平凡な非日常 3
終業式、世間ではクリスマスムード一色になり、クラスではクリスマスパーティーという合コンに参加する人もいるようだった。そして、ぼくの彼女は風邪をひいて、病欠していた。
彼女が風邪をひいてしまった原因はぼくあるといってもいい。こないだのテスト休み、ぼくと彼女は日帰りツーリングにでかけた。しかし、彼女の服装がすこし薄着だったらしく、ぼくの雨具を着せたりし、帰りには、大丈夫、と言っていたが、学校を欠席している様子を考えると、熱をだして風邪をひいてしまったようだ。
ぼくたちは、いまどきの高校生ながら携帯電話をもっていない。毎日、学校で顔をあわせるし、学校で話ができなくても、時間をあわせてコンビニで会っていた。ぼくの日課に彼女もあわせていたからこそ、毎日会えていた。彼女の家はツーリングの帰りに知ることになったが、電話番号は知らない。仮に電話をしたとしても、彼女以外の家族がでてきたら、ぼくは声がだせないだろう。
しかし、ぼくは挑戦することにした。彼女の家にお見舞いにいくのである。
ぼくは近所のスーパーへとむかった。まずは花を見てみる。そこには、春になれば近所で山ほど咲いているであろう花が、なかなかのお値段で売られていた。次は果物、と向かってみたものの、アルバイトをしていない高校生には、手がだせないものばかりだった。
帰り道、毎日会いたいと思い、会いたい人に会えていた、そんな平凡な非日常は、ある日突然会えなくなる、ということによって、あっさりとなくなってしまうものなんだなと思いながら、下を向き、ぼくは帰り道を歩いた。
彼女と会えない日も、日課はこなしていた。毎日スーパーカブで30分、田舎道を走っていた。
終業式があったその日、彼女の家のそばを通りがかったとき、ぼくスーパーカブのハンドルを、いつものコンビニへと向けた。
そして今、ぼくは彼女の家の玄関の前に立っていた。ふだんはリードされっぱなしだが、今回は無謀とも言われそうな行動にでた。
ぼくはインターホンを押し、玄関がひらくと、そこにはお母さんらしき人が立っていた。ぼくは緊張しながらも、自分の名前と、彼女のお見舞いに来たこと、それから彼女の具合をたずねた。
お母さんらしき人は、少し驚いたあと、笑顔になり、2階へと向かっていった。2階からは、悲鳴とも怒りともとれる彼女の声が聞こえた。
そして2階にまねかれてドアをノックすると、入ることを許可する彼女の声が聞こえた。
中に入ると、彼女は大きめのパーカーをはおって、ニット帽を深くかぶっていた。具合はまだ悪いのかと質問すると、それほどではないようだが、彼女の機嫌の悪さが伝わってきた。
さらに、ひじょうに気まずくなるかもしれないことに、ぼくはお見舞いに、コンビニの缶コーヒーと肉まんをチョイスしていた。そして、恐る恐る、彼女にお見舞いを差し出した。
すると彼女は、驚いたとも、あきれたともとれる表情をしてから、
「ありがとう。」
と、笑顔で言ってくれた。
人と会えなくてさびしいと思ったことは、今までなかった。でも今は、彼女と会えないことを、さびしいと思っている。
彼女の風邪が治ったら、2人でまた出かけようという話になった。そのとき、
「今度はバイクじゃなくて、手をつないでデートがいい。」
と、彼女は言った。
その言葉に、耳の端まで顔を真っ赤にしたぼくの表情は、彼女だけの秘密にしてもらいたい。
ぼくがリードされてもいいと思うのは、彼女だけなのだから。
Fin