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コラテラルダメージ

20XX年 11月10日11:00 東京都 首相官邸

トルキスタン政府から緊急の連絡が入った。内容は「中国からのミサイル攻撃が予想される」というもの。証拠も揃っており、信憑性は高いとのことだった。官邸では緊急の会議が開かれた。まず統合幕僚長が報告する。

「トルキスタンからの報告を受け、米軍のE-8偵察機が山西省一帯を捜索しました。当たりです。太原(タイユェン)市だけで7基の弾道ミサイル車輌を発見したそうです。この7基はすぐにトルキスタン軍が制圧しましたが、敵の作戦書類によるとまだまだ展開している部隊は多いようで…」

首相が渋い顔をしながら言う。

「多いというとどれくらいかね?」

「作戦書類からの予測しかできませんが、まだ2個師団は生き残っているはずです。日本本土へ攻撃する可能性のあるミサイルは少なくとも100発。しかし、中国に侵入している部隊もあるので、短距離弾道ミサイルも脅威になります」

「…発射を許したとしたら?」

「現在開発中の対空レーザー照射基を試験的に茨城に配備しています。それが試験通りにうまく機能すれば全機迎撃も可能でしょうが、そうでなければ…7月と同じようになります…」

幕僚長の報告に皆黙りこむ。あのとき、自衛隊は奮闘した。ミサイルをほとんど撃墜し、首都圏のペトリオットが迎撃する頃には数発が残っているだけだった。それでも東京はあんなことになった。次は大丈夫だと保証はできない。

「…首相、問題なのは敵のミサイル車輌が民間施設などに隠れていることです。所詮は民間施設ですので、空爆すれば撃破は可能です」

首相が少し怒った表情で反論する。

「何が言いたいんだ?民間人が多く住む都市を爆撃しろというのか?」

「はっきり言えばそういうことです」

「バカな…あくまで日本は平和主義国家として…」

統合幕僚長も怒った顔で反論する。

「平和主義国家ですって?前の首相もですが、そう言ってきてどうなりました?はい、核攻撃で400万人が死にましたよ。自国も守れないくせに平和への案内人みたいな面してきてこのザマです。野蛮な敵対国を守るのに日本国民を犠牲にするなんて御免ですよ。国民を守れないなんて平和主義国家を名乗る以前に国家として失格です」

ヒートアップしてきた統合幕僚長を防衛大臣が止める。

「…すみません。とにかく、民間人とはいえ敵軍に協力しているんですから戦闘員の部類に入ります。無力化することが不当であるということはありません。それに、作戦書類に部隊配置についておおまかに書いてあったらしいので、ある程度は的を絞れます。太平洋戦争でアメリカが日本空爆を正当化した理由と同じですね。敵戦闘員を殺すか、敵戦闘員を生かして罪のない日本国民を殺すかのどちらかです」

「……」

これまた難しい決断だ。空爆するとなると、的は絞れたとはいえ人工の密集している東海岸一帯を空爆することになり、死傷者も尋常ではないだろう。爆撃対象は13省で、その中には南京、上海、広州などの大都市も含まれている。

「…しかし、爆撃するにしても範囲が広すぎではないか?かなりの数の爆撃機を投入することになるが…」

「我々の考えとしては、GBM-1での攻撃を想定しています。アメリカの協力もあり、MIRV弾頭のものも配備されています」

GBM-1とは、日本がアメリカと共同で開発した中距離弾道ミサイルだ。形は米軍のSLBM“トライデントD-5”に似ており、事実D-5をスケールダウンしたようなものだ。全長12m、直径2m、射程4000km、MIRV弾頭10発を搭載し、12式地対艦誘導弾の発射基としても利用されている重装輪回収車で運搬される。とはいえ、生産したのは11発だけだ。開発から生産まで4か月しか経っていないため、これが限界だった。

「明らかに足りないよな…しかも迎撃される可能性もあるだろ?」

再び皆黙り込む。しばらくして、防衛大臣がひらめいたように顔を上げた。

「そうだ!核を使えば良いのでは!?」

「何!?」

大胆発言に幕僚長もびっくりする。

「大丈夫です。地上に核攻撃するわけではなく、高高度で爆発させるのです。そうすれば電磁パルスが発生し、地上の電子機器が使用不可能となります。つまり、敵のミサイルも使用不能に」

「…なるほど、聞いたことはあるが。上手くいくのか?」

「初の試みですからね。まあ、やってみないことにはね」


会議の結果、至急攻撃を開始することを決めた。韓国、北朝鮮、ベトナムにも協力を要請し、この3か国も弾道ミサイルでの攻撃を行うこととなった。この国々が狙うのは人民開放軍の主要拠点や軍事工場。電磁パルスで敵が反撃できないうちに攻撃を行う。ベトナムはスカッドミサイル、韓国は玄武ミサイル、北朝鮮はノドンで攻撃を行う。反撃の可能性も考慮し、迎撃ミサイルにも臨戦体勢をとるように言った。中国はミサイル防衛(MD)が確立されていないため、相当な被害が出ることは目に見えている。




12:00 山口県某所 陸自第3特科隊 第5ロケット中隊

「司令部より攻撃命令、司令部より攻撃命令、総員戦闘用意!」

敵に部隊の位置を特定されないよう他の駐屯地へ移動中だったが、いきなり攻撃命令が下った。すぐに車輌を停車させ、発射準備に取り掛かる。

「やれやれ…こんな山道で射撃することになるとは思ってもなかったな。まっ、民家がないだけマシか」

部下に指示を出しながら中隊長が呟く。攻撃目標は南京だとのこと。できるだけ部下には教えたくないが、座標を入力する時点である程度わかってしまうだろう。主に電磁パルスでの攻撃だが、少数ながら直接敵の潜んでいる都市を攻撃する部隊もある。民間人への被害は大きくなるが、ミサイルを無力化するということに関しては直接破壊したほうが確実だからだ。主に大都市が攻撃目標となっている理由は、単純に敵が大都市に隠れているからだ。人民開放軍としては、民間人を盾にして攻撃を受けにくいようにしているのだろうが、そんな思惑は砕け散ることになる。

「ミサイルを起立させろ。6分後に射撃する」

固体燃料であるため、急げば発射まで6分もかからないが、他の部隊とも足並みを揃えなくてはいけない。

使用するのはまたもやサーモバリック弾頭だ。これで敵TEL車の隠れている建物ごと潰すという作戦だ。威力が大きいため民間人への被害も大きくなるだろうが、中国共産党政府支持派=戦闘員と見なすから大丈夫なのだとか。人工800万の街にミサイルを撃つのだから、虐殺することに変わりはない。戦争の影響で少しでも疎開していることを願う。

そのとき、西の方角から凄まじい閃光と轟音を上げながらミサイルが天高く昇っていっていた。他の部隊が発射したものだ。あれは単弾頭で、数ヶ月前にイランから購入した核を搭載している。空中爆発後に我々のミサイルが着弾するよう、一足先に射撃しているのだ。弾道ミサイルが撃ち上げられている姿を見ると、ここが日本だとは思えなくなる。今や自衛隊も弾道ミサイルを保有しているが、憲法9条下での実現はほとんど不可能だったことだ。

「射撃用意完了。カウントダウン1分」

ついに攻撃する時が来た。中国人を殺せるのだから皆士気は高い。管制官が発射するためのキーを鍵穴に入れる。あとは捻るだけでミサイルが発射される。

「3、2、1、発射!」

管制官が発射キーを捻る。途端に凄まじい閃光と煙、轟音を上げてミサイルが一気に天に吸い込まれていく。あっという間にミサイルは見えなくなり、白煙が柱のようにそびえているだけだった。


中国人を多数殺すことになるミサイルを射撃したのちの隊員の顔は晴れ晴れとしていた。東京の仇討ちのつもりなのだろうが、人を殺す者の姿だと思うとゾッとする。




同時刻 中国 北京市街

頻発する空襲で、北京に駐留する人民開放軍の部隊はかなりの被害を受けていた。人員が足りず、民間人から志願兵を募って義勇軍を結成する地域があるほどだ。北京では既に反政府派は一掃されており、市民は政府に協力的だ。そこで首都防衛戦に備えて、物質の供給や輸送、塹壕掘りを市民に手伝わせ、一部は兵士として戦うことになった。強制はしていない。あくまで市民の自己判断で手伝わせている。まあ、手伝わない者には警棒を持った武装警察が勧誘しに行くのだが…。


北京市街のとある場所では、国家主席が大臣らと昼食を取っていた。主席が隠れ家として使っている場所だ。政府施設は危険だということで、最近では市民に紛れて込んで生活している。

食事を共にしている参謀長が水をこまめに飲みながら言った。

「…主席、山西省に展開していた第二砲兵の部隊が襲撃され、トルキスタンにミサイル7発を鹵獲されました…」

「ほー、7発無くなってもまだあるんだろ?大丈夫だろ」

主席が大好物のチャーハンを頬張りながら言う。

「それが…この部隊の指揮車に作戦書類があったのですが、処理に失敗したとか」

話を聞いた途端に噎せ、主席の口からチャーハンが飛び出る。

「えっ…つまりどういうこと?」

「作戦書類が敵の手に渡った可能性があります」

主席は魂が抜けたようにテーブルに額を着けてうずくまる。

しばらくして起き上がると、ゆっくり話始めた。

「…もういい、第二砲兵全部隊に行動命令を出せ…殺られる前に殺してやる…」

行動命令、つまり弾道ミサイルによる世界各国への攻撃を行うという意味だ。攻撃対象は日本を中心とする国連軍各国。日本、アメリカ、イギリス、カナダ、インド、オーストラリア、その他ASEAN諸国だ。

人民開放軍および共産党の最高指揮官である主席を誰も止めることはできない。攻撃を行えば確実に核保有国からの反撃を受け、中国東海岸は廃墟となる。冷戦時代に言われていた「相互確証破壊」というやつだ。核保有国のうち一方が核攻撃をすれば、反撃によって最終的にどちらも滅びる…


そのとき、食堂に憲兵が飛び込んできて叫んだ。

「敵のミサイル攻撃です!避難してください!」

突然の出来事にパニックになる。

「なっ…もうバレたのか!?迎撃できないのか?」

「今HQ-9部隊が迎撃準備をしています。レーダーでは捕らえられたそうで…とにかく、早く避難を!外に車が待機しています」

憲兵たちに連れられて、停まっていたリムジンに乗り込んだ。


北京市街をリムジンの車列が突っ走る。空襲警報で市民たちもパニックなようで、道路では信号無視の車が行き来していた。上空には緊急発進した戦闘機が編隊を組んで飛行していた。

回避しながらシェルターに向かっていたそのとき、空一面が急激に明るくなった。

「うわぁ!」

車が急停車する。爆風に備えて身構えていたが、爆風も爆音もなかった。閃光も治まり、空を見てみると円盤状の雲ができていた。

「何だ、あれは…」

携帯電話で写真を撮ろうとしてポケットから出すが、画面が消えて動かなくなっていた。ふと通りを見ると、爆走していた無数の車がなぜか暴れ回っている。他の車と衝突したり、歩道にはみ出して歩行者を跳ねたりしていた。

「どういうことだ…?」

よく見ると信号機が消えていて、電光掲示板なども消えている。停電が発生したようだ。すると、今度は突然爆発音が聞こえ、遠くから黒煙が上がる。よく見ると、さっきの戦闘機が市街地に次々と墜落していた。

主席には、停電が起きていること以外に状況が理解できなかった。




12:30 東京 首相官邸

攻撃はあっという間に終了した。弾道ミサイルは飛翔速度が速く、日本から中国まで10分以下で到達する。

攻撃の結果、発射したミサイルは全弾着弾となった。衛星や偵察機が撮影した映像が会議室のテレビ画面に写し出される。

北京の映像…停電が発生したのち、車が制御不能となり暴走している。軍用機が高度を落としていく様子もあった。

南京の映像…同じく停電したのち、サーモバリック弾頭のミサイルが着弾する。街は炎に包まれ、通りでは引火した車両が爆発したり、火だるまになった人々がよろめきながら歩いていたりして、最期には七転八倒していた。

他にも、火災で家々が焼かれる映像や、旅客機が墜落する映像、標的であるミサイル車輌や軍事拠点が被害を受けている映像などが撮影されていた。

首相たちは、呆然としながら無言で画面を眺めていた。


主な攻撃手段を電磁パルス攻撃としたおかげで犠牲者は減ったほうであろうが、それでも多すぎた。中国上空を飛行していた旅客機数十機が墜落。南京、上海など10ヵ所以上の都市や市街地をミサイル攻撃した。結果、人民開放軍の弾道ミサイル車輌50輌以上を撃破し、ミサイルサイロや工場も数十ヵ所破壊した。民間人で結成されている義勇軍の無力化された拠点や兵器工場は数百ヵ所にものぼる。主な活動拠点が市街地だったから、複数撃破することに成功した。

その戦果の代償として、数十万の民間人が死傷した。政府はこの死傷した者を“民間人”ではなく、軍に協力する“戦闘員”であるとした。間違いというわけではないが、この数十万人の中には純粋な民間人も含まれているはずだ。


日本のネット上の書き込みでは「よくやった!」とか「もっと殺せ!こっちはもっと殺られたんだ」などという内容のものが多かった。平和主義国家としてやってきた日本だったが、国民のほとんどが報復を望んでいる現在、政府にできることは、中国を徹底的に叩き、中国人を殺すことだけだった。

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