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第一話 変身

自分の強みについて考えたことがあるか?

この質問をしている時点で、俺にはある。

知ってるかもしれないが、普通、若者に強みはない。

少しずつ歳をとっていくなかで、それをつくっていくのだ。

ただし。

俺は例外。

なぜなら俺はイケメンだからだ。

うーん、今日も美しい。

隣の席の高村、彼女はよく俺と会話をする。

ひょっとして俺のことが好きなんじゃないだろうか。

この美貌に惹かれて?

あり得る話だ。

高村に話しかけた。

「なあ」

「なに」

「俺ってイケメン?」

「口裂け女かよ。そんなこと言うやつがイケメンなわけないでしょ」

「………」

知ってた。

こいつはことあるごとに俺の悪口を言うのだ。

まあ、今回は訊いた俺が悪いんだけどね。

「じゃあさじゃあさ」

「今度はなに」

「俺って天才?」

「全然」

「最近は『全然』っていい意味でも悪い意味でも使うけど、この場合いい意味としてとらえられるよね?」

「…………」

「沈黙は皇帝」

「どこの陰キャ帝国だよ」

「沈黙は校庭」

「どこのインドア学校だよ」

「沈黙は肯定」

「そしてちげえよ、沈黙は諦めだこの場合」

「日本語って難しいね」

「日本語じゃねえ、ノンバーバルコミュニケーションだ」

「なんて?」

「この言葉がわかんなくてよく天才って訊けたな」

「俺って天才じゃないの?」

「違うね」

小さな子供に言い聞かせるように高村。

「くそ、じゃあ、俺は何者になれるんだ」

「あのさ、そういうのやめない?」

「は?」

「大人が喜ぶだけだよ、そういう分かり易い『夢』みたいなの。お前はお前にしかなれないの。他の誰かになんてなれないんだよ。お前は自分を受け入れてそれに合った目標を立てなきゃならんの」

「ええ、違うやつになれないの?」

「うん、なれない」

試しに高村になろうとしてみる。

「なれたわ」

「えええええええっ!私がいるうううう!」

「え、うるさ、お前。いつもそんな奴じゃないだろ」

「そりゃ、非常事態だからねえ!自分のドッペルゲンガーに会っちゃったからねえ!」

「へえ、意外。高村、オカルトとか信じる系なんだ」

「昔は違ったよ!具体的に言うと一分前までは!でも目の前で起きてるの信じない奴いないだろうが!」

「それはそうと、なれるじゃん。自分以外のやつに」

「なれねえよ、普通は!お前以外のやつはなれねえんだよ!」

高村がわめく。

さっきからうるさい。

あのダウナーな感じだからつるんでたのに、一瞬のうちにキャラ変しやがった。

4歳のころに作ったねるねるねるねを彷彿とさせる。

「ん、てか、俺以外のやつできないの?」

「できるか!」

「じゃあ、俺って天才?」

「いや、まだその話してんのか。そのレベルは超越したわ。あと、さっきから私の声で言うな」

妙に嫌がってるっぽい。

俺のいたずら心に火が付いた。

俺は口を開く。

「私はずっと前から、斎藤くん(俺の名前)のことが……」

殴られた。

「殺すぞ」

「あ、テンション戻った」

「人権侵害すな」

「いや、ごめんごめん」

「早く戻れよ」

「り」

俺は戻ろうとした。

戻ろうとした。

……………………………。

「戻れない」

「はああああっ!?」

「うるさ、お前またテンアゲかよ」

「誰がテンアゲさせたとおもってんじゃああ!」

「ほら、さっきからほかのやつら見てるぞ」

今は昼休み。

クラスの半分くらいの人数が教室に残り、飯を食ったり、だべったりしていた。

「ま、いっか。このままで」

「よくねえよ!」

「なんか困ることある?」

「なんでないと思ったんだよ」

俺は弁当箱を開いた。

「うっひょー、うっまそーっ!」

「普段からそんな喋り方してねえだろ、私の品位を汚すな、殺すぞ」

俺が高村の品位を汚しているのはわかったが、高村も自分で品位を汚す発言をたった今していると思う。

「うまうまうま」

俺は唐揚げを頬張る。

いつも、母さんが作ってくれる唐揚げの味…………じゃないな、これ。なんだ?99%同じなんだけど、ほんのちょっとだけぬぐえない違和感。

「わかったぞ」

「は、なにが」

高村が俺をにらむ。

「エウレカッ!」

「言い直さなくていいから」

「お前の肉体になってるから、味覚がほんのちょっとだけ変化してるんだよ」

「は?味覚が変化?」

「高村、こんな話聞いたことない?」

「お前も今は高村だろ」

「いや、おれは斎藤だ。しってるか?人間って人によって、色の見え方がちょっとずつ違うんだって。おそらくだけど、それは味覚でも同様なんだよ。多分、舌のレセプターかなんかが違う形をしてんだとおもう。だから同じ唐揚げの味でも、俺と高村では感じ方が違うんだ」

「すごいすごい」

「思ってないだろ」

「いま、それどころじゃない」

「どうした、悩みがあったら聞くぞ」

「死ね」

「ツンデレ?」

「まじで死ね」

「ちょっとツンが強すぎん?」

「いや、ほんとにウザい」

「あ、ごめん」

会話を紛らわすために、さっき自販機で買ったコーヒーを飲んでのどを潤す。

「わかんだろ、お前が今後戻らなかった場合、お前はJKの姿で人生をエンジョイできるかもしれないけど、そのとばっちりは全部私にくるわけ」

「なるほど」

「だから、わたしとしては、迷っちゃうわけよ」

「なにに?」

「水か火か」

「はい?ポケモンの話ですかい?」

「ポケモンはほのおだろうが、殺すぞ!!!!!!!!!」

今日一番の怒声を俺に浴びせる高村。

一番怒るポイントは自分のことではなく、ポケモンという…。

お前はそれでいいのか。

「じゃあ、なんなんだよ、その二択は」

「沈めるか燃やすかともいう」

「?」

「お前を」

「…………」

どうやらさっきから「ころす」と連呼しているのは本気の殺意の表れのようだ。

「じゃあ、俺はこれで」

「逃げるな」

「いや、ほんとちょっとまってちょっとまって」

「8.6秒バズーカネタは通用しねえんだよ」

「通用してんじゃねえか。あと、そのような意図はない。そして、本当に行かせてほしい」

「やめろ、私の身体で勝手なことするな」

「さっきコーヒー飲んだからトイレ行きたい」

「貴様ァアアアアアアアアア!」

「トイレに行っといれ!っつってね」

「やめろ、これ以上、私の顔でつまらないことをいうなああ」

「布団が吹っ飛んだあ…っつってね」

「………………」

「猫が寝ころんだあ…っつってね」

「……………………」

「アルミ缶の上に…………おい、大丈夫か?」

「………ウウゥ、………グス…………ヒッ…………グス………」

「なんだって?」

「………ヒッ………グス…………粒子」

「お前も同類じゃねえか」

俺は席を立つ。

教室を出て、廊下を当然のように走りつつ、トイレのドアを開………

「グハアアッ!!!」

全身が宙に浮く感覚。

それは子供のころに家族で行った科学博物館の無重力体験コーナーの感覚に似ていた。

「何当たり前みたく男子トイレ入ろうとしてんだ、こらああ!」

俺を殴ったのは高村でした。

選ばれたのは綾鷹でした。

「じゃあ、逆に女子トイレに入ろうとしたら、お前は何もせずに見守ってたのかよ?」

「そんな分けねえだろうがよおおお」

無茶苦茶だった。

無茶無茶苦茶苦茶だった。

「斎藤、ちょっと来い」

高村が俺の手を引っ張る。

ちなみにさっきから大声で騒いでいるので、目立ちまくりである。

俺たちは校舎の一階に降りていく。

高村は多目的トイレの前で立ち止まった。

まさか……………。

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