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激ツン微デレな殿下のデレをもっと増やし隊!

 



「はぁ? 知ったことか。お前一人で出席すればよいだろう」


 はいっ! 殿下の激的ツン、いただきましたー!


 眉間に大峡谷を携え、初春の野原のように美しい翠瞳はキョロキョロ、薄くて形の良い唇はちょっと突き出してアヒルさん。

 少し長めの前髪を何度も耳に掛け直しながら、必死に厳しい顔を作ろうとされています。


 ハニーブロンドの猫っ毛をサラリとなびかせて、婚約者であるヴィンセント第三王子殿下は颯爽と立ち去ってしまいました。


 激ツン微デレな殿下のデレをもっと増やし隊(隊員一名)の隊長兼隊員としましては、かなり萌え度の高いツンゼリフでした。


 痺れます!

 格好良いです!

 アヒルさんなお口は超絶可愛いです!




 私が八歳の頃、王家と我が侯爵家の繋がりを確固たるものにすべく、ヴィンセント殿下と私が婚約することになりました。


 当時は素直で可愛らしく、天使のような見た目だった殿下。

 本当に本当に本当にっ可愛らしくて、お逢いするたびに抱き着いては、頬にキスをしていました。

 殿下も嬉しそうにお返しして下さっていました。

 あの頃は、『フィーの髪はチョコレートみたいで、艶々だね』なんて言いながら、髪先にキスを落として下さってもいたのです。

 フィオナを『フィー』という愛称で呼んで下さっていたのですよ⁉


 なのに、十四歳になった辺りから、キョドキョドが始まりました。

 話し掛けても『あぁ』、『うん』、『そうか』のスリーコンボです。


 十六歳になった辺りからは、私の顎下に視線を固定するようになりました。

 殿下と目線を合わせようと少し屈んでみたりすると、首を痛めそうな勢いで顔を背けられました。


 そして、十八歳になった今は、何を言っても激的ツンなお返事ばかりです。

 なので最近、この『激ツン(中略)隊』を発足させました。




 来月に予定されている、王家主催の夜会でのドレスと盛装の色合わせの件をお話ししたかったのですが、まさかの『一人で出席しろ』な激的ツンなお返事でした。


「はぁぁ! 今日も可愛らしく激ツンしていましたわっ」

「お嬢様、お口からダダ漏れしています」


 おっと、いけない。

 殿下のツンが可愛らし過ぎて、心の声がダダ漏れでした。

 後ろに控えた侍女の「どれだけ鋼メンタルですか」とか聞こえません。聞こえませんったら、聞こえません。




 傍からですと、私は殿下に大層嫌われているように見えるのでしょうか?

 友人や両親、まさかの両陛下からも、婚約関係を見直してはどうかと言われてしまいました。


『あんなに苦虫を噛み潰したようなお顔の方と――――』

『大丈夫かい? 辛くはないかい?』

『フィオナ嬢がどうしても無理だと言うのなら――――』

 

 そのたびに私は、殿下の事をお慕いしていること、ちゃんと両想いであること、二人きりであれば軟化することなど、お伝えするのですが、なかなかに信じてもらえません。


『あら? まだ婚約解消していませんの? わたくし――――フゲホッ』

『ヴィンセントさまぁ、早く婚約者解消しとぅいぃやぁぁぁ! 背中にっ! 背中に何かっ――――』


 ……まぁ、羽虫の撃退も()()()ありましたが。

 …………おほっ、おほほほ。




「どう見ても嫌われているんですけどねぇ」

「二人きりになったら、デレて下さるの!」

「未婚の男女が二人きりになる機会など、そうそうありませんし、二人きりになったとして、誰も見ていませんし、証拠――――」


 侍女がなにやらゴニャゴニョモニャモニャ言っていますが、無視します。

 殿下は、極稀に、星が瞬くように、デレるのです。

 そして、それを見れるのは私だけなのです。

 私だけの殿下なのです!




 何度も何度もヴィンセント殿下に色合わせの確認を取ろうと思いましたが、すげなく躱されてしまい、とうとう夜会の当日になってしまいました。


「仕方がないから迎えに来てやった。準備は整っているのか? 行くぞ」


 ヴィンセント殿下が、我が家の玄関ホールで激的にツンツンしています。

 眉間に大峡谷を携え、初春の野原のように美しい翠瞳はキョロ――(中略)――必死に厳しい顔を作ろうとされています。


「ありがとう存じます!」


 この日のために用意した、ワインレッドのドレスの裾を摘まみ、カーテシーでご挨拶をすると、「フンッ」と小さなお返事を下さいました。


 ちゃんと迎えに来て下さるのです。厳しいお言葉とお顔はされていますが、絶対に来て下さるのです。

 クラヴァットとポケットチーフの色は、ちゃんとドレスと揃えて来て下さるのです!


 皆は『陛下に厳しく言われているからだろう』なんて言いますが、ヴィンセント殿下自ら進んで来て下さっている、と思っています。

 ……たぶん、きっと、そのはず。


 馬車に乗り込む時も、きちんとエスコートして下さいますし、進行方向に背を向けた側の席は、いつもヴィンセント殿下が座って下さいますし。

 当たり前では? とかの雑音は聞こえませんっ。


 たまにいらっしゃるんですよ? 奥様をそちらに座らせて、自分は進行方向を向いた側に座られる男性。

 流石の私も、あれは無いなぁ、と思います。

 

「「……」」


 馬車の中では基本無言です。

 ヴィンセント殿下の従者と、私の侍女も同席していますからね。

 まぁ、めげずに話し掛けはしますが。


「ヴィンセント殿下、小物の色合わせ、ありがとう存じます。今日の盛装もとてもお似合いですわ」

「…………ん」


 馬車の窓枠に肘をつき、特に見えはしない暗闇の風景を眺めながらも、短くはありますが、ちゃんと返事をして下さいます。

 殿下は優しいのです!




 名前の読み上げのあと、夜会のホールへ入場しました。

 先ずは両陛下、次に王太子殿下方に挨拶をし、それぞれの知り合いなどと歓談。

 こういった場でも、ちゃんとエスコートして下さいますし、従者が持ってきてくれた飲み物を受け取って、私に渡して下さいます。


「あら、この苺のソーダ、とても芳醇で柔らかな甘みですわ」

「フンッ、美味いか。お前に似合いの甘ったるいジュースだな。――――(よかった)


 ぼそりと、聞こえるか聞こえないかの声で呟かれましたが、地獄耳な私にはきっちりと聞こえました。

 ヴィンセント殿下の口角が数ミリ上昇していますので、たぶんご機嫌です。

 苺ソーダを持ってきたのは従者でしたが、殿下が指示したのでしょう。

 

「はい、美味しゅうございます。ありがとうございます」

「…………んっ」


 ほらっ、ほらぁぁぁぁ! デレましたわよぉ! 頬染めてますわよぉぉ! って、殿下の従者、私の侍女さえも見てないし!

 なぜ見事なまでに誰も見てない一瞬の隙でデレるのですか……もぅっ。


 挨拶や歓談を一通りこなしましたので、ヴィンセント殿下をダンスに誘いました。

 いつもは『嫌だ。不様に踊るお前となど、恥ずかしすぎる』と断られますが、私はめげません! 何度だって何回だって誘います。

 なぜなら、ダンスは密着しますし、小声での会話をすることが極稀にあるので、殿下の貴重なデレタイミングなのです。


「…………ん、する」


 あんらぁ⁉ 今日は本当に珍しい日です。


 ダンスホールに入り、右手を重ね合わせ、左手はヴィンセント殿下の肩へ添えました。

 ヴィンセント殿下に腰をクイッと抱き寄せられたことにドキッとしつつも、華やかな生演奏に合わせてステップを踏みます。


 ヴィンセント殿下の眉間には、相変わらずの大峡谷がありますが、口元はほんの少しだけ優しげに微笑んでいました。


「あ! 次の曲も踊ってよろしいでしょうか?」

「ん? あぁ。フィーの好きな曲だっ…………」


 急に幼少期の愛称が聞こえたと思えば、ヴィンセント殿下のお顔が真っ赤になっていました。

 これはあれですわね、無意識で口から出てしまったやつですわね。


 パニクったヴィンセント殿下にバッと手を離されましたが、全速力でガシッと握って捕まえ、ギュンと正位置に戻して、逃亡を阻止しました。


「ヴィンスさま、行かないで? 踊りたいです」

「っ⁉ ぅ、ぁ…………わかった…………する」


 流石にこちらも幼少期の愛称を持ち出しての『ヴィンスさま』はあざと過ぎたかしら? と心配になりましたが、セーフだったようです。

 ヴィンセント殿下の眉がへにょんと下がり、翠の瞳は潤んで、唇はギュムムムっと引き結ばれ、頬は相変わらず赤いままです。

 珍しくガッツリと照れていらっしゃいます。




 焦りに焦り、照れに照れてしまったヴィンセント殿下は、二曲目のダンスで尋常ならざる失敗を繰り返し、体力を激しく消耗されたようです。

 肩で息をしながらしょんぼりされています。

 バルコニーで涼みましょうと手を引いてお誘いすると、こくりと頷いて黙ってついてこられました。


 どうしましょう⁉ 今日の殿下は本当に可愛らしいですっっ!


 侍女に持ってきてもらったドリンクで喉を潤しつつ、バルコニーの手摺りに寄り掛かってどんよりしている殿下の様子を伺っていました。


「………………すまなかった」

「ふへ?」


 不意にとても小さな声で謝られたので、ちょっとお間抜けな声を出してしまったのは横に置くとして。

 殿下はなぜに謝られたのでしょうか。


「どうされました?」

「……お前の好きな曲だったのに、酷い有様だった」


 あぁ、なんて優しくて素敵なお方なのでしょうか。

 私の好きな曲だから、完璧に踊りたかったと!


「いや、完璧とかまでは言って――――」

「ヴィンセント殿下と踊れただけで幸せですわ」

「っ…………ん」


 あの曲は、ヴィンセント殿下と初めて踊った思い出の曲なので、どうしても踊りたかったのです。

 どうしても踊りたかったけれど、別に完璧などは求めていません。


「いや、だから完――――」


 ヴィンセント殿下とダンス出来たという思い出があれば、いつか婚約破棄されたとしても…………。


「フィー?」


 まぁ、婚約破棄を匂わされましたら、全力で阻止しますが。我が侯爵家の持つ全ての権力を総動員してでも。

 こんなにも激的なツンばかりで、微少のデレしか出さない殿下の相手など、私しか出来ないはずですからねっ!


「…………あぁ、お前はそういうやつだよな」

「はい?」


 妄想と決意表明に忙しくて、殿下のお言葉をちゃんと聞いていませんでした。

 私としたことがっ。何たる不覚でしょうかっっ!


「――――いつも、かなりの頻度で聞き逃されているがな」

「へっ⁉ 何か言われました⁉」

「………………何も言ってない」

「えぇっ?」


 絶対に何か言われたと思ったのですが⁉

 

 どれだけ教えてとお願いしようとも、完全に口を噤まれてしまいました。

 ですが、無言のままのヴィンセント殿下が、盛装用に纏めた髪から垂れている一房を手に取ると、ちゅ、と幼かったあの頃のようなキスを下さったのです!

 心臓鷲掴みです!

 心肺停止してしまいます!

 

 あぁぁぁ…………こんなエグいご褒美があるから、激ツン微デレな殿下のデレをもっともっともっと増やし隊(隊員一名)を辞められないですわっ!




 ―― fin ―― 




 読んでくださって、誠にありがとうございます!


 ニヤニヤ、半笑い、ぷーくすくす、ちょっとでもキュンと出来ましたら……ブクマやいいね、評価★★★★★などしていただけますと、作者が激しく喜び、鼻水垂らします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ツンデレ殿下、可愛い〜! ニヤニヤが止まらない楽しいお話でした。面白かったです♪
[良い点] わお、ごちそうさまです(笑) これ、ツンとデレのバランスがこれだから丁度いいのでは…? デレがこれ以上増えたら萌え死にますって(#^^#)
[一言] この世界の侍女になりたい。
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