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第4章:内政は足元から

第4章:内政は足元から


「さて――次は、地に根を張る作業だな」


アカイア・デ・ハリラは、木製の大地図板を広げ、自作の領地マップを革札で埋めていた。村、畑、川、森、そして地下に広がるダンジョンの構造。まるで店舗の棚割りを考えるかのように、彼は無駄なく最短で成果を出すための配置を決めていく。


「最優先は、水と道。次に食糧の安定供給。最後に、人と労働の最適化。順番を間違えなきゃ、領地は必ず回り始める」


アカイアは椅子から立ち、屋敷の地下、ダンジョンの管理層へ向かった。



意識をダンジョンコアに接続し、内部設計を開始。まずは第1階層、農業特化のフロアを設定する。


【■農業フロア(地下1階)】


地面全体を畑化、温湿調整機能付き。


魔力を栄養とする高速成長型作物を設定。


光と水の魔石を設置し、環境を人工的に再現。


作物監視と収穫用に、スライム型ゴーレム10体を導入。


→ 労働力ゼロで、1日3回の収穫が可能な自動農場が稼働。


【■資源採取フロア(地下2階)】


鉱脈模倣装置を導入。土中に銅、鉄、石材、魔石、木材型資源を循環生成。


村人が作業しやすいよう簡易ルートと安全領域を設定。


→ 少人数で継続的な資源採取が可能に。建設・製造に必要な材料を自給できる。


【■訓練・休息フロア(地下3階)】


無害型モンスターのみを出現設定。


模擬戦用の訓練場と、治癒の泉、休憩所を設置。


→ 若者の基礎訓練、領内自衛力の強化が可能に。


「戦わずに飢えを解消し、掘って資源を得て、教えて兵を育てる。店じゃできなかった芸当だが……やれるな」



ダンジョン農場の稼働から、たった3日。村の雰囲気は一変していた。


「領主様、見てください! この大根……人の腕くらいあります!」


「麦も、前のとは比べ物になりません。味も、香りも……まるで別物です!」


子どもたちも明るくなり、大人たちも無言で鍬をふるっていた。以前なら「どうせ無駄だ」と諦めていた者たちが、いまは汗を流す理由を持っていた。


アカイアはその姿を見て、静かに笑った。


「“働けば食える”ってのは、こんなにも人を変える力があるんだな……」


飢えが消えれば、暴動の芽も消える。余裕が生まれれば、次は「未来」を考える余裕も出る。


アカイアは資源班の報告書に目を通す。銅鉱石、鉄鉱石、良質な石材、魔石――どれもダンジョンで生成されたものだ。さっそく道路整備、水路建設に回された。


川に木橋がかかり、農道が伸び、村を結ぶ土道が3方向へと延びていく。


その中の1本は、隣接する小都市“ルーヴ村”へ通じる。交易ルートとして利用可能な道筋が整い始めた。


「まずは、物が動く道を。次に、人が動く理由を作る。そして……金が流れる仕組みを作る」


アカイアの頭の中には、すでに“交易所”の設計が浮かんでいた。もちろん、その中心は――ダンジョン。


「ダンジョン=危険、ってイメージを変えればいい。“稼げる商業区画”として開放できれば、外からも人が来る。信用と治安が揃えば、商人は必ず寄ってくる」


だが、物だけでは足りない。人が育たなければ、仕組みも回らない。


「農民だけじゃ回らない。技術者を、読み書きのできる補佐官を、商売ができる人間を……育てないとダメだ」


子どもたちに、読み書きと簡単な算術を教える場を設けた。大人たちには、作業の中で基礎知識と技術を自然に覚えさせる仕組みを。


学びながら、働き、暮らす。


それは、かつてアカイアが店で新人バイトに教えたやり方と同じだった。


「基礎教育と現場経験のセットは、最強の人材育成装置だ。そうだろ、かつての俺よ」


目の前に広がるのは、まだ小さな村と森、そして道。


けれどアカイアには、その先にある未来の景色が、はっきりと見えていた。

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