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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第1章 異世界逃走劇
15/50

第13話 お控えなすって、バルズークファミリー

時は千年も昔、世は混沌に満ちていた。


国々は無く。

人の文明は無く。

法は無く。

暦は無く。


乱流する魔力は戦を孕み、災いを招き、悍ましい怪物で大地を蔓延らせた。


時は千年も昔、法と秩序を司りし神が世界に降臨した。

その名は、プテラストクレ。

彼の偉大なる神は暦を定め、法を定め、弱き者が繁栄するよう安全な地を与えた。

そうして知性を有する生き物の国家と文明が誕生したのだった。


然し、世界の暴力的な力は神の掌中にすら収まることはなかった。

浄化の恩恵は大陸の一部にしか及ばず、後に顕現した他の神々の助力を用いてなお轟くカオスの抑制が辛い限界だったのだ。

故に世界の魔力が生物に突飛な力を与えることが稀にあり、無秩序が招かれる度神々がその修正に回った。


ある時は、その異変に対抗すべく自ら強力な力の持ち主を生み出した。

善なる者は勇者と崇められ、悪しき者は魔王と恐れられ、各名を歴史に刻みつけた。


以上がこの世界の伝承に記された天地開闢である。


ところが、そんな妙竹林な世の事情をまるっきり無視して日常を謳歌する者らがいた。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




メープル・スプラウトは、高々と立つ【神樹】を中心に構成された集落である。

神樹の根元に民家があり、そこから放射状に様々な農作物が育つ畑が広がるといった構図だ。


村全域は神樹の枝と葉で覆い隠され、それが外からの魔物や侵入者を防ぐ結界を成している。(恐らく、その性能がさっき俺達と弾いたのだろう。)

更に、【異領域】(【神結界】の外側、つまり俺達が飛ばされたあの森)の自然災害レベルの気候も遮断して常に作物にとって理想的な環境を維持してくれてるらしい。

最早、完全に別の空間と見てもよさそうだ。

正に神の樹である。


そんな説明、もといバルズークさんの自慢話に耳を傾けながら俺達三人は畑の間を歩いていた。


「でも驚いたべ。ハルキ君も【農家(辺境の)】だったか」

「俺も驚いているよ、バルズークさんの職業が【海賊王】じゃないなんて……」

「……なあ、いつまでそれ引っ張るだ?オラ、泣くよ?」


だって麦藁帽子被ってるし、てっきりそうかと……


つーか、こんな悪ふざけみてぇな職業の持ち主が他にいたなんて予想だにしなかったよ。

それに召喚初日にエンカウントしちゃうなんてさ。


第一、実物が想像していた物とかけ離れ過ぎている。

俺は、もっとこう、畑仕事の休憩にほうじ茶を啜りながらおむすびをパクパクするおじさんを思い描いていたのにさ。

モノホンは、バッファローを素手で締めた後ナパームがぶ飲みしながら隣村から攫ってきた子供をパクパクしそうなんですけど?


何これ?


ギフトを使って農業無双する以前に筋肉量300キロ以上足りないんですけど?

その上、男の娘要素と男らしさの比率を加算すれば10対0で大赤字なんですけど?

一体全体、何を耕せばこんな美食屋顔負けのボディになるの?


「じゃあ、ハルキ君とヘレンちゃんは他所の村から口減らしで追い出されただか?」

「口減らしだと?」

「【農家(辺境の)】は普通の【農家】と違って農業系のギフトが取り難いだ。だから村が困ったら一番に切り捨てられるだ」

「えーっと、まあ、似たような感じか?」

「そっかー、……ん?じゃあ、何で妙な奴隷の魔具を付けられて異領域をウロウロしてただ?」

「いや、それには深い事情が……」

「まっ、いっか。ハルキ君は農家(辺境の)だからな。一人前になるまでヘレンちゃんとうちで居候すればいいだ」


かなり答え辛い質問をされた筈が、なぜか会話が無期限で寝床確保と超好転していた。

しかも、職を学ばせてくれるようなことを言っている。


大変有り難いのだが、それでいいのかバルズークさん。

何か、太陽は東から昇るものですって聞かされたようにウンウンと納得しちゃっているけど。

この世界では、同じ【職業】同士の奴らが助け合うのが一般的なのか?

その可能性もあるが、どうも横を歩くこのケン○ロウEX+赤髭を一般的に考えたらダメな気がする。いくら異世界でも。


俺は、深く考えるのを諦めてヘレンと一緒に辺り風景を楽しむことにした。

改めて見れば、見事な農地である。

今通った箇所だけでも穀物、野菜、果物、果ては薬草の類まで見たこともないのが多種多様に育てられている。

バルズークさんの話では、この隠れ里に住む農家(辺境の)は彼を含めて僅か十人(十人!十人もいるんだぜ!)、その内六人は私情で村を離れているので今は四人でこのだだっ広い土地を管理しているそうだ。


案外、あの筋肉も頷けるかもしれない。


森の中では解らなかったが、日は既に傾き始め景色は蜜柑色に染まっていた。

天を覆う紅葉の葉と合わさって、太陽が直接見えないのに山頂の夕焼けのようだ。

降り注ぐ色彩が稲の黄金を引き立て、田舎特有の平和的な雰囲気が俺らを優しく包み込んでいる。


「きれい………ハルキ、ハルキ」

「ん?なんだ?」

「もっと見たい、かたぐるまして」

「えーっ、……はあ、しょうがないな」


隣で歩いているヘレンが付いた時からずっと目をキラキラさせ辺りを見回している。

多分今まで宮廷から出たことがなかったのだろう。

なんか、こいつからは箱入り娘とは全く別の印象を受けるが。


まあ、ちょっと甘やかしてもいいか。よいしょ。


「………ひくい。そんなにかわらない」

「よ〜し、姫様。折角なので、そこの水路で水練でもしましょうか」


善意を惨たらしく踏みにじられた俺は、迷うことなく灌漑水路の方に向かう。

ヘレンは、素早く両足で首をクリンチする。


おのれ、離せぇ!この格闘幼女め!


「おいっ、そこを圧迫するな!落ちる!堕ちるっつってんだろうが!」

「ヘレンちゃん、ヘレンちゃん!だったら、オラが肩車してやるべ。遠くまで見えるだ!」

「……やっ」

「あっ、やばいかも………三途の河の向こう側におばあちゃんが………会ったこともないのに………」


そうやって賑やかに進んだら、しまいにバルズークさんの家にたどり着いた。

ファンタジーな場所にあるもっとファンタジーな人間(?)の住宅、一体どんな建物かと思いきや、以外と普通な二階建ての一軒家だった。

ちょうど、アルプスの風景に映るログハウスを大きくしたような。

住む人が住む人なので、必然的に色々とXXXLサイズだが非常識という程ではない。


………その目と鼻の先にヴェルサイユ宮殿が建設されてなかったら。


「……なあ、バルズークさん。何、アレ。え?お隣さん、ルイ14世なの?」

「高くても怖くねぇべ。ぜってぇ落とさねぇから。な?」

「い・やっ!」

「そんなこと言わずに……」

「おい、聞けよ。おい」


こいつら、人の頭上(まだヘレンを肩車している)で何の押し問答してるんだ。

今にでも横からかまぼこのヅラを被ったモブキャラとバラのヅラを被ったオス○ルが登場しそうなんだぞ。


「ぬーっ、なら、ハルキ君を肩車するべ。それでいいだ?」

「………うん」

「オッシャー!」

「オッシャー、じゃねぇわ!だから、何なんだアレ!どこの貴族の別荘だ!」

「ん?ああ、あれはロドリゲツとリッチャールドん家だ。二人とも農家(辺境の)で平民だべ?」

「農家が住む場所じゃねぇだろ、どう見ても!」

「向こうのカミさんの趣味だべ」

「趣味!?趣味で村の一角を少女漫画の背景にしたのあそこの奥さん!?後、肩車はいらねぇからこっちくんな!」


更に、目を凝らせば宮廷の敷地の隣にそこだけ雷雲が轟く砦があった。

神樹の根元に近い位置に五重塔に似た建物が。

他にも近未来的なドーム状の建物とかも見える。


詰まる所、この上なく統一性に欠け、ゴテゴテでアンバランスな村の全貌であった。

もし、それら全部がここの農民の住まいだとしたらマジでショックだ。

まさか………バルズークさんが一番普通だったなんて!!


「全部、女衆の趣味だべ」

「バルズークさん、けっこんしてない?」

「いや、オラもカミさん居るよ?」

「あんたの奥さん、マジでいい趣味してるよ。ホント」

「そうだべ?もうすぐ会うから言ってやりなべ。きっと喜ぶべ。………ところで肩車は…」

「やらねぇよ」

「………」


肩を落とす肩車フェチの大男を俺とヘレンは二人で引っ張りながら玄関へ向かう。


すると、



♪〜〜 ♫〜〜 ♪♪〜〜 ♬〜〜〜



「「!!」」


なんだ、この音色は。

諸人の心を熱くする美麗な旋律。

魂と共鳴するような歌声が家の裏手から聞こえてくる。


バルズークさんのことなんが忘れ、思わず釣られるように裏庭の方に回ったら………そこには天使がいた。


幼い少女の姿をした彼女は、六枚の新雪より純白な翼を広げ、辺りに集う緋色の雄鶏たちと楽しげに舞っていた。

金で編まれたかの如く髪、慈しみに満ちた碧眼、世の邪悪を浄化させる聖歌。

俺とヘレンは、その天上の光景に只々言葉を失い見入ってしまった。


やがて歌が終わり、数秒その余韻に浸っていた少女は美しい笑みを浮かべながらこっちに振り向く。


「あら〜、貴方。おかえりなさ………」


そして固まった。


………?


あのう?どうしたんですか?

なんか、俺とヘレンを見た途端顔が思いっきり引き攣り出してるけど?


ああ、そういえば俺、服が血まみれのボロ雑巾になってたんだった。

でも、もっと他のことに動揺している気がするけど……冷や汗が滝のように流れ出してその中で目が泳いでいるし。

正直、気まずい。


そう思った途端、少女は何かの決心がついた顔持ちでむんすっと背中に生えた翼を全部両手で掴んだ。


ブチッ


そして一息にもぎ取った。


ブッシャーーーーーー


「ええええぇぇーーーっ!!?」

「ガフッ、い、いやだな〜。バルちゃんったら〜、ゴフッ、いきなりお客さん連れてきて〜。グッ、び、びっくりするじゃないですか〜」

「いやいやいや、こっちがびっくりだわ!何してんだ、お前!翼大丈夫か、スゲー血出てるぞ!!?」

「つ、翼〜?何のことですか〜?これ〜、トマトジュースだからだいじょうガベラガハァ!!」

「オイーッ!!しっかりしろ!誰か救急車呼んでくれーっ!」


とんでもない量の吐血の後、天使は倒れて痙攣し始める。

芝生が真っ赤に染まり、驚いた雄鶏たちがそこら中に逃げ回る。

俺は、完全にドン引きしてるヘレンを下ろして慌てて彼女の元に駆け寄った。


「どうしたべ!」


すると、絶妙なタイミングで悲鳴を聞きつけたバルズークさんがやってきた。


よし!

これで俺に使ったエリクサー(違法薬物)で治療すれば必ず助かる!

この際、違法薬物エリクサーでも良い。急いで服用してくれ、バルズークさん!


しかし、男はこの惨状を目にした後何故か厳つい顔に苦笑を浮かべるだけ。


「何をしてるんだ、バルズークさん!早くしないとこいつがっ!」

「あ〜、ハルキ君落ち着くべ。大丈夫だ。って言うか、ラファエラは何してるべ?とりあえず、ただいまだべ」

「は〜い、お帰りなさ〜い、あなた〜❤」

「え?ちょっ、えぇ?」


さっきまでの死相は何だったのか、ラファエラと呼ばれた天使の少女はぴょんっと元気よく飛び上がってバルズークさんの腹筋にロッククライミングしだす。


あっ、違う、単純に抱きついてるのか。


「いや、そうじゃなくて!何がどうなってんだ!?」

「ごめんな、ハルキ君。ラファエラの種族は【天使】なんだべ。だから普通、他人には翼を見せないべ」


『ピロピロ


鑑定結果:


【天使】:


光属性と聖属性の魔術を得意とする幻の種族。華麗な容姿と純白の翼が特徴的。

多くの他種族から神の使いとして信仰されているが、実際そのような関係性は無い。その為、同類以外には基本的に正体を明かさず、また他種族との交流もほとんど皆無。善行を成す習性を持つ』


はあ、なんだそれ!?

まさか、それで俺らを見た瞬間翼をもいだって言うのか!?

そんなんで正体を隠すつもりだったのか!?

無理だろ!つーか、馬鹿だろう!


だが、唖然と佇む俺に構うことなく天使はエヴェレスト胸筋を乗り越えようとしていた。

つーか、翼持ってんだし飛べよ。


………って、あれ?


「えーっと、ラファエラ、さん?なんか、翼が生え戻ってるような……」

「ん〜?私ぃ〜、翼は再生できるのですよ〜」

「そ、そうか。よかった」

「ちなみに〜、こうやって消すこともできるのです〜」

「なら、なんでもぎ取った!意味ねぇじゃん!ヘレンにトラウマを植え付けただけじゃん!」


いよいよ混乱が極まった俺は、一先ずショックで涙ぐんでるヘレンをなだめるべくナデナデする。

バルズークさんが羨ましそうに見てるが知ったことではない。

ラファエラさんはと言うと、ささやかな胸を張ってこう答えた。


「私は〜、死んだふりの達人なので〜す」

「…………」

「どうでしたか〜?かなりリアルだったでしょう〜?」

「…………」

「あれ〜?返事がありませんね〜」


ほっとけよ!

ああ、認めるよ!どっかの誰かがついさっき言ったセリフだな!

聞き覚えなくもないね!

でも、確かアレはシチュエーション的にアリだったよねっ!ねぇっ!


「ねぇ〜、バルちゃん。なんですかこの子ぉ〜。頭抱えちゃってますけど〜」

「小さいのがハルキ君でもっと小さいのはヘレンちゃんだべ。二人とも森に捨てられてたべ」

「まあ〜、気の毒に〜。でも〜、勝手にこの隠れ里に連れてくるのは〜、ダメだったんじゃないですか〜?」

「人助けは良いべ。それに、ハルキ君は農家(辺境の)だべ。だから仲間だべ!」

「まあ〜、まあ〜!」


ラファエラさんは、バルズークさんからの紹介を聞いてとても驚いた表情を見せる。

そして、俺とヘレンをマジマジと見つめた後…………ひょっとしたら本日で一番とんっっでもない自己紹介を口にした。


「初めまして〜、私は〜、ラファエラ・アルチェ……ラファエラと申しま〜すぅ。バルちゃんの〜、お嫁さんで〜す❤︎」

「あ、どうもご丁寧に。俺は森春樹でs…………へっ!?!?」


背後に雷が数本落ちた気分だ。

ピカピカ鼠に十万ボルトを立て続けに食らったサ◯シの心境とも言える。


ヨメ?よめ?YOME?読め?夜目?


嫁ぇ!!?


俺は、迅速に今の状況を数式に変換した。


大男 + 筋肉 + 鬼 + 恐怖 + 人間 + (?) = バルズーク


少女 + 天使 + ロリ + 天然 = ラファエラ


即ち、 バルズーク X ラファエラ を解いたら、導き出される答えはたった一つしかない!


「バルズークさん」

「なんだべ?」

「自首しましょう」

「なんでだべ!?」


それは自分の胸に聞きなよ!

あんたのエイトパックに密着して新快感に目覚めそうな少女を見れば、どう考えても犯行現場だろう、これ!


ストックホルム症候群って奴か!

さては、天国から天使かっさらって嫁にしてるんだな、見損なったぞ!

今までの優しさは、すべて餌だったのか!


「それで〜?ハルキちゃんとヘレンちゃんもぉ〜、バルちゃんのお嫁さんになりにきたんですか〜?」

「被害者から証言取れちゃったよ!もう良い、ヘレン!今日は野宿だ!こんな危ねぇ場所に居られるか!後、俺は男だ!!」

「うん、わかった」

「ちょ、ちょっと待つべ!ラファエラも冗談はよすべ!」


それから、ラファエラさんが正真正銘、愛で結ばれたバルズークさんの伴侶だと納得するのに大分時間が掛かった。


なんでも、天使とは長寿の種族の上老化現象が乏しいらしい。

寿命が来る時も壮年の外見のままなのだとか。

万象鑑定の裏付けもあるので、真実、なのか?まあ、信じよう。


当の本人は、「うふふ〜。私って〜、若く見えちゃうのよねぇ〜」って自慢してたけど、ひょっとして終始わざとやってたのか、この人?

とにかく、ラファエラさんはロリバb…


「って、危なッ!」

「あら〜、ごめんなさいね〜」


一瞬前まで俺がいた場所に光の矢が突き刺さり、地面を浅くくり抜く。


わざとだ!やっぱりこの人わざとだ!

だって目が笑ってないもの!タレ目から殺意がだだ漏れだもの!

なんで、女ってこういう時に限ってマインドリーディングに開眼するんだ!


別にこのまま裏口から家に入っても良かったのだが、一応俺とヘレンは客人なので正面玄関に戻ってそこから入れてもらう事になった。

予想より家のサイズが小さめだったのは、女性でも小柄なラファエラさんも住んでいたためだったのか。(もちろん、俺よりちょっと背が高いのだが。くっ)


色々あったが、ようやく落ち着いて腰を下ろせる場所にありつけたな。

朝からの出来事を思い返すと思わず安堵の息が漏れてしまう。



……………一秒でもそう安心した俺がバカだったよ。



入り口のドアを開けた瞬間、何故が頭上からバケツ一杯分の水が落ちてきた。

しかし、多分ラファエラさんを含めてこんな単純な悪戯に引っかかる輩はここにいない。

案の定、彼女が何か呟いたら水は空中で止まった。


だが悲しきかな、虐めマイスターたる俺は既に脊髄反射で飛び退いていたのだ。

そして、着地点には賞賛に値するくらい緻密にポジショニングされたバナナの皮が……


スデンッ


………尻が痛い。


「は、ハルキ君!?大丈夫か!」

「まぁ〜。私より素早く反応するなんて〜、すっごぉい〜」

「ハルキ、はやい」


屈辱だ。


小学校の時から教室に入る度に黒板消しやらタライやらアイロンやらダンベルやら自作ギロチンやら自作釣り天井やら様々なブービートラップを仕掛けられた。

それら全てを躱したこの俺がこんな単純な二段構えに遅れをとるとは。油断していた。


いや、そんなことよりも……


「フハハハハハ!久々に吾輩の罠にかかってくれたのう、い、い、愛おしきバルズークよ!」


何かいるよ。


俺らの目前で得意の絶頂に仁王立ちしている、黒人の美女。

真紅の瞳に獅子を思い浮かばせる獰猛で美しい目鼻立。

男性並みに背が高く、ナイトブルーのドレスに包まれた豊満な肉体は息の詰まるような色気と果てしないヴァイタリティーを感じさせた。


そして、何より目立つのはきついパーマの間から覗くヤギの角と背中から生える六枚のコウモリの翼である。

女は、俺とヘレンを目にした直後激しく狼狽え、両翼をもぎ取り、ツノを叩き折り、大出血しながら余暇に倒れ伏した。


ブッシャーーーーーー


つい最近見た気がしなくもないリアクションである。

俺は、とりあえずヘレンを抱き寄せて目隠しする。


「なあ、バルズークさん。何、あれ」

「えーっと。彼女は、カッサンドラだべ。見ての通り、悪魔族だべ。は、ハルキ君目に光がないべ。怖いべ」


『ギョーン


鑑定結果:


【悪魔】:


闇属性と邪属性の魔術を得意とする幻の種族。扇情的な容姿と漆黒の翼が特徴的。

多くの他種族から神の敵として忌み嫌われているが、実際そのような関係性は無い。その為、同類以外には基本的に正体を明かさず、また他種族との交流もほとんど皆無。悪事を働く習性を持つ』


「へー………で?そのカッサンドラさんはなんでここに居んの?」

「オラの嫁だべ」

「………おっかしいなぁ?変だなぁ?妙だなぁ?ついさっき、ラファエラさんって言う天使があんたの嫁として紹介された気がするが、記憶違いかなぁ??」

「私は〜、バルちゃんのお嫁さんで〜、ドラちゃんも〜、バルちゃんのお嫁さんですよ〜」

「…………バルズークさん」

「な、なんだべ?」

「自首しましょう」

「…………」


今まで当然とばかり振舞っていたバルズークさんも流石に幾分か肩が狭く感じたのか、そっと目を逸らすことしかできなかった。

この後、この世界で一夫多妻制が認められていることに納得するまでまたもや少なくない時間を費やしたのだった。 




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼




「話は解った。して、汝が今回第三夫人として加わる小娘か?また随分と可愛い女子じゃのう」

「カッサンドラさん、俺は男だ」


所変わってバルズーク家のリビング。(平民は苗字を持たないらしいので、この家はバルズーク家と命名することにする。)

そこに回された俺とヘレンは、やはり五体満足のカッサンドラさんと対面している。

だが、彼女の場合単純にテンパってあの奇行に走ったらしいのでラファエラさんと比べたら幾分可愛げがあると言えるだろう。


多少観察してみたところ、ここの夫婦関係(?)を取り仕切っているのはバルズークさんではなくカッサンドラさんのようだ。

今でも彼女が俺達二人の前のソファーに座り、バルズークさんはその隣のどでかいアームチェアに腰を下ろしていた。


ラファエラさんは、垂れ掛かるようにバルズークさんの膝の上に座っている。

カッサンドラさんがチラチラと羨ましそうにそちらを見ている。

気持ちは解るが、こちらの事情説明(偽)もちゃんと聞いて欲しいものだ。


この事情説明(偽)の内容とは、殆どバルズークが先ほど立てた推測だ。

矛盾点の多いかなり弱い設定なのは承知してるが、何をどう誤魔化すにもこいつらの常識が未知数過ぎるのだ。


「うぐっ、えぐっ…………ベルギだじもでーべんだったんぁー(訳:ハルキ達も大変だったんだなぁ)」


…………にもかかわらず、当の本人は鼻水を垂らしながら号泣していた。

鼻をかむ際、ばふぉーんってひっくり返りそうな轟音がするが、メチャクチャ気まずいので無視する。

対して、肝心の第一夫人様(熱く念を押された)というと……


「ふ〜む、成る程のう」


やっぱり、物凄く胡乱な面持ちを俺らに向けた。


「汝等は、村の口減らしで奴隷として売られたと」

「ああ、そうだ」

「そして、機会を見出して逃亡したと」

「奴隷なんて御免だからな」

「必死で森を走ったら、いつの間にか異領域に迷い込んでいたと」

「いや〜、ホント。偶然バルズークさんが通り掛かってなければ死んでいたところですよ」

「余程の強運の持ち主じゃのう。【神結界】の端からここまで三日の距離はある。よくもその矮小な力量で生き残れたものじゃ」

「しぶとさだけには自信あるんですよ。はい」

「異領域では、月に一度地形が変貌する程の悪天候が常である。来る途中大丈夫であったか?」

「森林浴に適した快晴で御座いました」

「最後に最も腑に落ちんのは………」


くそっ、まだあるのかよ!?


もう嫌だ、胃が痛い。

顔に出してないつもりだが知らない内に敬語になっちまってる。

このままシラを切るのは相当難しいぞ!?もっと筋書きに凝るべきだったか?


「………やはり、汝が女でないことじゃのう」

「いや、そこはもういいだろう!」


何を言い出すか身構えていたら、そんな事かい!

と言うより、あまり関係なくね!?


つい声を荒げる俺に対して、カッサンドラさんは増す増す解せんといった表情を浮かべる。

なんだそのツラはムカつくぅ。


「汝が女でないと主張するなら………なら、一体全体何だというのじゃ?」

「男だよ、男!選択肢二択だろうが!不思議そうな顔をするな!俺の場合女しか選べないとでも言いたいのか、てめえ!」


初めて養護施設に寄付されたテレビゲームで遊んだ時の事を思い出す。

RPGだったのだが何故か俺のキャラだけ男に設定できなかった。

後日ソフトが故障していたことが判明したのだが、一体どんな奇跡的なバグり方だって話だ。


「これから世話になる人にそのような口の聞き方をしても良いのかのう?」

「ああ、これから世話になるからこそ納得して貰わなくちゃいけないねぇ。性別を」

「何を今更。幼い時期から身内の女性陣に着せ替え人形にされ、フリフリな衣装で黄色い声を上げられ、自分も確かに似合っとると納得し打ちのめされたくせに」


………………。


なぜそれを知っている!!??


揺さぶりだと理解しながらも、余りに的確な指摘に戦慄する。

驚愕を露にしないよう必死な俺に、隙をつくようにカッサンドラさんが追及する視線を突き刺す。


右目に『オラ』、左目に『吐けや』と書かれてある。

無言こそ最大の威圧。

セン公が説教する時やポリ公が取調室で使うタクティクスだ。(セン公のは知らないがポリ公のはお馴染みである)


くっ、白状してたまるかよっ!


…………あれ?なんか、会話の趣旨を見失っている気が………まあいいや。


とにかく、今は俺の雄姿を示すのが重要だ。

なので、視線を落として右目に『右ばい』を左目に『左ぱい』を焼き付けてやった。

ドレスの大胆なデコルテから覗くたわわな果実。


ふむ………こちらは別の意味でのKカップでございますね。


「う、汝。亭主の眼前でよくもそのようなことを……」

「フッ。漢は、誰しも心に御せないケダモノを飼っているんだよ」

「誇って言う事ではない。全くもって誇って言う事ではない。…………わかった、我輩が悪かったから早よその目付きを止めい」


俺の煮え立つ熱いパトスの篭った視線にKカップが先に屈した。

あっ、間違えた。カッサンドラさんだった。

彼女は頬を朱に染めて、「このエロガキめ」とこぼしながら胸元を隠す。

なんだ、悪魔の癖にこういう話は苦手なのか?


………………………覚えておこう。


ん?怖〜い旦那様は、何をしてるのかって?

現在、ハンカチに顔を埋めて嗚咽を漏らしてます。どんだけ情に流され易いんだよ。


守ってくれない夫に若干不満顔のカッサンドラさんは、気をとりなおすようテーブルに置かれたポットから自分のティーカップに茶(のような飲み物)を淹れた。

妙に気品か伝わる優雅な仕草だ。


「おっと失礼、汝等は一応客であったな。どうだ?自家製の紅茶だ。それともジュースの方が良いかのう」

「ああ、これはどうも。ヘレンはどうする?やっぱりジュースか?」

「…………」

「ヘレン?」


返事がないので横を見たら、何故がお姫様は自分の胸板をフニフニとさすっている。

フニフニとさすり、俺に顔を見て、またフニフニとさする。

取り敢えず、軽くこついておく。


「ん、ジュースがいい」

「ヘレン、人に物を頼む時は『お願いします』だ。ちゃんと言え」

「ジュースをください。おねがいします」

「ふふふ、良い良い。汝の方は、紅茶で良いか?」

「ああ、頼む」


洗練された手付きで二つのコップに飲み物が注がれる。

同じポットを使っているのに出てくる液体が違う。面白いな。


紅茶の上品な香りを楽しみながら乾いた喉を潤す。

うまい。

個性的ながらすぐに馴染む風味、渋みがなく後味に残る甘味は藤堂亭で初めて味わった高級茶に似通ったものがある。


ふーっ、さて。


なんか、漠然とした勝利の優越感浸ってるけど………………俺達何の話をしてたんだけ?

あっ、まあ、最後まで異世界人だってゲロすることなかったから、いいか。


「つまり、話を纏めるとこういうことかの。汝が今朝ヘクサドラゴン王国の国王に召喚され、役立たずと見做され、処分されそうになったところ幼き姫を人質に取り逃亡に成功した、異世界の勇者か」


流麗にティーカップを傾けながら悪魔の美女は唯淡々と、なんとなく親近感の湧く人相を語った。

最後の勇者という単語が全文と噛み合ってない、そう思えるまで今言われた言葉を理解した俺は、


「ぶっふぉあ!」


洗いざらい吐くのだった。


紅茶を。

森:「改めて読み直すと、意味不明だったのであらすじが書き直されたぜ。

ついに、ついにあのヘタレ作者が登場するっ!」

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