@)』が返事でした〜。作れるそうですよ〜」

「マジかよ………あの国、世界一の技術力持ってるとか言ってなかったっけ?」

「ふっ、それは国としての(・・・・・) 技術力であろう?」


個人の技術力が国を超えて当たり前。

そのドヤ顔カッケー、マジでカッケー。


斯くして異世界召喚一週間足らずで、早くも故郷への帰路が保証されたのだった。

冒険は……どうだろう?冒険のような毎日で死にかけてるが、大したことはしてないのは事実だ。世の中は自分が居なくても正常に動くとは、言い得て妙だな。

まだクラスメートの件が残ってるが、僥倖に違いない。


途方もなく恵まれてると、確かに思った………だが、どういう理由か、俺はうまく喜べずにいた。

心の底で、しこり(・・・)を感じて居た。


呆然と立ち尽くす俺の顔にカッサンドラさんは何かを読み取った、様な気がした。


「矢張り、汝は最初から吾輩等からの助力を視野に入れてなかったのだな。少なくとも、通すべき筋、正当な対価、相応の貢献なしでは我々は動かぬと思ってたのか」

「!」


音声は静かで落ち着いて居たが、俺には電撃に等しかった。

痛みはない。

ただ、そう、小さな子供が親からの言い付けをすっぽり忘れて、誰かに思い出させられた時にこう感じるのだろう。


ああ、やっちまったぜ。

また悪い癖が出ちまったよ、シスター。帰ったらどやさないでくれよ。


「ドラちゃん、それどう言う事ですか〜?」

「何、そのままの意味じゃ。ハルキは、吾輩等が自発的に何の見返りもなく助けると信じてなかったのさ」

「え〜、ひどいです〜。ハルくんは、私たちの優しさを疑ってるのですか〜?」


少なくとのテメェの優しさは疑ってるよ。

普通はそう返すのだが、どうしても言葉が出ない。


他人の優しさに頼りっぱなしなのは甘えだが、何でもかんでも自分で熟そうとするのは自負心、根本的に相手への信頼が欠いてるからだ。

また、利害損得を見越して頼む行為は、ある程度親密な者にはしないものだ。


なぜ今、漠然とした疎外感を感じた。

俺は、信じてなかったのか。死の間際から救ってくれて、行き宛のない俺らを匿ってくれたこの人達を、無意識のどこかで期待に値しないと思ってたのか。


わからない。


こう言う時、決まってあの情景が網膜に浮かび上がる。

鉄の箱、その僅かな隙間から見える夜の黒い海、潮騒に混じる子供達の咽び泣き。

子供達はちゃんとソコ(・・)から出せたが、俺はソコ(・・)からちゃんと出られてるのだろうか。


カッサンドラさんとラファエラさんが優しく微笑む。


「ふふ、汝ほどの男でも、そう言った未熟な側面があるのじゃな。少しは安心したわい」

「他人に頼り過ぎるのはいけません。でも、頼りなさ過ぎるのもダメです。私達を頼ってください。望みが正しければ、身を粉にして協力します」

「らしくねぇこと言うんじゃねぇよ。感動しちまうじゃねぇか、ちくしょう……っ」


思わず前髪を掻き揚げて、手で目元を覆ってしまう。


己の欠陥を剥き出しにする程、恥ずかしい事はない。

そして、それでも尚誰かに手を差し伸べられる程、嬉しい事はない。


「……いいのか? 俺、向こうに帰ったら何の恩返しもできねぇぜ?」

「仲間の力になれるのは誇りじゃよ」

「と、格好付けたいところですが〜、会えなくなるのが寂しいので〜、二つの世界を行き来できるようにと、こちらから追加注文したんですよね〜。異世界のお土産よろしく〜」


素敵な笑顔で注文しやがったよ。


…………はあ。

全くもう、敵わねぇな、この人たちには。


なら、俺から贈れる言葉は一つしかない。


「本当に、ありかとう」


心からの笑顔で、感謝を述べた。


「「………あんた誰?」」


そのリアクションには少し傷ついた。






あ、忘れないうちにカラクリ王女さんにもお礼をしないとな。


『サンキュー (*´・∀・`)―♪』



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