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揺れる気持ち
翌朝。
庭の奥に、見慣れない建物ができていた。
「これは……?」
不思議に思って近づくと、そこは小さなガラス張りの温室だった。
扉を開けると、
あたたかな空気と、やわらかな花の香りが私を包み込んだ。
──そこに並んでいたのは、
かつて、私が憧れた希少な花々だった。
「……っ……」
思わず、胸がいっぱいになった。
「お嬢様のために……と、殿下がお作りになったのですよ」
付き添いの侍女が、そっと教えてくれた。
(リヒトが……?)
私は信じられなかった。
かつての彼は、私の好きなものにも、興味など持たなかったはずなのに。
(──違う)
今のリヒトは、あの日のリヒトとは、違う。
それでも、私はまだ、
この温かさをそのまま受け取ることが、怖かった。
「……ずるいよ」
私は、そっと呟いた。
震える指先で、小さな青い花を撫でながら。
(こんなの、心が揺れてしまうじゃない……)
涙がこぼれそうになるのを、必死にこらえた。