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万物が神に定められし世界で芋ジョブが一人歩きしていた  作者: ツヅクリフクロウ
第1章 異世界逃走劇
10/50

第8話 国外追放どころじゃない 前編


BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!



不正なレッドカードを出した審判へのブーイング。

正にそんなリアクションだった。


えーっと、お前ら、騎士団だったよね?

どっかのチームの過激応援団とかじゃないよね?


何で紙コップ投げつけてくるの?

どっから拾ってきたの?

死にたいの?


「はあ、何でも良いからさっさと国外追放してくれよ。二度と帰ってこないからさ」


九割九分ヤケクソになった俺は、ただひたすら飛んでくるゴミを片手で叩き落としていた。

頭上に槍が降らないだけマシだが、早々【農家(辺境の)】から【ゴミ屋(宮廷の)】に大出世(?)しそうだ。


いや、本当、この失明レベルの金ピカな謁見の間のどこから出現させているんだ?

まさか、発煙筒と金属バットと一緒に常備してるんじゃねぇだろうな。


「んっ……ぁぁ……ぅ」


ひしっ


遠い目で本日何度目かの現実逃避に浸っていると、腹部辺りの制服を小さな手に掴まれた。

同時に、じわじわ蓄積した快感がナニかを決壊させた猫なで声を聞き取る。

視線を戻すと、蜂蜜色に蕩けたヘレンの瞳と会う。

ダークチョコの頬に朱がさし、幸せで夢見がちな表情を浮かべていた。ちょっとマズイ具合に。


「うわっ、大丈夫か、ヘレン!」


声を潜めるのも忘れ、慌ててヘレンの様態を確認する。

やべぇ、ずっと撫でっぱなしだった。


実は、多くの兄弟たちを陥落させた俺の撫で技は、ちょっとした危険物認定を受けていたりする。

どう危険かと言うと、エロの方向で危険なのだ。

詳細は省くが、自身の名誉のために誰にも一度も訴えられなかったことを明記しておく。むしろ喜ばれたよ。凄く。うん、だからセーフ。


後、被害者……体験者の中に大人もちゃんと居ました。だから俺はロリコンでは御座いません!


ヘレンは、暫しの間自分の身に何が起こったか理解出来ずにいた。

やがて眼の焦点が元に戻る。次に、俺の腹をポカポカ殴り出す。

相当お恥ずかしい御様子である。


「………もうしないで(もっとして)

「あ、ああ。本音とダブって聞こえたが、悪かったよ。ごめんな」


流石にこれは、俺に落ち度があるな。少し気まず…


「せきにん、とって」

「おい、ませガキ。それ、誰に習ったんだ」

「……ねんしゅう、いくら?」

「何段すっ飛ばしてんだ、この耳年増!!」


何と言う悪女の言い草!

早熟なんて話じゃねぇ、熟れ過ぎて腐ってんじゃねぇか!男扱いが!

本当に子供か?実はロリババアってオチじゃねぇだろうな、おい!



パンパカパーン



===============

鑑定結果:

おませな六歳児。

天然物の幼女でゴダんす。やったでゴダんすね、マスター!

===============



ジョブチェンジしてーよ。【ゴミ屋(究極の)】になってゴミ(万象鑑定)を焼却炉で火葬してやりてーよ。


鬱憤を晴らすように、撫でる。撫でる。撫でるぅ!


「んぁ……またぁ……ぅ」


若年ながらも忍耐力を試されるヘレン。幸いなことに未だ彼女を視認できてる者はいないので警察沙汰にはならないだろう。俺が。


その代わり、第三者から見れば辺りの罵倒と苦情に狼狽していると取れたようで、勇者グループも騒々と荒れ始めた。


「こ、こんなのあんまりだ!勝手に召喚しておいて酷いじゃないか!」

「良くぞ言った柊君!その通りだ!貴様らそれでも騎士か!」

「ギャハハハ!イイザマっすなぁ、チビ!」

「おい!良い加減にしろよ、細川!」

「あぁん!?何すか、二之宮。やるってか?」


柊と一条が先立って辺りに非難を飛ばした。


ヨッシャー!柊が庇ってくれた!

これって、友達だよね?もう、親友で良いよね!

やったぜ、シスター!異世界で男友達できたぜ!ちゃんと向こうの世界から見てるか!


友達と言えば、一番噛み付いて来そうな折原達は以外と静かだな。

疑問に思って確認すると、三人とも瞑想に沈んだかのように目を閉じていた。凄まじい集中力を掻き集めているが、何をしているんだ?



パン パン パン



「はいはい、皆さん静粛に。誇り高きヘクサドラゴン王国の近衛騎士団がみっともないですよ」


流石にこれ以上の無規律を許容する気が無かったのか、ヴィクトル団長が面倒臭そうに手を叩きながら部下達を制した。

やはり、目を見張るコーディネーションで陣が再編される。ローマレギオーにも誇れる洗練された動作だ。


何時の間に上半身裸から完全武装に戻ったんだ?

スゲー完成度だ。何のかは自分でも解らんが、とにかくスゲー。


テンションゼロのオッサンは世の幸福が逃げ出しそうな溜息を吐く。


「全く。どうあっても、貴方は我々の思惑通りに行きたくないのですね」

「いや、これどう見てもあんたらの選定ミスだろ。今更しらばっくれるなよ」

「選定?はて、何を仰っているのか心当たりありませんね」


クッソ団長ぉ……(ナデナデナデ)


「さてさて、陛下。どう致しましょう?」

「BOOOO!!貴様なんざ、更衣室清掃員から出直して来るが良い!BOOOO!!」

「陛下?」

「ほおれ、初業務だ。この王室専用厠のトイレットペーパーを取り替えに行くが良い!ワッハハハハ!!」

「…………陛下……」

「む?何用か、ヴィクトル?」


王様も完成度たけーよ。こちらも何のかは知らないが、取り敢えずモノホンだよ。


俺は、宙を舞うトイレットペーパーを受け取る。

奴が何に備えてそれを持参していたか想像すれば触れたくもないが、よく見れば金色の蝋で封を施された銘柄品だった。………高値で売れそうだな、貰っとこう。


ハッとした王バカは焦って真面目な表情を作った。


「ウオッホン!……して、この愚民の処置であったな」

「………」

「ヴィクトルよ。そんな『この人他人です、私の主君など有りません』みたいな顔をするな。頼む」

「おや、これは失敬。自分の過去の過ちの検視を行っていた故。仰る通り、そこのチビと呼ばれた(おなご)の皮を着る化け物の処遇で御座います」

「エライ言われようだな!クソ団長!」


嫌味にしても、せめて方向性を収束させろよ。どんな新生物だ!


コモド王は、一息間を置いてから俺の方に向いた。

奴の凛々しい目鼻立ちは確固な要塞らしく、そこから発生する威厳の輝きも健全である。

今日の醜態を目撃して尚、並の人間ならその検分する眼差しだけで自然と背筋を伸ばすだろう。


実際、異世界組も静まり固唾を飲んでいる。


………でもね?コモドくん。

俺、こっち。本当は背後の風景に視線を誤魔化しているの、分かる人には分かるからさ。そんなに俺が怖いのかい?


王は短く蓄えた顎鬚を一撫でし、突然バッと劇的な動作で両手を広げた。

次に、これもまた大げさに礼装を揺らしながら右拳を突き出して親指を水平に指す。

その奇行に呆気にとられる異世界組に反し、すかさず近衛騎士団は機械的に槍を持ち上げて問うた。


「「「「王よ!我らの王よ!彼の鄙俗に助命か死か!」」」」


家来の声に王の親指は、ぷるぷる震え始める。焦らすように震える。アル中のよう震える!



パッ



そして、期待に満ちた瞬間の末それは地を指したのだった。


「死だ!死が下されたぞ!」

「聡明な決断だ!」

「「「鄙俗に死あるのみ!」」」


現実は非情だった。

無能とみなされた少年は、異国の地で淘汰されるのだった。




完……………………じゃねぇだろぉぉ!?


「下賤な分際で高貴なる殿中を踏み荒らしたのだ。仕方あるまい」

「仕方大ありだ!つーか、呼び出したのはそっちだろうが!ぶっ殺されたいのか王バカ!!」

「不敬なっ!!皆の者、聞いたか!直ちにその痴れ者の首を取れ!!」


王様っぽいセリフを言えるチャンスを逃すまいとする大バカ。


そんなデタラメに誰が従うかってんだ!

この国、外交とか大丈夫か?今までの流れでこちら側に死者を出したら関係が拗れることくらい……


「森君!お前ら何するんだ!どいてくれよ!」

「離したまえ!彼に何をする気だ!」

「お、おい。役立たずだがらって、やり過ぎじゃ……」

「黒………か、カイトさんの言う通りでさぁ!じょ、冗談っすよね?」


「下がって下され、勇者殿!直ちにこの不届きものに極刑を!」


………速やかなフォーメーションでクラスメートから隔離されて包囲されたよ!

なんで!?なんでそんなにマジになっているの!?


数分前との落差にまた何かの冗談かと疑うが、完成された人壁からは純粋な殺意しか湧いて来ない。あの三馬鹿でさえ顔を引き攣らせるレベルだ。


「お待ちなさい、貴方達。陛下も軽率と言われざるを得ませんよ。いくら、我が国が【職業】を重んじた階級制を掲げていても横暴です。何より他の勇者との関係に障害が出ます」


あ、ああ。

クソ団長に弁護されるのは癪だが、良かった。

常識の通じる人材、いや、正常な思考の人間がいたようだ。


「止めるな、ヴィクトル!ここで殺らずしてどうするのだ!この者は危険だ!余の貴公の肛門括約筋と片魂と世間体が危険だ!」

「成る程、それなら誠に仕方ありませんね」


結局クソはクソだったあぁ!?


「おい!漏らし王に片魂団長!ふざけるのも良い加減にしろ!!」


鳳君、ここはどう考えても国外追放から田舎でのほのぼのライフパターンだよな!

って、頭を抱えて蹲ってる。使えねー!


「片魂団長? 記憶にありませんね。近衛騎士団の名に賭けて逃がしてはなりませんよ」


肩を竦めて、クイッと親指ダウン。


「漏らし王?何のことやら。仕留めた者に褒美を恵賜しようぞ!」


とぼけて、クイッと親指ダウン。


なかった事にしようとしてるうぅぅ!!


自分の醜態を俺の存在ごと抹消しようと結託したよ、こいつら!!

誰でもいいからあの親指へし折ってくれ!


ヤバイ、特に報酬の部分で周りが今でも襲って来そうな意気込みになってしまった!


次の瞬間、「報酬はワシのもんじゃああ!」とばかり、枷の外された猛獣のように突撃する精鋭の強者たち。

女子の何人かが悲鳴を挙げ、男子は何か叫ぶ。

腹を括った俺は、素早くヘレンを抱きかかえ、迅速に迫る槍の刺突を冷静に見切った。


ヤンキーの小銃(もちろんエアガン、のはず)の弾幕を生き延びた回避力、見せてやろうじゃないか!


その時、


「させない!」


一つの影が頭上から落下し、最前列を駆ける騎士を踏み倒した。

唐突の出来事に後方の者も急停止する。

濡れ羽の黒髪に抜き身の大太刀、キキョウ副団長だ。玉座近辺を守備していた彼女は、一足飛びでここまでの距離を詰めたのだった。

女は、蠢く仲間を床に縫い付けたまま単色の紫眼で俺を見据える。


どういう風の吹き回しだ?まさの味方……


「褒美は、私の物」

「そっちかよ!?」


危うくずっこける俺を意に介さず、女ジェイソンは更なる跳躍から空中で上段の構えを取る。


「ぐえっ」っと悶えた下敷きの奴が少し哀れだ。


通常、剣術において飛び技は隙でしかない。しかも、部下と比べて明らかに粗暴な身のこなしは容易に捉えられた。


………そう、その筈だった。


「ッ!!」


悲しくも懐かしく思える生命の危機を味わいながら、俺は力の限り横へ飛んだ。



ズバアァン



目尻に映った、否、映らなかった。

女の姿がブレたのが先か、大理石の床が割れたのが先か、それとも三日月型の氷柱がせり出たのが先か。


転んで立ち上がる間には、そんな疑問も圧倒的な警戒心で塗り潰されていた。


「………驚いた、今のを躱すなんて」


キキョウ副団長は、水を割くように鍔まで床に埋まった大太刀をスルリと引き抜く。

微塵ながら純粋な驚きを感じ取れる。

だが、俺はその事実に全く楽観視できない。なぜなら、


「ハァ、ハァ………てめえの目は節穴か、ちゃんと切れてるわッ」


左肩に走る鋭い熱。太刀筋の鋭さに加えて瞬時に凍結されたみたいで、出血はないが傷の深さも解らない。

正直、あまり腕を動かしたくない状態だ。


彼女は、相も変わらず無風の湖面のように凪いだ表情で脇構えに立つ。

手傷を負ってなかったらそこに吸い込まれそうな静寂だ。


「どれ程この時をまたことか……」

「いや、俺らさっき会ったばかりだろうが」

「この程度では足りない。お前を斬りたくて仕方がない」

「おーい、誰だ。この危険人物を王族警護に回したのは」


俺は、軽口を叩きながら時間を稼ぐ。逃走手段を模索するために。

しかし、今の剣速を見る限り一歩踏み出す前に斬り殺される予測しか浮かばない。

万が一切り抜けても周囲は包囲されている。


くそっ、何かないのか………そうだ!あの凄そうなギフトさえ発動できれば!



ビービービー



===============

鑑定結果:(お取り込み中のようなので略式にする、でゴダんす)


【<滅星拳法> 】: 

使ったら大宇宙の一角が消し飛びます。


コメント:

使わないで、お願い、でゴダんす。

===============


………使えそうで使えないな。

つーか、使わねぇよ!


あ、危なかった。まさか、マジモンのアルマゲドンを搭載していたとは。

今回限りはよくやった、ゴミ(万象鑑定)!


さて、こっちがダメなら魔法はどうだ。確か、魔法系統っぽいギフトも持っていたな。



ジャジャジャジャーン(ベートーヴェン)



===============

鑑定結果:(正式)


【<魔法>】: 

MAGI〜〜〜C

===============



「…………………」

「……?」

「…………………」

「??」

「…………………」

「……隙あり!」

「はっ!!?」


キキョウ副団長の掛け声で我に帰る。


しまった!あまりにも馬鹿げた説明文に油断禁物な敵前で惚けてしまった!!

前言撤回!貴様も最後の最後までゴミだった、<万象鑑定>!


致命的に手遅れだと分かりながらも、俺は死から逃れるべく全神経を総動員させる。

極限状態で引き伸ばされた瞬間の中、僅かながら女が腰を落とすのが目視できた。

確実に斬られるのなら、せめて斬られて良い箇所を斬らせる。

肉を切らせて骨を守ってやる。右か左か。さあ、来い!


だが、その時生存本能に支配された俺は、とある人物を視野から外してしまっていた。


「んしょ」


日溜まりに寝転ぶ子猫の背伸びに似た声が、張り裂けそうな緊張の弧線を撫でた。

同時に、ストンと体から重みが抜け落ちた感覚を覚えた。


意識を向けると、今まで拾われた野良猫みたいに俺の脇に抱えられていたヘレンが目の前に躍り出ていた。

今度こそ、思考と背筋が絶対零度にフリーズする。

間違えなく、筋力が向上している。でないと、貧弱な俺が女の子一人の重みを失念するわけがないのだ。


失敗した、これ以上ないほど失敗した。何で初撃を回避して真っ先に逃さなかったんだ。

果たして、今から叫べば俺の声は彼女に届くだろうか。神速に迫る死神の鎌から救うのに足りるだろうか。


何だって良い、奇跡でも良い。だから、こいつを俺の前から退かしてくれ!


「逃げっっ」

「ふっ!」 



ドスッ!



「あぐっ!?」



ドサァ



「………………………」


達人同士の勝負で必須の電光石火の如き攻防。

一瞬二人の影が交差したかと思えば、次に飛び込んで来たそれは倒れ伏す女を踏みつけて、勝ち拳を挙げる幼女の光景だった。



時が、止まった。


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