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小さい頃好きだったアニメがある。
熱血少年ヒーローが悪者をやっつけて正義を守る。
内容はまさに王道の少年アニメ。その名も『魔装鎧伝ユウマ!』である。
私と同じ世代の人なら、誰でも知っているほど人気だった作品だ。
その中に、ガルザという悪役がいる。
それがまた力こそが全て、自分より弱いものはいじめる、卑怯な手を使って主人公を挑発する。等まさに悪役のテンプレートのような男で、しかも最後は仲間に裏切られて死んでしまう。
そんな救いのない悪役が"ガルザ"だ。
が、こいつが悪の道に走るのにもそれなりに理由がある。
アニメでちらっとでた回想によると、ガルザは子供の頃とつぜん特殊な力に覚醒し、その力に怯えた友達は一斉にガルザを化物呼ばわりして石を投げて虐めるようになる。絶望したガルザが逃げるように街を出るのだが、それから行く先々で化物呼ばわりされて……というような事があったらしい。
なかでも信頼を裏切った幼なじみはガルザの心の傷となったらしく、アニメの中では『幼なじみだと! 親友だと! くだらねえ、どうせ裏切られるのが関の山よ~!』とゲスい顔で断言するシーンもある。
ガルザの悪役人生のきっかけを作った名も無き幼なじみ。
そして今、まさに私がその幼なじみに転生してしまったのである。
まさか好きだったアニメの世界に生まれ変わるなんてそんな馬鹿なことがあるか。
「おい、シオン。何ボケーッとしてやがる」
「ん、んん? ごめんガルザ、ちょっと考え事してた」
「ふん。まったく、トロいやろ―だぜ。……悩み事でもあるのかよ?」
「ああ、うん。ちょっと未来のことで考え事を」
「何だそりゃあ」
呆れ顔のガルザのお陰で、現実に戻される。
私はもたれ掛かっていた裏通りの壁から体を離すと、幼なじみの姿をまじまじと観察した。記憶にあるアニメ映像での姿とは違い、今のガルザただの目つきの鋭い少年だ。特殊な力もないし、ちょっと捻くれたところはあるけど悪人ではない。
私が見ていたアニメは、この世界の未来が描かれていたんだろうか。
アニメで見たガルザは青年で、人相と性格が悪く、邪悪なパワーがみなぎる酷い男だったが、こいつは将来、あんな風に成長するのだろうか……。
「なんだよ? 人をジロジロ見やがって気持ちの悪りい」
「おう。わるいわるい」
肩パンされそうになったので、とりあえず謝りながら避けるとガルザは手を止めて、悪ガキっぽく鼻を鳴らした。
この短気な性格が、悪役たる所以なのだろうかと気をもみながら、私とガルザは石畳の通りを歩き出した。ヨーロピアンな雰囲気の漂う町並みは石造りの家が並び、隙間にできた細い路地に入ると下町の喧騒がいっそう賑やかになる。
私達が住んでいるのは城下町の裏通りにある孤児院だ。
どうやら今世の私は捨て子らしく、家族が生きているのかもわからない状況なのだが、ガルザはそんな私にとって兄弟同然の男だった。いつから一緒にいたかも覚えてないぐらい、一緒にいるのが当たり前の家族ような幼なじみで、相棒だ。
そんな奴を私は裏切ってしまうのだとしたら。落ち込むよなあ……。
心の中をもやもやさせながら、私とガルザは孤児院への帰り道を歩く。
「……シオン、お前まだ頭が痛むんじゃねえのか?」
「心配するなよガルザ。包帯も取れたし、平気だよ」
「へっ、そうかよ。だが、無理するんじゃねえぞ」
「おう、ありがとう。ガルザ」
ぶっきらぼうに私を気遣う姿に胸がじんときた。しかし今のやりとりが気恥ずかしかったのか、ガルザは頭の後ろで手を組み、私の前へ出て顔を見られないようにしている。こういう男なのだ。私もあえてその後ろを付いて行く。
そんな後ろ姿を見ながら。もしこの先本当に、ガルザが悪の道に堕ちて主人公の必殺技でボコボコにされたあげくに仲間の手でとどめを刺されるなんて事が起こるのなら、それを阻止したい。
そう、固く決意した。