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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第二章 修行編、究極の肉体美を求めて
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第32.1 優しい人たち


高い山々と深き森に囲まれた、とある小さな国にその館があったそうです。

鬱蒼とした自然に溶け込んで建つ、無人の館。

何時建設されたかも、どんな人々が住んでいたのかも、誰も知りません。


近辺の村で話を伺えば、ある農夫は百年前からあったと言う、ある老婆は祖父の時代から使われてなかったと言う。

また、ある行商人は昔の領主の住まいだったと言うし、ある食堂の女将は貴族様の別荘だったと言う。


そう記憶が不確かになる程、長くの間存在した館ですが、村人達は親から子に、さらに親から子に、一つの掟を言い伝え厳守させて来たそうです 。

『森の館には近付いてはいけない』と。


しかし、いかなる鉄則も時の流れに晒されば朽ち果てる物。


ある夜、近隣の村で家が数件火事で全焼すると言った事件が起こりました。

奇跡的にも死者は出ませんでしたが、季節は冬。とても野晒しで生きれる気候ではありません。

残った安全な民家に人を割り振っても、どうしても三家族ほど余ってしまいました。


「ちくしょう、どうするんだよ!」

「このままじゃあ凍え死ぬぞ!」

「他の村に行くしかないのでは?」

「冬だぞ?備蓄の事情で受け入れてくれんよ」


ああでもない、こうでもない、と言い合う大人達。

すると、ふと、まるで忘れ物を思い出すかのような声が上がります。


「『森の館』を使えば良いのでは?」


その提案に、皆一度顔を見合わせました。

それは、村の掟に背く禁忌を犯すと言うこと。

しかしながら、そもそも何故それが禁忌として扱われてるのか誰も知らず、周りにも村長にも解りません。


冬の日は短い。仕方なく三家族は村長から許可をもらい、館に住み込む準備を整えることにしました。


館自体は、石造りのためか、驚くほど劣化してませんでした。

埃は雪のように積もってましたが、雨漏りはないし床板も抜けてません。

掃除をすれば、居間の巨大な暖炉も使えます。

見た事もない大きな家に、子供達は大はしゃぎです。


一通りの掃除を終えた時には、すでに夕暮れでした。

なので、その日は簡単な夕食を取って、そのまま大きな居間で一緒に寝ました。


………しかし翌朝、異変が起こりました。

皆起き上がって、女集が朝飯を作ろうとした時、持って来たはずの食料は殆どなく、食べかすしか残ってなかったのです。


その事実に、一同に緊張が走ります。

狩が出来ない冬時に暴食する村人などいません。

つまり、彼ら以外の何者かがこの館にいて、皆が寝入った隙に食料を食べ尽くした事になるのです。


この日は、ひたすら館とその周辺の森を散策しました。

村の狩人も加えて、狐や狼の痕跡も探しました。

だが、日が暮れるまで探しても何も見付かりませんでした。


「おっかしいな……」

「何がです?」

「いや、この時期は大抵の獲物は冬眠するんだが………それにしても何もなさすぎだ(・・・・・)。気味悪りぃぜ」


老練の狩人は、そんな事を呟いてたらしいです。


そして、再び他の村人から食料を恵んでもらい、館に寝泊まって、次の朝………また、貯蔵庫が食い荒らされていました。


「やっぱり、お前がやったんだろ!」

「テメェんトコのガキこそ、随分太ってんじゃねぇか!」

「ああ!?」


他の人間どころか動物もいない以上、犯人は彼らの内の誰かしかあり得ません。

亭主達の間に険悪な空気が漂い、子供達が泣き出します。


この日は、仲が良かった彼らは一日中不機嫌でした。他の村人達も、ただでさえ火事で損失を受けたのに、二日で二度、三家族分の少なくない備蓄が消えた事に良い顔をしませんでした。

だからか、今回譲ってくれたのは一日分だけの食料でした。

結局、夕食も難癖をつけ合いながら全て残らず食されました。



そして………夜。



ぅ、ううあ



「ん?」


昼間のことで、不安で中々寝付けずにいた農婦の一人が、暗闇の中で呻き声を聞き取る。


何だろう、と、不審に感じる暇も与えられず。


「ぎゃああああああああ!!?」


呻き声が、苦痛の叫びに変わった。


「どうしたんだい!?」

「や、やめてくれっ、ぐぁああああああ!?」

「ちょっ、しっかりしな!」


声は、旦那のではない農夫のもの。

しかし、確信は持てない。何故なら、それはあまりにも悲惨な絶叫だからだ。

その上、気のせいか、『クチュ クチュ』と生々しい咀嚼音も聞こえる気がした。


寝ぼけた様子の辺りより、いち早く蝋燭を灯して、苦しむ男に駆け寄る。

そして、闇に浮かんだ光景に絶句する。



何故なら、毛布から僅かに露出した彼の肌、顔と首に、赤い鮮血を流す、おびただしい量の、小さな—————人間の歯型が刻まれていたのだ。



更に服を脱がすと、その歯型は首だけではなく全身に及んでいだ。

だが、暗い部屋には彼ら以外の誰もいなかった。


女は、血が凍る感覚を覚え、未だ状況をつかめてない皆を引きずり、半狂乱に叫びながら村に逃げ込みました。

深夜に叩き起こされた村人達は、最初こそ鬱陶しく思いましたが、男の奇怪な重体に言葉を失い、火事以来の夜通しでの騒動に発展しました。



以降、近辺の村には新たな鉄則が掲げられたそうです。


『人喰い館には近付いてはいけない』と。


今も、狐一匹現れないその森に、人食い館は建っています。




……………真実は、二百年前。

その時、大陸は巨大な戦火に炙られてたそうです。

大勢の兵士が戦線で死に、国は全土から男を徴兵しました。


とある村には、子供と女しか残されませんでした。

働き手が一切なくなったがため、冬を直面した際、当然存亡の危機に陥りました。

そこで、当時の心優しい領主様がせめて暖かな住処をと、自身の館に村人達を招き入れたのです。


しかし、不幸にもその年は不作でした。

備蓄は足りず、それでも心優しい領主様は女集に協力して、子供達を最優先に食料を配りました。


やがて、無理を重ねた領主様は死にました。

続いて、女集の農婦も、一人一人、死に絶えました。

未だ外は絶えず雪が降り続いてるのに、食べ物も底が尽きました。


そして………残された、飢えた子供達は………領主様と母たちの骸を…………





『クチュ クチュ クチュ』

「「いやあああああああああ!!?」」


情けない悲鳴をあげながら、俺の横でしゃがみ込む悪魔美女に天使美少女。

頭を抱えながらブルブル震えるその有様を、178.8センチからじっくり見下ろして鑑賞する。


よし、これでしばらくは、夜中洗面台の鏡を見るたびビクッ、とする生活を送るだろう。


「で、これが『人食い館』の怪談話だな。さて、次は『呪われた人形屋敷』って言うんだが、うおほん!『実はこれは、俺の知り合いに実際起こったことで……』

「頼む!後生じゃ!声が頭に直接響いて、可笑しくなりそうじゃ!」

「……うぅ、今夜おトイレに行けません」


『流血屋敷』、『のっぺら女将の旅館』、『ひたひた邸』と四連続目の怪談話で、カッサンドラさんとラファエラさんは限界を迎えつつあった。

前者は、悪魔のくせに一話目でその場から動けなくなる程ビビって、後者は段々と青ざめて、終いに泣きベソをかきはじめた。

なので、俺は慈悲深く微笑みながら、ポンと二人の肩に手を置いて………腹話術で言ってやったのだ。


『霊って、一番怖がってるヤツに取り憑くんだぜ?』

「ぎゃあああああ!?声がっ、頭にぃぃ!!?」

『強き心は悪を滅する:ピュリファイ!ピュリファイ!ピュリファイィィ!!』


とうとう耳を塞ぎながら転げ回るカッサンドラさんと、一心不乱に浄化の魔術を唱えるラファエラさん。

しかし、そんなことしても何の意味もなさない。いや、だって、俺が使ってるのただの腹話術だし。


「ん? どうしたのですか、皆さん。そんな地べたでローリングして。まるで、さっきの俺みたいじゃないですか。寄ってたかって 【ギフト】でいびられた俺みたいじゃないですか。何でしたっけ? 『【豊穣の男の娘】、世紀の傑作。ぷっ』とか言ってませんでしたっけ? え? お゛? 何とか言ってみろよ、おい」

「……くっ、くくっ、い、いかん。思い出したら、つい」

『……カッサンドラさん!首筋に噛み跡がっ!』

「いやあああああああ!!?」


まだお仕置きが足りんらしいな。

このアホども、どう料理してくれようか。


さて、こうやって怪談百談で先ほどの雪辱を晴らしてる俺だが、何もトチ狂って雨の中いきなりこんな事をしてるわけではない。

詳細を省いて結論から言おう、俺たちは今、何処からどう見ても立派な幽霊屋敷の前に立っている。



ピシャア、ゴロゴロゴロ

ギャア、ギャア、ギャア



そこだけ不自然に雷雲が激しく、そこだけ不自然にカラスに似た怪鳥が飛び交う村の一片。

薄暗い空の下にその屋敷は建っていた………ん?なんか、ホラーの冒頭部分みてぇだな。


とにかく、メープル・スプラウトに来た初日に気付いてたが、この村の民家は揃ってオカシイ。

まともなのは、バルズークさんのログハウスくらいで、他は砦、城 、法隆寺見たいの、世界史の教科書の中身をぶち撒けてもこうはならんだろう。


まあ、最近の俺は料理するためだけに家に帰ってるので 、昨夜ラーニャさんのヴェルサイユ宮殿(以後ラーニャ宮殿と命名)を見るまで気に止めてなかったのだが。

改めて、この西洋風の幽霊が出そうな西洋風の屋敷を目の前にすると、その異常性を噛みしめる。


そして、俺たち三人がここで何をしてるかというと、例の中途半端な急成長について調べに来たのだ。他の連中は、各々の仕事に当たっている。

どうも、このお化け屋敷こそがカラクリ王女と呼ばれて村の発明家である、アルファさんの住処否研究所らしい。

診察用の機材が完備されてるので、本人は何らかの事情で現在留守だが、必要あらば勝手に使っていいと言われてるそうだ。


「それじゃあ、雨も降ってる事だし、さっさと診察とやらを済ませますか。行くぞ」

「「今行けるわけない(でしょう)(じゃろう)!!」」


ハモって抗議された。

かなり本気に腰が抜けてる様子だ。

自分でやっといて何だが、少し呆れるな。


「ったく、情けねぇな。だいたい、この世界には呪いも幽霊も実在してそうじゃねぇか。しかも、そう言うのって魔術で何とか出来んだろ?」

「確かに我々天使族は、アンデッドの天敵ですけどっ!ハルくんの語り方が悍ましすぎるんですっ!」

「腹話術のことか?」

「そんなの腹話術じゃありません!!」


ラファエラさん、『です〜』が抜けてるな。地が出るほど怖いのか。


「ハルくんこそ怖くない——んですよね〜。はい、解ります。むしろ、霊が裸足で逃げますもんね。閣下ですもん。………あれ?だったら私たち大丈夫かも?」

「何のことだ?………まあ、確かに怖いかどうか聞かれてもなぁ」


頭を掻きながら、俺は再度屋敷を観察した。


建築様式はゴシックな感じで、全体的に古びた暗い色の建物。

頑強な石造りの壁は所々ひび割れ、蔦が無遠慮に繁殖している。

中心から突き出る尖塔の周辺は、絶え間無くキモイ怪鳥が飛び交い、稲妻の光加減で窓の奥に奇妙な人影が見えたりもした。


「うん、まあ、俺がいた孤児院も似たような所があったしな」

「え?元の世界の孤児院がですか!?」

「ああ、つっても、全体がじゃなくて、三階の廊下の奥の部屋辺りがな」


びっくりするラファエラさんに、懐かしみながら語る。兄妹あいつらは今頃どうしてんだろう?


「その廊下の奥は、とし子って言う小さい妹の部屋でな。そこだけ妙に日当たりが悪かったり、床が軋んだり、夜中猫の鳴き声がしたり、時々外からその部屋の窓が見当たらなかったりして ……部屋変えないかって、よくアイツに勧めるんだが、執念深く断るんだよねぇ」

「悪いことは言いません、もうとし子ちゃんとは話さない方が良いです」

「妹を悪く言うんじゃねぇよ!…………あいつと話してると、他の奴らも変な顔するけどよ」

「具体的には?」


『でなー、今日はそのヤンキーに散々ボコられて…』

『春樹お兄ちゃん、だれと話してるの?』

『ん?誰って、とし子に決まってんだろ』

『………………………………………………………………………そう』


「って感じだな」

「何ですかその長い間!?明らかに何かがオカシイでしょう!? 『歩め、盟約に従い、汝らに救済を:カーディナル・ピュリフィケーション!!』


膨大な魔力がうねり、ラファエラさんの魔術で体がいきなり光りだす。

そこから神秘的な光の柱が立ち昇って、上空の神樹の枝を眩く照らした。


何しやがるんでい。気持ちよかったから別に良いけどさ。


一仕事したとばかり汗を拭う彼女に、だいぶ調子が戻って来たと見て、俺は屋敷に入るために正門に手を掛けた。

ツッコミは無しだ。いい加減油売ってないで、さっさとやることやって筋トレの続きをしたい。

新しく手に入れた肉体をもっともっと美しく磨き上げるのだ。


ところが、世の中そうスムーズには行かないらしい 。


「さっさと行くぜ、カッサンドラさん……って、カッサンドラさん!?」

「ドラちゃん!?ああ、大変です、こんな悟りを開いた顔して!」


ぱぁあああっと、満ち足りた笑みを浮かべる悪魔美女。

その後俺のやる気とは別に、怪談話で精神をすり減らし、トドメとばかり天使の浄化魔術の余波で昇天寸前のカッサンドラさんを引き戻すため、大いに手こずる羽目になるのだった。


???:「………………………………………次、明日、7時」

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