鳳焔美鳥
『鋼鉄軍女』こと水無月 レイが彼に近く生活するようになると彼女の生活も一変した。この学園のシステムはいろいろと複雑なところがある。学部により転学や併学もできるのだ。『焔群 龍』……彼女が軍事科武術機動学科に転学してきたのだ。彼のいる武術機動選択は簡単には影の学部と呼ばれ隠密、暗殺、特殊情報技能などが問われるスパイ諜報のようなことをするところである。そのため学部自体に人数もそこまで居ない。数人のメンバーが異能と屈強な身体能力を基礎にしたスパイの先輩に教えられているらしい。教官すらその道では恐ろしく名のとどろいた人物で数ある戦場をくぐりぬけた人物だったのだ。
「県……お前そいつらは何とかならんのか?」
「成りませんね」
「そうかい」
龍は『焔群家』と呼ばれるとても古い血筋の末に当たる人物でその家は武道の大家らしい。『鳳蓮戯』と呼ばれる強力な技の乱れ撃ちによる乱舞を得意とする攻撃形態をとる。そのため、並の人間では手出しさえできないのだ。それに加え龍の恐ろしいところは……。その体に備わっている高い身体能力などがある。炎を噴き出すこと意外にもその極度に柔軟な体に鍛えられた筋肉など。細い体に見合わない力……そこが恐ろしいところだ。
「へぇ……。正君を横から奪おうとする泥棒猫……私が成敗するんだから!」
「『鋼鉄軍女』起動……」
そこに居たのはメリケンサックを付けた拳を構えるレイと本来、解放を許されない域の力を微量に解放した龍だった。彼女らに何があったのかは知らないがレイは軍事化軍基兵科から兵学を申請されこちらに委託された形らしい。そのレイの反応が気にくわないらしい龍がくってかかったのだ。
「ヤァァ!」
「フッ……」
レイは龍の攻撃を避けようとしない。むしろ体に受けた方が龍にダメージが当たっていた。彼女の『鋼鉄軍女』は完全無効化機能だ。発動している間は何をしても無傷である。ただし、攻撃の最中は一部の解放を解除しなくては未だに動けないらしいが……。それでも、配置された当日から面倒を起こした二人を周りの生徒は唖然と見ていた。
「…………」
彼らの学部である武術機動の授業は大体軍事科の横で数人の人間を伴い、ひっそりと行われる。大概は数人で組み手を連続して行うことが昼間の実習。残りは夜間の戦闘実習だ。少ない人員を二組に分けて行う対抗戦で大体は正人と残りの全員と言う構図である。
「おいおい、道場が持たねえぞ」
「ですね」
「『ですね』というくらいなら止めろよ」
「解りました」
「できるなら早く行け」
レイの覚醒した力。『鋼鉄軍女』は先程も説明したが体を高質化しあらゆる攻撃を使用時間内、及び使用部分のみ無効化できる力だ。龍の炎ですら受け付けないその力と龍の……熱源であらわすなら溶鉱炉並の温度を持っている拳がぶつかる寸前だ。彼はどうやったのか二人の間に滑り込み『闘氣』を掌に集めて衝撃を吸収し、そのまま動きを停止させた。
「え? え? え? えぇぇぇぇ!?」
「何だ、龍」
「ど、どうして火傷しいないの?」
「俺の異能を使っただけだ。ただし、体得した異能は異能とは呼ばれないがな」
それから教官らしき男に指示され二人を伴い外にでる。二人が正座させられ教官に説教を受けているらしい。正人はなおも刀の素振りをしている。そこに教官が言葉を添えて正人に二人をあまり頻繁に使われない異能者専用の訓練施設に案内させていた。覆すようだが大勢では使用せず彼がよく使用するらしく、そこには無数の切り込みができていた。そこで彼は頭に補助具を付けていつにもなく『闘氣』を集中し臨界点と思われるところで持続を続ける。此処の使用の仕方を知らない二人は完全に出遅れては居るが各々にやることを見つけたらしい。
「お前ら……何で喧嘩したんだ?」
その時、大きな影が飛来した。
「お前鈍すぎだろ」
「哲か。何時来たんだ?」
「三秒前」
「そうか。なら、いつものを頼めるか?」
「おう、俺の訓練にもなるしな」
興味津々の龍とレイ。此処は一応屋外で岩山と何十メートルもある木が生い茂る天然の城塞が囲んでいる……さしずめジャングルのような場所なのだ。そこはどんなに彼らが暴れても……。いや、限度はあろうがそこそこならばあまり目立たないエリアなのだ。正人が刀を納め近くの機材が管理され保管してある施設に置いてくると目隠しをし拳に『闘氣』を纏わせる。それに合わせるよう哲も目隠しをし体を変容させた。
「そう言えば、名前は? 泥棒猫」
「マナーとしては先に名乗るべきだろう。私は水無月 レイ。正人には『鋼鉄軍女』と呼ばれている」
「そう、アタシは焔群 龍よ。一応言っておくけど……」
「何を考えているかは知らんが私は泥棒猫ではない。確かに奴を好いては居るが……盗んでいない」
そんな会話をしているような場所ではない場所で会話をする二人。膝を抱えて座りキチンとした戦闘服を着てきたレイとピッチリくるバトルスーツを纏い足首まである膝や足に特殊な補助具のついたストッキングのようなものを履いた龍。そんな二人の目の前で拳と拳がぶつかる恐ろしい音が響く。哲は体を変化させる変容系の異能者だ。体には岩のように高質化された鱗が張り出し腕力はゴリラをも凌駕する、速度はチーター並とでも言えばいいかそんな彼に追い付ける元常人の正人も人間ではないだろう。ラッシュの繰り返しが続くなか……最後に重い一発が双方の拳にぶつかり二人が弾きとんだ。
「い、生きてる?」
「大丈夫だ。二人とも生きてる」
「ふぅ、哲。大丈夫か……よっと」
「あぁ、大丈夫だよ」
そこからは自分もと楽しそうに志願した龍と正人の勝負になった。龍の実力を知っているのは彼だけなのだ。右手に紅い炎、左手に鋭利な形状になった蒼い炎を彼女が纏う。そして、壮絶な体技のぶつかり合いが始まる。先に戦闘のデータを上げれば、龍には大げさに聞こえるかも知れないが熱的な観点だけなら核爆弾すら軽傷にもならない。それが解っている正人は遠慮なく自分の黒い刀を抜き払う。その刃に何かをつぶやきながら一筋触れ、白く光りだしたその刀を一振りし鼻筋に翳した。その瞬間に家紋が変化する。一本の筋が残りの三本よりも長い……十字架。剣の形すら形状を変えその長さも長くなる。
「聖剣アンビシオン……使者の心を弔え」
龍の恐ろしく速い体技には視覚では反応しきれない。彼はそれを補うために感覚を恐ろしく研ぎ澄ましている。彼女の炎は本気を出せば岩石とて一瞬で溶かす。それが刃に当たっているのに彼の刃は溶けることはなかった。刀で彼女の拳をはじき返し反対に握っている刀で切りつける。しかし、全く当たらず最終的には彼が力を落としている関係からすぐにけりがついたようだ。龍の拳が彼の右の頬を打ち、正人が吹き飛ばされた。
「大丈夫かよ。お前、力の制御で威力を落としているのは解るが」
「仕方ないだろう。誓文が……」
「その先は言うな」
背後に最初に現れた教官とは違う筋肉質な男性の教官が現れ彼の手をつかんだ。レイがそれを驚いた調子で見つめている。それに気付いているらしい教官が渋々話だした。初めて話しているはずなのに彼の秘密について知っていることについて疑問をもっているらしいがそれにはあえて触れない。
「しかし、お前。力が制御できなくなっているんだろう。気をつけろ」
「はい」
「それから、焔群のお嬢は気をつけろ。お前の力は制御を間違えば大惨事ですらすまないからな」
「その時は俺が沈静……」
「お前はあまり無理をするな。誓文の副作用は恐ろしく体を蝕む」
教師の暗い顔を察した三人も黙る。この教官は異能を持つ者を専門に教える教官のようだ。片目には黒い眼帯を付け、片腕には大きな斬られた傷が目立ち、声は男性にしては割高ではあるが深みがあり恐怖を持たせるような威圧感もそれには含まれている。
「新しい仲間が増えたところで前々からいる他はいい。二人は自己紹介してくれ」
「は、私は水無月 レイ元帥位であります。今回この場所に誘致されたことを誇りに思い……」
レイの堅苦しい話を聞き皆が拍手をした。この場所に新しい仲間を拒む物は皆無に等しかった。特に異能を保持していれば皆がそれを快く保護し友人として仲間にしたいと思うのだ。ここは……教官を含め訳ありな過去を持つ者が多い。特に後天的に異能を受けたものは皆に優しくされる。先天性の異能者は皆その扱いが解っていたからだ。加え……彼らが今後、普通の人から受けるであろう扱いを皆が考えていたから……と言うのもある。
「はじめまして、焔群 龍です」
やはりとも思ったがこの名前が出ると皆空気が変わる。特に、彼女ももはや気にしてはいないが『焔群』の名の意味するところは絶大だ。『焔群家』は過去の第一次世界大戦からの強固な血筋で大日本帝国時代の最強の血筋でもある。ミッドウェーでその代の頭首が討ち死にした時より戦争改革からは脚を洗い。武道の大家、そして、大きな製薬会社として成長。そんな彼女はお嬢様でもあるのだ。ただし、彼女自身はそれをあまり好んではいない。だから正人と哲もその話には触れないというところだろう。周りもクラスの核を担う二人の意向に反することはしないらしい。むしろ、彼らはそれを一つの形として認識しているようだ。
「よし、親睦も深まったことだ。お前らに話しておく。今日の実習は別のことをしたい」
「……」
「よし、まずは三人一組になってもらおう。確定者だけ此処で言っておくことは……『聖騎士』につくのが『鋼鉄軍女』と『鳳焔鳥』というのは決定事項だろう。コイツにつけば多少のことなら止めてくれるだろうし、二人とも技術の判定では『S』ランク級のメンバーだからな」
此処にはいろいろな能力を扱う者たちが集まる。水、風、氷、炎、空気、岩、砂……あえて言えば何でもあった。人間的な者だけとは限らない。変身する物も少なくはないのだ。そして、ランクという物が存在する。S、A、B、C、D、Eと段階があり彼らもそれに合わせたような訓練を受けているようだ。言うまでもなく最高位は『S』ランクである。
「解りました。では……」
教官の相図で次々に生徒は散って行く。本当に様々な能力で散り散りに分かれていくようだ。その中でもやはり能力を使うのだ。地面に水のように吸い込まれたり空気に溶けるように消えたり一番恐ろしいのは正人だった。瞬間転移などではないが体を弾き飛ばすように彼女ら二人を置いて行く。
「全くアイツは……ほら、二人とも急げ」
「はっ!!」
「わかりました!」
二人が急いで彼の後を追う。レイは肉体的には最高質の物をもっている。龍は補助具ぬ炎を集中させ空中を滑空しながら途中で追いついた。その瞬間、二人の前に立って何かから二人を守った。能力を解放していなければ特にレイは生身同然なのだ。守ると言うが……簡単にはバズーカと思われる弾を切り捨てたらしい。森の奥で爆発を確認し彼が指笛を吹いた。すると教官一同が全員集まり正人に続く。……が。
「まずい! ナパーム弾だ!」
「はぁ!」
「正人! 無理だ!」
「私が行きます。皆さんを後ろに!」
龍が前に飛び出ると炎の壁が現れ次々に降り注ぐ油の種を消していく。そこから……彼女は暴走を始めた。敵の弾幕の数が恐ろしく多すぎたのだ。爆破に炎の噴出頻度が高くなればなるほど彼女の炎がいびつに揺らめき……急に爆発した。それを守ったのは教官の男性だった。白金の白い装飾がきらびやかではあるが無骨なハルバートを振りかざす教官の男。そのまま正人とレイ、哲を引き連れ残りのメンバーには他の近隣寮生に避難を求め動きを早急に伝えていく。途中で……四人の内の一人が炎で打ち飛ばされ近くの林に消える。とっさに『鋼鉄軍女』を解放し防御はしたのだろう。破壊力は抜群、足場も悪い、吹き飛ばされて当然だ。
「うわっ!」
「くっ……まぁ、あの防御力なら跳ね飛ばされただけだろう。お前、確か『鳳焔鳥』とは旧知の仲なのだろう? 力の詳細が解るはずだ」
「はい、鬼神教官は近づかない方がよろしいかと」
「恐ろしい攻撃力と見た。しかし、お前が戻れなくなるかも知れないんだぞ? 俺が知らないはずはない。先代『聖騎士』のことを知っているんだ」
「解っています。ですが、あなたもそうでしょう? 聞きました。先代『聖騎士』の宿敵にして最高の理解者……『破壊者』も、いや……あなたの方が厳しいはずだ」
「ふん、お前は誰に物を言ってんだ。俺がどうして此処でお前らを教えていると思ってんだ。俺は元々人間ではないしお前のようなリスクを伴う程の経歴や能力的欠落もないんだ。俺は爺さんに雅の嬢ちゃんとお前を養うと約束した。俺は死んでも守らにゃならん」
二人の過去の断片に触れ海岸沿いで立ち尽くす彼らが居た。特に、彼女の力を深く知らなかった鬼神教官が物を言えずただ、正人の言葉を聞いている。敵は今回、湾内に進行せず大型の砲撃艦を数隻と中型、小型の攻撃艦を待機させていた。だが……その戦艦軍は一瞬で龍の放つ蒼い炎と紅い炎の入り混じるそれに薙ぎ払われ全てが爆沈している。しかも、そこには紅蓮の炎が舞い上がり下手をすれば周りの島に被害が出そうな勢いだったのだ。
「龍は自己防衛本能が極限に達すると彼女の意思に関係なく炎が体を包み危険とみなされた全てを飲み込み灰燼と化すでしょう。先回暴走した時は人的被害はありませんでしたが……山一つ、山一つが丸ハゲになっています」
「そんなバカな……だが、生きているのか?」
「えぇ、生きてはいますよ。本人は昏睡状態で眠っています。よく見ると炎を噴き出す物の中心には彼女を包むように小さな火炎球がありますよね? あれは彼女の防衛本能の塊……俺と哲は『卵』と呼んでいます。彼女は彼女の両親曰く『未覚醒状態の卵』だそうです」
ハルバートを強く握る鬼神に向かって炎の一閃が飛んだ。それを何とか受け止め彼の力らしい物を解放し正人の前に立つ。
「お前に死なれるわけにはいかん。此処は俺が……」
「無理ですよ。貴方には絶対防御能力はないでしょう? 此処は俺が行きますよ。お願いですから早死にしないでください。もう……知人に死者を出したくないんです」
「おい、それはどの口が叩く? お前は……おいおい、解った……お前と剣を交える気はない。はぁ……全く、変なところだけ似てくれた。有無を言わせぬ殺気といい両極端な決定方法。『生か死』しかお前にはないのか?」
「ありませんね。この剣に誓って」
正人が剣を構え海面を走っている。龍の炎は大蛇のように頭をもたげ次々に彼を襲う。そのたびに海面へ体を沈め再び浮上しじりじりと近づいて行く。火炎球は治まるどころかさらに大きくなり外側にいた鬼神すら危なくなってきていた。鬼神の目の前に『鋼鉄軍女』を発動し会えに立ちはだかる。
「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが……っく……!」
「『鋼鉄軍女』! 無理をするな!」
「一度引きましょう! それから私は水無月です」
「解った……」
次の瞬間に正人が哲と話しておいたように手筈が発動した。彼が炎を遮断し内部の龍のみを抱きかかえ海面に水没したのを合図に海面ギリギリに透明な結界が発動され動きを見ている。炎はやはりそれを破ろうとするがそれに追い打ちをかけるように結界の上に巨大な氷山をつくり……炎を一時的に凍結させ動きを鎮静化したのだ。それを待っていたように龍を利き手と反対の腕で抱く彼が『聖剣アンビシオン』と呼ばれたそれで縦に斬り裂いた。
「まさか……此処までやる奴だとは」
氷、炎、結界を三つとも砕き小さく粉じんのように舞い上がったそれらが周辺の町に雪のように降り注ぐ。珍しく笑顔を見せる……。綺麗な、幻想的な夜が明ける中キラキラ輝く粉じんを浴びながらとっさに防衛してくれて暴走した龍を病院に運び全員で見まいに行く。龍の意識が残ると最後まで残っていたメンバー以外は皆眠りに帰る。そんな中、一人、病室で倒れてしまった。
「無事で……」
「おっと……ったく無理をしやがる」
「正!」
「大丈夫だ。副作用だ。薬……失敬、相応の手当てと処理をすれば意識は戻る」
「先生」
「どうした? 焔群」
「正君は……いえ、私に何が?」
「覚えていないのか?」
「はい」
それから数日し、武術機動の学生が全員そろった。その時に言いにくそうに龍が「ご迷惑をおかけしました」と言ったが……周りの学生達は誰も咎めたりする気はないらしい。その日は本調子でない人間も数人居たため授業は開講せずに諸連絡程度で事は済んだ。それから最前線に現れたメンバーだけがその場に残り話し合いになる。何故か外傷が無いはずの正人が体中に傷を負っていて松葉杖と包帯ぐるぐる巻きの満身創痍状態で現れたことも周りに告げられた。
「だが……これからもあれは厳しい。俺や県がいつもお前についてやれる訳でもない」
「そうですね。私もそう認識していましたが」
「わかっている。仲間のためだ。俺だってバカじゃない。あのタイミングが解らなかったとでも?」
龍がうなだれると鬼神教官の視線は恐ろしい物に代わり正人を強く睨んだ。彼はやはり彼と過去に何かあるらしい。そこに居るメンバーには既に話しても問題がないという判断ができてはいるが何度苦言を呈したのか知らないが聞かない正人にさらに灸を据えたいらしい。とくに今回緊急に呼び出された二人にわびながら正人と自分とこれからの龍について話出す。
「このバカのことはさておき。嬢ちゃんを守る手だてを考えなくてはならない。それは此処にいる全員が合意してくれると俺は思っている。だから、という俺の判断基準で俺は世界レベルのトップシークレットを此処で語ろうと思う。そこには此処に居る全員と残り二人がかかわってくるだろうが……理解してくれ」
鬼神教官の開いた内容は信じられない世界の勢力図と何故彼らが緊急に彼らのようなトップシークレット級の特殊な人間を此処に集めたかを明かす物だった。簡単には漢字二文字であらわせる『戦争』だ。この世界は現在大きな戦力に割れている。この島は世界連合が確立した学園城塞都市だ。それを抑えようとするように『僧院』と呼ばれる大きな組織がたびたび攻撃を仕掛けてきているのだ。政治的にも実力的にも既に圧力はかかってきているという。そこで、かかわってくるのが『県 正人』だ。彼『僧院』が欲しがるキーマンでとても欲しかった人物だった。それを引き込む原因を作ったのが『鬼神 悠人』教官だったという。彼は元僧院の重官だった。その彼が彼を引き取ることで国際連合の役員に言葉を告げて此処に入る決断をさせたのだ。
「あ、あの、何で私も関係するんですか? 僧院には私は関係……」
「あるんだよ。これは宗教的なことだが……」
僧院は一神教の宗教派組織だ。それを毛嫌いする組織が存在する。仏教連だ。仏教には流派はあれど多神教という考えを作り出した今日この頃……。そして、彼女は仏教連の管轄になっている。何故かと言えば彼女の祖父が仏教連の理事の一人なのだ。その関係で彼女はすぐにそちらで引き取られた。……ということらしい。
「わ、私の家系まで……」
「それだけじゃない。『武 哲』は宗教関係で動いている。賢武園はアジア圏の宗教に流通し人の動きを管理できた。その動きの関係で仏教連と組み『僧院』を出し抜きたいんだ」
「知っていたんですか?」
「当たり前だ。俺は此処の管理責任者の一人でありお前らの指揮官の一人でもあるんだ」
前から知られている三人の最後はやはり正人の詳細だった。彼については一番鬼神教官に知られている。彼の手にある誓文を手首をつかんで周りに見せた。所見の二人は解らないらしいがそれを前に見たことのある三人は息をのんだ。確実にそれは彼に根付き広がりを見せている。そして、鬼神教官が革のジャケットを脱い体を見せた。体中に彼の誓文ににた物の線が張っている。しかも、それは体にまとわりつく何かのように……動いているではないか。龍がそれに小さく悲鳴を上げて目をそらす。
「ひっ……」
その反応から正人以外は二人を残してそこを去った。実は龍と正人はかなり昔からの中なのだ。哲は途中からということで二人の中に割って入ることはしない。レイもその空気を読んで大きく舌打ちするも哲に続き分けも解らぬまま三人の情勢を聞かされた二人に説明するために他の場所に移したかった鬼神教官もそれを目で伝え二人を連れ出す。最後に残された二人は……いや、龍だけではあるがかなり恥ずかしがっていた。
「正君も……『あれ』あるの?」
「あぁ」
「何で、教えてくれなかったの?」
「……お前には関係ないだろう」
「そうだけど。心配だよ」
「あ、ん? いや、心配には……」
龍が正人に詰め寄り……手を握った。龍には龍の不安がある。『能力』は持っている人も不安になるのだ。下手をすれば自身の命すら奪いかねない状況……。それを持つ者としては教官もあるからだろう。
「ダメ……だよ。正君居ないと私生きられないんだから」
「いや、そこまでじゃないだろう?」
「そんなことない。私の心のよりどころは正君だけなんだから……正君居なくなったら。私、生きられない」
「おい」
「私、決めた。絶対に離さないよ……。正君は私が守るんだから」