第21話 三日目(1) 元いじめられっ子は天敵と出会う
吹雪にも負けず、豪風にも負けず、嵐にも負けず。
およそ天空からの総攻撃に耐え凌いだ俺は、今度は大地の怒りと対立する事になった。
メープル・スプラウトから出た先は、正に地獄だった。
いや、今までも閻魔大王お墨付きの地獄だったが、今回はヴィジュアル的にもオーソドックスな灼熱地獄が広がってたのだ。
地殻を裏返したようなマグマの海、舞い上がる火炎、所々噴流する熱せられた有毒ガス。
脳裏に聞こえた「フゥワハハハハ!!ワガハイの帝国へようこそぉ!!」と言う空耳はさて置き、早速熱と毒の耐性強化を習得出来ました。吐血と火傷を代償に。
今日もまた実りの多い一日になりそうだぞ!人間の新たな可能性を見出だせそうだぜ!と、意気揚々と関節粉砕ストレッチを始めた矢先、周囲の光景とマッチしていたカッサンドラさんが告げた。
「と、以上の理由で吾輩とラファエラは修行担当を辞退させて貰うのじゃ」
「そっ首叩き落とすぞ、この牛乳女ぁ!!」
ドゴオオオオォォォォォォォォオオオオオオオオン
うわっ、びっくりした。
思わず怒鳴った直後、巨大なマグマ溜まりが大爆発したのだ。
地鳴りを伴う爆音、かなり間近でキノコ雲が立ち上がってる。………対放射線の耐性強化ってあるのかな?
そう危険感を抱いてたら、隣でもっととんでもない魔力の唸りと殺気を感じ取る。
どういう理由か、カッサンドラさんが決死の覚悟で俺を睨み、時空やら何やら捻じ曲げながら両手に暗黒物質を生み出していたのだ。
数キロ以内のあらゆる物質が消滅するな、こりゃ。
「って、何してんの?!!」
「っ!? お、おお、ハルキ(常)のに方か。そうか、良かった」
「え!?そのダークマター、ひょっとして俺宛か!??」
「ああ。汝が怒った途端、地が爆発したからな。閣下の再来だと思って、確なる上は責任を取って道連れにと」
「怖えよ!?意味解かんねえよ!?そして怖えよ!?兎に角ダークマターは、めっ!ポイしなさい!あ、ポイしちゃ駄目ぇ!ないないしなさい!怒りますよっ!」
口調が崩壊してるが許して欲しい。分子崩壊されるよりはマシだ。
カッサンドラさんは、油断なく俺を見据えながら術と殺気を解いた。
超危険物質が消えたところで一安心できたが、こんなにクソ暑いのに肝が冷えたわ。
彼女は、一体何をそんなに恐れているのだろうか。
は?真犯人はナレーター?なんじゃそりゃ。
「ふう、すまぬ、脱線した。吾輩達が修行担当を下りる話じゃったな。じゃが、勘違いするな。ハルキは、まだまだ弱い。違う者の監修の元で修行を継続して貰う」
「へ?そうなの?んだよ、脅かすなよな」
「ははは、汝も稀に見ぬ好き者じゃな。自主的にこの修行を望むとか相当じゃぞ?」
「はあ?んな訳あるか!俺にそんな趣味はねーよ。でも、エカテリーナとジェニファーちゃんがこんなにヤル気出してんだ。筋トレするのが当たり前だろうが」
ガタ
ゴトン
「ソウジャナー、アハハハ」
あれ?カッサンドラさんが壊れたぞ?寝不足かしらん?
「でもさ、何でまた担当を変えたりするんだ?まだ修行開始から二日目だぜ?」
「え!?そ、それはだな。えーっと、そう!吾輩達の本来の役目は汝が逃げぬ為の監視役だったのじゃ!ほら、過去の輩も毎回脱走して中々修行が進まんかったからな。じゃが、汝は逃げるどころか意欲的に鍛えておるではないか。じゃから、吾輩達はもう要らぬと、ラファエラと判断したのじゃ」
「へー、それ、本当?」
「ああ!全く、汝のタフネスには天晴れじゃ!」
「じゃあ、何でそんなに目を泳がせて、指もワナワナ絡ませてるんだ?」
「気のせい、じゃっ!」
「ふーん、じゃあさ、もしカッサンドラさんが嘘吐いてたら、おっぱい揉んでいい?」
「え゛?!え、えーっと、えーっとぉ……」
声が尻すぼみになり、涙が表に出る美女悪魔。
やべぇ、これ、堪らなくおもしれぇんですけど。
つーか、どんだけ正直者なんだよこの人。悪い人に捕まらないか、お兄さん心配ですわ。
………ああ、そう言や既に筋肉怪物に捕まってたな。
「みなさ〜ん、お待たせで〜す。連れてきましたよ〜!」
「ら、ラファエラ!」
おっぱい揉み券をどうやって獲得しようか企んでいると、村の不可視の結界からラファエラさんが姿を表した。
あからさまに助かったと安堵するカッサンドラさん。
チッ、どこまで俺の邪魔をするのだ己は!
苛立たしく舌打ちしそうになるが、どうやら自分はこの決して天使じゃないお方を見くびってたようだ。
ラファエラさんは俺達を見て、何か察した顔で踵を返した。「お邪魔しました〜」とだけ言い残して。
「何故そこで帰ろうとするのじゃ!」
「……ドラちゃん」
「な、何じゃ、急に改まって」
「いっそ、ハルくんにも調教されたら楽になれますよ?」
「何をどう解釈したのじゃ、貴様!?!」
真っ赤になり、身を守るように自分を抱きしめながら距離を取る巨乳悪魔。
そんな彼女の姿を見て、俺とラファエラさんはゾクゾクっと身震いした。
そして、数秒お互い見詰めあってから不敵な笑顔で固い握手を交わし合うのだった。
これにて協定が締結された。ドS天使め、初めて波長が合ったな。
「まあ、カッサンドラさんを俺なしでは生きて行けない体にするのは後回しにして」
「回さんわ!未来永劫そんな事させんわ!」
「ん〜?何ですか〜?」
「いや、同志ラファエラ。隣にいるソレ、何?」
「ど、同志、じゃと?汝、あんなにラファエラと啀み合っていたのに、何をする気じゃ!そ、そんな事許されると思っているのか!吾輩は人妻じゃぞ!」
フゥワハハハハ!だから燃えるんだろうがぁ!
古今東西、『そ、そんな事許されると思っているのか!ボクは〇〇なんだぞ!』みてぇなセリフ言う奴はやられ役って決まってんだよ!諦めて俺にやられろ、むしろヤらせろ!
ぷるぷる、いや、ぷるんぷるん震える“ミルク絞られ機”を無視して、怪訝にラファエラさんと一緒に出てきたソレを指差す。
「は〜い、紹介しますね〜。ハルくんの新しい修行係の〜、アリアちゃんで〜す!アリアちゃん、この子がハルくんですよ〜」
「え?修行係って………」
そう得意気に言う彼女に反して言葉に詰まる俺の前に連れてこられたのは……
「もっちゃ もっちゃ もっちゃ もっちゃ」
「………リャマまじゃん」
そう、デッカい白金色のもこもこしたリャマだった。
しかも、もっちゃもっちゃと咀嚼してるのではなく、「もっちゃ もっちゃ もっちゃ もっちゃ」と声に出しながら永遠とローケイデンスで咀嚼してるのである。
うっ、タレ目で間延びツラを見てると眠くなってきた。
なんだ、こいつ。
『ババーーーン
鑑定結果:
【天体星霊=デルタアリエス】[LV:8790]』
「ごめんなさいっ!!」
脊髄反射で謝った。
別に何もしてないのに全力で謝ってしまった。
「大丈夫ですよ〜。アリアちゃんは〜、とっても賢い魔物だから闇雲に襲ってきませんよ〜」
「そ、そうなのか?」
「しかも〜、私と同じ治癒の魔術を使えるので〜す」
「おお、だから修行担当してくれるのか」
「さらに〜、地上最速の魔物ですので〜、万が一ハルくんが逃げ出しても捕まえてくれま〜す」
「またキャラの濃いやつキタ———!」
まじか!?
いや、レベルがトンデモナイから断然俺なんかより速えだろうが、地上最速!?
この、空気抵抗MAXなもこもこのほほん癒しキャラが!?!
スゲー、爆走する姿か全く想像できねぇ。そもそも、どんな顔して走るんだろう?
『もっちゃ もっちゃ』が『もちゃチャチャチャチャチャ——!』百裂拳になるとか?
………やべぇ、マジで見てみたいんですけど………
いやいや、真面目になれ。これから命懸けの筋トレするってのに、こんな締まりのない態度じゃ
「さらばっ!!!」
「あっ、ハルくんったら〜!」
くっ、誘惑に勝てなかった!
明日に向かって全力ダッシュ!!
今朝までのスクワットマラソンの効果で凄い瞬発力だ!フゥワハハハハ!!風が気持ちいぜぇ!!
さて、異世界一のスプリンターのフォームはどんなものかな?
期待しながら振り返ると———————
「大丈夫ですよ〜。アリアちゃんは〜、とっても賢いから襲ってきませんよ〜」
「え!?あ、はい」
「しかも〜、私と同じ治癒の魔術を使えるので〜す」
「おっ、おお、優秀、だな」
「さらに〜、地上最速の魔物ですので〜、万が一ハルくんが逃げ出しても捕まえてくれま〜す」
「またキャラの濃いやつキタ——!って、あれ?」
なんか、あんまり驚かんな。
まあ、でも、この草食動物が爆走する姿か全く想像できねぇよ。そもそも、どんな顔して走るんだろう?
『もっちゃ もっちゃ』がモチャ百裂拳になるとか?
………やべぇ、マジで見てみたいんですけど………
いやいや、これから命懸けの筋トレするってのに、こんな締まりのない態度じゃ
「さらばっ!!!」
「あっ、ハルくんったらもう〜!」
くっ、誘惑に勝てなかった!
明日に向かって全力ダッシュ!!フゥワハハハハ!!風が気持ちいぜ!!
さて、世界一のスプリンターのフォームはどんなものかな?
期待しながら振り返ると———————
「大丈夫ですよ〜。アリアちゃんは〜、とっても賢いから襲ってきま…」
「時間が巻き戻ってるっ、だとっ!!??」
「きゃっ!は、ハルくん、どう知ったのですか〜?いきなり〜」
なんの脈絡もなく叫ぶ俺に目を丸くするラファエラさんとギョっと胸を抱きしめるカッサンドラさん。
しかし、変形するチョコ色おっぱいに目もくれず俺はアリアのみを凝視した。
まさか、こいつ……
「もっちゃ もっちゃ もっちゃ ふっ」
「!!!」
ほくそ笑んだ!今、一瞬ほくそ笑んだぞこいつっ!!リャマなのに!!声に出して!!リャマのくせにっ!!
間違いない!!
こいつだ!!こいつのあまりの速さが未来で逃げてる俺に追いつき、過去に引き戻したんだ!!なんてやつだ!!
俺は、たった今体験した超常現象に思考が完全にフリーズし、その後の二人の説明が全然頭に入らなかった。
その後ストレッチを行い、言われるがままエカテリーナとジェニファーちゃんを体に括り付けて、チンチンに加熱した鉄棒も気に留める余裕もなく逃げるように指掛け懸垂に没頭するのだった。
元中の不良共から幾度となく逃げ切った俺が、今日初めてどう足掻いても逃げ切れそうにない敵に出会ってしまった。
これからどうやって生きて行ければいいんだ!!??
ダメ天使:「ちょっと〜、ダメ天使ってなんですか〜」
チョロ悪魔:「つべこべ言わず、早う報告せい」
ダメ天使:「むぅ〜、は〜い。え〜と〜、字数や内容や、色々な事情で〜、三日目(2)を本日中に投稿しま〜す」
チョロ悪魔:「では、また後ほどな」




