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第6章:広がる波紋、動き出す影

第6章:広がる波紋、動き出す影


「領主様、他領から“視察依頼”が来ています」


昼下がり。執務室の窓から光が差し込む中、アカイアは帳簿のペンを止め、顔を上げた。


「どこだ?」


「ナノボタン王国北部、フェザス家の三男坊。名目は“教育研究”とのことですが……おそらく、情報収集目的です」


やはり来たか、とアカイアは内心でつぶやいた。



《ハリラ基礎学舎》が生んだ波紋は、もはや領内だけには収まっていなかった。


2週間で破損しない収穫道具を開発した木工組の少年たち。

雨水をはじく布地を試作した裁縫班の少女たち。

カミカゼと連携し、「成長予測型畑」の設計図を描いた農家の子どもたち。


彼らは“教わった”だけではない。

“考え、選び、作った”のだ。

その成果に、自分の名前を堂々と刻み――それを、誇った。


「子どもにここまでやらせるとは、尋常じゃない」


その噂は貴族たちの耳にも入り、視察の申し出が相次いだ。

だが、その中に――警戒すべきものも混じっていた。



「……最近、子どもが言うことを聞かん」


とある小貴族が吐き捨てるように言った。


「“なぜそれをやるのか”と聞いてくる。親の言葉より、自分で考えることを優先しようとする……まるで支配が効かん」


彼らにとって、ハリラの教育は“育成”ではなく“毒”だった。

“民を主にする思想”など、既存の統治にとっては脅威以外の何者でもない。


情報班の報告によれば、すでに2つの小領で「反教育連合」の準備会議が開かれていた。


狙いは明確だった。


● 教育モデルを「危険思想」として王都に通報する

● 精神教育を“宗教逸脱”と断定

● 《カミカゼ》を“異端の自動思考機”として告発


「言っておくが、敵の一手は早い」


地下情報班のリーダー、レオンが警告を発した。


「ですが、先に圧力が来るなら――逆に、“守る仕組み”を先に打ち立てる機会です」


アカイアは静かに立ち上がり、決断を口にした。



「――ならば、学舎を“自治組織”にする」


その言葉に、会議室が静まり返る。


「教育は領主の管轄であるが、運営は民が行う。俺は“保護者代表・教員・子ども”による委員会を設け、運営権をそちらに移す」


そう言って、彼は“新たな学舎制度”を提示した。


▼ハリラ自治学舎制度

・地域委員会:保護者代表3名、教導員2名、生徒代表1名

・予算:ダンジョン資源より毎月一定額を直送

・講師とカリキュラムの決定には委員会同意が必須

・外部干渉(宗教・貴族・他領)の拒絶権を法的に保有


つまり――“教育は領主のものではない”という立場に、法的に切り替えたのだ。


「この仕組みの下で学舎を攻撃するということは、“民意そのものを否定する”行為になる。果たして王都がそれを許すか?」


アカイアはにやりと笑う。


「このルールで困るのは、“上からの命令”だけでしか秩序を作れない連中だ」


彼の背には確かに政治の風が吹いていた。



数日後――


《学舎自治化》の報せは、周囲の村々にも広がっていた。


「……つまり、うちの子が“村の代表”になれるってことですか?」


「教える人も、私たちで選べる……ってこと?」


保護者たちは最初こそ戸惑った。だが、すぐに理解した。


――これは、子どもだけの話ではない。


自分たちの“未来”を、自分たちで決めるという制度なのだ。



アカイアは、村の広場で開かれた自治委員会設立式を静かに見つめていた。


壇上で代表に選ばれた12歳の少女が、震えながらも宣言する。


「私は……この学舎を守ります。ここで、誰もが自分の“学びたい”を言えるようにします」


その言葉に、誰からともなく拍手が起きた。


アカイアは空を仰ぐ。


「波は広がった。だが、本当の嵐は……これからだ」


彼の影が、夕日とともに地面に伸びていく。


その影の先に――外圧、謀略、対立。

だが同時に、“守るべきもの”も確かに存在していた。

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