朝鮮人民軍の奮闘
20XX年 10月25日03:00 黄海上空 海自第5航空群 P-1哨戒機
空母へ帰投中だったアメリカ海軍の航空部隊との連絡が途絶えた。それ以来、陸ではレーダーサイト、空ではAWACSや哨戒機、海では艦隊がフル稼働して攻撃元を捜索している。たった数十分前にF-3A部隊が敵機を殲滅したばかりだから、おそらく海からの攻撃だろう。そこで哨戒機を複数投入して攻撃元と思われる場所を捜索していた。
「敵艦は確認できず…、っていうか中国に艦船あるのか?我々が殲滅したじゃないか」
機長が愚痴を言う。機長の言う通り、中国に艦船はほとんど残っていなかった。先島諸島の戦いで複数撃沈され、軍港へ巡航ミサイルが幾度も撃ち込まれ、しまいには核攻撃まで受けた。空母部隊は全滅し、中国の誇る最新鋭駆逐艦もほとんど損失した。
「まあ、誤射という可能性もありますけど。しかし、あの海域に友軍はいないはずですが…」
「どうでもいいから早く帰りたいな。昨日も一日中日本海を哨戒したんだぞ?せめて給料増やして欲しいもんだな」
「ピーピーピー!」
突然レーダー照射を受け警報が鳴り響く。
「何事だ!」
「わ、わかりません…ん?レーダーに反応あり…敵艦です!」
「何!?なぜ気づかなかった!」
「わかりません…とにかく回避します!」
フレアを放出しながら急旋回し、回避行動をとる。しかしミサイルは一直線にP-1に向かい、そのまま命中。尾翼が吹き飛んだ。
「司令部へ、海上にて攻撃を受けた!墜落する!至急救援を…」
そのまま今度はP-1が墜落、乗員は行方不明となった。
同時刻 黄海 中国海軍“キロ”級潜水艦
「敵機の撃墜を確認。深度200まで潜行します」
日本軍の大型哨戒機を撃墜し、“キロ”が急いで潜行する。
現在中国海軍はもはや壊滅状態で、わずかな駆逐艦と、おんぼろなフリゲートなどが残っているだけだ。しかし潜水艦は例外で、水上艦艇に比べると未だに損失は少ないほうだ。数時間前の空襲で損失した10隻も、幸運にも旧式の“ロメオ”級潜水艦で、 潜水艦部隊の要であるSSBN(戦略原潜)などの損失は皆無となっている。そこで被害の少ない我々が水上艦艇の役割も果たすということになった。この潜水艦の場合、対空戦闘ができるよう潜望鏡にミサイル発射機と高性能レーダーを装備。複数の目標を同時に攻撃することが可能だ。
「こんなチマチマした攻撃で意味ありますかね?」
副艦長が艦長に呟く。副艦長もこの戦争で中国が負けるであろうことは予想しているのだ。水兵たちの士気もそれほど高くはない。
「意味あるだろ。日本やアメリカなんて兵士一人死んだだけで騒ぐだろ?んで『戦争反対!』とか言い始める。それが狙いだよ。敵兵を一人でも多く殺して、連中の反戦意識を高めれば良いんだ」
「とにかく連中を中国から追い出すってことですね?でもそんな上手くいくかな…」
「おい、お前職業軍人だろ?敵を殺すのが仕事だ。嫌なら本土の反政府派にでも入れよ」
「いや、それだけは勘弁です。政府軍に殺されますからね…」
「その通り。政府軍ってのは俺たちのこと。裏切ったら俺たちがお前を殺すことになるぞ?分かったら仕事しろ」
副艦長がしぶしぶと配置に戻る。
03:30 日本海 海自空母“いずも”
「哨戒中のP-1が撃墜され、現在乗員の救出にあたっています。それから、攻撃元が分かりました。民間船および潜水艦です」
各部隊の隊長が作戦指揮官である海将のもとに集まり、状況を報告する。米軍機を撃墜した相手でもあるため、皆緊張した顔だ。
「民間船だと?」
「はい。民間のタンカーに地上配備ミサイルや地対艦ミサイル、ロケット砲などを詰め込んだものです。駆逐艦並みの能力はあるかと。その船で結成された艦隊が黄海に現れたわけです。我々も民間船は攻撃していませんでしたので、数は相当かと…」
他の部隊長が報告する。
「偵察機および衛星で確認できた武装商船の数は30隻。平城沖に向かっています。海上から日韓地上部隊を攻撃すると思われます。それから哨戒機を撃墜したのは潜水艦であることが判明しました。潜水艦の数は不明です」
海将の顔が曇る。
「敵艦隊を攻撃できる部隊はあるのか?」
「それが…。敵艦隊が現れるとは想定していなったため、我々の部隊に対艦攻撃が可能な機はありません。全て中国本土攻撃にまわしてしまって…。呼び戻して攻撃準備をするのに4時間は必要です。しかし敵艦隊が平城沖に到着するのは1~2時間ほどでしょう」
「日米艦隊が直接向かうというのは?韓国軍もいるだろ?」
「距離的には可能ですが、あの海域は潜水艦が複数潜んでいると思われます。哨戒しながらでないと危険ですので、時間がかかります。それにまた哨戒機が撃墜される可能性もあります。それから韓国軍ですが、対艦攻撃が可能なF-15Kが威力偵察に向かったところ追撃にあい、2機が撃墜されたそうです。まだ攻撃可能な機はありますが稼働率が悪くて…」
「はあ…、全く、役立たずだな…」
海将が呆れた様子で溜め息をはく。それをなだめるように部隊長が言う。
「唯一今すぐに攻撃が可能なのは朝鮮人民軍の航空部隊です。準備万端だそうで」
「朝鮮人民軍?対艦ミサイルもろくに装備していないじゃないか?爆竹の方がよっぽど強いだろ」
今度は苦笑いをしながら言う。
「まあ、任せましょうよ。それしかないです。失敗したときに備えて航空部隊を呼び戻しておきます」
自衛隊の危機を、この間まで殺しあっていた朝鮮人民軍に打開してもらうというのは誰にとっても不安だった。
04:00 黄海 朝鮮人民軍空軍 An-2輸送部隊
「敵艦隊を視認。攻撃を開始する」
朝日を背に向けてAn-2輸送機と無数の小型無人機の編隊が中国軍武装商船団に突撃する。レーダー照射は未だにない。
An-2は木製の複翼機だ。木製であるためレーダーにも映りにくい。今回の作戦ではこの機を母機として無人機を操縦。特攻させるのだ。北朝鮮の保有する対艦ミサイルでは射程が短いうえに撃墜されやすい。よってこのような異例の作戦が採られた。
「無人機隊、前へ!」
指揮官の指示で無数の高性能爆薬を装備した無人機が一気に加速、敵艦を目指す。
同時刻 中国海軍武装商船団
「平城まで170km、あと少しでロケット砲の射程だ。総員戦闘用意」
空中戦と戦車部隊への攻撃で我が軍は大損害を被った。残るは海上からの支援しかない。しかし海上からの砲撃だけで戦況が変わるとも考えにくい。そこでこの船には核ロケットが搭載してある。威力は小さめで2ktだ。あまりに威力が大きいと我々が核攻撃をしたということが直ぐにバレてしまうため、バレないことを願っての戦術核攻撃をすることになる。
「艦長、もう沿岸は攻撃可能ですが…」
水兵が報告する。今回の作戦では攻撃=核攻撃だ。攻撃の指示を出すのは精神的に難しい。
「そうか…。では目標の確認と…」
「艦長!上空に敵機です!おそらく無人機です!」
指示を出そうとしたときだった。
「偵察機か?」
「偵察にしては数が多すぎです」
上空を見ると、小さな点が無数に見えてきた。100はありそうだ。双眼鏡でみてみると、全長1mほどの小さな機体が船団の上空付近まで到達すると、機首を下に向けて急降下を始めた。続く機も同じように急降下を始めた。
「マズイぞ!対空砲火用意!急げ!」
水兵たちが急いでZSU23機関砲の銃座に飛び乗り、一斉に射撃を開始した。23mm弾であるため当たれば確実に撃墜できるものの、小型であるため命中しにくい。しかも機関砲自体もレーダーと連動していないため、目視での射撃だ。とても当てられない。
船団で一斉に射撃したものの、10機ほど撃墜したときに、ついに1機が船に突入した。大爆発を起こして炎上した。
「このままではマズイことになる…」
ふと空を見ると、遠くに大型の輸送機のようなものが見えた。あれは無人機ではないようだ。そこでひらめいた。
「あれが母機だ!最優先で撃墜しろ!」
こんなラジコン機を陸からここまで操縦できるはずがない。そうなるとあれが母機のはずだ。艦長の指示を受けてミサイルを発射する。相手も回避しようとしていたが、鈍足な複翼機ではどうにもならない。数発発射してようやく命中。粉々になって墜落した。すると20機ほどのラジコン機がコントロールを失い海面に衝突、爆発した。
「まだだ!引き続き迎撃しろ」
奮闘するものの、まだ70機も残っている。母機を撃墜しようにも、ラジコン機は既に急降下を始めている。とても間に合わない。
「6時方向に敵機!間に合わない!艦長伏せて…」
その時、2機のラジコン機が艦橋へ突入。CICを破壊した。艦長と数名の部下はなんとか生き延びていた。
「くそ…この船も終わりか…」
ここで再び今回の作戦を思い出した。少し迷ったのち、指示を出す。
「ロケットを発射しろ。この船もじきに沈む。敵に捜査されたらマズイからな」
「…了解です」
最後に任務を果たすことに決めた。なんとかロケット砲は機能したため、ためらいながらも急いで核ロケット弾の発射ボタンを押した。轟音をあげて発射基からロケットが飛び出し、平城目掛けて飛んで行った。
その後火災が激しくなり弾薬庫が誘爆。艦長を含め71名が海に沈んだ。
04:30
朝鮮人民軍による対艦攻撃の結果、武装商船7隻を撃沈、18隻を撃破し、死者177名、負傷者322名となった。朝鮮人民軍の被害はAn-2輸送機3機が墜落、特攻したラジコン機110機、死者5名のみだった。発射されたロケット弾は北朝鮮の海岸へ着弾。北朝鮮の沿岸警備隊員12名と民間人30名が死傷した。北朝鮮のおかげで最小限の被害で済んだといえるだろう。
国連軍は自分たちが核攻撃されたということをまだ知らない。しかし放射能などが探知されたら、バレるのは時間の問題であろう。その後には再び報復の嵐が待っている。
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