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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第1章 異世界逃走劇
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第12話 Girly Boy meets Manly Man Pt.2


「ハルキちゃんは酷えべ。オラは、オーガみてぇな顔してねぇだ」

「俺は男だ」

「………」

「………」


はい、やり直し。まあ、お約束のパターンね。


「ハルキ君は酷えべ。オラは、オーガみてぇな顔してねぇだ」

「はははっ! いやあ、悪かったよバルズークさん。」

「オーガの方が厳ついだ」

「そうだな。あんたはどちらかと言うと、極悪非道の大海賊バルバロッサ寄りだな」

「もっと酷えだ!?」


いや、人間に例えられただけでも大進歩だと思うぜ?バルズークさん。


俺達は今、バルズークと名乗る美マッスル巨人に助けられ、森を案内してもらっていた。

彼はこの近辺にある隠れ里の住人で、薬草摘みの帰りに俺達を見つけらしい。

巨大怪獣のウロチョロする森で薬草取り?と思うかもしれないが、一度このオッサンの形相を見てみると良い。怪獣が可哀想に思えてくるぜ?


「で?バルズークさんは、一体何の種族なんだ?」

「人族だよ!?」

「………ふむ」


俺は、ちょっと距離を置いて頭の天辺から足のつま先まで男を観察する。

3メートルの巨体に目測350キロの筋肉総量。

一般人なら睨まれただけで心臓発作しそうな悍ましい顔は、地獄色に燃える髪と髭の枠に収まっていた。


「フッ、まあ、あんたは命の恩人だからな。そう言う事にしといてやるよ。ヘレンも解ったか?」

「うん……」

「信じてねぇだべ!?」


ショックで天を仰ぐ大男(人間)。


風貌はさて置き、バルズークさんは本当に良い人だ。

現に、迷子の俺らを大した詮索もせず自分の隠れ里に連れて行ってくれている。

なにより、文字通りの命の恩人である。


ヘレンを庇う為に落下の全ダメージを受けた俺は、実際瀕死の重症だった。

左肩の脱臼、右腕と両足の複合骨折、内蔵損傷、所々皮膚が剥がれてヤバイ感じに出血していた。

元中時代に二回程経験したことのある大怪我だったが、脇から肋骨が飛び出てるのを見た時は流石にクラっときたな。


バルズークさんが冗談みたいな効果の薬で完治してくれなかったら死んでいただろう。


「ハルキ、だいじょうぶ?おりるよ?」

「大丈夫だって言ってるだろ。目眩もしないし血も元に戻ったようだ。この世界の薬凄えな」

「ははは! 仲間のカミさんが作った漢方薬だべ」


負ぶさっているヘレンが定期的に自分の様態を確認してくる。

でも、制服はシュレッダーに掛けられたようにボロボロだけど、中身の方は全くの無傷だ。

貰ったのは一見小瓶入りの飲み薬だったのに、効力が地球の薬学をまるっきり覆してるな。


ファンタジー薬、バンザイ。


『ポロン


鑑定結果:


【違法薬物】:

不死鳥の涙、古代龍の血液、黄泉草などの国家が厳重に管理する超希少素材で調合された奇跡の霊薬。

尚、それらの素材は国同士の勢力バランスを崩しかねない為、無免許での扱いは重罪と見なされる、でゴダんす』


「「……」」


俺とヘレンの頬にツーっと汗が一筋垂れる。


バルズークさん、違法薬ってあんた、マフィアのボスは顔だけじゃなかったのですか。


え?なに、これを知ってしまった俺ら、消されちゃうパターン?

それとも、借金をふっかけられて一生奴隷にされるとか?

ひょっとして、今直ぐ逃げるべきか?全く逃げられる気がしないが。


「ん? どうしたべ? オラの顔に返り血でも付いてるか?」

「え!? いや、バルズークさんの服、凄いなあって思ってさ」

「そ、そうだべか? えへへ」


適当にはぐらかしたつもりがバルズークさんを偉く喜ばせる。


大丈夫だ。

3メートル超の図体のクセに腹を撫で回されるポメラニアンみたいに嬉しがるこの男が悪人の訳がない。

返り血も殴り飛ばしたコンティネンタル・ベヒモースのことだ。他意はない。きっと。


唯一罪なのは、このハードコア変態的なギャップ萌えである。

ポメラニアンを生で丸かじりしそうなオッサンがポワポワ空気に包まれているのだ。なんの冗談だ。


話題を変えよう。


「なあ、バルズークさん。変なこと聞くかもしれないけど、それ、サロペットだよな?」

「そうだべ。オラが素材を狩って、別の仲間の奥さんに作ってもらっただ。スゲー丈夫だ」


目に見えて自慢したそうだったので、取り敢えず話題を吹っ掛けておく。

だが、それとは別に確かにバルズークさんは気になる服装をしていた。


別にゲームで見るファンタジー丸出しな格好ではない。

むしろ、その真逆と形容して良いのかもしれない。

ボルドーのサロペットに焦げ茶色のTシャツ。黒の軍手とブーツにツバの広い麦わら帽子。

おまけに、身の丈に合った長大な鍬を担ぐといった、見事な田舎くさい農民スタイルである。


しかし、こうやって文章にしないと確実に別の何かと間違えてしまうだろう。

それらを競泳水着のようにピチピチに着こなしているからではない。

素人でも解る、底知れない力とオーラを各装備が纏っているのだ。


特に、あの鍬なんて王の選定の為に岩に突き刺さっていたり、八頭八尾の大蛇から出てきたりしても違和感ない業物である。


「サロペットと軍手とブーツは、オラが昔戦った陰炎巨神・クテゥグアの素材から出来ているだ。この鍬はもっとすげぇべ。柄は神樹様のモンで刃の方は根元超銀で拵えてるだ。なんでもぶっ壊せるべ」

「へえぇーーー」


本日二度目の気の抜けた返答。

うん、いかにも凄そうなのは名前でなんとなくわかるんだけどさ。


…………あれ?静かだな。出番ではないのか、<万象鑑定>よ。


『ピキューーーン


鑑定結果:


【陰炎巨神・クテゥグア】:

太陽神とも謳われた伝説的な魔物。惑星のマントルに生育し、数百年に一度の頻度で地上に現れる。幾度と惑星表面の全生命体を絶滅の危機にさらした厄災。

(平均レベル:9500)


【神樹】:

破壊不能。関与不能。

この素材についての詳細は伏せられております。


【根元超銀】:

関与不能。破壊不能。

この素材の詳細は、ちょっと解りません。』


タイムラグがあるなと思えば、まさかの検索困難だった。

おい、名前負けしてるぞ、<万象鑑定>。


「バルズークさん、あんたって一体……」

「あっ、ハルキ君、ヘレンちゃん。やっと到着だべ!」


何者なんだと問おうとしたら、彼はそう言葉を挟んだ。

つられて前を向くと………奇怪だ。何もないのに何かある。


何を言ってるのか解らないかもしれないけど、俺自身目の前の光景をどう語るべきか判断できない。

相変わらず何処までも森が続いているのに、そこに違う何かが混じっていると、手に取るように伝わるのだ。


「?…… なにも、ないよ?」

「いや、違う。何かある。魔法的な不思議現象か?」


俺とヘレンが揃って首を傾げていると、バルズークさんが驚いた表情でこちらに振り返った。


怖えよっ!


「ハルキ君すげぇだ。結界の存在に気付いたべか」

「結界だと?」

「進んでみるだ。きっと驚くべ」


3メートル超の筋肉が悪戯っぽい微笑みを浮かべる。


怖えよっ!


言われた通り進んでみると……



バッチィィィッ



「うわっ!?」

「ん!」

「ハルキ君!?ヘレンちゃん!?」


俺は弾き飛ばされ尻餅をつき、ヘレンは横で華麗な着地を決める。

今のでズボンの寿命が完全に逝ったな。


一瞬目を剥いて、信じられないと言わん顔でバルズークさんを見上げた。


「裏切られた………バルズークさん、あんたに人をからかう趣味があったとは……」

「………わるい人」


俺と会った時のようにずっとバルズークさんを観察していたヘレンがわるい人断定を下す。

幼女のジト目に巨人は大いに焦る。


「ち、違うべ!誤解だべ!オラは、そんなつもりなかったべ!一体どうして…………ハルキ君、その腕輪は何だべ?」


前半は慌てふためいていたが、後半は恐ろしく低い声色で問われた。


って、怖い怖い怖い怖い怖い怖い!


怖えよ!何だその血相は!

あんた、どこの国を滅ぼしに行く気だ!腕輪がどうした!


そこで、俺は咄嗟に思い出す。

クソ団長に嵌められた隷属腕輪には、位置特定の機能があることを。

更に俺の記憶が正しければ、目の前で怒りに燃え上がる殺人級筋肉は自分の住まいを“隠れ里”って呼んでいた。


……………今から逃げても間に合うか?


「ハルキ君、腕をよこすだ」

「あ、はい」


間に合わなかった。


でもよかった、腕一本で許してくれるんだ。

これからの人生、ちょっと不便かもしれないが、許容範囲だ。明日からオートメイルとか探すか。

俺が諦めた目をしている間、バルズークさんは手首に密着している金属の枷を指で摘んで引きちぎったぁぁああ!!?


え!?そんなのアリ!?


なんか、途中で放電したり火花が飛んだりしたけど、平気で塵紙のようにそれを丸めて空の彼方へ投げ捨てたぞ!!?


「これで大丈夫だ!ハルキ君はもう二度と奴隷にさせねぇだ!」

「あんた、ムチャクチャ良いやつだな!」


穢れていたのは自分だったよ!

汚い物を触ったように手を叩くその姿は男の理想。兄貴って呼びたい。


「これも壊すべ」

「え?ヘレンも?」

「ん」


次は、ヘレンが付けている細いネックレスを掴み、同じように壊す。

気のせいか、今度はもっと酷い火花が散った気がしたが、抵抗も虚しくそれも空の星となった。


それより、再度ヘレンを見たバルズークさんが目を丸くする。


「うわ、ビックリだべ。ヘレンちゃん、姿が変わっただ」

「は?そうなのか?」

「さっきは、銀髪で肌が白かったべ。首飾りを外したら黒くなったべ。顔の形もちょっと変わったべ」


………どういうことだ?


俺には、さっきと変わらず黒髪褐色に見えているぞ?


なんか、他の人に見えてないのが見えたり、その逆だったり、こいつとは妙な縁があるな。

つまり、あのネックレスには容姿を偽装する効果でも付与されていたのか?


成る程、ヘレンも一応は王族、拉致などの防止用の処置かもしれない。(現在見事に攫われているけど。)

………にしては、変な話な気もするが。


「……ヘレン?」


気がつけば、ヘレンはネックレスが消えた方向を静かに眺めていた。

その時俺が目にした彼女の表情は、感情の出にくいものではなく正しく虚ろと評していいものだった。


俺の手は、自然のヘレンの頭に添えられる。


「………?」

「『?』じゃないだろ。助けてもらった時は、『ありがとう』って言うんだ。お前、バルズークさんにまだお礼言ってないだろう」

「………ん、ありがとう。バルズークさん、いい人」


バルズークさんは、恐ろしく真剣な……恐ろしくて真剣な表情で何か考えていたが、やがてニカッと凶悪な笑顔を見せた。


「いいだ、いいだ、これくれぇ。じゃっ、改めて行くべ!」


顔とセリフが噛み合っていないことに苦笑いしつつも、俺はヘレンの手を取りながら不可思議な何かに向かって躊躇なく進んだ。


一瞬で塗り替えられる風景。

薄暗い森は消え失せ、その代わりに幻想的な景色が俺達を迎える。


「………スゲエ」

「………きれい」

「だろ?だろ?」


それは、一本の、またもや巨樹だった。

だが、200メートル級の木々に見飽きた俺らが感嘆してるのだ。それだけで遠くに映る植物の偉大さと存在感が伝わるだろう。


その木の枝は紅と黄金の葉を蓄え、ここら一帯の上空を覆っていた。目を凝らせば、それは紅葉だった。

根元の方には村の建物がポツリポツリと建っているのが伺えた。

後は、大地の恵みに溢れ返り何処までも続く畑のみ。


その光景の美しさにただ見とれる俺とヘレンをバルズークさんはこの言葉で歓迎した。


「ようこそ、メープル・スプラウトへ!オラ達、【農家(辺境の)】隠れ里だべ!!」


運命の悪戯は、一体いつから始まっていたのだろうか。


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