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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第1章 異世界逃走劇
13/50

第11話 Girly Boy meets Manly Man Pt.1

自然は、人に厳しい。

その事実を世の常識と弁えている者は多いかもしれない。ならば、何を今更と呆れられて当然だろう。


では、補足を加えよう。この異世界の自然は人に厳しい。


台風や地震などの災禍は勿論のこと、その上天と地と海に蔓延る魔力が環境を著しく不安定にしてるのだ。

神秘の力は人類に少なくない恵みを与えた。しかし、反面の害も相応、否、それ以上のもの。

月毎に地形を完全に激変させる気候と天候。凶悪で危険な魔獣に強靭で巨大な植物の存在。

いずれもの災害は、霊長類の生育圏をことごとく略奪し、最終的には大陸と海域の一部にまで追いやった。


そこは、法と秩序の神プテラストクレが築いた【神結界】の中。

数多の種族は、神の庇護の元で繁栄を許されてるのである。



===============

鑑定結果:

と、以上が皆のアイドル<万象鑑定>が送る解説、でゴダんした。

===============



「いやいや、皆のアイドルって何だよ。そもそも、てめえの本分は解説じゃなくて鑑定だろうが。さっきから思ってたんだけどさ、コレ、ギフトの向こう側に絶対誰かいるよね?」


視界一面を占領する、20メートル級の草々に200メートル級の巨木の幹。

千年後も微塵の変化もなく、その場に残るだろう偉大さを感じさせる大自然は、宛もなく彷徨う俺たち極小の生き物を静観していた。

海底のような静寂が大気に浸透し、周囲に響くのは自分の足音のみ。


率直に申して異様で不気味だ。

大分歩いているが、動物は愚か、先程から蝿の一匹すら目撃してない。

この森の規模を考慮すればありえない話だ。植物が存在する以上、その花粉を運ぶ生物が必要なはずだ。


まあ、木は精霊から生まれるとか、ファンタジー世界の植物自体繁殖方法が根本的に異なるなら納得するしかないが、この森に来てから俺の危険感がけたたましく警報を鳴らし続けているのだ。


そればかりは、信じざるを得ない。


「つまり何だ?俺達は今、その神様の結界外の危険区域に迷い込んでいるのか?最悪すぎる」

「ハルキ、だいじょうぶ?」

「それは何に対してですか、お姫様?危ねえ森に迷ってる事とか、一国の姫をマジで拉致しちまった事とか、あの人斬り女にぶった斬られた所がスゲー痛い事とか?総じて、大丈夫じゃないです」

「あたま、だいじょうぶ?ずっと、一人でしゃべってる」


振り落とすぞ、この幼女め。


現在、俺はヘレンを負ぶさって進んでいる。

彼女がスリッパのようなサンダルを履いていたので、仕方なくこの体制になった。

こちらも学校の上履きなのだが、そこは流石のCeleb校、バカ高い学費の用途が垣間見える立派な良品なので荒地でも問題ない。


切傷の方も応急処置を済ませているので痛みさえ無視すれば良いのだが、デンパと思われるとは心外だ。

まあ、<万象鑑定>の表示は俺にしか見えないので、仕方が無いと言ったら仕方がないのだが。


さて、相変わらず俺を貶めようとするこの曲者ギフト。

聞いても無い情報を提供したりいらぬ茶々を入れたり、好き勝手に暴走してくれている。

正直、全部サクッと無視したいが、残念ながらそれを出来ない理由がある。



ピロン


===============

鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

150メートル先の草を右折してください。

===============



そう、これである。


この野郎、どこから盗んで来たのかカーナビ機能まで搭載してやがったのだ。

転移措置まで誘導した時のようにマップ付きで。しかも、今回は3Dバージョンと来た。

道はなく、辺りが木と草ばかりなので非常に解りやすいのだが、その分ムカつく俺は正常だと断言する。


今目指しているのは安全地帯、のはずだ、多分。

いや、「安全な場所ないかな〜」と呟いたら起動したから、きっとそうだろう。

まさか、「アンゼンナバショ」という名の毒沼に連れて行くとか、古典的なボケしないよな?


「……今更不安になってきたな。本当に大丈夫なんだろうな<万象鑑定>」

「ハルキ、こわい。どうしたの?」

「ああ、俺のギフトがちょっとな。心配すんな」

「ハルキのギフト?」


とうとうヘレンに引かれてしまったよ。


うん、信じられない気持ちも解るけどね。俺、農家(辺境の)だし。

だが、悲しいことに地元民(と、呼ぶべきか?)の彼女がこの場所を知らない以上、<万象鑑定>に頼る他ないんだよね。


つーか、気付いたんだけどさ。

俺の持ってるギフトの内で使えるのって<全言語理解>と<万象鑑定>しかないんじゃないか?

悲しすぎるな、おい。

<滅星拳法>の詳細はまだ知らないが、使っちゃいけないことだけは解る。

<魔法>は、MAGI~~~C で意味不明。

その他に二つギフトがあったような気がするが………うん、気のせいだな!



チャンチャンチャーン



『ピコリン


鑑定結果:

イケメン過ぎる<万象鑑定>の音声オプションが自動選択されました。以後の鑑定結果は、この<万象鑑定>の美声で思念伝達されます、でゴダんす。


個体名、ヘレン・フォスコ・ヘクドラゴンを味方と認識致しました。

個体名、ヘレン・フォスコ・ヘクドラゴンのフレンド登録に成功しました。


以降の鑑定結果はフレンドにも共有されます、でゴダんす』


そう自己完結した矢先、中性的な声が不穏過ぎる報告を脳内に響かせた。

幻聴と思いたいのに、後ろでキョロキョロと音の発生源を探すヘレンがそれを許さない。

あまりの嫌な予感に思わず硬直してしまう。


「おい………ちょっと待てよ、おい!!」

『ジャジャジャ・ジャーーーン


鑑定結果:

【<男の娘>】:

漢の上の顔と下の顔は必ず一致するとは限らない。その強さも然り。

(解釈:使用者に予想外な隠蔽効果と補正を与える。)


【<豊穣の男の娘>】:

漢の上の顔と下の顔は必ず一致するとは限らない。従って、作物も見かけや育て方によらず美味しく実るものだ。

(解説:土地や肥料に作用されず、作物が美味しく豊かに育つ。ただし、見かけに補正は付かない。)


以上の二つがマスター、ハルキ・モリの所有するギフト、でゴダんす。』


「………」

「………」

「………」

「………ハルキ」

「やめろ! やめてくれっ! その目で、その目で俺を見るなぁーーー!」


位置関係上、俺からはヘレンの表情が伺えない。

しかしながら、感情を映さないその黄金の猫目に海より深い慈愛が宿ったのは明確だった。


「ち、違うんだヘレン! 俺の持つギフトはこれだけじゃないんだ! 聞いて驚け、<滅星拳法>って言う、パンチで星を破壊出来るギフトもあるんだぜ! スゲーだろう!」

「……うん、ハルキはすごい。……ハルキは、私が守る」

「だから、やめろって!そんな優しい顔すんな!」


俺、超必死。


だが、肩越しに見える幼女の顔が聖母のそれになってしまっていた。

実際、今まで遭遇した敵は全部彼女が倒していたので反論できない。


ぬおおおおおお!


ナニ晒しとんじゃ、このクソギフトがぁ!!

俺、お前に何かしたか!?してないよな!!?

大体、(解釈)ってなんだ(解釈)って!

断言できねぇんなら最初から黙ってろよ!!


『ピッピッピッ


鑑定結果:


マスターがこの世界に召喚されたことによって新たな“因子”が神のシステムにより検出されました、でゴダんす。未だに検分中であるため、その“因子”に基づくギフトの正確な鑑定は無理、でゴダんす。』

「いんし?」

『ポーン


鑑定結果:

男の娘、ショタ、ロリの因子、でゴダんす。ヘレン嬢』


「もういいよ。解った、俺が死ねばいいんだろ!ちくしょう!」


地に四つん這いになる哀れな男の娘。

黒曜石の地面で膝や手の平が痛むが、心の方がよっぽど痛いです。


因子って………俺って一体、どんな生物と認識されてるんだ?

ははっ、いいぜ? 別に、気にしねぇよ?

殆ど生まれた時からナリでバカにされ続けられたから、慣れっこだし?

今回で神様に認められちゃったほどだし?

うん、いっそ、やり遂げてやった達成感の方が大きいよ。


応援してくれたみんな!ありがとう!

そして死ね。


「ハルキ、すごい。よしよし」

「………ヘレン、馬乗りになったまま撫でられても何の慰みにもなんねぇぞ?」


お姫様を背負い直し、燃え尽きたかのようにフラフラと歩みに戻る。

落ち込んでもしょうがない。

この際、ポジティブに考えよう。


<豊穣の男の娘>、名前は虐めに等しいがどんな土地でも作物を豊かに育てられるのは農家にとってチートではないだろうか?

いや、それどころではない。

歴史的な大飢饉に苛まれた中世時代にて、常時地の恵みをもたらすギフトは奇跡の他ならない!

そんじょこらの魔王を駆逐するより健全的な人々の救済じゃないか。

後、適当に育てても美味しく生るのなら、品種改良の重ねられた地球の野菜や穀物を異世界でも簡単に再現出来るのではないだろうか。


村に突如と現れた謎の少年。

彼の耕す土地は、常に驚くほど美味しい野菜や果物で溢れかえる。

更に今まで食用だと思われなかった植物も育て、それらも漏れず絶品。

彼は、初めは胡乱だった村人の信用を勝ち取り、頼れる男と認められるのだった。


農業で無双する俺。うん、イケる!これはイケるぞぉ!


「待ってろ、ヘレン!たらふく美味い物食わせてやるからな!」

「? うん、楽しみ」


森春樹、十五歳。

得意技は、ポジティブシンキング(妄想)です。


再び軽い足取りで凸凹の激しい地面を踏む。

巨大な葉の隙間から日光が射して、閑散とした景色を薄暗く照らしていた。

樹木は疎らに立っているので、森である割には視界が良い。

その分、何処までも見渡せる平坦な景色は無限の空間を連想させた。


既にそれなりの距離を歩き、怪我で血も失っているが、ステータスのおかげでまだまだ余裕だ。

しかし、日が暮れる前に安全地を確保しなければ相当危険な状況に陥るだろう。

急ぐとしよう。


『ピロン


鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

300メートル先の草を右折してください。』


僅かな風で揺れる草。


『ピロン


鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

200メートル先の木を右折してください。』


高層ビルより高くそびえ立つ巨樹。


『ピロン


鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

100メートル先の草を右折してください。』


何処までも続く、溶岩石のような墨色の地形。


『ピロン


鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

300メートル先の草を右折してください。』


この草を右に曲がって。


『ピロン


鑑定結果:

最良ルートを再演算します……

250メートル先の木を右折してください。』


「………なあ、右折ばっかりしれるが、これ同じ場所ぐるぐる回ってねぇか?」

「うん、でも、ここ、ちがう場所。おかしい」

「え? そうなの?」

「うん。木のかたち、おぼえた」


俺と同じように首を傾げるヘレン。


つーか、何この子。頼もし過ぎるんですけど。

この世界の幼女はどうなってんだ。王族だからか?

一瞬そう思ったが、王バカの醜態が脳裏に浮かんだので即座に考え直した。

何処にもいる物だな、天才ってやつは。


感心はさて置き、ちょっと現状が解らなくなって来たぞ?

角を何回も同じ方向に曲がったら、大方元の場所に辿り着くよな?


………だが、後から思い返してみれば、この時立っていた人の世の果てなる秘境で、そんな常識的思考は破棄するべきだったのかもしれない。

あるいは、少し視点をずらして気付くべきだったのかもしれない。俺たちは安全な場所へ向かってたのではない、危険から逃げてたのだ(・・・・・・)


時既に遅し。

立ち止まって二人で考え込んでいると再度声が頭に届く。


『ビーーーーッ


上の鑑定を撤回します。

再演算………100メートル後方の木を左折してください。


上の鑑定を撤回します。

再演算………6時の方角、距離50メートルの草を右折してください。


上の鑑定を撤回します。

再演算………400メートル先の木を左折してください。


上の鑑定を撤回します。

再演算………9時の方角、距離70メートルの木を右折してください。


上の鑑定を撤回します。

再演算………9時の方角、距離300メートルの木陰で一旦停止してください。


上の鑑定を撤回します。』


「お、おい、どうした! いきなり何だ!?」

「かんていさん、おちついて」


絶え間なく更新される方向指示。

忙しく入れ替わるマップの表示。


本来なら、どうせ欠陥品だと鼻で笑ってやるのだが、額からじっとりと滲む汗が事態の異変を語っていた。

やがて、その予感は的中する。


『再演算………回避不能、接触必須。


お逃げ下さい、マスター、でゴダんす。』


「え?」


その報告を最後に、森の暗闇が一段と濃くなった。

違う、間近に灰色の壁が何処からとなく現れたのだ。


視野を埋め尽くす鈍色。


ふむ。


小走りで後ろへ下がる。

だいぶ離れて、ようやく眼前の生物の一部を確認することができた。



……………………アハハ……………これは、もう、俺がチビだとか、関係ねえ、な。



顕現するのは、天地開闢の時代より生きる古の怪物。

カバとサイを足した姿。頑強な灰色の皮。頭部に三本、身体中に百の数を超える角。

そして巨体。

十階建ての建築物を苦もなくに跨ぎ、二百メートルの巨樹が普通に見えてしまうほどの、圧倒的な巨体。


その暴食は幾千の山脈の木々を食い尽くし、その渇きは大陸のあらゆる水源を陥没させる。

全能なる神の児戯によって産み落とされた天災。


『ゴーーーン


鑑定結果:


コンティネンタル・ベヒモース(巨大種)【LV:3200】』


化け物の八つの紅蓮の眼が、俺達二人を捉えていた。


へえぇーーー


………で? それを知ってどうしろと?


怪獣大好きな日本人として言葉足らずなのは申し訳ないが…………マジでどうしろと?

まあ、念の為、現在こちらの保有する最強戦力の意見を聞いてみようか。


「なあ、ヘレン。アレ、コンティネンタル・ベヒモース(巨大種)、レベルは3200らしいが、どうする? 勝てるか?」

「………」


………聞こえてませんね。


はあ、ここで終わるのか、俺の人生。

思い返せば苦労ばかりしたが、その分楽しいことも一杯あったな。

シスターや兄弟達。折原、藤堂、海老名とクラスの女子グループ。

愉快な邂逅も沢山あった。


皆んな、ごめんな。俺は一足先に逝くぜ。


小さな少年は、絶望的な暴力の前で、しかし満足そうな笑みを浮かべるのだった。





「んな訳ねえだろうがあぁぁ!!」

「きゃっ!?」


はい、現実逃避終了。ヘレンも惚けてないでこちら側に帰還しやがれ!

こんな所でくたばってたまるかぁ!!

ただゴ◯ラが横長になった位で俺が諦めるとでも思ったか!


逃走は無理、歩幅が違い過ぎる。戦闘は論外。

でも、打てる手は全て打つ。使えるものは全て使う!


一番手は、ファンタジー世界で以外とチートかもしれないスキルその一、<全言語理解>。

馬鹿げたアイデアかもしれないが、会話を試そう。


「あのう、コンティネンタル・ベヒモースさん? 俺達、ただ森に迷ってるだけなんです。敵じゃないので、見逃してもらえませんかね」

「何してるの?」

「コンティネンタル・ベヒモースさんを説得しようとしてるんだよ」

「むちゃくちゃ」


うるせー。じゃあ逆に聞くが、お前はコンティネンタル・ベヒモースさんに話してみたことあんのかよ。

百年単位で生きてそうだから、言葉が通じるかもしれねえじゃねえか。

心の中で愚痴りながら、俺はコンティネンタル・ベヒモースさんの八つの目に愛想笑いを振りまいた。


さあ、どう来る。



ヴォーーールルルルルルルルルルルル



たった、一息。

それだけで地響きが周囲に渡り、巻き起こる突風で草がザワザワと揺れる。


って、あつっ。こいつ今、鼻から火噴いたぞ!


『ピッ


鑑定結果:

ハラ、ヘッタ。』


<万象鑑定>かい!

どうしてそう貪欲に活躍の場を求めるのだ、お前は!


後ろでヘレンが、「うそ」って驚愕している。ほらな、物は試しだろ?


「ああ、お腹が空いたんですか。でも俺たち、見ての通り小さいので食べ応えありませんよ?」



ヴォーーールルルルルルルルルルルル



『ピッ


鑑定結果:

ハラ、ヘッタ。』


「この草とかどうでしょう?これなら幾らでもあるし、美味しいですよ」



ヴォーーールルルルルルルルルルルル



『ピッ


鑑定結果:

ハラ、ヘッタ。』


「肉が所望ですか。しかし、人間の肉なんて食えた物じゃありませんよ?この森も広いし、きっと探せばもっと大きな獲物もいるでしょう」



ヴォーーールルルルルルルルルルルル



『ピッ


鑑定結果:

ハラ、ヘッタ。』


会話が全く成立してない。

野生相手に下手に出たらダメなのか。


「ああ゛あ゛ぁぁ!!? いい加減にしぃろろよぉ、このっ、木偶の坊がぁ!!! てめえは、それしか言えねえのか。あ゛あ゛!!? 腹が減っただあ!? じゃあテメエみてぇな豚から、何本あらびきウィンナーが作れるか、教えてやろうかぁ、ええぇ!!!?」

「ハルキ、むり。マモノは人をおそう」

「え?何で?」

「マモノだから」


何ですか。その、何故春樹を殴るの?そこの春樹がいるからさ! みたいなロジックは。


俺がヘレンの補足に戸惑っていると、コンティネンタル・ベヒモースは忙しく耳をピクピクさせ、徐ろに巨大な口を開く。


深淵の洞窟から漏れる極光。


「やっべ……!!!!」



ゴゴオオオオオオオオオ



直後、数本に束ねられた竜巻が噴流した。

時速400キロ以上の膨大な気流。

その破滅の化身は、直進上の全てを削り取り塵芥に変える。


「うわああぁぁ!!!これは何でもやり過ぎだああぁぁ!!!!」

「ハルキが、こわかったみたい!!」

「嘘だろ!!?」


小さな標的に慣れてないのか、それとも単純に暴走していたのか、俺達にコンティネンタル・ベヒモースの攻撃は直撃しなかった。


だが、余波の強風に呆気なく攫われ塵のように宙を舞う。

上も下も解らない状態で、とにかくヘレンを庇うように抱き抱える。

割れた黒曜石の地面に何回も叩き付けられて、最後に巨木の幹に激突することでやっと止まれた。


「ガッ、ゴホッ」

「ハルキっ、ハルキっ!!」


全身を蝕む激痛。喉に詰まる血の塊。

頭から行かないよう体制を整えられたが、その他すべてが壊れてしまった感じだ。


必死に呼びかけてくるヘレンの背後に大空襲を受けたような森の光景が映る。

モウモウを立ち上がる土塊の中に獲物を探す怪物の影が蠢いていた。

遠くから見れば、どうやってあんなデカイもんを見落とせたのか、自分に呆れる。


「ヘ、レン。い、今の内に、グッ、気配を消して、隠れろ! 得意だろ?」

「ハルキは?」

「聞、いて、驚け。俺は、死んだふり、の、達人なんだぜ?」

「ぜったいダメ!!ほんとうに死んじゃう!!」


ヘレンは、涙を浮かべながら頑として俺から離れなかった。

出会って半日も経ってないのに何だ、この好感度は。



ヴォーーールルルルルルルルルルルル



再び世界を震わせる神獣の咆哮。

ヘレンを突き放す間もなく、コンティネンタル・ベヒモースは土煙を掻き分け突進して来た。

一歩踏む度に大地が砕け陥没する。

嘗てない大音量な滅亡へのカウントダウンだ。



フザケルナ。



無意味かもしれない。だが俺は、血を流しながら体を起こし、特大級の理不尽を真正面から睨みつけた。


その時。



ぬぅうううえええぇぇぇぃぃぃいいいーーー



何処か遠い場所から雄叫びが届いた。

閃光が一閃。

続く爆音は、あらゆる物音を圧殺し衝撃波として辺りに重く伸し掛かる。


コンティネンタル・ベヒモースは、側面から殴り飛ばされ吹っ飛んだ。


実際は物凄いスピードなのだろうけど、巨体の為その動きはゆっくりに見えた。

怪物は、さっきの暴風さえ耐え凌いだ巨木の幹を何本もへし折り、やがて地平線に紛れる点となった。



その出来事は、だいぶ遅れて唖然とする俺達に受け入れられた。


「何だ、今の」

「わからない………たすかった?」


助かった?

いや、違う。俺は確かに直前に人の声を聞き取った。

つまり、何者かに助けられたのだ。



ヒュウウウウゥゥゥ


ズドンッ



「お前ら、大丈夫だべか!」


その結論に至ったタイミングで真上から誰かが降ってきた。

やはり人だ。今度は人の言葉を喋る列記とした人だ。


「あ、ああ。助かった、よ。クッ、マジで危ない、ところ……ッ!!?」


俺は、心から相手に礼を伝えようとしたが、途中て言葉を失う。

何故なら、そこには、余りにもワイルドで、パワフルで、ビューティフルな、筋肉が存在していたからだ!


目前を占領するのは、まるでケーブルカーの鉄ケーブルを何本も束ねた大腿四頭筋。

御双子は、デニムに似た生地のズボンを限界まで押し広げ自己主張している。

視線を上へ滑らせば、これは凄まじい。

中心を固めるエイトパックの腹直筋、その両脇にトウモロコシの粒の如く密集する腹斜筋群。9ミリ弾で貫けるか疑わしい肉の装甲板である。


更に上に君臨するのは………おお、……おおおおっ!!


皆さん、何と言うことでしょう。

Kカップですよ!

バストサイズKカップの、KYOU・KINですよ!


お、俺は一体どうすれば良いのだ。この奇跡の持ち主は一体………

我に返ったら、その場には真っ赤なオーガが立っていた。



パタン



「ハルキ!しっかりして!」

「お、おい、どうしたべ!いきなり倒れて、何があっただ!!」

「………」

「てーへんだべ!呼吸をしてねぇーだ!ひでぇー怪我だ!すぐ治療を……」

「(シィーー!声がでけぇ!安心しろ、これは死んだふりだ。静かにしねぇと怪物に見つかるぞ!!)」

「怪物だ!? 何処だべ、オラがぶっ飛ばしれやらぁ!」

「(近くにいる! でも無理すんな。アレはヤバイ。筋肉の塊の巨人でオーガのような顔をしてる。どう見ても人の手に負えない!)」

「大丈夫だべ! オラは強い。筋肉の塊のオーガなんて………筋肉の塊のオーガ?……え?」

「(そうさ、筋肉の塊のバケモンだ)………え?」


元来の静寂が戻った森で、一つの出会いが果たされる。

地に横たわる傷付いた男の娘に、人の言葉を喋る、控え目に言って野獣。彼らは、ただ静かに見つめ合う。



言うまでもないが、そこにメルヘンちっくな雰囲気は一里もなかった。


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