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第二章 クルガの探し人

特に区切る必要もありませんが、2章です。新キャラクターが続々出てきます

―この先に行ってはダメ


―絶対ワケアリっすよ!


そうだな…お前達の言う通りだった…



ひとりの女がこっちを見ている。恐怖も憎しみもない、真っ直ぐな目で




……あなたはそうやって自分を殺していくのね…




引き金がひけなかった…俺は…あの目に怯えていた…?







「……」


クルガは目を覚ました。ガタゴトと音がし、揺れる。どうやら馬車の中にいるらしい


「目が覚めたか?」御者台に座っていた衛士が陽気に尋ねた


「ああ…」


クルガは肩を見た、驚いたことに傷が完全に塞がっている


「ここは…?」


「ライン平原だ、もうすぐエムルエルド領に入る、暑くなってきたからな」


エムルエルド……アースヘル七国家のひとつ…工業が盛んで、鍛冶職人の聖地と呼ばれている


「よかったな、普通なら有無を言わさず打ち首だが、グランバニル家のリオン様とセフィ様の温情措置によってお前は国外追放で済むんだ」


衛士は高らかに一笑した、馬車の中は御車台とは分けられていて、鉄格子がはめられている


「そうか…セフィが…」


クルガは壁に寄り掛かり、ため息をついた。


「…いつかガルヴゥは出るつもりだったがこんな形になるとはな……」


クルガは目を閉じ、嘲笑した。そして鈍色に光る銃を眺めながら、短く息を吐いた。あのあとメサイヤはどうなったのだろうか…


「質問があるならいいぞ、なにせエムルエルドだからなぁ…同情するぜ…」


衛士はいかにも演技臭く語調を落とした。ガルヴゥの貴族はエムルエルドが嫌っている。エムルエルド…そこは亜人の国だからだ。エムルエルドもまた人間を嫌っている。そういったわけでガルヴゥとエムルエルドには国交がほとんどない、わずかに製鉄の仕事を請け負ってもらっているのみである


「メサイヤはどうなった」


ゲンゴやグレアーは大丈夫だろうか


「ま、真犯人も見つかったことだし、とりあえず解放されたよ」


「そうか…」


「おっと、着いたぜ」


扉を軋ませ、クルガは外へ出た。エムルエルドに擬似太陽は無い、エムルエルドは地中奥底にあるからだ。目の前には巨大な門がそびえたっている


「それじゃあな」


衛士はラギ馬を走らせ、広大なライン平原を帰っていった


「…さて」


じっとしていても仕方ない、クルガは門の前まで行き、門番に掛け合った、行き交う亜人の中で、クルガは明らかに浮いている


「入国したい?ダメだダメだ!人間なぞいれられるか!」


たてがみを逆立てて、門番が牙をむく


今度はセフィもいない、まいったな…


とそのとき


「あれ?」


若い男の声が後ろからした。聞き覚えがある人懐っこい声だ…


「まさか大将?」


そこには金髪をぼさぼさにしたティッカが立っていた


「ティッカか?何故ここにいる?」


クルガはティッカに尋ねた


「反応薄いな〜、なんでって大将を追い掛けて来たんじゃないっすか〜」

胸を張り、感謝しろとばかりに自慢げな顔をする


「じゃあさっきのまさかはなんだ?」


ギクッ…


「いやぁ〜まさか本当に生きてるとは……里帰りのついでに見つけてちょっと驚いたんで…はは…」


とどのつまり、こいつはただ単に里帰りがしたかっただけなのであった


「そんなことだろうと思ったがな…だが助かる…あの門番に俺が入れるよう掛け合ってくれないか?」


「え?そんなのお安い御用っすよ〜」


ティッカは門番の前まで行くと、なにやらごにょごにょとやりだした。そして折り合いがついたらしく、ブイサインをしながらクルガの元に帰ってきた


「OK、っす!」


ティッカがにひひと笑う


「すごいな、何をやったんだ?」


「あの手の亜種は誇りを刺激すると大抵のことは聞いてくれるんすよ、ついでにマタタビもあげてきましたし」


事もなげに言い放つティッカを眺めながら、クルガはため息をついた


「亜人の敵だな…お前は」


「いやだなぁ、そんな褒めないでくださいよ〜」


ティッカは検討違いにもたいそう気をよくした


「とりあえず俺の街来ます?」


「他に行くあてもないし、ガルヴゥにも帰れんしな」


「んじゃ決まりってことで!」


クルガは、スキップして門をくぐるティッカのあとを追って歩いた


――――――


―――


ティッカの故郷、キルアーガはエムルエルドの地下第一層にあった。エムルエルドは地下に行く程広くなっており、中心都市は最下層にある



「ここがお前の家か…」


家というよりそれは小屋だった。小屋の中は散らかっていて足の踏み場もない。


「まあくつろいでくださいよ」


ティッカはジャケットを脱ぎ捨て、藁束の塊に横たわった。


「……そうさせてもらおうか…しばらく休んでいないからな…」


クルガはガラクタを片付け、その場に座り込んだ


「大将には自分の故郷とかないんすか?」


「ガルヴゥだ」


「ふーん」


ティッカは特に追求しなかった。頭に手をやりぼうっとしている


「両親はいないのか?」


小屋の有様を見ているととてもじゃないが親と暮らしているとは思えない


「死にましたよ、デュランダールで」


ティッカは特に気にした様子も無くうそぶいた


「そうか…」


デュランダール……アースヘル七国家でもっとも貧しい国、先の魔人族撲滅戦争の被戦地…


「それより、今まで聞きませんでしたけど…」


ティッカはむくりと起き上がり、グラスに酒を注ぐとクルガに差し出し、自分は一気に飲み干した


「大将はなんでガルヴゥで今の仕事をやってる…やってたんすか?」


「探しているものがある」


クルガは酒をすすりながら呟いた。


「ひょっとして女だったりして」


ティッカは冗談っぽく笑った


「そんなところだ」


「ですよねー、大将が女なんて……って、え?」


ティッカは危うくグラスを落としそうになった。クルガは女とは無縁の存在だと思っていたからだ。そういう意味でもティッカはクルガを尊敬していた


「手掛かりは何も無い、だからある程度の金を稼ぎながら各地を回れるこの仕事が都合が良かった」


「名前はなんて?それくらいは知ってるんでしょ?」


クルガは首を振った


「探しようが無いじゃないっすか…」


「……」


探しようが無い……、そう…生きてるかどうかだってわからないのだ…


「悪いな、少し疲れてるみたいだ、しばらく寝かせてくれ」


「わかりました、俺はちょっと出掛けてきますわ」


ティッカはジャケットを脱いだままのラフな格好で小屋を出ていった。


尻尾が見えなくなったのを見届けてからクルガはズタ袋から紫色のカバーの本を取り出した


何故この本を持ち歩いているかは自分でもわからない、ただ持っていると心がやすらいだ「ルフォン=アッシュバード…」


本の著者のところを指でなぞり、声にだして呟いてみる、ルフォン…この言葉を聞くたび頭に何かがひっかかる。


「ん?」


何度もめくってすりきれてしまったページをめくると、そこに見慣れぬページがあった


「こんなページあったか?」


いや、無かったはずだ。繰り返し読んで暗唱できるくらいまでになったのだ。間違いない


クルガは文脈を指でなぞり、続けて読んだ


『世界は五つの気で成り立っている…木、火、土、金、水の万物を創造する五行…それに私は光と闇という相反する二つのエネルギーを加え、さらなる進化の希望を見出だした…


しかしそれがいけなかった…相反する二つの気は五行の調和を乱し……』


そこから先はくすんで読むことができない


飛ばして読むと今度は読める文字が続いていた


『水のミルラ…


木のローネ…


火のエムルエルド…


土のジオエイトス…


金のグノーペル…


そして


光のデュランダール…


闇のガルヴゥ…


私の……子ども達…』


「何なんだ…」


そういえばグリンウィッチで会ったミルラとローネ…だったか…二人の女も似たようなことを言っていた。


ミルラ、ローネ、エムルエルド、ジオエイトス、グノーペル、デュランダール、ガルヴゥ……全てアースヘル七国家の国名だ…


『探しなさい』


突然声がした、グリンウィッチで聞いた、あの声だ


「姿を見せろ」


クルガはすばやく起き上がり、周囲を警戒した


『水と木と金、それに火は揃った。あとは、土、光、闇』


「何故俺なんだ」


しばらく声がとまったが、再び二重の声が響く


『それはあなたが一番知っているはず…』


「俺が…?」


『待っているわ』


そう言い残すと声は消えた。


「待て!」


クルガは見えない二人の女に向かって叫んだ



……



「…ょう…いしょう…」



誰だ…




「大将!」


ティッカが心配そうな顔をしてクルガを見ている


「はぁ…はぁ…」


あのクルガが汗をびっしょりかいている。ティッカの心配は驚きに近かった。


「大分うなされてましたけど…」


ティッカが水を差し出す


「夢…?」


水を飲み干すと、すかさず本をめくった


「無い…」


あのページが無くなっている、やはり夢か…?


「気分転換にどうです?飯おごりますよ?」


「悪いな…」


クルガはティッカに案内されて、キルアーガの街に繰り出した

――――――


―――


「おばちゃーん!ラギ馬刺しとグランガ羊の焼肉追加ね!」


厨房から威勢のいい声が返ってきた。


「うまいでしょ?ここ気に入ってんですよ」


はむはむと肉を頬張りながらティッカが同意を求めた


「随分と混んでるな」


クルガは辺りを見回した、店は様々な亜種で、すし詰め状態だ。だが目立たないために、好都合とも言えよう


「そりゃそうっすよ、ほら、エムルエルドには擬似太陽無いでしょ?夜だとか朝だとかの区別がはっきりしないんすよ。しかも亜種によって活動してる時間も不規則ですからここはいつも混んでるんです」


水で口に含んだ物を流し込むと、ティッカは激しく咳込んだ


「おい、大丈夫か?」


「ごほっ、久しぶりに帰って来たんで懐かしくて…ごほっ、ごほっ」


そんなやりとりをしていると、クルガの後ろですさまじい怒鳴り声がした


「てめ、給仕もまともにできねーのか!」


振り返ると、全長3メートルはある大男が自分の半分程度のウエイトレスに怒鳴り散らしている。パンパンに張ったズボンに料理がぶちまけられていた。


「うるっさいわね!あんたが無駄にでかい図体してるからいけないのよ!」


それに負けないくらいの大声でウエイトレスの女の子がわめいた。ツインテールに縛った滑らかな金髪が怒りでユラユラ揺れている。一体あの体のどこからあんな声が出るのだろうか


「何ィ〜?」


大男が立ち上がる、と、天井に頭をぶつけた。あまり頭は良くないらしい


「おおお俺の図体を馬鹿にするだとぉ!?」




「…図体って言っちゃったよ…」


冷ややかな目でそれを見ながらティッカがぼそりと呟く


だがのんきなことを言ってる空気ではなさそうだ


「……」


クルガがガタッと立ち上がる


「ちょっ、ちょっと!…お人好しもいい加減にしてくださいよ!」


「……しかしな…」


「あの娘なら大丈夫ですから」


「?」


ズドォン…!


痛快な音と共に女の子の華奢な拳が大男の腹に減り込む


「お…ごぉ…!」


大男が膝を着き、倒れそうになった、ウエイトレスの女の子は慣れた手つきでテーブルをすばやくどかし、その何も無くなった床に大男がズシーンと倒れる


辺りを沈黙が包む…かと思いきや



「うぉぉぉ!!!最高だぜぇユーリちゃーん!!」


「結婚してくれぇぇ!!!」


途端に店内を包みこむ歓声が湧いた。


ユーリというらしい、ウエイトレスの女の子はスマイルで厨房に戻っていった。


「この店が繁昌する理由のひとつです」


ティッカは何事も無かったように肉汁スープをすすった


「あのむすめはなんなんだ?」


クルガも席に座り直し、巨大なパンを切りはじめた


「ユーリちゃんは巨人族とエルフのハーフなんすよ、巨人族の怪力!エルフの美貌と知性!見事にいいとこだけとったサラブレットなんです!」


ティッカはうっとりした


「ああ…あれで怪力が無かったら今すぐにでも口説いてあげるのに…」


怪力はマイナスポイントらしい、ティッカにとってはだが


「まったく亜人というのは人間の物差しじゃ計りきれんな…」


クルガはため息をつき、パンにジャムを塗り付けた


「今ではファンクラブもできてるらしいっすよ?クルガさんも……」


「遠慮しておく」


ティッカの話を遮り、クルガはパンを頬張った。













一通りの食事が終わると二人は店を出て、これから何をしようか、と店の前で話し込んだ


「とりあえず大将の探し人でも探します?」


「しかしエムルエルドは亜人の国だからな…」


「そうっすねぇ…」


とそんなことを話していると、後ろから誰かに話しかけられた


「ちょっと?そこに立たれるとお店の邪魔なんだけど」


「ああ、すまん」


振り返ると、腰に手を当て、膨れっ面したユーリが立っていた。


「ユーリちゃん、今日も綺麗だね…」


ティッカが大袈裟にひざまづき、ユーリの手を握ろうとする


「なに?あんた帰ってたの?泣き虫ティッカ」


「ぐはっ…!」


氷点下に近い言葉を浴びせられ、ティッカは吹っ飛んだ


「知り合いか?」


クルガがユーリに尋ねる


「まあ知り合いね、知ってるだけの」


ティッカが見えない剣で刺されたように痙攣した


「あれ?あんたさっきあたしが絡まれてるときに助けてくれようとした人だよね?でも人が来るなんて珍しいなぁ…」


ユーリはまじまじと上から下まで舐めるようにクルガを見つめた


「事情があってな」


「もしかして国外追放とか?」


勘のいい娘だ、クルガは珍しく困った


「まあそんな所だ」


ユーリはにんまりと笑うと、クルガに詰め寄った


「面白そうじゃない、ちょっと話聞かせなさいよ」


「いや…」


「なんなら力づくでも聞くけど」


ユーリが腕をまくり、拳をにぎにぎとやりはじめたので、クルガは短く息を漏らした


「少しだけならな」


「決まりね!」ユーリがポンッと手を合わせて、にぱっと笑った


「じゃあ俺も!」


「あんたは来なくていいわよ」


「おぐぁ!」


ユーリに殴られ、ティッカは再び吹っ飛んだ

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