3.星の教科書とシャーマン康策の謎儀式
「この石、何か映像とか出るって話だったよな……?」
翌朝。まだ朝露が残る草の上で、大輔たちは昨日拾った青い宝石を囲み、寝起きのテンションのまま会議をしていた。
「とりあえず、昨日あんだけ光ってたし、なんか反応しそうな気がするんだけど……」
「おい康策、お前、昨日やたら興奮してたろ。なんか試してみろよ」
「俺がか?」
康策はちょっと戸惑いながらも、眼鏡をクイッと上げ、宝石を両手で持ち上げた。
「ふむ……我が魂とこの記憶石の波動を……調和させ……」
「お前、また始まったな」
大輔は美依の横で呆れながらも、その手元を見守る。すると康策、急に正座を始め、謎の言語で呪文を唱え始めた。
「ソラリス・アルク・エクリプス・ゴゴゴのゴーン……!」
「……今“ゴゴゴのゴーン”って言わなかった?」
「その辺の語尾、完全にノリだろ」
だが、その瞬間――宝石が、ふわりと空に浮かんだ。
「おおお!? 浮いた!?」
「嘘だろ!? まさかの成功パターン!?」
次の瞬間、空中に光が走り――青い光輪から、巨大な本がバシュッと出現した。
大輔の頭ほどもある分厚い本で、空中にホバリングしながらページが勝手にめくれる。
「おお、これが……“星の教科書”……!」
康策が目を輝かせる中、本の表紙に浮かび上がったのは――
『シャーマン康策監修:異世界生活完全ガイド』
「は?」
「え? え? ちょ、待てや」
表紙の中央には、康策の顔写真がどアップでプリントされていた。
しかも、中途半端なウインクをしている。
「なにこれ!? いつの間に撮られたの!? お前、いつこの写真提出したんだよ!?」
「してないわ! むしろ初見だわこれ!」
次々とページが開かれていく。
内容は……一見するとちゃんとした情報だった。
「ギルド制度とは」
「魔法の基礎構成理論」
「この世界におけるマナーとNG行動」
だが――全部に康策の顔写真が添えられていた。
「『火の魔法はテンポが命! 俺はこう撃つ!』とか書いてあるけど、お前そんな魔法使えたっけ?」
「使えない」
「これ、完全に詐欺教本じゃねーか!」
しかも本の音声ナレーションまで康策の声だった。
「第2章、『寝起きの火球で朝から爆発注意!』。これは私の失敗談から学べることですが――」
「いや誰得だよ!? その話、何も得られないだろ!!」
「待って待って! これページ閉じられないの!?」
美依が手でページを押さえようとすると、逆に本がピクッと震え、目からビームを発射した。
「ぎゃあああ! 危険書物じゃんこれ!!」
「暴走してる! 教科書が自我持って反抗してる!!」
本は急に高速でページをめくりだし、周囲に紙吹雪のように魔法式をばら撒いた。
空中で火球がポンポンと生まれはじめ、空間が急に危険な実験室と化す。
「逃げろー!! 教科書が戦闘モード入った!!」
康策が半泣きで叫びながら、逆に本に向かって土下座した。
「すみませんすみませんっ、調子に乗りましたぁあ!!」
だが教科書は止まらない。
「第5章:調子に乗ったときの正しい反省法~土下座は美しく~」
「やめろォォ! 説教モード入ったぞこれ!!」
鈴江がキレ気味に飛び出す。
「よっしゃ、あたしがぶっ飛ばす!!」
「本を拳でどうにかできると思うな!?」
だがその瞬間、康策が叫んだ。
「待て、これは俺の責任だ!!
俺がシャーマン認定されてるってことは……きっとこの本を制御する手段も――!」
「あるのか!?」
「ない! けど、心で語りかけるッ!!」
康策が胸に手を当て、教科書に向かって静かに目を閉じる。
「頼む……もうやめてくれ……俺、ほんとは目立つの苦手なんだ……。シャーマンとか、ほんとは荷が重い……。でも、仲間たちが困ってる姿は、もっと見たくない……!」
教科書が一瞬、光を弱めた。
「……お?」
「効いてる!? 心の声、届いてる!?」
その時、教科書がふわりと閉じて、空中で静かに回転し――
「じゃあ、これからはちゃんと読んでくれるよね?」
というセリフを、康策の声でしゃべった。
「うわ、めんどくさいタイプだこの本!!」
「人格あるし、重いし、自己主張強えぇぇ!!」
だが、ようやく本は地面にストンと落ちた。すっかり無害なただの分厚い書物に戻ったようだった。
「ふぅ……なんとかなった……」
康策は汗だくになりながらも、にやっと笑う。
「ということで、これからは“星の教科書”を活用して、ギルドランクアップを目指しましょう!」
「どの口が言う!? さっきまでビーム撃たれてたやつがリーダー面すんな!!」
大輔のツッコミが見事に決まり、ギルドの全員が盛大に笑った。
空はすっかり晴れて、朝の光が石畳に差し込んでいた。
瓦礫と爆発の痕跡は残ったが、どこか、確実に進んでいる気がする。
「よし……とりあえず次は、料理でもしようぜ。火球も出せるようになったし」
「それ調理じゃなくて爆破だろ!!」
こうして、“星くずギルド”はまた一歩、成り上がりの道を歩んだ――教科書の暴走とともに。