8.再会と裏切りと、うっかり破壊された神殿
「おい……ここ、本当に“神殿”か?」
星くずギルドの面々は、見上げるような石造りの建築を前に、若干引き気味だった。
なぜなら、目の前の“神殿”は、屋根こそ立派だが――半分沈んでいた。
「いやいや、柱の一本が沼に埋まってる時点でアウトじゃない?」
「むしろこの神殿がんばって建ってるよ! 奇跡的なバランスだよこれ!」
「ほら見て、上からツタじゃなくてキャベツの蔓がぶら下がってるし」
「それもう“畑”だろ!!」
そもそもなぜ神殿に来たかといえば、先日万葉子が見つけた“第二のギフトタグ”の反応が、この神殿の地下に反応しているとのことだった。
「ここ、なにか封印されてる気がする」
と、康策が自信満々に教科書を開きながら言ったが、
そのページにはなぜか“神殿探検に必要な持ち物チェックリスト”が載っており――
・スコップ
・ビスケット
・心の余裕
「ビスケットってなんだよ!!」
「心の余裕だけ持ってないわ今!!」
そんなわちゃわちゃの中、妙彩が静かに一言つぶやいた。
「……誰か、いる」
場がピンと緊張する。
神殿の奥。薄暗い拝殿の奥から、カツ……カツ……と、ブーツの音が響いてきた。
そのシルエットが現れた瞬間、正智の顔から血の気が引いた。
「……おま……」
そこに立っていたのは、かつて正智が庇ったあの恋人だった。
前回、村での一件を終え、どこかに姿を消していたはずの彼女が――黒いローブを身にまとい、ギルド“魔星会”の紋章を胸に掲げて立っていた。
「……悪いね、また裏切ることになって」
「おいおいおいおいおいおい!!!」
「いきなり爆弾投下すんなよ!!」
鈴江が頭を抱える。
「それ、前フリなしで言うやつじゃねえよ!! こっちの心の余裕、完全にゼロなんだけど!!」
正智は震える拳を握った。
「……どういうことだ。今度は何を背負ってんだ。答えろよ」
「正智……。今の私の任務は、“星の鍵”を奪うこと。あなたたちが集めたギフトタグ。それが“星の終焉”を回避する最後の鍵になる。だから……私は、もうあなたの味方ではいられない」
「えー……ってことはつまり、また敵なの?」
「そう。あと、たぶんこの神殿も壊す」
「うっわーーーーー、フラグだよ今の絶対フラグ!!」
案の定、彼女の背後から現れたのは――魔星会の召喚魔導師。黒い魔方陣とともに、何やら異形の影を呼び出し始めていた。
「来い、“虚壊のケラヴノス”!!」
「名前ッッッ!!!」
大輔が盛大にツッコむ中、影の中から現れたのは、デカい。とにかくデカい。あと雷を常時放ってる。
「神殿の中で雷使うやつ、初めて見たわ!!」
「電気通るぞ! 石も通電すんぞこの世界!」
バトル開始。
鈴江が飛び出し、拳を振り上げるが、ケラヴノスの尻尾で吹き飛ばされ――
「効かねぇ!? いや効いてるけど、超硬ぇ!!」
「康策!! 回復!! ちゃんと敵は回復すんなよ!!」
「今回は自分にだけ回すから信じて!!」
一方、正智は震える手で彼女を見つめていた。
「……本当に、もう戻れないのか?」
彼女は静かに頷いた。
でも、その目には涙がにじんでいた。
「だったら――!」
「おいおい、今キメるセリフ来るぞ、来るぞ……!」
正智が吠えるように叫んだ。
「だったら俺が、力づくでもお前を取り戻す!!!」
「うおおおおおおおお!!」
その瞬間、妙彩がうっかり隣で召喚魔法の構文を完成させてしまった。
「え、ちょっと待って、今の展開的に魔法撃ったら――」
ズガアアアアアアアアアアアン!!
召喚魔法《星光爆流》が神殿の柱を直撃。
「うわぁあああああああ!!!」
崩れた。
屋根が。壁が。
神殿が、まるっと崩れた。
「誰だ!! 今の犯人は誰だ!!」
「……妙彩です」
「即答かよ!!!」
瓦礫の中、ケラヴノスもろとも魔星会は撤退。
なぜか彼女も正智の目の前にメモだけ残して姿を消していた。
ごめん、私、本当はまだ迷ってる。
でもあなたと一緒には、いられない。
「迷ってるなら、帰ってこいよぉぉぉおおお!!」
正智が頭抱えて泣き叫ぶ中、美依が笑顔でまとめた。
「まあ、これも“前向きな壊し方”ってことで♪」
「どこが前向きだよ!!!」
だが、大輔は思っていた。
「……あのタグの力を、あいつらも知ってる。ってことは、俺たちの持ってるものが、どれだけ大きな鍵か……間違いないってことだな」
雪の中、崩れた神殿の上に、星がひとつ流れた。
その光は、希望か、それとも終焉か――
「てか屋根がないってことは、次雨降ったらここ溺れるぞ?」
「そっちの終焉もマジで勘弁して!!!」