第11章:白銀の威光と、沈黙の罠
第11章:白銀の威光と、沈黙の罠
聖騎士団――それは「神意を体現する存在」として、全国に畏怖される軍団だった。
彼らの使命はただ一つ。“異端を排し、信仰を正す”。
だがハリラ領に足を踏み入れた彼らを待っていたのは、剣も罵声もない「静かな包囲」だった。
■ 裏工作班、動く
聖騎士団の名簿はすでにカミカゼが解析済み。
裏工作専門部隊は、20人を3人ずつに分けて徹底行動。
目的:聖騎士団メンバーの“個人的欲望”を探知・特定し、それを満たすことで影響力を奪う
各工作チームの成果例:
副団長(剛直タイプ) → 酒が密かに趣味 → 地元でしか作れない果実酒を献上、「素朴な誠意」に感涙
団付神官(知識至上主義) → 失われた神文書に興味 → 「壺に刻まれた古代文字(偽装AIデータ)」に没頭
若手騎士(実は甘党) → 地元婦人会の菓子作り教室に“視察” → ハマって講師役に
※工作チームは「誘惑」ではなく「欲の受け入れ」を演出。
→ 相手の“理性”ではなく、“自尊心”にアプローチ。
■ 民間教育施設、稼働中
聖騎士団が視察に訪れたのは、あの教育施設。
朝から、子どもたちは整然と授業に取り組んでいた。
「読み書き、九九、話し合い」
「今日は“赦し”と“怒り”の違いについて討論です」
「カミカゼ先生は見守るだけ。判断は私たちが出します」
聖騎士たちは戸惑う。
「これが……“秩序なき自由”ではなく、自律か……?」
施設内の壁には、**神の教えの言葉と共に、陶器の“赦しの壺”**が静かに置かれている。
「誰かを責めたい時は、壺に向かって話す。焼き物は割られず、心も壊さない」
騎士団長は、その壺の前でしばらく黙っていた。
■ 調査結果報告:異常なし?
調査最終日、騎士団は報告書を作成。
施設内に異端思想は確認されず
村民は協調的で、信仰心も篤い
“霊的媒体カミカゼ”は、「思想誘導型」ではなく「補助的存在」にとどまる
「特筆すべきは、**異端を感じさせないほど民が“落ち着いている”こと」
→ この空気こそが最も危険かもしれない、と記された。
■ 団長、アカイアと会談
最後に、団長はアカイアと会談する。
団長「我らは剣を持っているが、民が争っていないなら抜けぬ」
アカイア「我々は知を持っているが、それを押しつける気はない」
団長「……秩序を崩すな。それだけ守れば、お前たちのやり方に口出しはせぬ」
聖騎士団は、滞在5日で静かに撤退した。
■ そして、空白が生まれる
王都には、「異端調査は終了、問題なし」という報告が届く。
「あの領地、もはや“異端”と呼ぶには整いすぎている」
「騎士団が壺に感銘を受けたと聞いたぞ」
「……神殿の“権威”ではなく、“成果”で人心を掴んでいるのだ」
つまり、“思想の勝利”ではなく“空気の敗北”――
聖騎士団は、戦わずして敗れた。