第9話 国外追放どころじゃない 後編
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………………
………………………ふぇあ!?
い、いつの間に寝ていたんだ、俺は!?
なんか、六歳の幼女がいきなり右手から闇を噴出させ、大太刀を持った猟奇殺人女の懐に鋭く踏み込み、掌底打ちでノックダウンさせた夢を見たぞ!?
ちくしょう!幼い女の子が惨殺されそうなのに、なに有り得ない白昼夢映してるんだ、俺の脳みそは!!
「ヘレン!!早く逃げ……るぇりぴ?」
「うおー!」
ドラマのヒロインのように悲壮に叫び手を伸ばすが、声はウィスキーをガブ飲みしたヒヨコの鳴き声になり、手も行く先を失い元の位置に戻ることになった。
何故なら、そこには力無く横たわる女を片足で踏みつけ、ロッキーのガッツポーズで勝利の雄叫びをあげる幼女がいたからだ………
「えええええぇぇぇ!? 夢じゃなかったの!!?」
「ハルキ、いい子。ケガさせちゃ、だめ」
「いや、だからって副団長相手に『エイドリアーン!』するのは男前すぎませんかね、ヘレンさん!?」
いくら男の娘でも、俺、君のヒロインになるつもりはねぇよ!?
つい声をひそめるのも忘れて仰天したら、その場にいる全員の視線が自然とヘレンの元に集まる。
どう言った原理か分からないが、今になって正しく認識出来ているのだろう。
どうなるんだ?このとんでもない絵面。一応、ちょっとでもアクを取るために幼女を死体(死んでない、筈)から退かせるか。
ついでに感謝を込めて撫でてやる。えらいえらい。
「「「「「「「ひっ、姫さまあああぁぁぁぁぁぁ!!!??」」」」」」」
ドラドッチャンガッチャンチャーン
直後、包囲網全体にも動揺が渡り、悲鳴じみた叫び声が上がった。
続いて、難攻と思えた人壁が鎧の騒音と共に崩壊した 。
………………………………ひめさま?
………あ、ああ。聞き間違えか。もう一度よく注意しよう。
「な、なぜヘレン様がそこに!!?」
「突如と現れたぞ!どう言うことだ!?」
「本日は離宮で勉学に勤しむ御予定だったのでは!?」
「何故あの賊に撫でられているのだ!そして、なぜ歳不相応に恍惚としておられるのだ!!」
「あのクズめ、一体ナニをしたぁ!!!」
緊急に飛び交う疑惑と怒号。
一部は身に覚えの無い訴えを投げつけてくるが、別に気にしない。何故かクラスメートも希代の犯罪者と遭遇したかのように俺を見るが、どうでも良い。
物的証拠なしでナニが立証できるか!
今肝心なのは、情況証拠がどうも信じ難い事実を指す、目前の子供だ。
「えーっと、ヘレン?お前、この国のお姫様だったの?」
「うん、だいにおうじょ」
「………あーっと、つまり、そこに座って偉そうにしている人がお父さん?」
こくん
と言うことは、あれか。
第二王女で、六歳で、幼女で 、地下監獄を散歩していて、第二王女で、飾り気のない質素なワンピースを着て、第二王女で、幼女で、耳年増で、何故か存在が気付かれたり気づかれなかったりして、第二王女で、童女で、父親と全然似てなくて、六歳で、たった今近衛騎士団副団長を一撃で気絶させて、第二王女で、六歳で、猫で、にゃーおー……………
「…………っふぅー……お前、偉かったんだ」
「……てれちゃう」
俺がとても優しく笑いかけると、無表情に徹しながらもヘレンは何処か自慢げに将来絶望な胸を張った。
なるほど、改めて観察したら超極薄に父方の面影を確認できなくもない。髪と肌の色が真逆のヴェクトルを走っているので、殆ど誤認に近い印象だが。
この純金の瞳の汚れた結果がやろうのションベン色の目か。母親の遺伝子さんに感謝するしかあるまい。
でも、何とか飲み込めたぞ。
ふむ、この国の第二王女か。VIPだな。
ふむ、混じり気のない六歳児か。王族でも発言力が低いな。
そして、身分不相応にそれを撫で回す鄙俗(俺)。
…………………まずくないか?この状況。
恐る恐る玉座の脇に立つクソ団長に目を移せば、僅かに口端を釣り上がるのが……
「皆の者!我らのヘレン姫が攫われました、近衛騎士団の意地にかけて救出しなさい!そして、王家を仇なす賊に正義の鉄槌を!」
初めて騎士団長らしい気迫で号令を出すヴィクトル団長。
「ォオ゛オ゛ラララァァア゛ア゛アァァ!!!そこ、退けやあぁぁ!!姫様ぶち殺すぞごぉららあぁぁ!!!」
片腕を幼姫の首に回し、悪鬼の形相で殺人鬼をも寄せ付けない殺気を撒き散らしながら怒鳴りつける俺。
「「「「「「「ひっ、姫さまあああぁぁぁぁぁぁ!!!??」」」」」」」
俺のあまりにも悍ましき風貌に、悪夢を見てるように青ざめて慄く騎士団員。
よし、これで完璧だ。
…………。
「…………え?マジでやるのですか?」
ポツンと、クソ団長だけが不意にそう漏らした。
ああ、やりますとも。
いじめソムリエであるこの俺様が濡れ衣程度に臆するとでも?
これこそが、元中教育で身に付けた冤罪への究極の対応策である。
冤罪自体を有利に利用する素晴らしい方法。その具体例は。
例1: 覗き魔だと訴えられる → あえて覗いて、堪能する
例2: 下着泥棒だと訴えられる → あえて盗んで、堪能する
例3: 盗撮を訴えられる → あえて盗撮して、商売した上で堪能する
ほら………究極だろう?
大事なお姫様を人質に取られて、テメェらになにが出来るのかなぁ?
身動き取れまい!策士策に溺れるとはこのことよ!ふはははっ!
「おのれ、この外道!その汚い手でヘレン様に触れるなぁ!!」
「ヘレン様は、今年で七歳になられるのだぞ!幼児に劣情を抱いて恥ずかしくないのか!変質者!!」
「変態がいるぞ!花も咲かない荒野と絶壁に発情する、真正の変態がここにいるぞ!!」
…………あのぉ、俺、ちゃんとぶっ殺すって言ったよね?
かなり強めの殺気も放ったんだけど、何で貴方達の懸念は著しく貞操の方に傾いているのですか?
マジでぶっ殺すよ?あんたらを。
「森君、君ってまさか…」
「森、お前…」
「森君、何で…」
「森君、言ってくれたら俺が…」
一方、クラクメートの皆はドン引きし過ぎて文章をまとも終われずにいた。言葉を失うとは正にこれだ。
こいつらには………まあ、全身全霊で弁明しないとな。修羅場に連なる修羅場か。
後、参考までに聞くけど、「言ってくれたら俺が…」何?ねぇ、何?
「………しちゃうの?」
オマセな姫様、「しちゃうの」って何のことですかね、一体。
無表情で俺のことジーと見つめながらそんなこと仰らないで頂きたい。反応に困るから。
ちなみに、彼女は苦しませない力加減で首を絞めているので問題ない。
ひとまず、器用に抱き上げている片手で首筋を撫でてやったらすぐにうっとり落ち着いてくれた。結果、敵味方関係なく追加の戦慄が走った。
まさかの展開に流石に面食らっていたクソ団長が、何とか気を取り直して再度命令を下す。
「皆の者。賊の脅しに屈してはなりませんよ。必ず奴を殺して、姫様を奪還するのです」
「し、しかし」
くくくっ。
無駄だぜ、クソ団長。
こう言うのは心理戦だ。武力は関係ねぇ。
そしてこの方面でテメェらに勝ち目はねぇよ。何せ俺の【精神力】は、……えっと……何億だったっけ?
ピロロン
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鑑定結果:
【精神力】: 1000000000
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サンキュー、万象鑑定。
攻撃の気配が立つとヘレンを盾にして止めさせる。その度引き下がる騎士は実に悔しそうだ。
ふん、これで完全に形勢逆転だな。
後は、この調子でネチネチじわじわ身代金と脱出経路を交渉してトンズラするのみ。
直前までの絶望的に不利な窮地をたったの一手で覆すとは、生まれて初めて義務教育課程の重要性を理解したよ。
折角だ、クラスメート共々他国へ亡命しよう。そうしたら、電波がないことも忘れてスマホで110番押している奴らも仲良く共犯者だ。
我ながら恐ろしい計画性だぜ。
え?帰還手段を得るためにこの国に滞在する予定じゃなかったのかって?
HAHAHA!帰郷した途端ムショ行きなんて嫌じゃないか!
「何をしておるのだ、貴様ら!」
こちらの道づれ作戦がおおよそ建った折にコモド王の怒声が届いた。
顔は怒りで歪み、皮膚はその業火で炎上している。
愛娘に危機が迫っているのだ、感情的になるのは当然のことだろう。
そして、それは脅迫者にとって好都合…
「姫の一つや二つなど、余が[ピーッ]すれば済むことであろう!早くその鬼畜外道ごと始末せんぁへぶらばっ!?」
刹那 、順調に計算を積み重ねていた俺の思考が突如途切れる。
見えた。
ヴィクトル・アリア・ゲラルヴァン近衛騎士団長の裏回し蹴りがコモド・レイン・ヘクサドラゴン国王陛下の御顔を凹ませる瞬間が、見えてしまった。
あえて称号を記述しておく。意図を汲み取って頂けただろうか。
顔面に真っ赤な足跡を印刷された王は、白目を向きながら玉座から前のめりに倒れ伏す。
直前まで室内に反響していた騒ぎも、微妙に寂しい余韻を残しながら消え失せる。
異世界人も地元民も、まるでラストクオーターにカピバラの軍隊の乱入によって両チームがなぎ倒されたアメフト試合の観戦客の心境に陥っていた。(謎)
しかし、実行犯はさほど気にせず、至極真面目な面構えで被害者の元に屈んだ。
そして、遺体(死んでない、多分)の手を吹き出た鼻血で濡らし何やら床に書き始めやがった。
非常に気になるほど素早い手際。
野郎は完成した文章を確認したら、漂う沈黙に疑問符を浮かべて立ち上がった。
「どうしたのです?固まってしまって。早く姫を人質にとり、王に暴行を働いた下手人を確保しなさい」
「てめえこそ、なにサラシとんじゃああぁぁ!!」
俺は、皆んなを代表してツッコんだ。
何故だ!?
何故、あの王バカの亡骸(死んでいない、おそらく)を見てこれほど心が荒れるのだ!?
本来スカッとするはずなのに!?
「貴方ね、いくら良い君主に恵まれず不満がたまってるとはいえ、暴力はいけないでしょう。腐りきっても、王なのですから」
「その不満毛先も心当たりないんだが!?さりげなく罪をなすり付けるな!!」
「ダイイング・メッセージにはそう書いてありますよ?」
「どうしようこいつ、ボケのハードルが高すぎるっ!」
どの世界にそんな堂々とした証拠偽造があるんだ!
推理漫画の犯人の影もそこまで明らさまじゃねぇぞ!?
コ○ン君失業させる気か、貴様!
「はあ、もういいよ。疲れた。もう、おとなしく田舎で畑仕事しに行くからさ。出て行ってもいいか?」
「ダメに決まってるじゃないですか。貴方がいなくなったら誰が私の罪を背負うのですか」
「本音言っちゃったよ!?頼むからてめえらの馬鹿大将なんとかしてくれ!」
切実に騎士達に頼み込むが、奴らはそっぽを向くだけだった。勿論、機械的なシンクロで。
王バカ慕われてねぇな、おい!近衛騎士の本分は何処へ!?
なんでこう、常識と逆行する輩が多いんだ、この国は。
おかげで次に何を仕出かすか科目検討つかねぇじゃねぇか。
お前が言うなって?……いやぁ、それほどでも。
………だが、しかし、それでも尚、この時広場に立つ全員はとある事実を失念していた。
おおよそ普通という単語から最もかけ離れた人物が、もう一派すぐ近くにいることに。
ズドオオオオオオオォン
その時、何の警告もなしに、後方から発射された火炎玉が近衛師団の陣営に着弾した。
引き起こされた爆発により、騎士数名がぶっ飛ばされる。
「「「「「ギャアアアア!?」」」」」
虚を突かれて悲鳴をあげるが、瞬時に立て直して防御体勢に入る。忘れがちだが、彼らは精鋭部隊。
それを見越したかの如く更に降り注ぐ、火、風、岩、雷の様々な弾頭。
「多属性のバレット系の魔術?一体、誰が……」
玉座の端からその爆撃を見下ろすクソ団長は、本日三度目余裕を失い唖然と呟く。
一方、俺は計画通りとほくそ笑む………ことなんてとても出来ねぇよ。
「ふぅ、こんなもんか。桜子はどうだ?うまく制御できてるか?」
「うーん、まだ照準に5.3%の誤差がありますね。もう少し絞りたいところです」
「この部屋の範囲内なら問題ねぇだろう。アンジーは?」
「キャー!見てよ、杏花、桜子!MAGICよ!THAT’S SO AWESOME!!」
「はい、大丈夫そうですね」
幼児のように小躍りする折原に藤堂と海老名は少し微笑む。
だがすぐ口元を引き締めて、いつの間にか奪い取っていた騎士の槍を振り被った。
各々の矛先が青、赤、そして金色の輝きを放ち、難解な魔法陣が形成される。
『From heaven it cometh. To heaven it soareth. And then again To earth descendeth!』
『誤差修正。飛距離設定。範囲確定。三、ニ、一、ファイア!』
『喝!!』
直後、点でバラバラな詠唱を合図に魔法が射出され騎士達を蹂躙した。
予期せぬ強襲に防戦一方を強いられるエリート騎士団。クラスメートの強行に度肝を抜かれ尻落ちをつく異世界組。
美少女三人はそんな辺りを歯牙に掛けず、崩れかけた陣形の向こう側から俺に向かってこう叫ぶのだった。
「「「今のうちに早く逃げて!後で必ず追いつくから!」」」
「なんで初っ端からチート使いこなしてんだ、お前らぁ!?」
この間教えた死亡フラグシーンを自信満々に再現するお嬢様方に、また全員分のツッコミを代弁する事しか出来ない俺だった。




