ひみつの友だち
わたしには妖怪のお友だちがいる。
ろくろ首ねえさんと座敷わらしちゃんと、一反木綿くん!
仲良く遊ぶのは夜になってからで、お昼は見守っていてくれてる。
いつもパジャマでいるはずなのに、みんなと遊ぶときはふつうの洋服に着替えてる。だからお部屋で遊ぶよりも、外に出て遊ぶことのほうが多い。朝にはちゃんとお家に帰って、パジャマでベッドに入るから、パパもママも気づいてない。毎日じゃないけど、今日は来そうだなっていう日はわかる。なんでかわからないけど、たぶんお昼にみんながなにか合図をしてるんだと思う。
いつもとおんなじ時間にお休みと言って、ドアを閉める。それからしばらくすると、窓の向こうに一反木綿くんに乗ったろくろ首ねえさんが来てくれて、座敷わらしちゃんがどこからか出てきてくれる。
わたしはそれだけでも楽しい。みんなで一反木綿くんに乗ってお出かけする。いつもならどこへ行く? と聞いてくれるけど、今日は誰も何も言わない。空をスイスイ進んで、着いたのは海。
夜の海はまっ暗で、なんだかとても怖い。
「着いたよ。さ、こっちにおいで」
ざざん、ざざんと波が手まねきしているような中、ろくろ首ねえさんがわたしを呼んだ。恐ろしいのに、足が動かないのに、わたしの目はずっと『そこ』を見つめている。
「この子はあんまり動けないんだ、海の子だからね。だからあんたが来ておくれ」
大丈夫。座敷わらしちゃんも一反木綿くんもとなりに居てくれる。なので勇気を持ってゆっくりと足を動かすと、『そこ』にいたのはキラキラ光る『なにか』
「うん? ねえさん、これは……?」
「アマビエちゃんだよ」
アマビエ? 聞いたことがあるような、ないような。
わたしがうーんと考えていると、となりの座敷わらしちゃんがポソポソっと教えてくれた。
「アマビエちゃんは、疫病をやっつけてくれる力を持っているの。最近人間たちはアマビエちゃんの絵姿を見ていてくれたでしょう? だから、わたしたちと遊べるあなたにお礼を言いたいんだって」
「でもアマビエさんは動けないので、こうしてみんなで来たでござるよ」
いっしょに一反木綿くんもお話してくれた。だけどわたしは初めましてだし、わたしにお礼を言われても困るような……。
「あの、あのね、あたちたちの姿を見て、知ってくれて、あたちたちは力を持てるの。だからニンゲン、ありがとなの!」
アマビエさんはすごくがんばってお話してくれた。ちゃんとわたしの目を見て話してくれた。そのときわたしはもう怖さなんてなくなってしまっていて、アマビエさんの目の前に座ってわたしに会ってくれてありがとうと伝えた。
本当はぎゅっと抱きつきたかった。手? ヒレ? をぎゅっとにぎって伝えたかった。だけどそれはねえさんにだめって、手を出されてしまったの。アマビエさんは海の子だから、陸に住む、さらにニンゲンとは体温が違いすぎて、アマビエさんが大やけどをしてしまうと。さわらずに、しっかり目を合わせて、ありがとうを伝え合った。
そして海からの帰り道。また三人で一反木綿くんに乗ってお話をした。アマビエさんは座敷わらしちゃんと同じくらい昔からいる妖怪で、だけど恥ずかしがり屋さんだからあんまり多くの人が知らずにいるって。
わたしの中で、がんばって話してくれたアマビエさんの姿が思い出される。話し方は小さな子みたいだった。でもすごく大きな温かさを感じた。そして……。
「ねえみんな、アマビエさんが言っていた、『姿を見て知ってくれて、力を持てる』っていうのは、すごく大事なことだよね?」
「そうさねぇ。比較的アタシたちは有名どころの妖怪だ。すぐに消えてしまうような弱いものじゃない。だけどニンゲンがアタシたちを忘れたら、きっともう会えないよ」
「でもそれは、あなたのせいじゃない」
「……だけど、わたしはもう知ってるよ? ろくろ首ねえさんは言い方は怖いけど優しいのも、座敷わらしちゃんがすごく楽しいのも、一反木綿くんが布でも紙でもないこと……」
「……ねぇ、なんかオイラだけ雑……」
きゅうにわたしが何かをしなければならないのではないかと思ってしまった。わたしは弱くて、ヒーローにはなれないタイプだけど、なんだか本当にきゅうに、そんな気持ちが沸き上がってきたんだ。そしてそれを何かと確かめる前に、お家に着いてしまった。
「さ、今日はもう終わりだね。来てくれてありがとね」
「風邪引かないように、早く寝てね」
「また今度でござるよ」
帰り際はいつもとおんなじ。バイバイと手をふると、もう三人の姿はない。だけどいつもと違って、今日はとても寂しかった。
(……なんでだろう。いつもとおんなじはずなのに……)
パジャマに着替えてベッドに入る。いつも寝てるつもりはないけど、気づいたらカーテンの向こう側は明るくて、よく寝たなって思う。
ベッドの上でぽやっとしてると、ドアの向こうからママの声が聞こえる。
「知花、起きてるの? 学校遅れちゃうよ?」
「今起きたー!」
着替えてランドセルを玄関に置いてから、パパとママにおはようとあいさつをする。うん。大丈夫。やっぱりいつもどおりだ。朝ごはんを食べながら、パパとママがする天気の話を聞いている。
今日は学校についたら、図書室へ行きたいの。きのう会ったアマビエさんを、もっとよく調べたい。ほかの妖怪さんも、もっとよく知りたい。つぎまた会う日までに知っておいて、ドヤってやりたい。
「だからまた、会いたいな」
「うん? なにか言ったかい?」
「パパも知花も、時間見ながらにしてね! 遅れちゃうわよ?」
「はーい」
わたしは秘密の友だちを思い出しながら、ランドセルを背負って玄関を出る。
「いってきまーす!」
ありがとうございました!