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ソウル空襲

20XX年 10月29日21:00 北京中国国防部

朝鮮での劣勢、中国本土へのミサイル攻撃、東トルキスタン連合軍による東部への侵攻、そして遼寧省 営口(インコウ)への敵部隊上陸によって、中国は崩壊寸前となった。国内問題だけでもかなりマズイ。中国軍の劣勢によって政府支持派が激減し、もはや支持する者は党員である8000万人と、ごく一部の国民しかいない。現在は軍によって反政府派の国民を抑えつけている状態だが、戦争によってその軍も弱体化している。


遼寧省への敵部隊の上陸を許してしまったため、昨日から貴重な兵力を動員して攻撃を行っているが、戦果はいまひとつで、逆にこちらの被害は甚大だ。昨日の戦闘でアメリカ兵を4名射殺し2名を捕虜としたが、その代償にMil-17輸送ヘリ2機が撃墜され、装甲車3輌が大破、兵士39名が戦死し58名が負傷した。とりわけ火点不明の砲撃、ミサイル攻撃による被害が多かった。敵兵6名を無力化するのに約100名が死傷した。敵部隊の規模も不明なうえ兵力が不足しており、本格的な掃討作戦は実行できそうもない。


さらに、敵の営口上陸によって北朝鮮国境で日韓軍と交戦している陸軍3個師団が孤立してしまった。営口と北朝鮮の敵部隊から挟み撃ち攻撃されている状態で、被害は徐々に増えている。


「朝鮮攻略部隊を救出せねばならんよな。戦闘可能な部隊はどれくらいあるのだ?」

主席が国防部に集まった中央軍事委員会関係者に訊く。この質問に冷や汗を拭いながら総参謀長が答える。

「営口に近く、かつ戦闘可能な部隊は、遼寧省の2個師団、4個連隊です。北京防衛隊の一部を動員すればプラス1万人ほどは増やせます」

「武装警察を足せば?」

「動員すれば1個師団以上になりますが、武装警察は治安維持に精一杯です。軍とは違って基本的に非殺傷武器での戦闘をしていますので、それなりに人員が必要です。デモ隊も過激化して厄介でして…」

「そうか。それでは全部隊に実弾の使用を許可しろ。戦闘意識のあるデモ隊員の射殺を許可する…これで1個師団増えたな。それで救出作戦は?」

誰もが既に気づいているが、主席の判断力が鈍くなっている。マトモに考えているようには思えないが、それを正式な指示として出している。参謀長もこのような指示に慣れているため、そのまま話を進める。

「人員はそろいましたが、敵の基地をどうにかしなくては。陸軍だけではまた犠牲が増えてしまいます。日本軍の爆撃機が仁川(インチョン)を拠点に攻撃を行っているようですし…」

「犠牲が増えるって言っても、昨日の攻撃での死傷者が100人だろ?大したことないじゃないか」

主席の雑な意見が出てからはなかなか良い意見が出ず、皆考え込む。しばらくしたのち、主席が顔を上げて尋ねた。

「そういえば、先日空軍のJ-20の改良型が初飛行したそうだな」

「ああ…ステルス機能を強化したものが実験に成功しましたね。それを基に既存のJ-20を改修していますが、改修が完了したのは実験機を含めて12機だけですよ」

「ステルスなんだから、12機でも攻撃できるんじゃないのか?」

「やればできますが、効果は薄いでしょうね。敵部隊が多すぎです。攻撃に成功しても敵の勢いは止まらないでしょうし、一回攻撃したら衛生なり偵察機なりレーダーなりで徹底的に捜索され、確実に破壊されるでしょう。我が空軍機は残り少ないので、発見される可能性も高いかと…」

参謀長の説明で再び考え込む。敵部隊を攻撃しても効果が薄いのは容易に想像できる。少しの攻撃で敵を多く減らすには…戦略攻撃、奇襲しかない。しかし、一回攻撃されたら確実に破壊される、か…。しばらくして、遂に指示を出した。

「J-20部隊を総動員して朝鮮本土の主要都市、敵拠点を攻撃させろ。攻撃を終えた機は日本海および黄海周辺に展開する敵艦隊を攻撃だ。以上」

攻撃を終えた機は敵艦隊を攻撃…つまり体当たり攻撃しろということだ。どうせ後で破壊されるのなら、もっと効率的に戦闘機を使用した方が良いだろうという考えから思いついたことだ。参謀長もまさかの指示に驚いていたが、他に選択肢がないと思ったのか、すぐに部隊への連絡を始めた。皆共産党を守るのに必死で、もはや人権など関係なかった。




23:00 大連空軍基地 第4戦闘機師団

「作戦の確認を行う。1から4番はソウルを、5と6番は平壌、7と8番は仁川を攻撃し、攻撃完了後は黄海に展開する日米艦隊へ突入。9と10番が大田(テジョン)、残りは光州(クァンジュ)を攻撃し、その後黄海または日本海周辺に展開する敵艦隊へ突入…。君たちの行動は中国の栄光として歴史に刻まれるはずだ。国のため、最後まで奮闘することを期待する。幸運を」

師団長が今回の作戦に参加する兵士たちを激励するため直々に任務を報告し、最後に敬礼をする。兵士たちもたくましい顔つきで、動じることなく敬礼をする。


今回作戦に参加する兵士は皆志願した精鋭だ。重要な作戦であるうえ、参加するということはほぼ確実に戦死するということでもある。政府はこの隊員たちを励ますために、隊員の家族の生活、安全を一生保証することを約束した。中国共産党は崩壊寸前であるため、この保証が無意味になる可能性は高いが、そんなことを知らずに12人の精鋭が志願した。

作戦に使用するJ-20改戦闘機は、ステルス戦闘機であるJ-20を改良したものだ。問題視されていたカナード翼は、電波を吸収する特殊な塗料を塗って補い、全体的にステルス性能が向上している。また、兵倉の拡張、航続距離の延長、レーダーの改良なども行われた。レーダーの改修でHMDを利用したオフボアサイト攻撃が可能となり、視認距離戦闘能力が向上した。ここまで高性能な戦闘機がなぜ特攻作戦を行うことになったかというと、既存のJ-20やJ-31はステルス性能が十分になく、アメリカなどの高性能レーダーでは発見されやすいからだ。ステルス機を駆使して国連軍を攻撃するにはこのJ-20改しかない。本土の制空権維持はJ-10やJ-11など既存の戦闘機でもある程度可能なため、もったいないがJ-20改が特攻に使用されることになった。現在は12機しかないが、1週間以内に16機の改修が終わるらしい。これを本来の任務である防空任務にまわすことになるだろう。


作戦に参加する兵士を励ますため、基地にいる仲間などが晩餐会を開き、できるだけ楽しくなるような時間をつくった。パイロットたちにとっては最後の晩餐となる。出撃するまでの間、空爆によって半ば瓦礫となった兵舎で一時の楽しい時間を過ごす。



30日 02:00

「総員出撃用意!整備員は機体の最終確認を行え!」

晩餐会も終わり、仲間に別れを言い終えたパイロットたちが兵舎から出てきた。戸惑っている様子はない。

J-20改戦闘機に爆弾が積み込まれる。今回使用するのはサーモバリック爆弾および5ktの小型核爆弾だ。もはや普通に核攻撃を行うようになったが、国家存亡の危機なので仕方ない。


「パイロットは搭乗せよ。5分以内に離陸」

指示通りパイロットたちが梯子を登り、コックピットに乗り込む。滑走路際では師団長や整備員などの基地関係者が見送りに来ていた。皆不安げだが、パイロットは気を使って笑顔で手を振った。本人も不安なはずだが。

「キャノピー閉鎖、1から4番機は2番滑走路へ移動」

「飛行隊一行に敬礼!」

師団長たちが敬礼をすると、離陸地点へ移動しながらパイロットも敬礼を返した。これが彼らの最後の姿となる。

「離陸を許可する。幸運を…」

泣きながら見送る仲間を背に、アフターバーナーを全開にし、J-20改は離陸していった。




04:30 韓国 ソウル 江南(カンナム)

いつものように騒音で目が覚める。ここ江南区はソウルの中でも人口が多く、車や電車などの騒音も凄まじい。安アパートではその音を防げないのだ。今日は会社が休みだというのに…


テレビをつけると、北朝鮮での戦闘の状況が放送されていた。1週間ほど前に戦闘が始まってからはずっと戦争のニュースだ。ネットでは「ソウルが空爆される!」などと騒いでいるが、中国は日本本土を攻撃しておきながら、もっと近い韓国は攻撃しなかった。攻撃の意志がないということだろう。万が一攻撃して来ても優秀な韓国軍が防衛するのだから大丈夫だろう。現在では中国軍を包囲し、日本軍と協力して袋叩きにしているのだとか。戦争ももうおいまいだ。


突然電話がかかってきた。友人からだ。

「何だ、朝っぱらから…」

「スゲエぞ!戦闘機が飛んでる!お前のアパートの方に飛んでったけど…見えるか?」

ベランダに出てみると、轟音が近づいてきた。轟音が聞こえる所より少し先の空を見ると、4機の戦闘機がきれいに編隊を組んで飛んでいた。

「あー、本当だ。ったく、迷惑だな。まだ4時だぞ…」

「それにしても珍しくないか?ソウルの上を戦闘機が飛ぶって。苦情来るから飛ばないようにしてるはずだけど」

「確かに。韓国空軍かな?」

「いや、違うな。F-15にしては滑らかな形だし、垂直尾翼が2つだったからF-16でもないだろ。もしかしたら米軍のF-22か、それとも…」

「あー、わかったわかった。そうだな、Fなんちゃらだな。切るぞー…、ハァ…」

こいつはミリタリーマニアで、一度喋ったら訳のわからんことを連呼する。この間なんて、イージス艦のミサイルの話をしたと思うと、いきなりSMがどうのと言い始めて、その時はさすがに引いた。


もう一度ベッドに入って寝ようとしたときだった。外が急に明るくなった。朝日かと思ったが、やはりおかしい。明るくなったのは西側だったからだ。窓を覗くと、西側にある高層ビル群の辺りから火球がのぼっていた。

「何だ!?…」

次の瞬間、爆音とともに強風が吹き、アパートの窓ガラスが割れた。建物も相当揺れている。しばらく呆然といていると、今度は北の方から火球があがり、軽く爆風が来た。青瓦台がある方角だ。

「おいおい、どうなってんだ…」

避難しようとしたが、痛くて歩けなかった。さっきの爆風で割れたガラスで脚を切ってしまっていたようだった。救急箱を取り出して応急手当をしているうちに、空でポツポツと爆発が起きていた。軍の対空砲火だろうか…。それを避けるようにして、4機の戦闘機が逃げ回っていた。

「さっきの戦闘機か!まさか…空襲か?」

逃げ回っている戦闘機を眺めながら呆然としていると、その戦闘機がこちらに向かって逃げ際に何か投下した。はっと気付いた。爆弾だ。

避難しようとしたが脚が痛くて歩けない。這って進もうにも散らばったガラスで動けない。

「くそっ!」

次の瞬間、アパートに爆弾が命中し、一瞬にして倒壊した。周辺にあったビルやマンションも倒壊し、美しいビル群のあった場所は一瞬で瓦礫と土煙のみとなった。




同時刻 仁川(インチョン)空港 空自第8航空団

サイレンがけたたましく鳴り響き、防空用のVADSバルカン砲の砲座に隊員が向かい、戦闘に備える。先ほど、大きな爆発と共に空港のハンガーや駐機している航空機が破壊されたうえ、機銃掃射を受けて離陸寸前だった大韓航空機が撃墜された。

「敵襲!F-3部隊は大至急発進せよ!スクランブルだ!」

兵舎からパイロットたちが飛び出し、駐機している戦闘機に向かう。

「4時方向、敵機2急降下中!応戦しろ!」

VADSの砲身を敵機に向ける。対空ミサイルもあるのだが、敵機がステルスなのか、ロックオンできない。よって昔ながらの目視での攻撃となる。

「撃て!」

「ブゥーンッ!」

20mmの曳光弾が発射される。バルカン砲での射撃となると、まるでホースのようだ。しかし敵機は機動性が高く、回避されてしまった。J-20改はJ-20と同じくカナード翼はそのままであるため、機動性が高いのだ。

今度はあちらからの攻撃。バルカン砲で機銃掃射を受けた。

「伏せろ!」

地上すれすれの所を敵機が飛び去る。敵パイロットの顔が見えるほどだ。この機銃掃射で隣VADSが爆発を起こして破壊された。射手も伏せていたが、運悪くバルカン砲弾が直撃。辺りに肉片が飛び散って人の姿はない。

「畜生!また来るぞ!」

敵機が反転し、再びこちらに機首を向ける。明らかに狙われている。

「…来いよ、やってやろうじゃねえか!」

隊員の仇を討つべく、VADSの砲座に座り狙いを定める。さっきの弾の飛び方を考えて照準修正し、引き金を引いた。

「ブゥーーーンッ!…カタカタッ…」

弾切れになるまで撃った。敵機を見てみると、1機が火を吹いていて、そのまま空港の駐車場付近に墜落、大爆発を起こした。もう1機はいつの間にか飛び去っていた。飛び去り際に爆弾を投下したのか、パラシュートが開いていた。

「おい、逃げろ!爆弾だ…」

言いかけたとき爆弾が炸裂、火球がむこうにいたパイロットや空港整備員、駐機していた空自の戦闘機を飲み込んだ。閃光が晴れると、火だるまになった無数の人々がよろめき歩いて、次々に倒れていった。皆その光景を唖然としながら眺めていた。




05:00 黄海沖 第4戦闘機師団 J-20改

大戦果だ。全ての目標の攻撃に成功し、仁川空爆では敵の航空機も数多く撃破した。7番機が撃墜されてしまったが、戦闘に支障はない。

「諸君、最後の任務だ。我々が死ぬことで国民や家族が救われる。志願したということは、途中で逃げ出す愚か者もいないはずだ。最後まで奮闘せよ。中国万歳!」

編隊長から最後の通信が来た。いよいよ敵艦隊への攻撃を行う。


しばらく低空飛行をすると、敵艦隊が見えてきた。大型駆逐艦、大型空母、揚陸艦、補給艦など30隻はいるだろうか。中国海軍は早々に全滅したため、艦隊を見るのは久しぶりだ。

「ここが俺の棺になるんだな。幸せもんだな。こんな高価な棺に入れるなんて…」

緊張を紛らわすため独り言を呟く。黙っていては家族のことを思い出してしまう。標的を絞り、機首を向ける。どうせなら大物を狩ろう。

「目標、敵大型空母…突入!」

スロットルを全開にし、敵大型空母“ジョージワシントン”へ突入する。






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