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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ショートショート9月〜4回目

チートをもらって異世界転移した俺、とびきりカワイイねこたんのおなかに体をうずめて心ゆくまでモフモフする

作者: たかさば

 

 ……ここは、どこだ。


『ここは異世界、貴方は選ばれました!』


 ……はい?


『便利なチートをまとめて渡すので、楽しんでね!』



 よくわからないが、俺は異世界に転移させられたらしい。

 転移前の記憶があやふやなのは、望郷の念を持たせないための仕様なのか…生きていくための基本的な知識はあるのに、家族や自分の名前が思い出せない。


 ……まあ、ある意味、楽といえば…楽か。


 俺に渡されたのは、小さなヒップバッグ(帰巣&本人以外使えないシステム付き)と、モノ(自分自身も)の大きさを自由に変えることができるスキルだった。


 バッグの中には食料品と水、嗜好品にベッド付き家屋、ポーション各種にエリクサーなどの秘薬まで、ありとあらゆるモノが入っていた。森の中でボッチで籠もっても、一生何一つ不自由なく生きていけそうなラインナップだ。


 スキル【大小】は、対象物を見た時に現れるウインドウのボタンを押すことで発動するものだった。食べ物も生き物も無機物も、何でも思っただけで好きな大きさに変えられる。

 例えば、森で魔物に出会ったら鼻くそサイズにして丸めてピーンとやれるし、めちゃめちゃウマイイチゴをバレーボールサイズにして腹いっぱい食べることができるし、平和主義者で血を見るのが怖い俺は絶対やらないだろうけど気に入らない奴を米粒サイズにして指先ですりつぶす事もできるのだ。


 ……これはいい物をもらった。

 俺はきっとこの世界で、幸せに生きていくことができるはずだと、思った。




 食うものにも、住むところにも、金にも困らず悠々自適に暮らしておよそ半年……、俺はそこそこ辟易していた。


『⇒※≯≧√@$*ω∞#☆?!』

『&%$∂#……』


 この世界の奴らの、言葉がわからないからだ。


 異世界転移の際、俺は言語スキルを持ち合わせずにこの地に降り立った。

 言語辞典や異世界言語を学ぶためのワークなどはバッグの中にあるのだが、30をすぎて文字を習得するなんてバカバカしいというか…生きていくためのすべてがあるのに、苦労なんかしたくない気持ちが強かった。国語も英語もキライで、毎回赤点をもらうくらいデキも悪かったので…とても言語を習得することなどできないだろうと早々に諦めたのだ。実際、ワークを開いて見た事もない模様を見るだけでクラクラしたし、学習テープだけでも聞いてみるかと思ったものの、明らかに発音の基礎が違うらしく…聞き取る事も発声する事もできなかったのだから仕方がない。


 もともとボッチ体質で…誰かに声をかけてもらわなければ丸一日言葉を発しないような日々を送っていたような気もする。孤立には耐性があると思っていたのだが、人がたくさん暮らすこの世界で微塵もコミュニケーションが取れないというのは、地味に俺のメンタルを削った。


 怒鳴られて?も、笑われて?も、顔をのぞきこまれても、何を言っているのかわからない。

 金を出して物を買うときに、なんとなく騙されているような雰囲気も感じた。

 やたらと放送禁止用語を真正面から浴びせてくるやつがいて心底げっそりした。


 幸い金は豊富にあるので…多少ぼったくられても一切懐が傷まない事だけが救いだった。美味そうな屋台の食べ物を買って食うのに言葉は必要ない、それだけが心の拠り所だった。


 俺は日がな一日近隣の観光をしつつ、日が暮れたら家を出して休む…という生活を送るようになった。


 たまに原住民が不躾に訪問したが、スキル【大小】を使って撃退した。小さくしたやからを小瓶に入れて、学生時代に甲子園に行ったらしい自慢の豪腕で投げるのは、たまらなく爽快だった。


 人とコミュニケーションを取らない生活はそれなりに快適だったが、時折…とてもさびしく感じた。



 ある日、いつものように黙って金を差し出してなにかの肉を串焼きにしたものを食べていたら、足元に一匹の猫が近寄ってきた。

 ……どうやら、ハラが減っているらしい。よく見ると、背中に骨が浮いているのにハラが膨らんでいる…妊娠中のようだ。


 ちょっとした庇護欲の湧いた俺は、串から肉をはがして恵んでやった。すると、猫は嬉しそうにニャアと鳴いて、夢中で肉を食んだ。


 やがて猫は、俺を見つけると近づいて来るようになった。コミュニケーションに飢えていた俺は、つい…猫の求めるままに肉を与えるようになってしまった。


 俺は、猫をうちに連れて帰ることにした。


 こんな野蛮で思いやりのない原住民たちの闊歩している街で、猫が無事出産できるとは思えなかったし…何より、俺と猫の間に信頼関係が生まれたのを感じたのだ。


 家の土間に木箱を置いてやると、猫はそこで出産をした。

 俺に集って栄養が足りた猫は、七匹の健康そのものの子猫たちのお母さんになった。


 子育てが大変そうだったので手伝ってやり、うまいえさを毎日与え、いつしか俺と猫はお互いなくてはならないような関係になったのだと思う。

 子猫たちは独立して家を出たが…、母親猫は家に残った。



 俺は猫にミルクと言う名前をつけて、とにかく・・・甘やかした。

 美味しいえさを見繕い、丁寧にブラッシングをし、快適な寝床と猫タワーを用意し、おもちゃを与えた。


 俺はミルクに・・・とことん、甘やかしてもらった。

 なんともいえない不安を感じた時、ミルクと一緒に眠ると心が晴れた。

 街で不愉快なことがあった時、ミルクに顔をざりっと舐められると笑うことができた。


 ミルクは、たまにふらりと出かけて…ネズミや虫などをくわえて来る事があった。

 きっと、ミルクなりに世話になっているお礼、狩りのできない頼りない息子へのプレゼントのつもりなのだろう。……ミルクに心配してもらえている、それがたまらなく嬉しかった。ありがたく受け取っては、トイレにそっと流すようになった。




 ミルクとの生活も早一年、俺は毎日地味ではあるが満たされた毎日を送っていた。


 ミルクがいれば、きっと俺はこのまま幸せに生きていける、そう確信していた。

 もしミルクの寿命が尽きそうになったら、バッグの中の若返り薬を飲ませる、そう決めていた。何度か体調を崩すたびにポーションを与えていたからか、ミルクは毛並みもキラキラしていてずいぶん若々しい。…もしかしたら、猫又になるのかもしれないな、なったらいいな、そんな事を思う俺は生粋の猫馬鹿なのだろう。


 俺は、ミルクのおなかのモフモフがたまらなく好きだ。

 ……もともと俺は、たぶん、転移前も猫が好きだったのだと思う。


 あの、柔らかい腹毛を見ると手を突っ込まずにはいられない。

 あの、柔らかい腹毛がそよそよしていると顔を突っ込まずにはいられない。


 ある日、俺はふと気がついた。

 ……俺自身を小さくして、ミルクのおなかにモフモフダイブしたら…もっと幸せになれるんじゃないか?


 ミルクと俺は深い愛情で繋がっている…自信はあるものの、元野良猫であった事を考えると、いきなり小さくなることは危険だと思った。俺とミルクの信頼関係があれば、いきなり獲物と認識されて捕食に至ることはないと思うが…驚いて飛び退り、その勢いで吹き飛ばされてしまっては命が危ない。


信用していないわけではないが…念のために、玄関前に外付けのフィッティングルームを設けることにした。家の中で過ごす間はサイズを小さくしていき、買い物などで外に出る時はここで原寸大に戻るのだ。風呂やトイレも鍵をかけることができるので、使用時には原寸大に戻ることにした。


 少しずつ、少しずつ…俺は小さな自分をミルクに見せていった。

 165センチが、150センチに。

 150センチが、140センチに。

 140センチが、130センチに。

 130センチが、120センチに。

 120センチが、110センチに。

 110センチが、100センチに。

 100センチが、90センチに。

 90センチが、80センチに。

 80センチが、70センチに。


 ミルクは、小さくなっていく俺を見て何を思ったのかはわからないが、変わらない愛情を注いでくれた。


 70センチが、60センチに。

 60センチが、50センチに。

 50センチが、40センチに。

 40センチが、30センチに。

 30センチが、20センチに。


 ハラにもたれかかって寝るようになり、包み込まれて眠る心地よさを知った。

 季節が冬と言う事もあり、モフモフのありがたさが身に染みた。


 ……ミルクは優しい猫だ。

 俺が痛がるので、舌先でそっと毛づくろいをしたし、トイレに起きれば一緒についてきてくれた。背中に乗せてくれるようになったし、獲物の見つかりにくい季節だというのに、貢物も相変わらず続いていた。…もらっても食べられないので、ありがとうと言ってバカでかい虫や鳥を処分しなければいけなかったけれど、気遣いそのものが嬉しかった。



 今日も、真冬で雪深くて凍えるような寒さだというのに…獲物が取れない俺のために、モグラのような生き物をくわえてきた、ミルク。

 …せっかくのツヤツヤのギン縞が、茶色い泥で汚れている。クリーン魔法の施されたタオルで丁寧に拭いてやる…、これは汚れもニオイもダニもノミもきれいサッパリとってくれるシロモノなのだ。


 すっかりいつものモフモフ姿に戻ったミルクに、いつものようにありがとうと礼を言うと、ニャアとかわいらしく返事をした。

 俺はモグラを手のひらサイズにしてポケットにしまい、トイレに行った時に流した。


 そして、いつものように……いい夢を見るために、ミルクのおなかにダイブした。


 モフモフ、ぬくぬく、ほこほこの……、ちょっと太陽に干された布団っぽい……。ああ、この、ニオイがたまらないんだよな……。

 野性味のあるケモノ臭に包まれて、俺はまぶたがとろんと……。


 ぎち、ぎちっ・・・

 ざわ、ざわ・・・


 ……?


 なんか、変な音がしたような……?


 でも、眠くて、目が開けられないな……。

 俺は、夢の世界に……。



 ぎっちょぎっちょ、ががっ!!

 …がしっ!


 ビブッシュ、がじゅ、がじゅ・・・

 ザブッ・・・・・・


 

 びゅうびゅうと、噴き出して・・・いる、のは、俺の、みぎ、て、が、もげた・・かた、く、び・ ・・・



 ずぎゅ、どちゅ、ぶしゅ・・・

 ぼり、ばり、ごりごりっ!



 俺、に、貼り、付い・・・一匹の、オ ケ ラ  ・ ・・・ ・・


 スキルを、バッグ・・ ・ を・・・ ・ ・  ・



 だめだ、目が、くら ん で ・ ・・

 きが、遠くなる・・ ・ ・・・



 ああ、ミ、ル ク・・・・・・



 生まれ変わったら、また、俺と・・・・・・



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