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まだ、信じられない

「リヒト殿下が……未来を知っている?」


部屋に戻った私は、ひとりベッドに腰掛けて、深くため息をついた。


(そんなこと、あるわけない──)


そう思いたいのに。

リヒトの目は、あまりにも真剣だった。

そして、あの日──処刑台で見た冷たい彼とは、

まるで別人のようだった。


(でも……それでも、私は……)


信じてしまったら、また裏切られるかもしれない。

今度こそ、立ち上がれないくらいに、傷ついてしまうかもしれない。


(だから……簡単に信じるわけには、いかない)


そう自分に言い聞かせても、胸の奥がきゅうっと痛んだ。


──コンコン。


「……お嬢様、お入りしてもよろしいでしょうか?」


部屋の外から聞こえたのは、幼い声だった。

扉を開けると、そこには私の弟、アルノーが立っていた。


「アルノー?」


「母上が、お茶の用意をしてくれたんだ。お嬢様も一緒に……って」


「……ふふ、ありがとう」


その小さな手を取って、私は微笑んだ。



リビングには、母上と父上、それに兄たちが揃っていた。

テーブルの上には、湯気の立つ紅茶と、焼きたてのマドレーヌ。


「さあさあ、マリアベル。いっぱい食べなさいな」


母上が私に皿を押し付けるように差し出してくる。

その様子に、思わず笑みがこぼれた。


「マリアベル姉上! このマドレーヌ、僕が焼いたんだよ!」


弟のアルノーが、得意げに胸を張る。

彼は、処刑された私の未来では、

家名を守るために必死に戦って、心を閉ざしてしまっていた。


(でも、今は……こんなに無邪気で、あたたかい)


私はそっと、弟の頭を撫でた。


「ありがとう、アルノー。とてもおいしいわ」


「えへへ……!」


家族が笑い合う、この何気ない時間が、

こんなにも大切で、愛おしいものだったなんて──

私は、前の人生で、きっと気づけなかった。


(守りたい)


そう、心から思った。


家族も、自分も。

そして、できることなら──リヒトさえも。


けれど──


「……まだ、信じられないよ」


小さな声で、私は呟いた。

膝の上で、震える手を、そっと握りしめた

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