空
どうしようもなくなって落ち込んで、もう駄目だと思い、足を止めたとき
彼の言葉を思い出した。
「ねぇ。どうして人間の目って他の生き物とは違って顔の前方に付いていると思う?
それはね、目の前を見るためなんだよ。口だってそう、前についているのは後ろ向きな言葉を発したくなった時に、最終的には前に飛んでいけるようになっているんだ。鼻が一番前に付いているのは、
危険な香りをすぐに察知できるようにさ。でも耳なんかは横に付いているよね?それは人の言葉をそのまんま受け取らないように横に付いているんだよ。
その大きな胴体に、足はどうして付いているかわかるかな?人を踏み台にするため?違うよね。前に進むためにあるんだ。それじゃあその両の手、何のためにあるんだろう?もうわかるね。前に進んだ先にある希望を手にするためさ。これさえわかれば、あとはその死んでしまった心臓を奮い立たせるだけさ。意外と簡単なことだよ。」
あの時、彼の言葉は響かなかった。それでも今、下ばかり見ていた顔を試しに上に向け、視線を前方に送ってみた。
自分がこれから進むべき道と、彼の優しい笑顔が目に入った時、私の死んでしまっていた真の像が動き出した。