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プロローグ
男は理解してしまった。
いつの頃だったか自分は己のすることによって
熱くなることはないということを。
男は才能あふれる男だと
周囲にはそう褒められていた
なんでも器用にこなせると
何もかもが男の言いなりとなる
男の自由にならないものはないと
羨ましがられた
でも一つだけままならないことがあった
自分の感情だけは操れなかった。
どんな時も男は熱くなることを知らない。
情熱の意味を知らない。
惨めでも激しい感情を抱く人間を男は羨んだ。
自分の胸には風穴が開いているようで
風通しのいい胸には何も残らない。
悲しみも怒りも激しく彼の中に渦巻き居座ることはない。
喜びも彼の胸の中には暖かな灯りとはならない。
理解するとともに無気力になった男だったが
ある日、一つの思い付きが彼の頭に浮かんだ。
その思いつきはひどく彼を取り付かせた。
夢中になり、いつかたった一つの希望のように男には思えるようになった。
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