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零の武刀者  作者: OGRE
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邂逅の序章

 世界各地の『有能』と判断された少年少女達が集う群島地帯に設立された学園に突然全世界から呼ばれた小中高の学生達が粗、強制的にその学園に連れてこられた。生徒達は国のトップシークレットの内容に触れる人物や彼のように代々の武道家家系の有名な血筋、有名校の主席学生……。などなど……いろいろな経緯でこの学園に来ている。


「此処か……俺の通う学園は……」


 背中に大ぶりで装飾の多い剣を担いだ男子生徒が彼の学校の物であろう学生服を着崩していた。その彼の佇む船着き場の上空を三機の編隊を組んだ最新式の輸送機が着地し大柄な迷彩服の学生と小柄な少女が降りてくる。サングラスを取り華奢な白い手を額に当て飛行編隊が去って行くのを見守り、自分の近くに居る他の男子学生と女子学生に指示を出し太ももに付けてあるホルダーについている黒光りする金属の塊を手にしてつかんだ。その背後にいる大柄な少年が制服の内側に手を突っ込み彼女の……いきなり放たれた二発の弾丸を細身の曲刀を振り抜き弾き落とした。


「随分なあいさつだな。水無月、俺の学園と犬猿なのは十も承知で無警戒を貫いた男に対する礼節か?」

「……貴様はそれで殺気を抑えていたと? はっ……、笑わせるな」

「そうか、それは悪かったな。だが、十八番のM93RとM92Fを揃って噴かせるか? 俺だからよかったが……」

「ふっ……。貴様でなければ私の弾丸は放たれない」


 大よそ人間じみていない会話の後に少年は船から降ろされた黒塗りのバイクにまたがり速度を上げて坂を上って行く。迷彩服の小柄な少女は他の生徒が用意した軍用車両らしい妙に堅い作りの車に乗って行った。その後も空港や港に飛行機や船が着き、続々と生徒が集まり出した。近くの飛行場に小型機が二機、特別に用意された客船なや海底の高速道路のバスなどなど……。連れて来られたり、自ら来た生徒の数は全く見当もつかない程、沢山いた。彼らはその内の一人だったらしいが……。制服から学校はだいたい絞り込めてきた。一番多いのは国家機密級の学生や幼育関係の皆、次に多いのは才能の卵……。最期が彼らのようにとても大きな大成した力を持っている学生。彼らのような者達が次々に全世界から送られてくる。そして、国際連盟の噛みあいからその学園に……。


「これより諸君らは我が校の生徒と成りました。……」


 始業式の後は早速テストを開催。基礎学力、基礎体力、専門性を判定して彼らの適性をはかり希望とかみ合わせた形の学部編成を組んで行くのだ。それの決定から二日が経過し学部の配分、授業選択、寮生活の選択を決定し授業も本格化。その中で第一校舎、戦闘系実習学生幼育機関を持つ校舎の屋上の貯水タンク横に寝転がり真新しい学生服をさっそく着崩している船で港に現れた男子生徒。そこに迷彩服から女子のセーラー服に着替えて長い靴下に包まれた足に拳銃のホルダーを付けた……、見なれた少女が入口を開き屋上に上がってくる。その時、彼の手から白い光を持つ何かが放たれ壁に突き刺さった。扉の横には数か所の穴があき細いナイフが数本刺さっている。彼の所持しているクリスダガーだ。彼は私立笹島学園の二年生。体格の良い筋肉質な男子生徒。これまでの授業参加回数0回。そして、クラス選抜テストの成績はオールマックス……。マルチタスクと言えてもおかしくないレベルの出来栄えだった。しかし。彼はこの学園に強制的に連行されたに近い。この学園の関係者が数人彼によって再起不能にされていたのだ。それほどにできる彼をこの学園に無理に引っ張って来ればこうなる。そして、彼は教室に入室したことが無い。


「県 正人。貴様、学級代表生徒が何故一度も授業に出席しない?」

「面倒だ」

「そうか、獲物は返させてもらう。しかし、単位を取得せねば貴様は落第するぞ」

「いや、それはない。俺は此処へ強制的に連行され……ある条件の許に此処にいる。それは『平常の自由』だ」


 そう言うと彼はタンクの据え付けてある小さな棟から飛び降り彼から見ればかなり小柄な少女から8本のクリスナイフを受け取り、4階建ての校舎から飛び降りて走って行く。この二人にはこの展開が付きものなのだ。彼女がポケットから携帯電話を取り出しいきなり伝令をし始める。彼女はこの学園切ってのコマンダーであり行動派でもあった。そこでポーチを部下から受け取り武器のパーツを組み立て始める。


「キャット1! 目標が中庭に逃亡! 直ちに付近の待機班に伝令し格闘部隊を分隊させ彼の捕捉に努めなさい!」

「はっ!」

「キャット2! 目標を追尾し行動パターンのデータ化を急げ!」

「はっ!」

「キャット3!」

「わかっています。動きを収束させるために動きます」


 彼の動きはこれで3回目の逃亡のせいか簡略化された行動パターンデータに乗っ取った動きを取られ次々に退路や行動ルートをふさがれて行く。しかし、彼も簡単には捕まらない。格闘系の戦闘員数人が次々に倒されて行く。訓練された正規の戦闘とは違い形態の決まっていない彼の格闘スタイルに翻弄され鞘に包まれた帯刀に打たれ昏倒していく。最期には班長が正人と呼ばれた長身の男子生徒に倒されてから2班が動き出す。少女に重苦しい伝令が伝えられ銃を構えた訓練学生に発砲許可が下りた。


「格闘戦闘員全滅しました!」

「……」

「携帯命令をください」

「よし、アイツならば発砲しても万が一も無いだろう」

「は、これよりキャット2は前進します」


 それから順調と見えた滑り出しで瞬時に敵兵は全滅した。彼は……刀剣の猛者。その相手に近づきすぎたのだ。簡単には彼が隠れていた場所にぶつかってしまった……ということである。いきなりの彼の出現に驚いた2班は本物の黒光りする黒い武器を……使用できない程に分解バラバラにし鞘に納めてからそこにいた8人ほどの迷彩服を着た学生が倒れた……。無線の途絶……それは安否が確認できないことは聞いている。そして、キングの駒が動き出したのだ。


「私のこの相棒から逃れられる訳ない……」


 対戦車ライフル……M95の咆哮が大きな赤い火と共に放たれ大ぶりな弾丸がジャイロ回転しながら校舎を飛び越えようとした正人に向けられた。そして、帯刀が抜かれ黒い刀身が陽光を返し大ぶりな弾丸を叩き斬る。2発目が咆哮と共に彼に迫る……薬莢(やっきょう)の落ちる音と共に正人は反撃するため突っ込み銃弾を右頬にかすめククリ刀と呼ばれる刀を首を外して地面に叩きいれ彼女を押し倒し首の横に小さな皿のような跡を作った。


「なかなか大胆な策だな。まさか、大将をとりに来るとは……。貴様もおおちゃくな事をする」

「ほう、別に普通だろう。お前を取り押さえてその白い首にククリをねじっ込めば戦場では俺の勝ちだ」「ちっ……今回は逃がしてやる。だが、次はこうは行かんぞ! ……聞いていない」


 戦闘科の学生達は戦闘科目において選ばれ彼は戦闘科の近距離戦闘の武術科目を選択していた。その中でも最高の段位を保持し人柄以外は誰一人として非を打てないものだ。しかし、授業態度の悪さは教師達にも目を付けられている。それでも彼は先ほど彼が述べたようにこの学院に転入が決まる時に国際連盟の理事国の理事達、その面々の目の前で正々堂々と『揺るがない自由』を条件に入学するという言葉を放ったという。そのような経緯を踏んでいる。だが、彼らのデータベースなどから見ても彼の出生は謎……日本人であることと父と母が現在行方不明であること意外は何もないのだ。あると言えばとても危険な刃物を隠し持っているという点だけだろう。


「しかし、よくもまぁこんなに緻密性の高い町を作ったものだ……」


 学術都市……。それは群島地帯に作られた島々を橋や海路、海底鉄道などなどのラインを利用した作りになっている。彼は海底の高速道路を使い隣の『日本町』と呼ばれるエリアに入って行く。そこでバイクを止めてから彼は山に入って行った。太い木が生い茂る林とでもいおうか……その奥の少し開けたところで彼は帯刀を抜き近くにあった木を一刀両断する。彼の持つ帯刀は珍しい型をしている鍔は家紋らしい丸に……十文字だろうか? いや、少し違う。どこの家紋とも言い難い形状のそれに刃は黒い。美しいカーブを描くその刀を白い装飾の鞘に納め近くにあった小屋から工具を取り出し木材として使うように切り出し始めた。よく見れば林の奥に同じ長さに切り揃えたそれらがある。彼がそれを担ぎ丸太を運び始めた。何をするつもりか解らないが彼には彼の思惑があるのだろう。


「おう、(まさ)。元気してたか?」

「何だ? 哲か……危うく首筋に斬りこみを入れそうになったぞ」

「おおいおい、親友にだけは刃を向けないんじゃないのか?」

「あぁ、基本的にはな。しかし、最近は付きまとう軍事科の連中のせいで警戒心が研ぎ澄まされてるんだ。気にしないで……とは言えないが出来る限りこの話題には触れないでくれ」

「了解。しかし、ホントにログハウスなんて造っちまうんだな」


 ログハウスを造る……。まぁ、それはさておき彼の友人らしい男が現れ彼に協力し始めた。正人はそれに応じるように作業の工程の簡単な説明を始めている。木を運びどこから手に入れたのかかなり本格的すぎる。滑車を使い丸太を目当ての巨木に付けて木材を固定し足場を作りどこからともなく木材のパーツを運び足りなくなれば……一刀両断してきた。その作業で時間が過ぎ昼時を迎える。その林の中にまた一人、メンバーが増えた。大ぶりな重箱を抱えた、女生徒としては平均的な身長の女性がきっちりセーラー服を規範のとおりの着用のまま、革のおよそ森歩きには適さない靴で現れる。


「やってるねぇ……。お昼まだでしょ?」

「なぁ、誰だ?」

「お、おい、おま……」

「へぇ、忘れたんだぁ……数少ない友達にしてお向いさんの幼馴染だった女の子のことを」

「あぁ、焔群(ほむら)か」

「まだ名字なのか!? お前いい加減にしろよ……」

「仕方ないよこの人……。ずっとアタシと話してる時もだんまりだったもん」


 焔群と呼ばれた女生徒がレジャーシートを広げて風呂敷包みを開ける。すると、飲み物がないことに気付いたらしく一度彼女の家に帰って取りに行くといった。少し開けた場所に彼女は移動すると……。


「そうだな、ここでは安易にその力を使えるもんな」

「安易につかえる訳ないでしょ? これくらいの簡単な力でも結構、気を付けないと人が焼け焦げるんだから。アタシ、正君とテッツンの丸焼きなんて見たくないし……」


 セーラー服の裏側に蒼い炎と紅い炎の入り混じった一対の翼が生えて? いや、違う。現れたの方が正しいか……。強い風圧を生み彼女は空に舞い上がって彼女の家の方に飛んでいく。唖然とするテッツン……もとい、哲と既に重箱の蓋をあけて中身を吟味している正人。暇になった二人は過去の話を始めた。正人はクリスダガ-を取り出し木切れに斬りこみを入れながらではあるが……。細工作業をしていらしい。


「だが、懐かしいなぁ。お前はお爺さんの勧めで笹島学園……俺は親父の設立した賢武園、龍は公立の高校だし……。お前、相変わらず偏屈だよな」

「そうか? 俺は俺のままだ。お前はチャラチャラすんな」

「いや! これ地毛だから! 何その『え~?』的な鈍い視線! ……髪と言えばお前も伸ばしたんだな?」

「斬りに行くための時間がもったいない」

「お前さ。鋏はないのか? ナイフはたくさんあるのに」

「俺はな……。収集家じゃないんだぞ……」


 そこに龍と呼ばれた少女が降り立った。顔を赤くした哲の胸倉をつかみ拳に炎を纏わせる龍。笑っているが笑っていないというよくあるパターンだ。彼女は公立の高校に通っているためかかなり文化的には平たい。いろいろあるのだ。スカートは規範の範囲ではあるが元々長さの規範はそこまで厳しくない。なぜなら科によってはいろいろ事情があって長いと困ることがあるからだ。逆にこの学園創立の上で日本、アメリカ、インドに次いで出資、技術投資が大きなイギリスの世界的に有名な超お嬢様学校『聖ヴィーザ女学院』のお嬢様など……引きずらんと言わんばかりの長さのスカート……逆に日本の私立の高校や軍事系の女生徒は短いことが多い。軍系の女生徒は太もものバンドに細い警棒、折りたたみ式トンファー、付けている人は割合小さめな拳銃、懐中電灯やスタングレネードなどなどを付けている。日本の女学生は別に理由などないが異文化尊重などというよくわからない発想からミニスカは黙認されている。規範は一応存在しているためそこそこではあるが……。校章の保持、学生証の携帯は義務。華美な文化的とみなされない装飾品等は不可、学校指定の制服以外の制服の着用も不可、加え銃刀法違反となるのは許可のおりている戦闘系学部以外の生徒の武具とみなされる物の保持……など、意外と内容はかなり深い。


「今、中見たよね?」

「は? ななな、何を!」

「ふん、で? 用事はすんだのか?」

「あ、うん。お茶。はい」

「ありがたい」

「テッツンは許してないからね?」


 こめかみに十文字のマークを刻みこんで迫る龍は紅い髪の紅い瞳ととても珍しい色をした人だった。肌は白く、体中細くしまっている。拳に真っ赤な炎を燃やしている彼女をたしなめようともせずにどこからともなく取りだした生肉と彼女の持参してきた弁当をつついている。


「おい、何を見たのか知らんがお前も年頃の女になったんだろう? もう、あの頃のようにランドセルを俺に持たせようとした『か弱い乙女』ではないんだ。淑女の風状を保て。それに、その『火』は人を殺すために使う物ではない……と聞いたはずだが?」

「う……正君に言われちゃ……ちっ! 命拾いしたわね!」

「それから黒い下着は控えろ」

「え?」

「だから、ジンクスにもいろいろあるんだ。黒い衣服、特に肌着は『死』を招く」

「見たよね? 正君は信じてたのに……見たよね! うがぁぁぁぁぁぁ!」


 わりと大きな石をそこに置き熱を伝導させ生肉を焦がしていく。香ばしい香と共に油の飛ぶぱちぱちという音が聞こえる。正人の後ろでは涎を垂らす哲……。一つ目の肉を箸で後ろに放ると哲が一瞬の隙間も狂いも無く口でダイビングキャッチした。……その光景に怒る気力も無くなったらしい龍が少しむすっとはしたが弁当で加熱した方が美味になるであろう物を箸でおいて行く。


「あぁ、もう何でもいいよ……。なんか画期的なことに利用されちゃったし……」

「無駄なエネルギーにはしない方がいいだろう?」


 それから数時間し夕暮れ時になる。三人が帰路につく。背中の刀や工具を持ちかえり完成したログハウスは何に使うかなどを言わずに三人は帰る。哲はこの近くに家があるためかすぐに別れた。龍は隣の島にこの学園の研究所に勤める父親の関係から核家族と言えばそれだろう……一戸建ての家がありそこに帰る。正人はその島を経由して自分の寮がある群島の軍事、戦闘関連の生徒が集まる島に帰るのだ。『日本町』に龍を送り父母に挨拶をしてから再びバイクにまたがり家に帰る。


「あ! やぁっと来た!」

「ん?」

「『ん?』じゃないですよ! 寮母の私が怒られちゃうんだよ? 保護責任は私にあるんだし……」

「あ、いえ、お構いなく」

「い、いえおくつろ……ってちがぁう! だから! 毎晩帰って皆でご飯食べてくれないと私が怒られちゃうの! 君が居ると迷惑なんて思わないから……って言うか君が居ないと迷惑なの!」

「あ、はい、解りました。一週間に一度は帰ります」

「全然解ってなぁい!」


 寮に帰ることが稀らしい彼は到着してから一回も来たことがなかったらしい。大柄な体格のため扉をくぐるときも頭を下げる。彼が入るたびに寮に居る学生たちは皆怖がる。元々、目つきも悪く筋肉質で曰ありということも関係していいるが……。背中の刀を部屋に置くと寮母さんに学園の使用許可書をもらい校舎に向かって走って行く足には規格外な重さの重りをつけていた。普通の人なら1キログラムなどは負荷をかける程度に使うだろう。しかし、彼は恐ろしい重さのもはやウエイトトレーニングのレベルを逸脱した重さの重りをつけていたのだ。


「先約か……」

「ほぅ、こんな時間に貴様が来るとは」

「水無月か。なんだ?」

「私しか居ない。使えば良かろう。それとも女と二人きりという……」

「お前相手にそれを考えるやつはそうは居ないさ。違う。俺は一人が好きなんだ」

「なら、私が居てもいなくてもいいだろう。お前には空気なのだろう。我々のような人間は」


 険悪なムードが立ち込める中、彼が『勝手にしろ』と言葉をつぎ、ベンチプレスを使い始めた。彼は常人とは思えない。筋力、柔軟性、俊敏性、持久力、精神力……そんな才能を見込まれ軍事科に呼ばれていたらしい。しかし、彼が軍関係の役人に付けたのは了承の言葉ではなく喧嘩を煽るような挑戦的な言葉だった。それが彼らの笹島学園の意向でもあったからだ。たとえ彼らは手を挙げられても相手を無理に叩こうとはしないのだ。それと軍部のキチキチした規律を嫌う笹島学園の面々、それに水無月と呼ばれた少女のいる南戸学園は校則も厳しく規律を好む学風……あまりにも対立しすぎた二校の関係の縮図の二人は噛み合うはずもない。


「貴様……どんな体しているんだ?」

「は?」

「アップをしたらすぐに130キロのベンチプレスを軽々と持ち上げられるんだからな」

「俺はそういうトレーニングを積んできている。それに、明日は授業にでる。寮母さんに迷惑をかけていたらしい」

「寮母さんのおかげか? お前はどれだけ無神経なんだ?」

「別にいいだろう……お前は俺の保護者か?」


 彼はいろいろな物をトレーニングに使うと柔軟を始める。トレーニング用のシャツとスパッツ姿の水無月がいきなり面白いジョークを話し始めた。柔軟をしていた正人の腰辺りまであるポニ―テールをつかみ……。


「これ、頂戴」

「は?」

「貴様は何かと私が言葉を継ぐと『は?』と言うな」

「ヅラにでもするつもりか?」

「Yes」

「は?」

「また言った」


 『水無月 レイ』はアメリカ人と日本人のハーフである。そのため彼女のアメリカ人の母親がもっていた特徴である白っぽい髪と蒼い目を受け継いで日本人であるため違和感が大きいらしい。だからというが彼の直毛とは違い彼女は猫毛……少し髪質が違いすぎる。いや、それだから羨ましいのかも知れない。彼らはしばらく馬鹿らしいやり取りを続け結局は決裂して話が終わったらしい。まぁ、彼の性格では有り得ないだろう。


「しかし、『鋼鉄軍女(アイアンメイデン)』がこんなやつだったとはな」

「私も『零の武刀者』(ゼロバスター)と呼ばれる程の殺人鬼がこのような普通の人間であることをしり驚きだな」

「訂正させろ。俺は人を斬りはするが殺したことはない」

「そうか、だが、残念だ。私も黒髪が良かったのだからな」

「いい加減にその話題から離れろ」


 レイの学園、南戸学園は私立でアメリカの大型資本家と日本の前向きな資産家が連携して作った空母に本部を置く巨大な学園だ。そこは軍その物の教育をする。規律を守り何時如何なる時も仲間を信じ戦い続ける……そして、彼らは前向きに直向きに国のために尽くす忠誠心の塊と言えよう。その中でも階級区分の上で一番上位を飾る『元帥』の称号を持ち成績や人柄、素行までもが完璧な彼女は『鋼鉄軍女(アイアンメイデン)』と呼ばれ、冷徹な眼差しと小柄ではあるが威圧感と刺思的感情表現を見せる。


「俺はお前の狙いには既に気づいている。どうせ、俺をそちらの側に引き入れたいのだろう」

「間違ってはいない。しかし、私も感情はある。それだけではない……たがらだ。私は貴様が気に入っておるから……目をかけてこちらに協力して欲しいのだ。私はそのためならばどんな手を使うこともじさない覚悟を持っている」


 正人が立ち上がり部屋を出ようとすると彼女が手を取ってきた。どのような手を使うかは想像に任せるが彼はその誘いすら断り寮に帰って行く。寮は一人部屋と二人部屋の選択が可能でだいたいは二人部屋に配置される。ただし、彼だけは例外でだれども関わり合わずずっと独りですごしていた。その日も寮母さんに帰宅の知らせをしてから彼の部屋に入りそのまま就寝前まで独りで何かをしていたらしい。この島の所有者は実は彼の養育者になっていた老人の所有地で寮母さんはそのお孫さんだった。だから、彼も彼女にだけはちゃんと話をしていたのだ。そして、翌日。彼が初めて教室に入ると……。


「本当に来たんだな。県」

「言っただろう。今日は来ると」

「そうだったな。これから、射撃訓練に行くのだが……一緒に来ないか?」

「悪いが今日は俺にもやらなくてはならないことがあるんでな。まずはそれから頼む。それから……俺はお前のように銃器は使わない」


 にこやかに話しかけたレイが彼が背を向けた瞬間に殺気をむき出しにしたために周りが怖がり始める。そのまま自分の席に着き不機嫌さをむき出しにして読書を始めた。彼は席に着くや脚を投げ出し居眠りを始め、ホームルーム終了後に起き出した。それから、レイと正人の殺気に当てられ続けたため解放されたかのように他の選択した学部に別れて行ったようだ。


「お待たせしました。瀧蓮寺(ろうれんじ)さん」

「うん。待たされた」

「で? 何かごようですか?」

「えぇ~、用がないと呼んじゃいけないの?」

「できれば用向きの無いときは呼ばないでください」

「うーん。じゃぁさ。アタシとつき合ってよ」

「嫌です」

「うわっ……即答ですか……結構傷ついちゃうよぉ。アタシ」

「心の中見え見えですよ。内心はかなり俺を罵倒してますよね」


 瀧蓮寺と呼ばれた年上らしい少女が完膚無きまでに正人に負けたため悔しそうにその場を後にしたのを目の隅に入れ刀を抜き払い木の棒を数本……目にも止まらぬ速さで切り刻んだ。そこに……。


「わぁ!! 凄いわぁ。あなたどなた? 軍事科の方だとお察ししましたが」

「県です」

「アカタ?」

「あ『が』たです。あなたは……『聖ヴィーザ女学院』の『聖女』と名高い。シュヴァルツェン家のご令嬢ですか」

「よくご存知ですね。はい。私はエルシレナです」

「そんなに馴れ馴れしくしていいんですか?」

「そんなこと気にしてらっしゃるの? どうせ無理やり連れてこられたなら楽しまなくては損ではないですか」


 使用人らしい二人に急かされ彼に陽気な調子で手を振替りつつ歩かされるエルシレナ。彼は突然の来訪者に驚きつつも剣の稽古を再開し昼になると休憩をしていた。この学園の校舎や学部は島と島で別れていることもありなかなか友人と会えない学生も多い。しかも、ここはグローバル化が進みきっていない中途半端なごちゃまぜ区域だ。そのため、バイリンガルなどの二ヶ国語を扱える者やそれ以外の者ばかりではないためかなかなか友人を作れない。特にシャイであったり内気、その他いろいろは一人で居る傾向にある。彼のいる武道場は数少ない武術科の生徒が使う場所だ。だが、武道場を使うような武術を扱う人間はここにはあまり居ない。板張りの武術はかなり限られてくる。柔道、合気道諸々は畳、相撲は土俵……他にも場所が確定しているため彼は殆どそこを独りで使っていた。たまに女性の剣士が来るようだが先約の彼が居るのを確認するとすぐに帰ってしまうようだがそんな周りに人が居ない殺風景な日本家屋の開けた中庭に炎の翼を背中に持っている少女が舞い降りた。手に持っていたのはやはり重箱だ。


「そんなに暇なのか? 普通科に進学したらしいが」

「暇だよ。正君こそ、刀しか振るってないじゃない」

「俺は入学条件に『自由』が組み込まれてるからな」

「何それ」

「国連のお偉いさんに呼び出された時に契約させたんだ。学院に来てやってもいいが俺だけは馬鹿らしい授業や課題をやらなくてもいいっていう条件だ。だから、何もしなくていい」


 二人が弁当を食べる途中に今度は巨大な鳥が近くの建物の屋根に着地した。今度は哲だ。彼は体に特殊な遺伝子を持った血統に生まれている。その特徴を受け継ぎ『臨界進化』と呼ばれる本来は起こり得ない体を得たのだ。彼の体には特殊な形態を自由に変容できる細胞があり資格から取り入れた情報と触覚から得た情報を本に体を形成。匂いの分泌は嗅覚で認識すると可能になるなど彼の体の機能は様々。それをフルに利用し、もとより鍛え上げられた肉体もかみ合いかなり実用性は高いと見える。


「俺だけ省けにゃしないでよれよ。あ、デートだったか?」

「ちっ、ちが! 違うったら!」

「なら良いよな? いただきます」


 この三人は皆、学部は違うがよく集まる。幼なじみらしい。仲良く昔のことを話しているようだ。その間はさすがに刀を近くに置くだけにしている。食べ終わってもしばらくはそのような話が続いていた。彼らの会話から彼らの情報が少々聞き取れる。


「で、正人は爺さんが亡くなってからは一人なのか?」

「必然的にな」

「寂しくないの?」

「そんなことはかけらも思わないな」

「でもよ、殺風景な部屋よりゃ賑わいがあった方がよくないか? 今なら龍が住み込みで世話してくれそうだし」

「そんな訳無いでしょうが戯け。あたしは普通に通うならいいけどさすがに住み込みは……」

「俺は別に居ても居なくても変わりない」

「ほら」

「お前、ホント、無愛想だな」


 続いて龍の話になる。彼女は『フレイア』と呼ばれる『新人類』の特長を持って生まれた少女だ。人間とはことなり彼女の場合はどんなに高温の場所に居ようが溶岩や火山口に叩き込まれたところで火傷一つしない。DNAにそのような性質を記録した箇所が発見されたらしいのだ。加えて彼女の父親はイフリートと呼ばれる古来から異能を持ち続けて来た血統で母親も同様の経緯がある血統。違いと言えば父親は体の耐熱性が高く核爆弾の放射線に焼かれても耐えられる対質だが炎を体から放出させたり自在に操ることはできない。反対とも言わないが彼女の母親は耐熱性はライターの火で傷が付かない程度でマグマなどに入れば死んでしまう。しかし、体から一定の温度の炎を噴出させ纏うことができその炎を自在に操ることができるのだ。そのサラブレッドとして生まれたが最近、学芸会に存在が明るみになるまではずっと本人も知らない事実だった。


「で、でも。正君が……いいって言うなら住み込んでもいいよ」

「いや、そもそも、お前は学科の棟が違うだろ?」

「何よ、言い出しっぺ。アタシはね。この能力のおかけで軍事化に即時転入が可能なの」


 その和やかなシーンを見ていた人物が一人。たまたま、武道場の前を通り過ぎようとしたときあまり人が使わない武道場から明るい人の声が聞こえたからだ。三人を目に入れると何かを決心したように足早にそこから居なくなる。そして、次の日に小さな事件が起きた。

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