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02 拾い物・・・その名はカイル

いきなり走り出てきて馬車の前に倒れ込んだ子供をわたしは屋敷に連れ帰った。


医者を呼んで手当をした。


子供が目を開いてわたしを見た、可愛い耳が頭の上でピコピコポヨポヨ動いていた。守らねばと思った。


するとわたしの世界は一変した。


使用人は推薦状を書いてやめてもらった。屋敷も売った。爵位は返上した。


呆れる使用人から、家事を一通り教えてもらった。


田舎に行く勇気はなかったので、王都のはずれに小さな家を買って二人で住んだ。

わたしが子供の頃に読んだ絵本を読んでやったり、一緒におやつを作ったり楽しく過ごした。


カイルと名付けた彼は、五年でわたしの背を追い越した。十年たった今はわたしの世話を焼いている。


夜ふかししていると部屋にやってきて寝かしつけようとする。彼が子供の頃にわたしが彼にやっていたそのままに・・・・

夜ふかしといっても静かに本を読んでいるだけなのに、見ていたかのように彼は部屋に入って来る。

とても敵わない。



「そう、あのときのサミエルったら、わたしの為に、・・・・・・ねぇ聞いてるの。それから飲むものが欲しいわね。お茶なんて子供じゃないんだから。それブランデー?アル中はまだ治ってなかったの?」


物思いにふけって、ミザリーの言葉を聞いてなかった。どうでもいいしね。


それでわたしは意地悪く言った。

「ううん、これはお弔いのお酒よ。アル中なんてまさかでしょ! カイル。ミザリーさんに果実水を・・・・いいのよ。ミザリーさんの年だと、お肌の為に午前中はお酒もコーヒーも避けないといけないのよ・・・・・年には勝てないから」


厚化粧で誤魔化しても目尻で年がよくわかるのよ。わたしの言葉にカイルが頷いたのを見てミザリーがあわててこう言った。


「年なんて・・・・ブランデーを頂くわ」とミザリーはカイルに笑いかけた。


ブランデーを水で薄めたものをカイルが持ってきた。カイルが優雅な動作でグラスをミザリーの前に置いた。わたしは、保護者としてカイルに声をかけた。


「カイルあなたは好きに過ごしていてね」


カイルは黙って頭を下げて生垣の剪定を続けた。



それからわたしたちは、サミエルの思い出を話した。


ミザリーの攻撃は冴えている。

「えぇ、サミエルったらわたくしの朝ごはん用に苺農園を買い取ったりして・・・・仕方のない人だった」


わたしは無難に返事した。

「優しい人だったから・・・・」


ミザリーの鼻はぐんと高くなった。

「ごめんなさいね、あなたと結婚しているときは地味な生活だったのよね」と勝利の主張ですか?


あなたは彼のお金を取り上げて彼を放り出したのよね。放り出された彼は世間から消えた。

あんな死に方をしなければ消えたまま、忘れられたままだったのに・・・・凄惨な殺人事件の被害者になった彼は再び脚光を浴びたのだ。


彼の死を報ずる新聞の一面は彼とミザリーの結婚写真だった。ミザリーの流し目は新聞の売れ行きに貢献してるだろう。


軽蔑を示す演技ってどんなだろう?

わたしは、ミザリーを見つめながら言った。

「えぇ彼がお金を持った途端にハイエナが群がってきたわ」


ミザリーが目を伏せてこう言った。

「そうだったわ、彼が食い物になるのをみてられなかったわ。彼、ひどく傷ついて・・・」


一番食ったのはあなたでしょ。


ミザリーは追撃して来た。

「あなたにはほんとうに悪かったわね。彼がわたしを離さなくなってしまって・・・・・わたし悩んだのよ。あなたのもとに帰ってあげてって何度も言ったの・・・・・だけど彼言うことを聞かなくて・・・あなたがお酒に・・・・」


逞しいあなたと違って風にも耐えられないわたしは

「いいのよ、わたしが弱かっただけだし・・・・・なりふり構わず、ずうずうしく手を伸ばせば良かったのよ。あなたのせいじゃないわ」と言った。


「そう、言っていただけると・・・・・ほんとよ。誓ってもいいわ。ずっと謝りたかったの」


「気にしないで」


「それでね、サミエルのお葬式に一緒に行きましょ」


自慢できるエスコートがいないのかな?


わたしはすまして

「行かないわ」と言った。


ミザリーの攻撃は痛い。こう言われてしまった。

「そう言わないで・・・・彼が一番愛した女と二番目に愛した女が、見送るって最高でしょ」


撤退しよう。カイルに向かって大きめの声で

「行かないわ・・・・カイル。ミザリーさんがお帰りよ」と言った。


すぐにカイルは、やって来て


「リア、お疲れ様」と言うと門を開けに行こうとした。


ミザリーは、カイルを獲物のように見ながら言った。

「ちょっとミリアム、使用人のしつけがなってないわよ。ちゃんとエスコートして」

そして微笑んだ。さすがの微笑みだった。


カイルの答えが奮っていた。カイル偉い!


優雅に手を差し出しながら、こう言ったのだ。

「しまった。そうだったね、リア。いつも言われていたんだ。おばあさんには親切にだった」


ミザリーは一瞬、顔を歪めると、カイルの頬をバンと打った。


カイルは無邪気に両手を広げて、処置なしポーズをしながら


「痛え、おばあ・・・・・おばさん、力強いんだね。リア、僕、うっかり礼儀を忘れちゃった」とわたしにウインクしながら言った。


わたしも肩をすくめながら

「いいえ、おばさ・・・いえミザリーが酔った?だけ」


カイルは驚いた表情を作ると

「ミザリーってあの新聞の花嫁さん?全然違うからわからなかった」と言った。



「覚えてなさい・・・・」そう言うとミザリーはまた、小道を戻って行ったが、足を取られて転んだ。


カイルは駆け寄りながら

「あぁおばさん、危ないよ・・・・酔ったんでしょ」と言うと、手を取って自動車まで連れて行った。


ミザリーはカイルを見上げながら、なにか言いながら彼の手を取った。それからなにか言ったみたいだ。カイルが頭を下げたから・・・ミザリーがカイルの耳をさわっていた。


運転手はドアを開けて待っていた。彼は静かだった。


また、わたしのものに手を出そうとしている。こう思った自分に驚いた。


カイルはわたしのものなのか?子供じゃないの!


これ以上自分の心を覗くのはやめにした。


誤字、脱字を教えていただきありがとうございます。

とても助かっております。


いつも読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただけましたら、ブックマーク・★★★★★をよろしくお願いします。



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