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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第二章 修行編、究極の肉体美を求めて
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第17話 『修行編の主人公不死身説』って本当だろうな!なあ!

全スタッフ:「「「新年明けましておめでとうっておっせぇよおおおお!!!」」」


森:「今年初のノリツッコミと投稿!季節に合った(?)一話をどうぞ!」




第一印象:寒いっ!

第二印象:痛いっ!


全ての感想はその二言に尽きる現状である。


「うわ〜、やっぱり天気予報通り寒いですね〜」

「かっ、カカカッカカけきッコかキク」

「え〜、言ったじゃないですか〜。異領域の天候は〜、すご〜く厳しいんです〜」

「カカカッこクククククキッカッ」

「昨日までは森があった、ですか〜?森なんて〜、一晩もすれば無くなっちゃいますよ〜。その逆に〜、一晩で生え直りますけど〜」

「カッコ、ここキキキ、キケカ」


誰がそんな事聞きたいかボケェ!!?

俺は、『帰ろう、寒い、死ぬ』って言いてぇんだよ!


クソッ、寒すぎて呂律も凍っちまってるじゃねぇか。

って言うよりも痛い。空気が刃物のようで耳と鼻が削ぎ落ちそう。息も上手くできん。

辺りが良く見えないのは吹雪のせいか眼球が凍っちまったせいか解らねぇ。

まるで元中共の『ターミ○ーターごっこ』で液体窒素に沈められた時のようだ。


昨日の今日で何が起きた!?

巨大隕石落っこちて氷河期にでも入ったのか!?クラスの奴らは大丈夫なんだろうな、おいっ!!


何とか周囲を確認しようとしたら、俺達が神樹の結界から出て来た場所の地面一帯だけ昨日見た黒い岩石が剥き出しになってるのに気付く。まるで爆心地の如く。

更に氷山のような馬鹿でかい氷の山が両脇から分かれてた。

前後の出来事から、この氷山が外側から村の入り口を塞いでいて、ラファエラさんがあのカメキャノン魔砲で消し飛ばした結論になるが、………考えない方が良さそうだな。うん。


つーか、何でこのニワトリ女は平気なんだ?

こっちと同じ体操服のような薄着のくせに、鳥類だから寒気に強ぇのか?

よく見れば体の輪郭から陽炎が立ってる。何かの魔法?


「ラララッリリレルララララ(訳:ラファエラさん、俺にもその暖かくなる魔法掛けてくれ。このままじゃ凍死する)」

「は〜い、約束通り魔物除けの結界貼っときますね〜。『夜獄を絶する聖母の抱擁:エンジェリック・オーロラ』」


神々しい美貌の天使が三対の純白の翼を広げ、聖歌を歌う。

すると、その意に呼応するかの様に万色の輝きが辺りを包んだ。

これでいかなる魔の侵入を拒絶する聖域が現界した。


…………されど、このクソ寒さはそのまま。うん、こっちが鼻から氷柱を生やし紫色になっているのを無視して会話を進めてる辺り、助ける気なんて無い事くらい察するべきだった。

つまり、死ねって言いたいんだな。


「さ~て。じゃあハルくんは〜、目を閉じて〜、お腹から湧く暖か〜い物に集中してくださ〜い。そして〜、それを体中に巡らせてくださ〜い」

「?」


アタタカイモノならもう全部抜け落ちそうですが?

目を閉じて安らかに眠れと?

良いぜ、化けて出て七代祟ってやる。


だが、支持された通り温もりを巡回させるイメージを描くと、何と寒さが和らいだ。

どう表現したら良いのか、寒いのは感じるがそれによる苦しさがマシになったのだ。

今なら体感的に冷凍室に閉じ込められた程度だ。


おっ、おお!この不思議現象はもしや!


「は~い、おまじないが効いたようですね〜。じゃあ、ストレッチングから始めましょうね〜」

「魔力じゃないんかい!」


残念の余り思わず関西弁でツッコんじまった。

なに!?これ、定番の身体強化的なアレじゃないの!?


「あはは〜、いくら何でも〜魔力が無い世界から来ていきなり身体強化は厶……えっ!?うそ、強化してる!?」


今日はよく驚き顔を見せるラファエラさん。

当たり前の事だが、本当に驚いた時は間延びした口調が抜けるんだな。

どうでもいいことに感心している間、彼女はまじまじ俺を観察してくる。

ガンつけてんのか、あん?………違うか。


「荒削りですが間違いなく身体強化魔術が発動してます。しかも耐性強化……いや〜、すっご〜いですよ〜。ハルくんが男の子だと言われた時以上の驚きですよ〜」

「良く解らんが、このふわっとしたやつが魔力でいいんだな?あと、そのアホの子みてぇなトロイ口調はキャラ作りか?ぶりっ子過ぎてうぜぇぞ?」

「身体強化できるなら〜、ちょ〜っとキツ目に鍛えてもいいですね〜」


笑顔で毒付き合う(見た目だけ)美少女二人。天から唸る吹雪は、そこだけ別の寒さを帯びていた。


ちっ、折角のファンタジーにまた感動するタイミングを逃しちまったじゃねぇか。これで何度目だ?


「ちなみに〜、一環に身体強化魔術と言っても〜、筋力強化、感覚強化、耐性強化、部分強化、完全強化、などなど〜沢山派生ありま〜す。それぞれ消費魔力とか〜、難しさとか異なりますけど〜、理想滴なのは“力を込める”感覚で〜、発動させることで〜す」

「へー、なるほど。でも、それって身体強化に依存しちまうんじゃねぇか?筋トレも意味なくなるし。魔力が使えなくなったら殺られるなんて駄目だろう」

「魔力を纏うだけで細胞組織が活性化するので大丈夫ですよ〜。ハルくんがブチ込まれてた地下牢とか〜魔力を使えなくする処置はありますけど〜、そんなの〜ゴリ押しでなんとかなりま〜す」


ゴリ押しって………過激だなぁ。まあ、俺好みだが。


正直、青少年のロマンたる魔力についてもっと訊きたかったが説明が長くなりそうだったのでいよいよ準備運動に入る事にした。

こんな所でじっと話し込んだりしたら風邪を引いてしまいそうだ。この無駄に壮大な結界も悪天候を防いでくれないし。

後、この偽天使の喋り方はイラっと来る。やっぱり、説明担当はのじゃに限るな。帰ってカッサンドラさんに聞こう。


「な~んか、失礼なこと〜、考えてませんか〜?」

「うん」


…………。


「それじゃ〜、軽いストレッチで〜股割りから始めましょう〜」

「拗ねるなよ」


軽いと言いながら初っ端からハードな事を仰るラファエラさん。

ぶーっと頬を膨らませながら完全開脚する彼女に習って苦もなく股割りを行うと、もっとぶーっされた。


ふんっ、この程度で悶絶すると思ったか?

甘いな、俺を誰だと思ってる?十年以上あらゆる武術の極め技の実験体にされた男だぞ?

柔軟性には問題ない。問題ないが……この股を地に付ける体制、俺の黄金ボールがフロストボールになってしまいそうですわん。


「にじゅうきゅう〜、さんじゅう〜っと。は~い、次は130°股割りで~す」


目を遠くしながら不敵に笑うと言う巧みな表情をしてるとラファエラさんが次のストレッチに移った。

通常の股割りから更に足の爪先を持ち上げ、ぴんっと伸ばす。

ふむ、確かに分度器で測ったような正確な130度ですねーーー


「って、できるわけねぇだろ!バレリーナでも下手したら裂けるぞそれ!」

「大丈夫ですよ〜。昨晩、ちゃんと曲がるように改造しましたから〜」

「言葉使いが不穏過ぎるだろうが!?ヘレンの奴もドン引きしてたし、テメェ、俺にあの時何を……あれ?……なんか、目眩…が」


なん、だ。頭の中に、変な風景が……流れ…こん…………




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




眼前の景色が入れ替わる。



夕闇のし気色に染まる田舎の風景の一部としてその民家は存在していた。

一階の窓から煌めく光は、その内にひっそりと暮らす命の証。

鈴虫がその素朴な音色で一日に幕を下ろすこの時分、ああ、なんと牧歌的な………


『ギャアアアアアアアアアアアアアアア』


………一日の終わりの鈴虫どころか人生の終わりの断末魔が鳴り響いた。



それを皮切りにまた切り替わる風景。



今度は先と同じ一軒家の裏庭が映し出された。見覚えのある裏庭だ。

視点が変わっただけで時は夕暮れ。しかし、何故か飼育されてる真っ赤な雄鶏がけたたましく鳴き叫び、羽を散らしながら騒いでいた。

原因は、十中八九敷地の真ん中に鎮座する一組の人影。


キン肉バ◯ター。

この世で最もプロレスと縁がなさそうな華麗な二人が牛丼好きの一族が花を送って絶唱しそうなキン肉バ◯ターを極めていたのだ。


技を掛けてるのは金髪の美少女(笑えねぇ)。普段の天使を彷彿させる相貌は見る欠片もなく、両目から鋭い閃光を放ちながらコォオオオオと息を吐き出し残心している。

技を受けてるのは、何か見知り過ぎたツラ。全身がごりゅぺきぐしゅっ、と聞こえちゃあかん音を鳴らしてる。時々生きてるって思い出しかなように痙攣してる。

南米の古代遺跡でもこれ程の異様な石像はなかろう。


ガチャリ


裏庭へのドアが開き、褐色金眼の幼女が様子をうかが……


バタン


顔を恐怖に染め上げて逃げ帰った。



三度目の視界の暗転。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「ハッ」


トリップから帰ってきた俺は、全身をブリッジさせて更に頭を両足の間に挟んだ珍体制で覚醒した。

ヨガの熟練者も躊躇しそうなポースだ。

けれど、別段慌てふためくこともなく、流れる動作で逆立ちに切り替えながら着地して最後は座禅を組んで終わる。


そして、暫く宇宙の真理に付いて熟考する。南無。


……………。


「いや、待て待て待て待て!待てよコラ!!何だ今のトンデモナイ映像は!」

「ストレッチング終了〜。うん、ちゃんと関節の可動域が広がってますね〜。えらいえらい」

「レスリングの間違いだろうが!何時の間に終わったんだよ!ああっ、こんな頭の可笑しくなる事やってられっか!俺は帰るぞ!」


即決して村に戻ろうとするがここは既に天使(悪魔)の領域、当然貼られた結界に弾かれる。

あっさりラファエラさんに首根っこを掴まれて引きずり戻された。

背筋の凍る、とても良い笑みをしておらっしゃる。


ストレッチでコレなら他は何なんだ!

そのエンジェルスマイルの裏で筋トレと称してどんな拷問を企んでやがる!


「体も解れたところで〜本格的に筋トレ始めましょうね〜。まずは〜腕立て伏せ!」

「あんた、単純に俺を虐めて楽しいんだろ!」

「はい」


………久しぶりに面と向かって笑顔でそんなことを言われてしまったぜ。虐めの星の下にでも生まれたのか、俺は。


前も言ったが、自分は筋肉トレーニングなんてやったことがない。

成長期の内にやり過ぎると身長が伸び難くなると言うし、何より見た目通り軟弱なので直ぐにバテてる。

今は、ステータスの恩恵でだいぶ膂力が上がったので腕立て百回やれそうだが、伏せた俺を見下ろすこの外道の笑みは全ての楽観視を打ち砕くに足りる。


「は〜い。それじゃあ重りを乗せますから〜歯を食いしばってくださいね〜」


ほらな?


鬼畜外道は、いそいそと持って来たカバンの中を探り、所々取っ手の付いたドア一枚分もありそうな分厚い鉄版を取り出した。明らかに中型のカバンに入らない代物である。


上目遣いでその手品めいた所業を見ていた俺は、一言。


「嘘だよな?」

「歯を食いしばってくださいね〜」

「二度言わなくて良いからって重ぉぅ!!?」


お、もいっ!!!

余裕で成人男性数人分の重さはある!

何で出来てるんだ、一体っ!



ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ



「え?何かどんどん重くなってね?!」

「は〜い!これは〜、グラブスティールと言う金属でして〜こうやって魔力を込めれば込めるほど〜重くなるんです〜」

「やはり血も涙のないのか貴様ぁ!ヤーメーローッ!!」


彼女の良心に訴え、叫び懇願するが魔力を注入する手は退く気配すらない。

それでも、早々身動き取れないほど押し潰されてしまっているので、俺には耐える事しか出来ない……のだが……



ズ ズ ズ ズ ズ

ミシミシッペキッボキ 



「ガアアアアッ!?ちょ、ストーーップ!骨がぁ!腕とその他色々の骨ガァァァ!!」

「大丈夫ですよ〜。『この手に救いを:ハイ・ヒール』」

「救えてねぇよ!何も救えてねぇヨォォ!!」


うおいっ!!何処の誰が善行を成す習性を持つ種族だって?!

【万象鑑定】!もうテメェの言う事は信じねぇ!!


『ピリピリピリ


鑑定結果:

かんば♪でゴダんす』


だまれいっ!!


そうして、ようやく魔力の注入が終わる頃には俺は全身から脂汗を流しながらいきなり限界を直面していた。


硬い地面を掴む掌から何も感じ取れない。

両腕がプルプルしてる。めっちゃプルプルしてる。


「『ハイ・ヒール』う〜ん、やっぱりハルくんには魔術のかかりが悪いですね〜」

「ゼーッゼーッ、ぬぅあああぁ!!こ、のぉ、悪魔めぇッェェ゛」

「あはは〜、それはドラちゃんですよ〜」


異世界よ、テメェはそれで良いのか?こんなのが天使で良いのか?

何かの過ちなら謝れ。直ちに謝れ。俺に謝れ。

ついでにこのニヤニヤしてるサドに雷を落としてくれ。お願い異世界。


くそっ、立派な灰色の翼に反して心の中は真っ黒か!


…………あれ?灰色?


「お、おい、ラファエラさん。翼、灰色になってねぇか?」

「あらやだ〜、虐め…業を背負い過ぎで堕天しそうになってるわ〜。なぜかしら〜」

「オイコラ今何言いかけた。つーか、堕天って」

「寒くなってきましたし〜、ちょうどいいわ〜。ちょっと身を清めに風呂に、もとい水浴びに行きますから〜、後は宜しくお願いしますね〜」

「はあ!?おい、待て、冗談だろう!!?」


一柱の天使を堕天させる程虐められてる事実に呆れを通り越して感心してると、ラファエラさんが突然そんな事を言い出して身支度を始める。


宜しくって何!?

この状況で何をヨロシクしろって!?

出来ねぇよ!夜露死苦しか出来ねぇよっ!!


いやいや、流石の彼女でもこれは有り得ないだろう。

身体強化を使いながらでも普通に凍死しそうなこの吹雪の中、しかもこんな状態の俺を放置して行くなんて絶対ない。あり得ない。


ありえ……ありえー……あり、るあるあるある!当たり前の様に帰って行ってるぞあの女!!


「マジでふざけんなよぉ!!清めてぇんなら先ずこの重りを退けて懺悔しろ!ハルくん虐めてごめんなさいって!!今なら許してあげるかもだから!!」

「あっ、そういえば言い忘れてましたけど〜。この魔物除けの結界、内側の人が動いてないと〜消えるように設定しましたから〜腕立てサボると死んじゃいますよ〜」

「ジグ◯ウかあんた!?何処のデスゲームだよ!ちゃんと腕立てするからこの重りなしでもいいだろう!!」

「でも〜、この辺、結界ごと丸呑みにしちゃう魔物も稀に居るんですよね〜………それじゃあ頑張ってくださいね〜」

「最後の間は何だ!?冗談だよね?マジで帰えっちゃったりしないよねぇ!!?行かないで、お願い、何でもするかr…………………触手まみれになってぇ!!エロを担当しながら堕ちてしまえぇぇぇ!!!!この鬼畜外道ゲスクソアマァァァ゛ァ゛!!!!!」


最後の絶叫が行く宛もなく、誰にも聞かれることもなく、木霊しながら吹雪の中に掻き消えた。


マジで、ヤりやがった。

本当に村に戻りやがった。


しかも、最悪なことにあの人でなしが出た途端、結界の方が目に見えて急速に輝きを失い始めた。


あっ、違う。本当に最悪中の最悪なのは、今地面から伝わり始めた地響きだわ。

そりゃあ、あれだけ叫べば感づかれるわなーー


「ははっ、あはっ、アハハハハHAHAHA!!!」


森春樹の凄惨で孤独な戦いが始まった。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




次の工程に移るべく、吾輩は辞書程分厚い調合書を手に取って栞から先の三十ページを速読し、ざっと内容を暗記する。

こうでもしないと本日中にこの秘薬の完成は望めぬじゃろう。

しかし、久しく生成する上、一歩でも過れば猛毒に変容しかねぬ為同時に慎重にならねば。


「ハイドラの涙から雷魔術で分離した結晶体を溶液βに混ぜ、発生したガスを瞬間凍結で液状に。相変わらず子難しい処方じゃのう」


小言を呟きながらも淀みなく分量を正確に測り、この地下工房に設置された繊細な器具を調整する。


現在何をしているのかと言うと、違法薬ぶt……エリクサーたる万能薬の調合じゃ。

本来、我が家にはラファエラと言う超一流の聖属性魔術使いがおるので基本的に魔質薬など不要。

じゃが、此処は浅部と言えど【異領域】、慢心は禁物じゃ。


まあ、それでもここ数年は用途の無い死蔵商品と化しておったがな。

メープル・スプラウトに住み始めた頃こそ幾分苦労したが、今では吾輩もラファエラもそこらの巨獣に遅れることはない。

バルズーク?フッ、あの者を誰と弁える?吾輩の旦那様が何人に負ける訳なかろうが。


………………。


あ、すまん、今のはナシじゃ。

は、恥ずい〜!顔が赤くなっちゃう〜、のじゃっ!


こ、こほんっ!

と、以上の理由で違法…エリクサーは、時たま異領域に迷い込み瀕死の容態で発見される不遇者に恵んでおる。

そして、丁度昨日バルズークが拾って来たあのエロガキに残り最後の一本を使った。よって、今補充中じゃ。


因みに吾輩の名誉の為断っておくが、違法薬物(エリクサー)の製法を講じたのは吾輩ではなくこの村に住むからくり姫、否、女王であったか。この家のあらゆる魔具や副製品(レプリカ)も彼奴の作品である。現在私情で不在じゃが。

今度帰還した際も空前絶後のぶっ飛んだ発明品を披露するんじゃろうなぁ。


「おっと、液化が完了したか。次は確か……ふむ、これなら任せられそうじゃな。ヘレンよ、その棚の下から二番目の引き出しに入っておる古竜の角を取ってくれんかの」

「………ん」


次に使う材料は比較的に安全だった故、共にいるヘレンに持って来させた。

その素っ気ない態度に意図せず苦笑が漏れる。未だ心を開けてくれんようじゃ。


まあ、自分で取っても良かったのじゃがそれでは此奴が余りにも手持ち無沙汰じゃ。

かと言って、作業を直接手伝わせる訳にも行くまい。至極危険じゃ。

毒物に強い耐性を持つ【悪魔族】の吾輩ですら耐性強化を掛けた上特製マスクとグローブが必要なのじゃ。

人族じゃあ、何もせず立ち会うだけにも寝袋に手足を付け足した様な仰々しい防護服で安全を確保しなければならん。


詰まる所、童女は防具の鬱陶しさも加わって退屈しておるのじゃ。

後、吾輩を警戒、見定めておるのじゃろう。

ヘクサドラゴン王国が第二王女、ヘレン・フォスコ・ヘクサドラゴン。明らかに事情持ちじゃな。


「………ねえ」


お?

何じゃ、初めて向こうから声を掛けてきおったぞ?


「ハルキ、いつ帰ってくるの?」


両の肩を落とすのを必死で堪えた。


「あのエロガ……ハルキなら昼飯の時間に帰ってくるじゃろう」

「そう」

「……」


会話終了。


ぐぬぬぬっ、吾輩よりあのエロガキの方が良いと申すか!

否!吾輩は悪逆非道の誇り高き悪魔族ぞ?べ、別にこんな愛らしい幼女と仲良くなりたいと思うておらんぞ?真じゃぞ?

只、そう、折角吾輩が面倒見てやっておるのに不敬ではないか!


然し、今はそれ以外共通の話題がないのも事実。

年長者の威厳を見せなければ。


「何じゃ、奴が心配か?安心せい、ラファエラがいる限り余程の事態じゃなければ安全じゃ」

「……ううん、しんぱいしてない。ハルキは、強くないけど、だいじょうぶ」

「ふむ、強くなくとも大丈夫、か」


一見矛盾した言葉を吾輩は彼の少年を思い浮かべながら反復した。

それは以外にも的を射抜いた表現に思えた。

実際、永く生き数多な人物を見て来たが、あんなのは初めてかもしれん。


先ず、少女然とした容姿から珍妙極まりないがこれだけなら一応他種族でもあり得る。

反して、漂う覇気が大した力量もない癖に凄まじいのじゃ。心の放つ力強い光も驚異的としか言えん。

さながら、幾千の戦場を根性のみで生き抜いた兵士の如く、そしてそこで経験した狂気に飲まれんよう修練を積む武芸者の高潔さも感じさせる。


一体全体どんな成り立ちがあの様な傑物を生み出すのやら。いっそ古来の英霊が一般人の肉体を乗っ取ったと思った方が想像に叶うわ。

否、あれは恐らく非力ながらも決してめげず、今まで全身全霊で生きて来た軌跡の証なのじゃろう。


以上が昨日の対話で得たモリ・ハルキの人相じゃ。

あっ、後、怒らせるとメチャクチャ怖い。

ラファエラと悪乗りしてからかった時泣かされそうになったわい。


「そうじゃな、あの修行は厳しいがハルキが音を上げる姿など想像できんな」

「うん、ハルキならきっとだいじょうぶ」


己が認めた男を褒められてヘレンはほんの少しだけはにかんだ。

差し詰め、騎士と姫君と言ったところか。ええのう、吾輩も好きじゃぞ。

当然吾輩のナイトはバルズーry……うおほんっ!


ま、まあ、これでちとはこの子との距離も縮まったかもな。とホッとしてると


「ハルキは、どんなしゅぎょうしてるの?」

「ぶっ!?い、いやあ、初日じゃし恐らく基礎鍛錬、じゃよ?」


い、言えぬ。ハルキが今地獄も生温い苦行を強制されてるなど、口が裂けても言えぬ。

確実に嫌われてしまう。


【農家(辺境の)】は底知れない潜在能力を秘める稀有な職業じゃ。じゃが、それを覚醒させる為の修行が……その…壮絶?過酷?否、言葉が足りぬ……要するにアウトなのじゃ。

アウトのアウトのアウトはアウトで、一周巡ってアウトなのじゃ。

具体的には、悪魔族の内でもダントツに残虐だった吾輩の元側近に『もうやめてあげて!この子のHPがゼロ、を、振り切ってる!?マイナス値!?め、メディーック!!』と言わせた程アウトなのじゃ。


けれど、まあ、実際バルズークもその拷もn……修行をこなしたわけじゃし?

他の者も皆その道を辿ったわけじゃし?

問題ない、うん、じゃからヘレンよ、その胡乱な視線を吾輩に向けんでおくれ。


話しながらも作業をちゃんと進めていたので、ようやく一段落終えた。

残りの工程は役三割、これで午後の内に余裕で終わるれるな。

その後ヘレンを村に案内するのも良いかもしれん。ずっと地下に篭もらせるのも忍びないしの。


時計を見れば、ちょうど11時を回ってたのでヘレンを連れて一旦地上に戻ることにした。

ラファエラ達が帰ってくる前に食事を用意しなければな。流石のハルキでもシゴきを受けた後料理作れんじゃろうしな。


「りょうりできるの?」

「うぐっ」


予定を話したら先程より胡散臭そうなヘレンの目が突き刺さった。


「い、いや!普通の食材ならある程度扱えるのじゃ!ただ、その、ここで獲れる材料が良過ぎて、我輩が調理するより生で食べた方が美味しい、と、言うか、ぐすっ」

「……ごめん」


ううっ、痛い。素直に向けられた哀れみが痛いのじゃ。


正妻としての誇りを粉々にされた吾輩は、ヘレンに慰められながら地下工房を出た。

そして、修行が終わったらハルキに料理を教えてもらうと心に誓ったのだった。

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