重慶へ
20XX年 11月2日06:00 東京都 首相官邸
11月に入り、廃墟となった東京都では焚き火をしている者が多くなってきた。東京への攻撃後まもない9月頃までは放射線障害や病気で死亡する者、仕舞いには餓死者までもいたが、10月ではある程度改善されていた。しかし冬が近づいているため、今度は凍死者などが出ないようにしなくてはいけない。仮設施設の建設が間に合っている状況ではないため、路上生活者も数万人規模でいるのだ。
首相官邸では、ミサイル攻撃の被害地域への対応や今後の戦闘について話し合われていた。
空母“ジョージワシントン”沈没による放射能汚染の危険性から、第七艦隊および護衛艦隊は佐世保まで撤収。損傷した艦艇の修理に追われている。案の定、空母の沈没した海域では放射線濃度が高くなっており、迂闊に近づける状態ではなかった。米海兵隊が遼寧へ上陸し、“ズムウォルト”がその海域で援護にあたっていたが、完全に孤立してしまった。現在は潜水艦を使って武器や物資の輸送を行っている。
防衛大臣が首相たちに報告する。
「第七艦隊の撤退で、北部戦線では一部敵が盛り返しています。しかし我が軍の航空兵力は圧倒的ですので、敗北することはまずないでしょう。問題は東トルキスタン連合軍ですね。快進撃を続けていますが、さすがに疲弊してきたようです」
「戦況が不利になっているのか?」
「…まあ、不利と言えば不利ですね。内モンゴル自治区を掌握していましたが、人民解放軍に奪還されました。また、四川省でも攻防が続いています」
「我々から支援はできないのか?」
「はい、無理ですね。ベトナム空軍のSu-24が堂々と四川爆撃に向かいましたが、四川省上空に侵入した直後にミサイルの嵐が。ステルス機は北部戦線に多くまわしていたので、そちらに派遣するのには時間がかかりますね。しかも空母沈没でF-35も沈んでしまいまして。かろうじてイギリス軍が巡航ミサイルでの攻撃を行っているくらいです。広西省を攻略できれば、ベトナムから援軍を送ることも可能ですがね」
広西省は北京に次いで守りが固い。ベトナムから国連軍が侵入することを警戒しているのだ。文字通り要塞となっている。敵は強力みたいだが、現在の戦況から判断するとこちらが有利だろう。
10:00 中越国境 ベトナム陸軍第203戦車旅団
中越国境に無数の火砲、戦車、歩兵部隊が集結した。日本から「広西省を攻略してはどうか」という意見が出て、ベトナムでも議論が成された。結果、このように作戦を行うことになった。広西といえど、100kmちょっと攻略すれば済むからだ。とにかくベトナムから東トルキスタン連合軍に物資を送るルートができれば良いのだ。
一部からは「せっかく中国を追い出したのに、刺激するべきではない」という意見もあったが、作戦が成功することを前提にして納得させた。
戦時中であるため普段から国境の守りは厚いが、現在火砲700門、戦車600輌、装甲車1000輌、歩兵5万人ほどが集結した。後方からはスカッドミサイルや空軍の支援もある。
戦車といっても、ほとんどが旧式のT54で、中国の99式戦車にはとても対抗できない。かつて中国がベトナムに侵攻した際も、99式を撃破したのは核兵器と歩兵による肉薄攻撃によるものだった。ちなみに、このとき数百名を犠牲にして撃破した99式戦車は4輌のみだった。
前々からアメリカ陸軍の協力を要請していたが、アメリカ国民が反対したとかで派遣してくれることはなかった。ただ、数日前から日本と台湾の部隊をこちらに輸送中で、今日中に到着するのだとか。この部隊だけが頼りだ。
12:00 ベトナム ダナン港 陸自第七機甲師団
揚陸艦“おおすみ”や民間フェリーで輸送されてきた戦車や車輌が陸揚げされている。隣では中華民国海軍の“アンカレッジ”級ドック型揚陸艦がM60戦車を下ろしていた。中国軍に対抗できるか不安な戦車だが、ベトナム軍のT54よりはマシだろう。
陸自は90式と10式戦車を30輌、99式を含む榴弾砲を50門、装甲車70輌などを派遣して中国軍との地上戦に備える。
中華民国陸軍の指揮官が師団長のもとに来て言った。
「へえー、日本軍は今も昔も変わってないですね」
日本語で話しかけられ、師団長も驚く。
「おっ…日本語話せるんですか?」
「完璧ではないですが、あなた方のご先祖様のおかげで。すみませんね、そちらはあんな凄いの持ってきてもらってるのに」
M60戦車を指差しながら言う。初対面だし黙っていたが、さすがにM60で中国の戦車を撃破するのは難しいと思われる。105mm砲では、T54のパクりである59式戦車なら撃破可能だろうが、99式の撃破はまず無理だ。
「まあ、厄介なのは我々でなんとかするので、肉薄攻撃とか雑魚の始末お願いします」
近くにベトナム軍の戦車旅団の兵士がいたが、気まずそうだった。ベトナムが保有するのは100mm砲を装備したT54。59式と互角というレベルだ。かなり厳しいことになりそうだ。
15:00 中越国境
輸送された部隊も集結し、総勢3000輌の戦車、装甲車が進撃に備えて待機している。その先頭はベトナム軍のT54で、その少し後方に90式、10式が展開している。T54は敵兵排除 兼 おとり用という扱いだ。ベトナム軍戦車旅団長が日台軍指揮官に合流した。
「ようこそ。先ほどから空軍が国境付近を爆撃しております。現時点でも敵をかなり無力化できたようです。地雷も排除しましたので、安心して越境してください」
戦車の弱さを補おうとしているのか、やけに戦果を詳しく報告してくる。
「それはどうも。では作戦通り30分後に砲撃開始ということで」
15:30
時間ちょうどに展開していた99式自走榴弾砲が火を吹く。ベトナム、中華民国軍の野砲部隊も砲撃を開始しており、それと同時に戦車部隊が前進を開始する。
「敵の反撃!歩兵部隊は装甲車に乗車せよ!」
「何!?もう反撃だと!」
「はい、おそらく対砲レーダーでしょう。まさかここの部隊が持っていたとは…かなり難しい戦いになりそうですね…」
対砲レーダーとは、飛来した砲弾を観測するもので、発射された砲弾の火点も割り出すことができる。地方の部隊では普及していなかったはずだが…
「間に合わない!伏せろ、伏せろ!」
次の瞬間、ベトナム軍の野砲陣地に敵の砲弾が着弾。砲と兵士たちを粉々に粉砕した。そこらじゅうから爆音と悲鳴が聞こえ、肉片も降り注ぐ。
「99式部隊、退避!」
自走砲であるため迅速な移動が可能だが、予想外の反撃のため移動が遅れ、至近弾によって4輌が擱座した。その後も自衛隊や中華民国軍の陣地に着弾。兵士たちが爆発に巻き込まれていた。
「師団長、逃げてください!」
唖然と立ちすくんでいた師団長を、護衛の警務官が地下司令部に連れていく。逃げ場のなくなった兵士たちが地下司令部を目指して走っていたが、危険を冒せないため扉を閉める。その直後、司令部付近にも砲弾が着弾した。
地下に避難した日台越軍の指揮官は無言で部下の無事を祈っていた。
数分後、敵は反撃をしたものの相討ちとなり、敵の火砲も沈黙した。安全が確保されたため地下に退避していた者が外に出る。
扉を開けた途端に硝煙の臭いが立ち込めて、地下に灰が入ってきた。辺り一面灰色で、所々で炎が赤々と燃えていた。扉の外側のノブを見てみると、手がくっついていた。さっき地下に駆け込もうとしていた兵士のものだろう。付近には内臓の欠片らしきものが飛散していた。
無数に配置されていた野砲はほとんどが破壊され、砲身が下を向いていた。これまた付近は肉片で埋め尽くされていた。師団長は唖然としながらも近くにいた戦車小隊長の元に向かい、話をした。
「被害は?」
「90式4輌と10式2輌が擱座しました。ベトナム軍はかなりの被害みたいです。T54が数十輌…」
小隊長が指差した先には砲塔の吹き飛んだ戦車が複数炎上していた。
「越境作戦はしばらく中止でしょうね。被害が甚大ですし、戦車の残骸を寄せないと…」
話をしているところに普通科の隊員が来て言った。
「師団長、司令部からです。地上部隊の行軍が困難であるため、まずは航空部隊を送るとのことです」
「ヘリボーンってことか?大丈夫か?敵の対空部隊はまだ殲滅できてないんだろ?」
「無人機からの情報では、空爆と砲撃であらかた撃破できたみたいです。台湾軍のスーパーコブラも護衛してくれるそうですよ」
「そうか…」
スーパーコブラの護衛は頼もしいが、しょっぱなからの大損害を被ったため不安だった。
16:00 中越国境 陸自 第9飛行隊 OH-6D
台湾のAH-1Wスーパーコブラ、陸自のAH-1Sヒューイコブラを先頭に日台軍のUH-1、ベトナム軍のMi-24ハインドなど計40機ほどのヘリボーン部隊が広西省を目指して飛行している。我々はそのさらに先頭で索敵をしている。かなりの反撃が予想されるため、本来非武装であるOH-6も、6連装のロケットポッドとドアガンナーを乗せている。
「タンゴ01より各機へ、中国領内へ侵入した。ハンターは護衛を頼む」
「ハンター了解」
領内には侵入したものの、国境付近での反撃はなかった。砲撃戦で被害を被ったのだろう。地上では塹壕に隠れた敵兵がこちらを見上げていた。
「せっかく敵兵見つけたけど、砲撃要請は無理だよな…。ドアガンナー、撃てるか?」
「もちろん、余裕だよ。塹壕のクズどもだな」
そう言うとドアガンナーは担いでいたMINIMIを構えた。ホロサイトとブースターを装着したもので、今回は遠距離であるためブースターも使用するようだ。空からの狙撃は風などの影響があるためかなり困難だが、そういう状況で狙撃するためのドアガンナーだ。狙いを定め、数発ずつ発砲する。カメラで見てみると、見事塹壕にいた敵兵に命中。驚いたのか塹壕から飛び出した。
「バカな奴らめ…」
すぐさま地上の友軍が機銃掃射。一気に十名ほど始末した。
「ハハハハッ!良いのが撮れた!今のシーン録画してたぜ。YouTube行き決定だな」
「この会話もな」
「……」
しばらく前進すると敵の野砲陣地が見えてきた。ほとんど破壊されているようだったが、車輌や歩兵が見える。
「タンゴ01よりハンターへ、敵を発見した。攻撃要請する」
「了解」
後方にいたスーパーコブラ2機がこちらに向かってきた。
「敵を確認。ロケット弾による掃射を行う」
すぐにスーパーコブラから一斉にロケット弾が発射される。まるで大口径のガトリングのようだ。大量の白煙を吐きながら一直線に地上に飛翔し、着弾する。
「ショットダウン。敵車輌撃破…おっと、敵戦車だ」
爆発によて倒れた木々から戦車が姿を現した。木々に隠れて奇襲を仕掛けるつもりだったのだろう。しかも99式だ。生き残してしまうと厄介なことになる。
「ベトナム軍の仇だな。ヘルファイヤ用意」
照準を合わせミサイルを発射する。しばらくして見事に敵戦車の上面に命中。戦車は炎上して動かなくなった。
再び前進する。地上は静かで、敵の様子はなかった。
「降着地点まで5km。ヘリボーン部隊は戦闘用意」
我々はヘリボーン部隊が降着した後は上空で待機し、地上部隊を援護する。そういているうちに戦車部
隊も来るであろうから、そうなれば勝利確定だ。
降着地点まであと3km。地上は山なりの地形になってきていた。とある山を越えたときだった。山を越えた途端に様子が一転し、山の斜面に何かが展開していた。カメラで見るとすぐにわかった。
「対空砲だ!回避しろ!」
待ち伏せていたのかすぐに撃ってきた。曳光弾が空一面にばらまかれる。機動性の良いOH-6は回避できたが、スーパーコブラはあっという間に炎上して墜落していった。おそらくZSU23だろう。23mm弾を使用する火器で、被弾すればまず助からない。
「ヘリボーン部隊、そこで待機だ!こっちに来るな!」
警告したが間に合わなず、勢い剰って山を越えてしまった。途端に砲弾が雨あられと飛んできて、UH-1が次々と被弾、墜落していた。
「くそ…ドアガンナー、撃てる奴がいたら撃て。ロケット弾を射撃する」
自衛用に装備していたロケット弾だが、このままでは全滅する。
「ヘリボーン部隊、これよりロケット弾を射撃する。怯んでいるうちに退避しろ」
機首を地上に向けると、対空砲も一斉にこちらを向いた。
「くたばれクソ野郎!」
突撃しながらロケット弾を発射する。同時に敵も射撃してきた。23mm弾がコックピットを突き破って、射撃をしていたドアガンナーの頭を吹き飛ばした。ロケット弾も着弾し、対空砲を複数破壊した。しかし対空砲の数は圧倒的だ。OH-6は蜂の巣となり、地上に激突する前に爆発を起こして粉々に砕け散った。
17:00
ヘリボーン部隊は大損害を被ったものの全滅は避けられた。結果としてOH-6が4機、AH-1Wが2機、AH-1Sが4機、UH-1が7機が撃墜され、69名が行方不明となった。生きていたとしても敵の捕虜となっているだろう。
数日後、中国を侵攻したとされるヘリパイロットの捕虜の映像が公開された。20名ほどが確認されているが、帰れそうな見込みはない。報復として、一部は処刑されたという噂もある。
結果、広西攻略作戦は失敗となった。戦死・行方不明者は200名前後と、開戦以来の大損害となった。誰もが敵を甘く見ていた。悪あがきとはいえ暴れる虎は侮れない。
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