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一旦仮  作者: 羽田智鷹
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51 OtherSide-3-

私は走るのが好きだ。

それに本を読むのが好きだ。


いつか私は人を感動させられるような物語を書いてみたかった。

いつか、なんて言葉を使っているが、実際に書いてみないといつかなんて一生来ない。

だから私はクラスの劇の脚本に立候補した。


陸上を中途半端にやめてしまった私は何か打ち込めるものがほしかった。

ひたすら自分に向き合って、孤独な中で書き綴る。

自分の作るの世界の細部にまで探求する。

私は友達と呼べる人がいなくてもいいんだと思っていた。

だけど、友達みたいな人が新しくできた。


書くのに必要じゃない。

でもやっぱり脚本を書いていると辛くなってくる。

ちょうど去年嫌なことがあったな、なんて思い出したら次々に思い出したくない記憶が思い出されていく。

嫌な私は本当に変われたのかと考え出したら自信がなくて。

嫌な私が書いた物語なんて誰も読みたくはないんじゃないかって。

急に怖くなってきた。


人と話したくない。

顔を合わせたくない。

私はいつしか再び学校に行けなくなってしまった。


二度目、三度目、と欠席を重ねるほど立ち直れなくなる気がした。

だからなんとしても今、この段階で学校に行けるようにならないといけない。

劇の脚本を引き受けたんだ。

途中で投げ出すようなことはクラスに迷惑をかけてしまう。


だけど私には学校に行くことも、脚本を書き上げることも出来なかった。

途中でどうすれば良いのか分からなくなって。

まだ未完成なのに完成したと決めつけて、その後は見て見ぬふりをした。

だからきっと委員長を、それに彼を失望させてしまった。

締め切りはとうの前に過ぎたし、私は人を困らせてばかりだ。


だからしばらくの間はじっとして、おとなしくしていようと決めた。

私がいたら碌なことが起こらない。


そんな時、彼は私の家を訪れた。

私は住所なんて教えてないのに。彼は来てくれた。

すごく心配そうな顔を向けられる。

私が今、学校で唯一正直に話せるようになった人だった。

だからすごく嬉しかった。


彼は私の悩みについて聞きたいと言った。

私の過去の話だ。

私は話がうまくない。

だから上手く伝えられるか不安だった。

私が拙い言葉にすることで、深刻なはずの悩みが薄っぺらいものになってしまわないか心配だった。


彼がどれだけ長くなっても構わないと言ってくれたとき、なんだかすごく安心してしまって。

言いたいことに漏れがないよう思いつくがままに話せることを全部喋った。

脈絡がないこともあったかもしれない。

でも彼は最後まで聞いてくれた。

そして私を嫌いになることはないと強く言ってくれた。

それだけで気持ちは随分楽になった。


次に彼が私の家に来たとき、私が完成されられなかった脚本擬きのノートまで持ってきて、私に脚本を書いてほしいと頼んだ。

私は彼に脚本擬きを読まれてしまったことが凄く恥ずかしかった。

途中で読むのをやめてくれた方がずっとよかったはずだ。読むのが苦痛だったはずだ。

そのぐらいの出来なのだ。


私の脚本とは別に、彼から渡したもう一冊のノートを渡される。

中身を見ると、私の脚本の修正点がびっしりと書き込まれていた。

私の脚本に対する彼の熱意が伝わってきて凄く嬉しかった。

それに脚本が書き終わるまで付き合ってくれるとも言ってくれた。

あの孤独を側で支えてくれる人がいるのはもの凄くありがたかった。


そこまでされたら。してくれたのだから。やるしかなかった。

私が自分に向き合う機会を彼はくれた。

弱気な私をやる気にしてくれた彼のことが好きだった。

彼がいてくれたから私は脚本を書き上げることが出来たし、再び学校に来られるようにもなった。


脚本が終わってからも私は彼に頼りっきりだった。

時々彼にいたずらをした。

でもそれは彼のことが好きだったから。



彼は私が陸上に未練があることを知っていて、上手くトラウマを克服するきっかけを何度も作ろうとしてくれたことは知っている。

彼に地区大会を見に行こうと誘われたとき、今更私が陸上に関わることにすごく怖いと感じた。

でも彼が一緒にいてくれるから。私は頑張ろうと思えた。

彼がくれたきっかけを無駄にしたくなくて、朝早く起きて、身支度をしっかり整えた。

だから集合時間の三十分も前に着いてしまうなんて空回りな行動をしてしまう。


しかし私はその途中で交通事故に遭った。

車にはね飛ばされて、気がついたら病院のベッドにいた。

右足がとても痛かった。

事故で右足を怪我したのだろう。

ちょうど陸上で怪我をしたところが痛かった。


また陸上が少し怖くなった。

何より私の異常なまでの意気込みが簡単に消えてなくなってしまったことが悔しくて。

少しだけ泣いた。


そしたら彼が来てくれた。

びしょ濡れだった。

外は嵐のような雷雨だった。そんな中、ここまでを走って来てくれたようだった。


陸上の動画を見せてくれた。

私は胸が熱くなってまた泣きそうだった。

だけど頑張って堪えた。

すごく嬉しかった。

私は彼の前では右足の痛みなんてないように振る舞った。

右足の痛みを伝えてしまったらきっと彼は心配してしまう。

私はいつまでも支えられてばかりではいけない。


脚の痛みを耐えながら彼と夏祭りに行った。

いつの間にか痛みのことを忘れてしまうくらい楽しかった。

そこで彼は自白したとおり、本当に寝てしまった。

驚いたけど、初めて彼が私に弱みを見せてくれて、私を信頼してくれたと感じられて、とても嬉しかった。


タクシーを呼んで、肩を貸して歩いた。

彼とは身長が近いけど、実際触れてみると彼は凄く大きく感じた。


次の日、心配になって彼の家に行ってみると、返事がない。

いけないと分かっても、どうしても気になって無断で彼の部屋に入った。

彼は寝室でぐっすり寝ていた。

私が彼をベットに寝かしつけた時から部屋の様子が何も変わっていなかった。


気になって次の日も彼の家に無断で入る。

様子は全く同じだった。

少し彼に触れてみる。起きる気配はなくて、少し強く揺さぶってみた。

それでも彼はぐっすり寝ていて、私には無防備に見えた。


その次の日は彼はちゃんと学校に来ていた。

安心した。

でも勝手に家に入ったことに罪悪感があって私は彼に話しかけられなかった。

だけどこのままじゃ後悔すると思って頑張って彼に直接聞いてみた。


彼のことだからきっと素直には教えてくれない。

だから少し強引に、彼にちょっぴり嘘までついて聞いた。


彼は躊躇した後、二日寝る体質であることを教えてくれた。

大変そうだった。

いつまでも私は彼に頼りきりではいけない。


今度は私の番だ。

まだ右足は少し痛かったけど、いつまでも痛みのせいにしていられないと思って、私は一人で県大会を見に行った。

岩屋さんがすごく格好良くて。

私はすごく走りたくなった。


それから彼と美味しいものを食べた。

彼と美しい景色を見た。

そして私は好きだと伝えた。

私は近々言ってしまうだろうと思っていたから別に自分に驚きはしなかった。


結果振られた。

でも振ったはずの彼はとても辛そうな表情をしていた。


きっとまだ何かを私に隠している。

しかしそれは私を傷つけないためなのだろう。

でも知りたい。

彼の側にいて彼が困っているなら、今度は私が助けたい。


でも強情な彼は正直に話してはくれないだろう。

私には分かる。

人を傷つけないことにこだわる彼の態度を素直に変えることは、私には無理そう。

だから、脚本を変えようと思った。


そこで私の思いを伝えようと思った。

最後のヒロインの言葉に私の思いを全部込めた。

込められるだけ思い切り詰め込んだ。

そうすれば彼はきっと、私の思いに気づいてくれる。

彼はもう自分の幸せを後回しにしないでほしかった。


脚本の変更には当然、みんなからひどく反対された。

でも私はこっちにした方がよくなると確信してた。

むしろ以前のものは主人公が苦悩することもなく、自分の気持ちを周りに打ち明けることもしない。

そんな味気ない劇を誰がみたいというのだろうか。

少ないとも私は、そんな薄っぺらいものに興味はない。

どれだけ反対されようとも、私は折れなかった。


岩屋さんにはヒロインの気持ちが分からないと言われた。

だから説明しようとした。

けれど私は岩屋さんとずっと前からすれ違い続けている。

私の気持ちがヒロインの気持ちだ。

だからまず私たちが仲直りしなければいけないと思った。

私は岩屋さんに思っていることを正直に伝えた。

拒絶されるかもしれないと少し怖かったけど、頑張って一歩を踏み出す。


岩屋さんは静かに私の話を聞いてくれた。

岩屋さんの問いかけに私は強く頷くと、彼女は私を抱き留めてくれた。

それからお互いに謝った。

どうしてもっと早くこうできなかったのだろう。

私たちはお互いが大切な友人だったのに。


それから彼女にヒロインの気持ちではなく、私の本心を語った。

恥ずかしかったけど、実際に口に出すと彼への気持ちは確かなものになった気がした。

彼が本当のことを話してくれたとき、私は迷わず彼と一緒にいられる道を選択する。

でもそれには彼がどうするかを彼自身が選ばなければならない。

私自身の問題に私が立ち向かったように。彼自身の問題には最終的に彼が立ち向かうしかない。

そんな彼が一人にならないように。

隣にいてくれて心強いと心の底から頼れる私になれるように。


今度は私が彼を支えていきたいと思った。


だからこれからどんなことがあっても驚かないと私は決めた。

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