9.目指す高みへ!ギルド最終試験と全員ズッコケ
王都――それはギルドマンにとって“目指す高み”の象徴である。
高くそびえる白銀の塔、天まで届きそうな旗、整備された石畳、そしてその中央広場に掲げられた巨大な看板には、こう記されていた。
《星導きの七騎士認定・最終試験会場》
―ただし、内容は非公開―
「非公開ってなんだよ非公開って!!」
大輔の怒声が、試験会場の石造りホールに響き渡った。
「いやほんとだよ! 何を準備して来たらいいのかわかんないじゃん!」
「康策なんて昨日一晩中“教科書の試験予想問題集”作ってたのに、全部無意味だったんだぞ!」
「……しかもそれ、全部自分の顔入りだったしな」
「アイキャッチいらねぇんだよ! 問題文の横にウインクすんな!」
控室には、やや殺気だった空気が漂っていた。
全員、すでに“何かがおかしい”と直感で気づいていた。
それは受付で渡された試験内容一覧を見た瞬間、確信に変わった。
・第一試験:「おばあちゃんを笑わせる芸コンテスト」
・第二試験:「千本ノック魔法版」
・第三試験:「人生で一番恥ずかしかったことを叫ぶ」
「何だこの三本立て!? バトル要素どこだよ!!」
「精神攻撃系のトーナメントか何かか!?」
そのとき、試験官の男が現れた。
白髪交じり、長身、凛々しい顔……だが手には“めっちゃ軽そうな紙うちわ”。
「では第一試験。“笑わせてみろ”」
「説明雑ぅうう!!」
ステージの椅子には、絶対笑わなさそうな王国最高齢の“鋼の微笑”ことシン婆様が座っていた。
ギルドマンの魂を100人分焼き尽くしたと噂される、伝説の審査員。
「じゃ、最初は……康策」
「よし、やるぞ。僕の理論と魔法の応用力をもってすれば――」
彼は真面目に数式を使った落語を始めた。
「座標xが右に動くと同時に! 私の心も動きました!」
「……」
「……」
「……うん、滑ったな」
「よし交代だ!」
次に登場したのは、鈴江。
「やるしかねぇな……!」
彼女は何も言わずに空を見上げ――天井から落ちてきたタライにわざと自分から頭突きした。
「ウオオオオオオオ!!」
「ドゴン!!」
シン婆様の口角が……ピクリと上がった。
「おおお! 動いた!!」
「なにこの試験、頭おかしい!! でもいけるぞ!!」
最終的に、鈴江の“前宙からの全力コケ芸”で会場は爆笑、合格。
そして第二試験、千本ノック魔法版。
試験官のかけ声と同時に、魔法球が飛びまくる。
「ファイヤ! アイス! ウォータスプラッシュ! 猫召喚!」
「混ざってんだよ種類がァァァ!!」
充志が真面目に受け答えしてたが、途中から猫にじゃれられ脱落。
美依と妙彩が華麗に魔法を防ぎつつ、なぜか料理し始め、試験官にお菓子を渡してた。
「点数稼ぎの仕方が斜め上すぎる!!」
ラストの第三試験。
人生で一番恥ずかしかったことを叫ぶという、メンタル破壊型イベント。
「よ、よし……行くぞ、俺からな!」
大輔が深呼吸し、叫んだ。
「中学のとき好きな子のLINEに誤爆して“今度パスタ食いに行こうぜ♡”って送ったことありますううう!!」
「うわああああああ!!」
康策も続く。
「教科書の裏に自分のポエム印刷したまま提出したことありますううう!!」
「自業自得だろそれ!!」
鈴江にいたっては、
「今でも寝る前に筋肉と会話してる!!」
「なんかもう違う意味で尊敬する!!」
最後、シン婆様は静かに立ち上がり、言った。
「合格。全員、合格じゃ」
「え、マジで!?」
「この世界で生きていくには、誇りも栄光も大事じゃが――笑える恥も必要じゃ。
恥を笑いに変える力、それこそが、星導きの資質じゃろうて」
「何その、急に感動的なまとめ!? ギャップぅうう!!」
大輔たちは思わず、全員で土下座気味の礼をした。
こうして、星くずギルドは最高ランクの認定を受ける。
試験はおふざけだったが、その中に確かに、“仲間と笑い合う”という信頼があった。
「なあ、俺たち……マジで、頂点が見えてきたんじゃねぇか?」
「うん。でもその前に、脳が疲れたから甘いもの食べたい」
「おう、星団もちケーキあるぞ!」
「それどこから出てきた!?」
王都の空に、夜が落ちる。
でも星は、誰よりも明るく瞬いていた。