“後悔”をやり直すために
(ようやく、君に会えた)
ベッドに座るマリアベルの姿を見たとき、リヒトは胸が熱くなった。
震える手を押さえ、できるだけ穏やかに微笑んだ。
──二年前、俺は君を救えなかった。
いや、救おうともしなかった。
あの時の自分は、馬鹿だった。
誰かの罠に乗せられ、マリアベルを信じず、
最後には冷たく見捨てた。
そして、彼女が処刑されたその夜──
リヒトは、自ら命を絶った。
(……だけど、目を覚ましたら、二年前に戻っていた)
神が与えたのか、悪魔が与えたのかは知らない。
だが、この二度目の人生でだけは、
何があっても、マリアベルを守り抜くと誓った。
彼女を──二度と、あんな絶望の中に置き去りにしない。
*
朝食の席でも、リヒトは妙に優しかった。
いつもなら、政治の話ばかりして私を退屈させるのに、
今日はわざと私の好きな甘いスコーンを取り分けてくれる。
「マリアベル、蜂蜜、好きだったよな?」
「…………覚えていたのですか?」
思わずこぼれた言葉に、リヒトは優しく笑った。
「全部、覚えてる。……忘れるわけないだろう?」
その言い方が、どこか切なげで、私は不意に胸を締め付けられた。
(おかしい。こんなふうに、私を気遣うリヒトなんて、知らない)
何かが、少しずつ狂っている。
でも、それが悪い方向ではない気もして、余計に怖かった。
そして──数日後。
リヒトは、とうとう私にこう告げた。
「マリアベル。……君にだけは、打ち明けたいことがある」
「……何ですか?」
「俺は──二年前の未来を知っている」
静かな声だった。
けれど、その言葉は、雷に打たれたように、私を貫いた。
(……え?)
目を見開いた私に、リヒトは真剣な眼差しを向けた。
「君を処刑した、あの日。俺は、君を救えなかった。
それを……心の底から、悔やんでいる」
まるで罪を告白するように、リヒトは続ける。
「もう二度と、君を失いたくない。……だから、頼む。
二度目のこの人生だけは──俺を、信じてほしい」
(…………っ!)
知らなかった。
リヒトも、過去をやり直しているなんて。
あの日、私を冷たく見捨てた彼が、
こんなにも苦しそうに、私に手を伸ばしてくるなんて──
私の胸は、ぐしゃぐしゃにかき乱されていた。