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天穹の双月  作者: すだちなんてん
第一章
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旅立ち(14)

 マリーが森の入り口で赤毛の青年の後姿を見送っていた頃、森の中では二人の少女の会話が続いていた。

「はい、わたくしもサキさん達に同行したいと考えています」

 シアンはサキの質問に対して頷いてそう答える。

「それは別に構わないけど……理由を聞いても良いかな?」

 シアンが山中の遺跡から村へ降りて来たのは、食料を得るためだとサキは思っていた。これから村を離れようとしているサキ達に同行すると言い出すとは思っていなかったため、軽い驚きを感じていた。

「わたくしが目覚めて最初に発した言葉を覚えていますか?」

 質問を返されて、サキは戸惑いながらも遺跡の中でシアンと出会った時の事を思い出した。地中深くにある球体状の不思議な部屋で、金属の繭の中から全裸の少女が出てきたのは、思い返すと本当に現実の事だったのかと疑わしくすら思えた。だが、繭の中から現れた少女が目の前にいるのだから、やはり現実に起こった事で間違いないのだろう。

 シアンと出会った後には驚くべきことが連続して発生した。サキは、マリーと協力して竜を倒した後、青い月から放たれた魔力に撃たれ、シアンの言葉を信じるならば瞬時肉体を失ってから眠りについた。そのためかどうかは分からないが、わずか数日前の事であるにも関わらず、その時の記憶を手繰り寄せるのには少し時間がかかった。

「えーと、たしか計画がどうとか言っていたかな?」

「はい、その通りです。『ようやく来てくださいましたね。計画通りとは言え、五百年の月日はやはり長いものです』と、わたくしは言ったのです」

 だいぶ甘めの採点だったが、シアンはサキの返答に満足そうに頷いた。

「うん、たしかにそんなことを言ってた。そういえば結局、計画ってのが何かは聞きそびれていたね」

「はい、わたくしがお話したかったのは、まさしくその事です」

「……なるほど?」

 シアンの計画がサキ達の旅に同行するという話とどうつながるか分からず困惑したが、ひとまず聞いてみようとサキは頷いた。だが、シアンが続けて発した言葉は益々サキを困惑させた。

「実は、その事についてよく覚えていないのです」

「え? どういうこうと?」

「今言った通りです。わたくしは目覚めた時に、たしかに計画通り事がうまく運んだと思ったのです。それは間違いありません。ですが、そもそも計画とは何であったのか、思い出せないのです」

「忘れてしまったってこと?」

――五百年も眠っていたっていうのが本当なら、忘れてしまったことの一つや二つあっても不思議じゃないと思うけど。

 サキはそう思ったが、そのサキの考えを読んだかの様にシアンは首を振った。

「いいえ。お会いした時に言いましたが、わたくしの頭の造りは人間とは異なります。消えるべきではない重要な情報が勝手に消えてしまう、なんてことは本来あり得ないのです。ですが、いざ目覚めてみると、覚えていなければならないはずの多くの事を、覚えていなかったのです。それは、何かとても大事な事で、それを覚えていなければいけない事は覚えているのですが、その中身は何も覚えていないのです。これ程もどかしい事はありません」

「その感覚は分かるよ」

――アタシも、あの時の事を思いだそうとすると、胸が苦しくなるもの。

 サキは自分の胸にそっと手を当てた。普段よりも少し鼓動が早く感じた。

「分かっていただけるのならば話は早いです。わたくしは何としてもどんな情報が失われてしまったのかを把握しなければなりません。そのために、各地の他の施設を巡って手がかりを探そうと考えています」

「施設? それって、もしかして、各地にあるクレサ帝国の遺跡の事?」

 サキの知る限りでは、ミノカ村の西方、マコク山の山中にある古代クレサ帝国の遺跡と同じような遺跡が、大陸中にはあと四つあるはずだった。

「ええ、そうです。各地の施設は、この地にある施設と同じ機能を持っています。記憶を探りに行くついでに、各地の施設が正常に稼働しているかも点検したいと思っています」

「機能って言うのは、魔物……敵性生物の出現を防ぐって言ってたやつかな?」

「他にも色々です」

「色々、ね。もしかして、他の遺跡にも、同じように地下に街があるの?」

「はい。外見は異なりますが中の造りはほぼ同じですから」

「あの地下の街は一体何だったの? 何故あんなものを作る必要があったの?」

 サキは話が脱線していると感じたが、あの暗闇と静寂に包まれた街の事を思い出すと、質問せずにはいられなかった。

「あれは……」

 シアンは瞬時言葉に詰まって、何と言って説明すれば良いか考えた様だったが、直ぐに言葉を続けた。

「あれは、万が一のための避難所です。クレサ帝国の末期にはとても大きな戦いが起こりましたから」

「帝国末期の戦い……伝説の中にある秩序の神の軍勢と混沌の神の軍勢の戦いの事かな? そうか、あの街は万が一戦いに負けた時のために作ったのか。そう考えると、遺跡の外側を頑強な劣化オリハルコン鋼で造ったのも頷けるよ」

「まあ、そんな所です」

 そう曖昧に言って、シアンは頷いた。

次回は2/5(日)に更新します。

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