夜行
ああ、悲しきかな……。いったいどうやったら文才ってかいかするんだろ。アハハ、ハハ―――――。はい、自重です。ひょっこりでてきました獅子竹鋸です。思いつきで自分の短編載せちゃいました。まあ、どうか最後まで読んでくれたら嬉しいかな?
昨年の六月のことだったと記憶している。
鉄道員であった私と田中はその日、ちょっとした宴をしていた。と言っても、私はカップ酒を、田中はノンアルコールビールを片手に愚痴を垂れる程度のものである。やれ娘がどうしたとか、給料が安いとか、まあそのようなありふれた、取るに足らないことばかりだったが、他に酒の肴になるような話題は、あいにくと持ち合わせていなかった。
宴もたけなわに差し掛かった頃、職員用の小屋の隅にある古びた置時計が午前一時を告げた。
その鐘の音は、心なしか重く、冷たく響いた気がしないでもなかった。
「おっといけない。夜行(夜行運転の通称)の時間だ」
飲みかけたノンアルコールビールをテーブルに置きつつ、田中が呟く。
「もう少し飲んで行けよ。ちいとばかし遅くなったっていいじゃねぇか」
すっかり出来上がっていた私は、けれどもいつものように田中を引き留めようとした。
「ははは、悪いけど遠慮しておくよ。仕事はきちんと全うするもんだ」
「そうかあ、じゃあ気ぃ付けてなぁ」
小屋を出て、貨物列車の方へ歩いていく田中。
あいつはそう、真面目と言うか、仕事中毒だった。決まった時間に出勤し、列車のダイヤ通りに汽車を転がし、決まった時間に出社する。
まるでロボットだなと、酒の力で言ってしまった事もあった。
私は基本怠惰なので、たびたび肩の力を抜くようにと田中に勧めたが、あいつは決まって苦笑するばかりだった。
だから、私はあの事件の事がいつまでもしこりとなっていた。
貨物車両だけを残し、先頭の汽車と共に忽然と姿をくらました田中のニュースは、当時オカルトもふくめ、世間を賑わせた。
田中の蒸発から早一年。
私はまだ鉄道員として働いている。
そして私は今日、夜行の仕事が回ってきた。
――田中が消えたルートである――
午前二時三十分、月明かりも星のまたたきさえも見えない夜を、一列の貨物列車がひた走る。
とても、静かな夜。
聴こえるのはせき込むようなディーゼルの重低音と、レールの軋む音だけ。
虫の声も、風の音もない、静かな夜。
――その時である。
ガクンッ! ギギィィィィィーーーー!
列車が突然停止したのだ。
無論、何の前触れもなかったため、私は頭をしたたかに打ちすえ、倒れてしまった。
痛む額を抑えつつ、私は何事かと懐中電灯を手に様子を見に行く。
しかしながらエンジンなどに異常はなかった。それどころか何処にも異常は発見されなかった。
首をかしげる、どころの話ではなかった。
ふと、私はあたりを見渡す。
いや、耳を澄ました。
遠くこだまするエンジン音。レールをこする金属音。
「――来る」
近付いて来る。
「――あ、あれは……」
あいつが、近付いて来る。
「――まさか、そんな……」
あいつが――田中の汽車が、近付いて来る。うなりを上げ、警笛を鳴らし猛進してくる。そして、猛スピードで私のすぐ横を通り過ぎて行き、
「――――き、消えた、のか……?」
違う。落ちたのだ。そんな気がした。そうとしか考えられなかった。
どうしてそう思ったかは分からないが、私はそこから動こうとはしなかった。……私は、動くことが出来なかった。
次の日、私の汽車が急停車した地点から三百メートル程先にある鉄道橋が、崩れ落ちていたのが発見された。どうも、老朽化が進んでいたらしく、昨夜のうちに突風によって崩壊したそうだ。あのまま進んでいたら、私は間違いなく死んでいただろう。
そして、その橋の残骸に混じって、古びた汽車の模型と、人形が落ちていたのは、私しか、知らない。
ご愛読ありがとうございました^^
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