D-Day
20XX年 10月25日00:00 東シナ海 アメリカ海軍第7艦隊 空母"ジョージ・ワシントン"
「司令部より各艦へ。作戦開始時刻だ。予定通りだが、トマホークの一斉射撃後航空部隊を送り、敵を殲滅する。くれぐれも戦闘意志のない民間人は攻撃しないように。それでは···グッドラック」
遂に国連を総動員しての中国との全面戦争が始まる。これまでアメリカは介入を拒んできたが、面目を守るためにも介入はしなくてはいけなかった。今回日本が中国軍を蹴散らし、中国の国力が大きく低下したことでアメリカとしても軍事介入する絶好のチャンスとなった。その結果がこれだ。中国周辺にアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ドイツ、インド、その他ASEAN諸国の軍隊が展開している。
現在の中国の状況は酷いものだ。日本、ベトナムとの戦闘で10万人近くが戦死。とりわけベトナムによる核攻撃の被害が大きかった。さらに、中国が「日本によるテロ攻撃だ」とするミサイル基地占拠事件で民間人を含む40万人が死亡。そして国内の暴動だ。北京を中心とする東側の政府支持派と西側の反政府派とが対立、戦闘にまで発展している。政府支持派には政府から武器が提供され、反政府派を圧倒している。しかし反政府派も、チベット、ウイグル、トルキスタン人が集まって結成された"東トルキスタン連合軍"の支援を受けて武装を始めている。
東トルキスタン連合軍は、機関銃やRPG、戦車などを保有する立派な武装組織だ。おそらく中国と対立しているインドなどから武器提供を受けているのだろう。また、ミサイル基地襲撃作戦の際に日本から派遣された特殊部隊員から訓練を受けた者が多く、熟練度もかなりのものだ。この軍は日本と停戦していた9月から活動を開始。民族解放を掲げて東部に軍を進撃させていた。チベット自治区、新疆ウイグル自治区を拠点に進撃を開始。現在までに青海省、四川省、雲南省、甘粛省、内モンゴル自治区を支配下に置いている。この地域に住んでいるのはウイグル族などと対立している漢族がほとんどだが、その人々も中国政府に不満を持っており、現在では反政府派に属し、東トルキスタン連合軍と共に戦っている。この地域の他にも反政府派の人はたくさんいて、中国内陸部の地域の人々はほとんど反政府派だ。
これに対し中国政府は10月から強制排除を開始。戦闘がさらに激化した。容赦ない殺戮が続き、政府支持派8000人、反政府派2万人が死亡した。これは反政府派の人々の怒りを大爆発させ、政府支持派の人々の虐殺が各地で発生し、"共産党員を皆殺しに"をスローガンに虐殺を続けている。
このような状況の中国だが、主な攻撃目標は武装した政府支持派の活動拠点および中国共産党だ。北京は政府支持派の巣窟になっており、第一の攻撃目標だ。今回の作戦の最終目的は中国共産党を倒し、民主政権を樹立させること。よってできるだけ中国国民に悪い印象を与えないようにしなくてはいけない。あまりこちらが酷く攻撃すると、中国国民は共産党を支持するようになってしまうだろう。そうなると民主化する機会も失ってしまう。だから民間人に無駄な死者を出すことはあってはならない。慎重に攻撃することが必要だ。
「一斉射撃開始用意。航空部隊は発艦、上空で待機し攻撃開始に備えろ」
指令を受けて、飛行甲板が慌ただしくなる。戦闘機の装備の点検や給油、甲板整備が行われる。
「1、2番カタパルト射出用意。5番機を発艦位置へ移動。6番機は待機」
兵倉にJDAM8発、AIM-9Xを2発搭載したF-35C戦闘機が発艦に備えて移動する。
「射出バー固定。ジェットブラストデフレクター立てろ」
エンジンを点火し、発艦用意が整った。機体の最終チェックも終わり、ゴーサインが出た。
「1番射出」
蒸気カタパルトが射出され、1秒ちょっとで一気に200km/hまで加速する。轟音を立ててF-35が発艦して行った。
「2番射出用意···」
1機飛ばすだけでも大変だが、今回は30機も一気に飛ばさなくてはいけない。空母乗員は戦闘前からお疲れの様子だった。
00:30
まだ全機発艦は終わっていないが、航空攻撃に先駆けて巡航ミサイルの一斉射撃が開始される。"アーレイ・バーク"級駆逐艦や"ズムウォルト"級駆逐艦のVLSから次々とトマホーク巡航ミサイルが発射される。海中からもミサイルが無数に飛び出して来る。"オハイオ"級原潜からの射撃だ。一部の"オハイオ"級は弾道ミサイル搭載型から巡航ミサイル搭載型に改造されている。24発の弾道ミサイルを収めていた広いスペースがあり、かなりの数のトマホークを搭載できる。"オハイオ"の場合最大150発だ。
日本の護衛艦隊からもAGM-1巡航ミサイルが発射される。今回は非戦闘員の死傷者を少なくするため通常弾頭が使用されている。それでもマッハ5で飛行するミサイルであるため、運動エネルギーだけでもかなりの威力になるだろう。先に発射されたトマホークを追い越して、AGM-1が北京を目指して一直線に飛んで行く。同時着弾となるよう、足の遅いトマホークは近距離目標を、AGM-1は内陸の目標に対して発射された。
「着弾まで8分」
同時刻 北京 中国共産党ビル
夜中だが暴動は収まらない。北京はほとんどが政府支持派だが、一部の反政府派が抵抗を続けている。もはや普通に民間人にも銃などの武器が流通しており、民間人同士での殺しあいが続いている。民間人の殺しあいは酷いものだ。軍隊や警察とは違って限度や規制がないのでやりたい放題だ。ビルから外を眺めると民間人同士の闘争が大抵見られる。
「意見の相違とはいえ、酷いもんだな···」
国家副主席が外を眺めながら付き添いの護衛官に言う。反政府派がそこらじゅうにいるため、共産党の官僚には常に護衛官が付き添っている。
「そうですね。副主席はどうお考えですか?主席の補佐として。ここまでして共産党を守る必要があるのかどうか」
「ふむ···、主席はバカだからな。だって日本と戦争してる最中なのにベトナムと戦う決定を下したんだぞ?ヒトラー並みのバカだよ。私はただ、共産党が潰れたら自分も処刑されそうで怖いだけだよ。党がどうなろうが知ったこっちゃないんだけどな。まあ、潰れるなら潰れろやって感じだな。潰れたら私は即逃げるよ」
窓の外では反政府派の男が首根っこを掴まれて連行されてきて、政府支持派の民衆からリンチされていた。金属パイプ、ガラス瓶で殴ったり、蹴ったり、何でもありだ。死なない程度に、などとは考えてもいないようで、やりたいようにやっていた。民衆が去るとボコボコにされた血まみれの男が倒れていた。ここまで連れて来られるともはや反政府派の人を助けようとする者はいない。助かる見込みもないだろう。警察もいるが、見ているだけで何もしない。黙認しているのだ。
「中国も野蛮な国家になってしまったな···」
その時、いきなりサイレンが鳴り響き始めた。同時に副主席室に他の護衛官が飛び込んで来て叫んだ。
「敵襲です!ミサイル攻撃の可能性がありますので地下シェルターへ移送します!早くこちらへ!」
護衛官の指示に従い、素早く移動する。外ではミサイルの迎撃が始まっているようで、高射砲が火を吹いていた。爆音で窓が激しく揺れる。
「シュッ!」と何かがビルの上空をかなりのスピードで通過した。かと思うと人民大会堂で大爆発が起き、周辺の建物もろとも土煙を上げて倒壊した。
「なんということだ···」
副主席も護衛官も目を丸くしてその様子を見ていた。
「ミサイル接近!早く···」
護衛官が再び副主席を避難させようとしたその時、1発のミサイルが共産党ビルに直撃。その時点で副主席を含む50名ほどが死亡。あまりの一瞬の出来事だったため避難どころか死を覚悟する暇もなかっただろう。その後ビルは炎上したのち数十分後に倒壊。387名が死亡、行方不明となった。
00:40 青島上空 アメリカ空軍第209爆撃航空団 B-2スピリット爆撃機
グアムからB-2爆撃機4機がそれぞれ青島、寧波、湛港、上海に向けて飛び立った。青島と寧波はミサイル基地襲撃の際に乗っ取った核ミサイルで攻撃され甚大な被害を受けたが、停戦している3か月のうちにある程度復旧し、軍港としての役割が再開している。ここ青島は、今回の戦争でほとんど無傷である潜水艦隊が拠点にしているようで、衛星や偵察機からその様子が確認されている。これを叩けば制海権は我々のものになるであろうから、今回の攻撃はかなり重要だ。ステルス機であるB-2とF-35でレーダー基地などを攻撃したのち、F/A-18やF-15E、B-52などの非ステルス機で攻撃することになっている。
「ベアより司令部へ、標的を確認した。核攻撃の跡はあるが、軍艦や地上部隊、潜水艦も10隻ほど確認できる。オーバー」
「ラジャー。先ほど発射した巡航ミサイルも着弾を始めた。総攻撃がバレないうちに攻撃せよ。オーバー」
赤外線カメラで索敵すると、核攻撃の影響で市街地は瓦礫の山となっているが、軍港には灯りがあり、人影もかなりある。軍港の端には半分沈んだ空母"江蘇"の姿があった。先島諸島沖の戦いで日本軍の攻撃で大破し、ドッグ入りしていたが、核攻撃により沈没したのだ。これで中国の空母は全滅したことになる。停泊している軍艦が必死に対空レーダーを振り回しているが、ステルス機であるB-2は発見できない。レーダーの性能も上がり、ステルス機の優位性が崩れつつあるものの、中国のレーダーはさほど高性能ではないようだ。
「おやおや、戦時中なのに灯火管制もしないで。余裕だな」
パイロットが索敵しながら相棒と話をする。B-2は2人乗りで、しかも座席が横並びであるため会話ができるのだ。1人乗りよりはリラックスできる。
「一度核攻撃されたからって攻撃されないと思ってるんだろう。潜水艦だからって見つかんないとでも思ってるのか?我が軍の高性能偵察機に···」
「しょうがないだろ。キムチばっか食ってるバカどもだからな」
「キムチは朝鮮だろ」
「···まあいい。その紛らわしい中華野郎をボコボコにしようぜ。こっちも殺られたんだからな、仕返しして当然だろ」
東京への核攻撃ではアメリカ人にも死傷者が出た。核爆発の熱線で死体も溶けてしまっているため詳細は不明だが、アメリカ人だけでも少なくとも50人は死亡しただろうとのことだった。
「···よし、攻撃準備を開始。標的、敵潜水艦···目標ロックオン、爆弾投下用意。兵倉開け」
兵倉が開き、16発のJDAMが顔を見せる。
「投下」
ガタンッ、と爆弾が機体から外れる音がしてJDAMが投下された。その後も次々と目標をロックオンし、次々と爆弾を投下した。線のように爆弾が連なり、目標に向かって行く。
「投下完了。兵倉閉じろ」
投下が終了したため急いで兵倉を閉じる。ステルス機といえど兵倉が開いたままだとレーダーに映り易いからだ。地上では投下した爆弾が炸裂し、眩い閃光が走っていた。潜水艦に命中したのだ。大きな水飛沫を上げ、大爆発を起こして次々と沈んでいく。火災が発生し、夜の街を照らす。
「1番命中。2、3、4番···全弾命中だな。グッドキル」
観測していた偵察機から戦果が報告される。あっという間に埠頭に停泊していた潜水艦10隻を撃沈した。敵もようやく攻撃されていることを悟ったようで、対空砲火を開始していた。しかしミサイルでロックオンしようとしてもステルス機であるためできず、目視で対空砲を撃っているようだった。
「今時対空砲か?中国軍にはお似合いだがな。現代戦で対空砲って脅しにしかならんだろ」
砲弾が炸裂しポツポツと閃光が走る。かなり撃っているが、当たりそうもない。
「よし、残りも投下するぞ。標的は埠頭の駆逐艦、敵レーダー車両」
再びロックオンし、兵倉を開く。兵倉を開いている間はステルス性が薄れるのでチャフ、フレアを放出しながら爆弾を投下した。
「こちらベア。これより帰投する。艦載機部隊、あとは任せたぞ」
JDAMを全弾投下し、B-2が引き揚げる。帰りがけに敵駆逐艦、レーダー車両、その他地上部隊撃破の報告があった。コックピットから外を見ると先ほどの埠頭からちょっとしたキノコ雲が上がっていた。1回の出撃で軍艦11隻轟沈とは大戦果だ。
しばらくすると東の方から無数の光が見えてきた。第2次攻撃隊だ。すれ違い際にF/A-18のパイロットがこちらに向かって親指を立てたのが見えた。Good jobということだろう。
超大国アメリカの空軍が大編隊を組んで飛行している。まさに戦争の光景だ。
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