一つ聞きたい
どうしてこうなった。
一つ聞きたい。どうしてこうなった。
俺は高い木の枝の上にいるわけで、あまりの高さに足がすくんでいるわけで、そこから自分で降りられなくなっているわけで。
つまり俺は木から降りられなくなって震えている子猫なわけだ。
どうしてこうなった。
あいつは木の下にいるわけで、俺を見ながら尻尾を振っているわけで、そこで俺が下りてくるのを待っているわけで。
つまりあいつは俺を木の上まで追い込んだ子犬なわけだ。
もう一回聞く。どうしてこうなった。
「ねーえー。はやくおりてきてよおー」
あいつが不服そうに言う。
「ふざけんな!誰が下りるか!」
俺は涙目であいつに怒鳴る。情けねぇ。
「えー」
「『えー』じゃねぇよ!」
「それじゃあ遊べないよおー」
「遊ばねぇよ!」
「なんで!?さっきまで二人で遊んでたよねえ!?」
「遊んでねぇよ!」
「だって……だって、鬼ごっこして……」
「それお前が勝手に勘違いしてただけだろ!」
「え!?」
「俺は本気で全力でお前から逃げてただけだ!」
なんで俺はこんな大声で逃げてたとか言わなきゃなんねぇんだ、こんにゃろう。ちきしょう、怖えんだよ。さっさとどっか行けよお前ぇぇぇ!
内心であいつに怒鳴ってやる。だがそんなことにあいつが気付くわけもなく。
「そっかあ……」
なんだかしょんぼりしていた。
「やっぱ僕には友達できないんだねえ……」
とぼとぼと帰ろうとしていた。
ふざけんな、こっちが落ち込みてぇよ!っておい!どこ行くんだよ!俺降りれねぇんだよ。足ガタガタなんだよ、こんにゃろおおおおおお!
ふるふると震えながら、俺は小さく縮こまる。怖い。マジで怖い。やべぇ涙にじんできた。
『あ。こんなとこにいた』
不意に下から飼い主の声がした。あぁ、よかった、これで助かる。
『え?あれ?もしかして降りられなくなってんの?なっさけないねぇー』
うるせぇよ!マジで怖えんだよ!
『……にしても随分高いとこまで登ったねぇ……』
あいつのせいだ!あいつの!そこでなんか勝手にしょんぼりしてるあいつのせい!
もう一度俺を見て、飼い主はふふっとまた笑った。
『なっさけね』
もういいから!わかったから!!もう俺いろんな意味で泣きそう!
『……よいしょっと』
うわぁなに登ってきてんだよ!?ゆれる!落ちるううう!
『あ』
「『あ』じゃねぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!」
叫びながら、俺は木から落下した。
ぼとっと。俺はなんだかやわらかいものの上に落ちた。
「あ、大丈夫?」
すぐ目の前には、あいつの顔。どうやら俺はあいつの上に落ちたらしい。よかった。これで死なずに済んだ……ってそうじゃねぇぇぇぇえ!
「来んなぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
俺はまた全力で逃げだした。
「あ、また僕が鬼だね!?」
「ちげぇぇぇぇええええええええええええええええええ!!」
結局、隅っこで縮こまった俺はあいつに舐めまわされた。
それを見た飼い主は楽しそうに言う。
『なんだ、もう仲良くなってんじゃんか』
ちげぇよ!
「犬と猫両方飼うのはやばいかなとか思ったんだけど、大丈夫みたいだな」
ヤバいと思うなら飼うんじゃねぇよ!ぜんっぜん大丈夫じゃねぇし!!
そしてあいつは、満面の笑みを浮かべ、言った。
「次は、君が鬼の番だよお」
「誰がやるか!」
一つ聞きたい。
どうしてこうなった。