第31.2話 暴露、爆発
全員に見守られながら対立する俺とバルズークさん。
………ん?このシチュエーション、何故か既視感あるぞ?
………ああ、確か、元中の講堂で文化的なヤンキー共にコロセウムごっこをやらされた時だ。キリスト教徒を猛獣に食べさせるやつ。対戦相手はどっかから拾って来た野良の………ツキノワグマだったな。
記憶に浸りながら、試しに二三歩下がってみる………あれれ〜、おっかしいぞ〜?33センチも背が伸びた筈なのに、見上げた視点がまったく変わって無いよ〜?何かの視覚トリックかな?雨が目に入って染みるなぁ。
そうやって絶望感を抱いてる俺に反して、赤鬼サロペットさんはウキウキギチギチと大胸筋を震わせながら樽の様な両手を突き出してきた。
「ハルキくん、オラと相撲するだ!」
「え?スモウ?」
「ああ!」
相撲………どすこい、どすこい?
いや、構え方が変だ。こっちと手を合わせようとするポーズは、手押し相撲か?
ガキの頃、男子グループが良くやってて、女子とおままごとしながら遠くから羨望したアレか?
「オラと手を合わせて、身体強化で全力全身で押すべ!」
「なんかルール違いますが……」
チラッと外野に視線を向けるが、とにかく待ち遠しそうにしてるのが見える。
うーん、憧れの遊びだったのでちと釈然としないが、殴り合いよりは遥かにマシか。
ん?ヘレンが何か口パクしてる………『が・ん・ば・って』。
「頑張るぞおおおお!!」
一気にやる気が出たのでバルズークさんと手を重ねる。おふっ、まるで子供と大人の手みてぇだな。
チョロメンズの仲間を見るような眼差しが突き刺さるが、無視。
腰を落として、両足で踏ん張って、そこで格段に増えた魔力をありったけ全身に巡らせる。
今まで全力で力を使った事ないのでどうなるか解らない………なーんて、格好付けて見たいが、残念ながら修行時の俺は毎回全力どころか死ぬ気だ。
だから、その感覚を呼び起こせばいい。
「行くぜ!」
「来い!」
「うぉおおおおおお!!!」
いっけえええぇぇ!!俺の筋肉たちいいいぃぃ!!!
ズゥッボボボボボボボボォォ
…………イッテしまった。
裏庭にイタイ沈黙が漂う。雨音が嫌に響く。
いや、滑ってない滑ってない。ちゃんとぬかるみに気を付けて踏ん張ったからさ。
うん、なんつーか………今日は良く地面に埋まる日だなぁ、ははは。
結果は、一ミリも後退してないバルズークさんに対して、丁度斜め45度の角度で腰まで土に突き刺さってる俺。
抉ったとかではなく、本当に真っ直ぐ綺麗に突き刺さってるのだ。『アウッ!』と叫ぶポップスターのダンス見たいになってる。
どしてこうなったかと言うと………どうしてだろう?
全力で足に力を入れたらこうなったとしか言えない。
つーか、誰か喋って!コメントお願い!
「すっ、スゲェべ!スゲェべ!」
心でそう念じてたら、最初に再起動したのはバルズークさんだった。
彼は、興奮気味に観衆に両手を見せる。
その手の平には、くっきりと二回り小さい俺の手形が赤く浮かび上がっていた。
「しょぼっ……」
「先輩の手が赤くなってる!?そんなバカな!?」
「彼は、未だ魔物を倒してませんよね?低い【LV】でこんな事が……」
「す、すごいにょっ?!……か、噛んひゃった」
「これは……流石に予想外じゃ」
「バケモノ〜」
あれ?なんか、村の一同が口をあんぐり開けて絶句してるぞ?そんなに驚く事か?
ヘレンは………こっそりサムズアップしてるな。返しておこう。
「オラの身体強化が貫かれただ。こんなの久しぶりだべ!」
「えーっと、それって、具体的にはどんな感じ?」
「今のハルキなら、コンティネンタル・ベヒモース(巨大種)に踏まれても生き残れるべ」
記憶から浮上するのは、メープル・スプラウトに来る時遭遇して殺されかけた、全長500メートル以上の魔物。地球で暴れられたら、核の使用を割と本気に検討させる怪物である。
それはつまり………うん、深く考えず、ヘレンへのサムズアップに集中しようか。
唯一心に止めるべき教訓は、『筋肉に不可能はない』だ。
現実逃避に浸ってる間、村の全員がまた難しい顔で議論を再開してた。
いつの間にか誰かが結界の魔術を張ったらしく、雨が降って来ない。
いや、それよりも誰か引っこ抜くの手伝ってくれねぇか?確かに自力で出れるけどさ、放置扱いは寂しいぞ?
「と言うことは、矢張りハルキは覚醒しておると見るべきか」
「四日目、新記録ですね〜。でも小さいんですよね〜」
「やっぱ、異世界人ってのが原因っすかね。姉御」
「あの、常識的に考えて、この場合【ステータス】を調べれば何か解るんじゃ……」
「……………常識的すぎて思い付かなんだわ。よし、今すぐ測定器を取って来る」
!!!??
性観念以外は常識人なラーニャさんがそう提案した途端、俺は凄まじい衝撃を受ける事になった。
同時に記憶の奥で燻ってた何かが一気に燃え盛り、けたたましい警報を鳴らす。
【ステータス】っっ!!!
そうか!アレがあったじゃねぇか!俺はバカかっ!!
今度こそ、例え四肢が捥げても逃げなくちゃならねぇっ!!
こいつらにアレを知られる訳にはいかねぇんだっ!!
刹那の間に決死の思いを固めて、破裂させる勢いで魔力を両足に叩き込むが………『ヤツ』が一足早かった。
『テレッテッテテー♪
鑑定結果:
HI!貴方の耳の恋人、DJ<万象鑑定>が送る『今日の鑑定』でゴダんす!
ボッチなマスターにこんなに多くの友達が出来て、この<万象鑑定>は狂喜乱舞でゴダんす!
よって………
個体名、バルズークがフレンド登録されました。
個体名、カッサンドラ・ヴァン・スピリタスがフレンド登録されました。
個体名、ラファエラ・アルチェレスティアがフレンド登録されました。
個体名、ラーニャ・ポイズンブラッドがフレンド登録されました。
個体名、ロドリゲツがフレンド登録されました。
個体名、リッチャールドがフレンド登録されました。
個体名、ルナがフレンド登録されました。
個体名、アリアがフレンド登録されました。
以後、同行の際鑑定結果は登録者と共有可能になりました。
リクエストに応じて、マスターの保有【ギフト】を表示致します、でゴダんす。
鑑定結果:
【<滅星拳法>】:
夜空にも映らない、遥か彼方の星々を滅ぼした究極の武術。
【<魔法>】:
MAGI〜〜〜C。
【<男の娘>】:
漢の上の顔と下の顔は必ず一致するとは限らない。その強さも然り。
【<豊穣の男の娘>】:
漢の上の顔と下の顔は必ず一致するとは限らない。従って、作物も見かけや育て方によらず美味しく実るものだ。
【<万象鑑定>】:
この世で最も優れた【ギフト】でゴダんす。
【<全言語理解>】:
全ての言語を理解できる。
以上がマスター森春樹のギフトでゴダんす。』
突如脳内に流れこんだ無機質な音声に、ヘレン以外の一同が驚き、警戒し、最後に絶句する。
対して、ある意味その発生源である俺と言えば、
「アバババっババカげかきっききかかけけけけっ」
過去最大の壊れっぷりを披露していた。
………そうか………そう言う………事だったのか。
古今東西、エクソシズムと言う儀式に置いて、悪魔を退治する為の最終手段はこれしかない。即ち、己に取り憑かせて崖から身投げでもして道連れにする方法だ。
よし、遺書と縄を用意しよう。
「何じゃ、このギフトは!?」
うん、解りますよ、その気持ち。
俺だって、最初見た時はそう思いましたもの。
「何だったんだ、今の声!?ギフトなのか!?勝手に喋ってたぞ!?あり得るのかよ!!?」
へぇ、普通のギフトって喋らないんだ。
じゃあ、何でこのクソ野郎は黙っててくれないのかなぁ?
「【滅星拳法】とは、戦闘系ギフトですよね!?農家(辺境の)が……そんな……デタラメな」
いやいや、使えませんよ?使ったら世界が終わるそうだからね。
「【全言語理解】、いいな、欲しいな」
遺産に出来たらラーニャさんに残しますよ、それでヘレンの教育お願いします………って、あれ?
さっきから、賞賛ばかりで誰もバカにしてこねぇぞ?
恐る恐る確認すると、皆の表情には驚愕、尊敬、畏怖、羨望。呆れや嘲りなどは皆無だった。
まるで世界記録を大幅に更新させたスポーツマン、ヒーローを見てる目だ。
予想外の反応に戦々恐々してると、バルズークさんが目の前に立ち、ガシッと俺の両肩を掴み、ズボッと何気に引っこ抜き、宙吊のままフルスロットルでガクガクし出した。
「スゲーべ!スゲーべ!スゲーべぇ!!」
「あががが!? バルズークさんやめて!揺らすのやめて!!」
「こんなぎょうさんギフト持ってるなんて、ハルキは最強だべ!!」
「わかったっ!からっ!おろしてっ!」
大型犬は、度々嬉しさのあまり主人から貰う玩具などをバラバラに引き裂いてしまうらしい。
何となくそんな物騒な知識を思い出しながらも、俺はとある希望を見出していた。
ひょっとして………他のギフトに注目が行って、あの罰ゲームとしか言い様のない下ネタギフトを見落としてくれたのでは?
うん!そうに違いない!
ぅるおっしゃあああぁよかったあぁ!ギリギリセーフ!
内心ガッツポーズを決めて、そのまま甲高く『パウッ!』と叫ぶポップスターの様に腰振りをしてる間にカッサンドラさんに助けられた。
「全く、つくづく汝には驚かされるのぉ。本来、農家(辺境の)は戦闘系のギフトを持たぬ筈なのに、よりにもよってその最高峰らしい物を所持してるとは」
「ま、まあ。【万象鑑定】によれば、危なっかしくて使えない代物だがな。あははは」
「確かに。じゃが制御出来るのなら話は別じゃ。汝には列記とした武術の修行を付けなければなるまい。農家(辺境の)にやった試しはないが………ふふ、一体どんな戦士が生まれるのやら」
「お手柔らかにな」
「それとは別に、違う形に『覚醒』したのも恐らくギフトの影響じゃろう。唯圧倒的な膂力で身を固めるのではなく、より武芸に特化した型に濃縮した感じに仕上がっとるな。と言っても、飽くまで推測じゃから、この後精密検査を受けて貰うぞ」
「了解。今日の午前中はそんな感じか」
「うむ、ところで、【<男の娘>】と【<豊穣の男の娘>】とは何ぞ?」
「ああ、それはな……………え?」
気が付けば、俺の前にヤギの角を生やし六枚の漆黒の翼を広げる、ニンマリと笑う悪魔がいた。
そして辺りを見れば、皆んなもニンマリと同じ笑顔でこちらを見ていた。
…………。
「アッ——————————ッ!」
その後、俺はしばらくヘレンの膝枕を涙で濡らしたのだった。
森:「………次回、復讐編の始まり(呪)」
全員:「「「「「「ひっ!?」」」」」」




