第1章 少年
日本にある原子力発電所は17ヶ所54基に上る。
2011年3月11日に起きた東日本大震災の影響を受けて人災となり、大事故へと加速した福島第一原発の廃炉が正式に決まったが、まだまだ原発への不信感や電力不足への不安は拭えない。
そんな実情を原発を擬人化して面白おかしくかいていくのが本作品。
ラブコメっぽかったりエロゲっぽかったり、伝記だったり、説明文だったりw
小説を書くのは初めてではありませんがまだまだ青いですがよろしくお願いしますw
日本の都市部では交通量が多い。故に事故率はまだしも事故件数は圧倒的に多い。
そんななか、今日も首都高下の一般道で老婆の命が尽きようとしていた。
首都高を支えるコンクリートの柱で見えなかったのか大型トラックが強引に左折してきた。横断歩道には老婆が杖を突きつつ歩いていた。
トラックはクラクションを鳴らし、老婆もそれに気づいたがもう遅い。
ブレーキも間に合わず、また新たな犠牲者が……
第一章 少年
轟音が鳴り響き、通行人が事故現場を見ていた。
「大丈夫ですか、お婆さん。」少年の声がした。
「はい、大丈夫です…」老婆もけろりと答えた。 「危なかったですね。」そう答える少年の手には二本のナイフが握られていた。
「あんた力持ちだねぇ」 「フッフッフ」少年は謙遜する風もなく胸を張った。
後方にはトラックが横転して止まっていた。見ていた通行人の何人かがトラックの運転手をトラックから脱出させようとしていた。
「警察に事故報告した方がいいですね、お婆さんは家族に連絡したほうがいいのでは?」少年は携帯を取り出しつつ言った。
「居ますよ〜〜連絡します」老婆が鞄からスマフォを取り出すのを少年は驚きの目で見ていた。
「大丈夫だったかい!おばあちゃんよ!」
「ん」
トラックの運転手が出てきたらしい。こちらは無傷ではなく、ハンドルに顔を打ったのか鼻血が出ていた。
「大丈夫です、ハイ。その人が」
老婆が少年を指差す。
「トラックを投げてくれましたから。」とんでもないことを言った。
「……………へ?」運転手は当然の反応をする。
「ああ失礼。運転手さん、ちょっと来てもらえますか。」少年は電話をかけはじめた老婆を置き去りにして運転手を伴ってトラックへと歩いて言った。
「ここに穴が2つ有りますよね。」少年がトラックのフロント部分にある深い穴を指差した。
「あ!いつの間にか!」 「これ僕がやったんですよ。」少年は持っていたナイフを2本差し込んだ。するりと入る。
「あれま……」
少年は横転していたトラックを持ち上げてしっかり起こした。
「ええええ!今何を??」
「見せた方が早いと思いまして。」少年はするりとナイフを抜いた。
「お婆さんと衝突する前に何があったか覚えてます?」
「いやもうぶつかったと思った」
「まあ僕の身長ですからね、見えなかったんでしょうね。」少年は白いパーカーに青のジーパンを履いており、風貌も髪型も身長も標準なので目立たなかったのだ。
「ぶつかるちょっと前に僕が割り込みました。で」少年はトラックの傷を指した。
「ここにナイフを差し込んで、進路を誰も居ない方向へと変えさせました。」勢い余って横転させちゃいましたが、と少年は苦笑い気味に言った。 「はぁ…………」運転手はまだ理解できてないようだった。
「運転手さん、発煙筒とかあります?事故を知らせませんと。」
「ああ、助手席の下にありますよ……」
「ふむふむ……」
「にしても……」
「お、あったあった」少年はトラックから出てきた。
「君は何者なんだ?」 「え、僕ですか?僕は原電東海っていいます。」
「げんで……なんだって?」
「原電、東海です。ホッ。」少年が発煙筒を炊きはじめた。
「ゲンデン…トウカイ……さん?」
運転手は聞き慣れない名前で首を傾げている。
「これでおK。」東海は満足そうに言った。運転手は鼻血を手で拭って言った。
「驚きだ、なんかのテレビを見てるようだ、トラックを投げ飛ばせるなんて、そんな人間がいたなんて。」
「まあ僕は厳密には人間じゃありませんから。」
「………は」
「厳密には純粋な人間じゃないです。」
「…………」運転手は少年を哀れむような目で見た。
「普通の人間がトラックを持ち上げられるわけないでしょう?」
「………そりゃあまあ……じゃ君の正体はなんなんだ??神そのものとか?」
ふっふ、と東海は笑った。
「神なんて実際に見た人は居ませんよ。それは神が政治のために作り出された偶像だからです。実際僕は目にも見えるし、触れるし、話すこともできます。」
「……………」運転手はまた黙る。
「僕は原子力発電所です。」
「なんだって?」運転手の舌が戻って来たらしい。
「人間が作り出した、最高効率の発電所。本名は日本原子力発電株式会社東海第二原子力発電所です。」
少年が不敵に笑うなか、警察が現場に到着した。