第七艦隊崩壊
20XX年 10月30日05:00 黄海 護衛艦隊旗艦“いずも”
数十分前、韓国本土が空襲を受け、仁川に駐留していた空・海自部隊が被害を受けた。空自の航空機を11機、海自の航空機を8機損失し、日本人だけで死者は20名にものぼる。そのうちF-3の損失は2機で、初陣以降初の損失となった。初の損失が地上だとは、パイロットたちもショックであろう。
また、韓国首都ソウルも空爆を受け、死傷者は数千人になるだろうとのことだった。首都まで攻撃を受けて撃墜できた敵機は1機のみで、しかも撃墜したのは自衛隊だ。韓国軍は情けない…。
現在はAWACSやレーダーサイトなどを総動員して敵機の捜索を行っている。日本本土空襲の可能性もあるため、本土の沿岸監視部隊が警戒にあたっている。
「最後の目撃情報は木浦から、南西へ移動していたとのことです」
「木浦から西へ40kmの地点で目撃情報!」
「数分前レーダーで微弱な反応があったそうです。座標は125、785…」
“いずも”のCICに次々と敵機に関する情報が入ってくる。レーダーで探知できないため、確実なのは目視だけだ。とても探しきれない。有力な情報が入るたびに“いずも”や米海軍の空母から戦闘機が発進しているが、今のところ全て空振りだ。艦長も飽きてきて、艦橋で苦笑いしながら部下と愚痴を言い合う。
「敵機発見は何年後になるかな…」
「そうですねー、この様子じゃ4年くらいですかね。いっそ中国の飛行場を全て攻撃して、航空機が着陸できないようにした方が早いんじゃないですか?」
「いや、攻撃したって蟻の巣みたいにすぐ次のを作るだろう。品質は使い捨てレベルだろうが」
「MADE IN CHINAって最悪ですよね。私も通販で何度騙されたことか…」
ふと、窓から僚艦の空母“ジョージワシントン”を見ると、スクランブルを終えたF-18が戻って来て、着艦しようとしていた。フラップを下げ、ワイヤーフックを下げて低空で侵入。甲板に叩きつけるように着艦した。また次、また次の機と着艦していく。その様子を眺めていると、最後の1機がやけに高速で侵入してきた。
「おい、見ろよあれ。何だ?やけに下手くそだな」
「あれ、そうですね。タイヤも下ろしてないし…ヤバいんじゃないですか?」
「いや、連中は我々以上のベテランだ。パイロットが忘れていても空母側から警告するだろ」
部下も納得し、引き続き様子を見ていた。まだ減速しない。機体が揺れていて、ちらっと戦闘機の上部が見えた。
「あれ?横からだったんで気付きませんでしたがカナード翼がありますね。フランス軍のラファールじゃないですか?緊急着陸とか?」
「いや、違うな。ラファールに水平尾翼ってないよな…」
艦長と部下が顔を合わせ、真っ青になる。
「敵機視認!敵機だ!」
艦長が叫ぶ。
「えっ、敵機ですか!どこでしょう…」
航海士が慌てて双眼鏡で敵機探す。
「あれだ、あの…着艦しそうなやつ!明らかにJ-20だろ!」
航海士が半笑いしながら肉眼で見てみると、一気に真っ青になった。
「敵機じゃないですか!視認できますよ!」
「だから言っただろ!全艦に警告しろ!」
アメリカ軍はもう気づいていたようで、空母から対空砲火が始まっていた。対空砲火と言っても、ミサイルやCIWSでは標的を捕らえられないため、海賊・ゲリラ対策用として搭載されていた12.7mm重機関銃での射撃だ。航空機相手では命中率が悪いうえ、威力も足りない。
なんとか数発命中し煙が出ていたが、遅かった。敵機は一直線に空母“ジョージワシントン”の艦橋に激突。大爆発を起こして艦橋を完全に吹き飛ばした。
「なんてこった…」
「艦長、敵機複数を視認しました!J-20です!」
最悪の状況だ。ステルス機相手では砲か機関銃しか使用できないが、我が艦隊の砲や機関銃の能力はWW2のときの軍艦以下だ。レーダーが無力となった今、イージス艦でさえ大戦時の駆逐艦以下の能力しかないのだ。
「航空部隊を発艦させろ!敵機撃墜を試みるとともに被弾時の被害を減らせるはずだ」
航空部隊が発艦準備をしている時、もう1機が空母へ突入しようとしていたため、日米艦隊が主砲と重機関銃での対空砲火を開始した。シースパローやRAMなどでロックオンしようとするが、なかなかできない。必死に目視での対空砲火を行っていると、運良く敵機を損傷させ、敵機が炎上した。それでもなお突入してくる。その時、砲雷科から連絡が来た。
「敵機をロックオン!RAM射撃可能です!」
敵機を炎上させさえすれば赤外線ミサイルでの誘導はしやすくなる。つまり、銃砲弾を1発でも命中させればこちらのものなのだ。
すぐさまRAMが発射され、敵機は木っ端微塵に吹き飛んだ。
「よし!1発でも良いから当てろ!」
…しかし、その1発が難しい。そのうえ敵機はまだ9機も残っている。
必死に応戦するも、もう1機が空母“ジョージワシントン”の甲板に激突。火災の激しさが増した。その隣では、米軍の“ワスプ”級強襲揚陸艦に敵機が突入。甲板の航空機や車輌が破壊され、爆風で海兵隊員も海へ吹き飛ぶ。その後も駆逐艦、輸送艦、補給艦などに次々と突入、黒煙が上がる。
「ラスト1機、海自の輸送フェリーに接近!」
無傷の敵機が機首をフェリーに向けて急降下を開始していた。
「フェリーは何としても守れ!撃沈されたらエライことになるぞ!」
艦隊から主砲や重機関銃で応戦するが、やはり当たらない 。おまけにカナード翼を採用しているJ-20改は、高い機動性で銃砲弾を回避してしまう。
誰もが諦めかけていたとき、フェリーの甲板に積載されていた87式自走高射機関砲に隊員が飛び乗った。すぐに砲塔が旋回し、敵機に砲身を向けると、35mm機関砲が火を吹いた。
「バババババッ!バババババッ!」
曳光弾によって照準修正をしながら射撃する。すると敵機が炎上。主翼がもぎ取れて回転しながら海上に激突、爆発した。
「ハハハハッ!よくやった!」
艦長も大喜びで、各艦から歓声が上がる。87式の乗員が降車して手を振って歓声にこたえるが、甲板が薬莢まみれで転んでいた。
日本艦隊での歓声は裏腹に、米艦隊では絶望的な空気が流れていた。“ジョージワシントン”の火災は治まらず、駆逐艦や強襲揚陸艦も大破し、航行不能となっていた。たった11機による攻撃で、艦隊の機能は完全に停止していた。
08:00
1時間前、ついに“ジョージワシントン”艦長は総員退艦を命令。乗員が避難を開始した。そして数分前、火災が燃料倉に到達、大爆発を起こした。航空機80機分の燃料を搭載しているため爆発も大きく、艦側面の壁をも吹き飛ばし、退艦しようとしていた兵士たちも複数巻き込まれた。轟沈とまではいかないものの、艦はかなり傾いていた。そして7時58分、米軍の誇る空母“ジョージワシントン”は50機の航空機と共に沈没した。乗員5100名のうち脱出したのは4000名ほど。しかし負傷者も多く、後に102名が死亡。最終的に空母だけで約1200名が死亡、行方不明となった。
艦隊全体では、“アーレイバーク”級駆逐艦2隻が沈没、1隻が中破。“タイコンデロガ”級巡洋艦1隻大破。強襲揚陸艦“ワスプ”中破。その他輸送艦や補給艦が3隻大破。戦死者722名となった。
自衛隊では“たちかぜ”級駆逐艦1隻が大破し、戦死者56名だった。
“ワスプ”や輸送艦の損傷により陸上部隊も大損害を受けた。空母も失い、アメリカ海軍第七艦隊は作戦続行不可能となった。
さらに悪いことは続く。“ジョージワシントン”の沈没により、放射能汚染の危険性が出てきたのだ。原子力空母である“ジョージワシントン”が大爆発を起こして沈没したのだから、原子炉が損傷した可能性も高い。
これにより、作戦本部は黄海からの日米艦隊の撤退を決断。航行不能な艦は破棄するとした。曳航することも可能だが、放射能の影響がどれほどなのか分からない。放射能の危険性が少なかったらのちに曳航して基地に戻すことになるが、そうでなければ1000億円の艦を置き去りにすることになる。たった
一度の攻撃により、国連軍の戦況が危うくなりつつあった。
10:00 中国 北京 人民解放軍第二砲兵
主席の指令により出撃した第二砲兵の部隊のうちの一部が、朝鮮を攻撃するために射撃地点である北京に入った。攻撃にむけて中国全土で部隊が展開している。
攻撃開始時刻は知らされていないが、我が国の戦略兵器を総動員した攻撃になるであろうから、かなりの戦果になるだろう。標的は軍民問わない、つまり無差別攻撃だ。しかし兵士たちはやる気満々だ。敵国に大打撃を与えるチャンスであるからだ。大抵の兵士は故郷をアメリカや日本、反政府派に攻撃され廃墟となっている。政府支持派の人間以外は皆殺しにするつもりだ。
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