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第一章 リオンの依頼

長さはこれくらいでいいんでしょうか…。それではどうぞ

ここはアースヘル七国家のひとつ、ガルヴゥ、七国家の中でももっとも富んだこの国は、六つの国家領に囲まれて存在し、中立を守っている。


そしてそのガルヴゥの中心都市ネアンクル。富んだ国と言っても貧富の差が激しく、日夜貧しい者の犯罪が絶えない。警察が機能してはいるのだがそれは名ばかりで、金をつかませれば大抵の罪は不問とされた。よって貧しい者の犯罪が多いというのも頷けるのである


「ディード=クレアルはまだ眠っているのである……ね…」


二人の男がネアンクルの貧民街を歩いていた。


声の主は虎縞の派手なバンダナを額に巻き、首からはゴーグルをかけ、迷彩のジャケットを着ている。


「なんでいつもこんなもん持ち歩いてるんすか?大将」


男、というより少年は口元から八重歯をちょこっと除かせて笑うと、本を投げた


「ほっとけ、あとその呼び方はやめろ」


黒髪で精悍な顔立ちをした男が本を乱暴に受け取る。表紙をはたくと、持っていたズタ袋にしまった


「すんません、んで例のヤマは受けるんですか?クルガさん?」


クルガディス、もといクルガは古びれた建物が立ち並び、狭くなった天を見上げた。はるか高い天井がそこにある。いつもと変わらない、情緒の欠けらもない景色だ。


「ああ」


そういってズタ袋から紙きれを取りだし、書き殴られた文字に目を通した


「わざわざそんな仕事を選ぶ必要もないでしょーに…」


バンダナの男、ティッカ=ウォルトが黄色く鋭い瞳をたたえた目を細めて、つまらなそうに呟く


「……」


クルガは黙ったまま歩調を早めた。今回訪れる地は、要塞都市メサイヤだ、メサイヤには、まだ行ってない。


「うぉーい、大将ー!」


後ろからティッカが追い掛けてきた。


「それって貴族の護衛でしょ?貴族のくせに俺達平民に依頼してくるってこたぁ、絶対にワケアリっす、やめといた方がいいですよ〜」


クルガはピタリと足を止めた。ティッカがその大きな背中にぶつかりそうになる


「お前はどうするんだ?」


静かな声でクルガが尋ねる。その声には、あらゆる戦いを切り抜けた男がもつスゴ味が感じられた


「ああパスパス、成功率九割以上の仕事しか受けない、それが俺の信条ですからね!」ティッカはふんぞりかえり、自分の胸を親指でトントン叩いた


クルガはため息をつくと、再び歩き始めた。


「そんなこと言ってお前は一件もまともに仕事をこなしたことが無いだろ」


その言葉がグサッとティッカの心に突き刺さる


「…ああはいはいそうですよ、そんなんですから亜人のくせに臆病虎とか言われるんですよ…」


ティッカはとことん卑屈になり、石ころを蹴飛ばした。垂れ下がった黄色と黒の縞模様の尻尾が力無く揺れる。


亜人というのは人とは異なった風貌をした生き物のことを指す。何十年か前までは忌み嫌われていたらしいが、今となっては差別意識はあまりない、もっとも貴族達にとっては、その意識が今だに根強く残っているらしいが…


「俺はこれから依頼主のところへ行く」


それだけ言って、クルガは広場の方へ行ってしまった。


「まあ、死なんでくださいよ、大将いなくなると寂しいですから」


冗談なのか、真面目なのか…、ティッカはクルガの後ろ姿にそう呼びかけると、もときた道を帰っていった…


―――――


―――


広場の北、マーテルの人工池のほとりにその酒場はあった。人の気が無く、黒怨鳥がぎゃあぎゃあとけたたましい鳴き声をあげる、はたから見ると幽霊屋敷にしか見えない


バー『スカイブルー』


いつ見ても皮肉な名だ、クルガはキイキイと軋んで揺れる看板をみながら嘲笑した。


たてつけの悪い扉を押し開けると、人一人いない店内のカウンターで老紳士が居眠りをこいている


「バッジ」


クルガがいつものように老紳士の肩を叩く、老紳士はむくりと起き上がり、クルガの顔を確認するやいや、店の窓際の一角を指差し再び居眠りをはじめた。


なるほど確かに奥の机に二人の人間が並んで座っている。


クルガはカウンターにいくらかの金を置き、果実酒とミルクをジョッキにつぐと、その席まで行き依頼内容が大まかに書かれた紙きれを見せ椅子を引いた。


「詳細を」


それだけ言って、果実酒とミルクの入ったジョッキを二人の前に置き、埃だらけの机を手で払う。


「この子をメサイヤまで護衛して欲しいのです…」


うつむいていた女が呟いた、年のころは20くらいだろうか、やつれているせいで、もっと年を取っているかのように見えたが、それを差し引いても充分な美貌をたたえていた。


「あんたの子どもか?」


クルガは女のとなりでちょこんと座っている子どもを見た、フードを目深に被っているため男か女かはわからない。


「…はい、この子の名前はセフィ、私の名前はリオン、リオン=グランバニルと言います…」


「グランバニル?グランバニル家か?」


クルガは思わず声を荒げて驚いた。グランバニル…ガルヴゥの中でも指折りの富豪貴族だ、政治にさえ関与し、このネアンクルの統治をもまかされている。


リオンはコクリと頷いた


「そのグランバニルが何故?」


普通クルガ達の仕事は目的だけ聞いてあとはそれをこなすだけ、余計なことに首を突っ込まないというのが暗黙のルールとなっているのだが、グランバニル家とくれば話は違う


リオンはしばらく考えたが、決意を固めるとミルクをちびちびと飲んでいた我が子の頭を優しく撫でた


「セフィ、フードを取っていいわ…」


セフィと呼ばれた少女はためらいながらもフードをぱさりと取った。


「……なるほどな…」


これで概ねの事情が理解できた。

クルガはセフィを見つめた、母親と似て整った顔立ちをしているが、ただ違うのは頭から二本、小さな角が生えていることだ


「亜人だな…」


クルガにじっと見つめられていることに気付き、セフィが怯えてリオンに寄り添う。


「はい…」


リオンは悲しそうにうつむくと、ことの次第をぽつぽつと語り出した


「私が今の夫、クラウ=グランバニルと知り合ったのはグランバニル家主催の婚約の場を設けた社交会ででした…」


リオンは懐かしむようにセフィの頭を撫でると、せつなげに微笑んだ。


「あの人ったら、ほかの貴族の方達が見てらっしゃる中で、いきなりプロポーズしてきて…」


リオンはくすりと微笑むと、はっとした表情になり、頬を赤らめてうつむいた


「す、すいません!私ったら…」


「いいさ」


クルガは果実酒をすすり、呟いた


リオンはかわいらしく咳払いすると、続きを話しはじめた


「…私の家はガルヴゥの中ではそれなりに裕福な貴族だったので、両家の反対もなくすんなりと結婚に結び付きました…、それからは本当に幸せの日々でした、それが…この子が生まれてから…」


リオンはセフィを見つめた、しかしそれは憎しみだとか怒りだとかではない、むしろ哀れみや同情の感情が見てとれた。


「この子は悪くありません、ですが…」


「……貴族は亜人を嫌う」


「はい…」


セフィはミルクを飲み干し、口元を上品に拭いていた、幼いながらに貴族の中で生活してきた気品が感じられる


「この子はここにいたらもっとつらい目にあうでしょう、夫とも相談しました…この子を私の伯父ジュディン=グランバニルのいるメサイヤへ連れてゆくことを…」


リオンは歯を食いしばり、両の拳を膝の上できつく握りしめた


なるほど、確かにメサイヤは亜人に関してネアンクルよりはるかに住み心地がいいだろう。これで何故俺達平民に依頼したのかもわかった。だがひとつ気になる


「あんたは見たところ亜人ではないが、まさか旦那が亜人ってわけでもないだろう」


リオンが困った表情で答える


「はい…、お医者様にも聞いたのですが…匙を投げるばかりで…」


クルガはそれを聞くと、立ち上がりジョッキを片しはじめた


「あ、あの…」


リオンが心配そうな顔でクルガの後ろ姿を見つめる。


リオンが心配そうな顔でクルガの後ろ姿を見つめる。


「依頼は引き受ける、報償の方は成功払いでいい、いつもそうしてるんでな」


「……!よろしくお願いします!どうか、どうかこの子を…」


セフィは今にも泣きそうな母親を見つめながら、その頭を撫でた


「ありがとうセフィ…あなたは本当に優しい子よ…」


リオンもセフィを抱きしめた。


「…感動しているところ悪いが、いいのか?俺みたいな平民を信用して」


クルガはホルダーから鈍色の銃を外し、布で入念に磨いている


「はい…だって、こんなに怪しい仕事なんてないもの…わざわざ依頼を受けてくれるなんてよっぽどのお人好しですわ…」


と、涙に濡れた目を指で拭いながらリオンがいたずらっぽく笑う


「……いい性格をしているな」


クルガは頭を掻きながら皮肉を込めて、そう呟いた

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