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一旦仮  作者: 羽田智鷹
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僕たちの劇が終わると時間はちょうど昼休憩の時間になる。

満足した様子の客たちを僕たちは笑顔で手を振って見送った。


そして各自が舞台上の片付けや、着替えに向かう。

僕は特にやることがなかったので舞台上の片づけを手伝おうと思ったが、演者に片付けは任せられないから先に教室に戻ってていいと言われた。



教室に戻るとまだ人は少なかった。

別室で着替えやらメイク落としやらで忙しいようだった。


僕は何をして待とうかと考えていると、着替え終わった片山が教室に入ってきた。

お疲れ。

そう声をかけると、お疲れー、と返ってくる。


「名演技だったわ、流石は主人公」


僕は先ほど感じた感動を片山に伝える。


「ありがとな。この主人公、俺と考え方が違いすぎて、気持ちを考えるのに苦労したわ。俺なりに解釈してやったんだけど、ちゃんと伝わった?」 


「ああ、めっちゃ伝わってきたよ。片山、お前そっちの人格でもいけるぞ」


「嫌だよ。将来のこと考えて今をめちゃくちゃ悩むのは。毎日気楽に楽しいほうがいい」


片山は笑った。


劇中での悲壮感は今はどこにもなかった。

どこまでも楽観的な片山がここにはいた。


「それと、……僕のこと心配してくれてありがと」


「最近の虎、元気なさそうだったしな。それに友達として当然のことをしたまでだから、気にするなよ。お礼だっていらねえ」 


片山は嬉しそうに僕の肩を何度も叩いて、元気な僕の存在を確かめるみたいだった。


「……それで、結局本来の脚本はどんな感じだったんだ?」


僕は一番訊きたかったことを口にする。


「途中から僕の知らない展開になってめっちゃびっくりしたんだけど」


「本来の脚本も何も、全く脚本通りの展開だったけどな。俺もそこにはすごく驚いたわ」


僕がその言葉の真意を問おうとした瞬間、岩屋さんと河井が二人で仲良く教室に入ってきた。

二人は僕と片山を見つけて、その顔には達成感とも幸福感ともとれる嬉しそうな表情を目一杯振りまいて、近づいてくる。

あれほど準備に時間をかけてきた劇が成功して嬉しくないはずもなかった。


「しゃち、私たちの劇はどうだった?」 


河井は少し気恥ずかしそうに訊ねる。


「どうだったも何も……すごく良かったよ。めちゃくちゃ感動した。……けど、僕が勝手に乱入しちゃってごめん」


それを聞いて岩屋さんが大声をあげて、可愛らしくおなかを抱えながら笑っている。


僕は状況が旨く飲み込めず三人を順に見る。

三人は満足そうに困り顔の僕を見ていた。


「それにしても、河井さんが急に劇の脚本を変えたいと言った時はクラス中が騒然としたんだぞ。だってもう本番まで一週間もないのに。修正版を書き終えて皆に配りだすんだから」


「しょうがないじゃん。お話変えたくなったっていうか。もっといい展開が浮かんだんだから。結局うまくいったんだし、けっかおーらいでしょ!」 


河井は小悪魔っぽく笑う。


岩屋さんはいつまでも思い出し笑いをしているようで、劇の可憐で可愛くて心優しくて、主人公のことを気にかけて、大切に思っていた女子生徒役の面影はどこへやら。

ここには自分の気持ちをはっきり言えて、だからこそ感性も豊かで、こうして人目も憚ることなく笑い、むしろ今までの疲れを吹き飛ばす勢いで盛大に笑っている彼女がいた。


僕を見ては笑うものだから、一度睨んでやろうかとも思ったが、まあやめた。


「結局、僕が邪魔をしなかったら、劇はどんな展開になっていたんだよ」

 

僕の困り顔を見て片山は、しょうがないな、と余裕のある顔で僕の肩に手を置いた。


「さっきから何度も言ってるだろ。途中で虎が劇に割り込んでくることが脚本通りだったってことだ」


「はい? どういうことだよ?」 


全く意味が分からない。仕方なく片山は説明を付け加える。


「ちょうど四日前に河井さんが脚本の一部を変更するって言ってな。どこをどうするんだって聞いたら、主人公は行動するのが怖くなって、女子生徒を救うのを躊躇う。けれど主人公の内情を知っているのは登場人物の中には誰もいない。じゃあどうするかって言ったら主人公のことをずっと見てきた観客がいるじゃんってね。”改心する機会を得られないまま主人公は最後悲しい結末を迎える”なんて状況を見て、というか察知して、きっと虎が主人公をしっかり説得してくれるよって。ちゃっかり修正した脚本を持ってきてさ」


「………………。よくそんな提案をクラスのみんなが受け入れたな。もし僕が動かなかったらどうするつもりだったんだよ。そんな賭けしないでくれよ。今聞いて少し肝が冷えたわ」


「そりゃあ俺たちも最初は猛反対したさ。藤城なんか、驚きすぎて気絶しかけたからな。本番直前にそんな変更をする必要あるのかって。だけど皆の強い反対を押し切ってでも河井がこの展開でやりたいって。虎ならこの状況を見たら、必ず助けてくれるって何度も言うからさ。あの時の河井はほんとに熱かったからな。そこまで言われちゃあやるしかないって。ちょうどよく虎も最近学校来てなかったし。それに俺個人としてもどうなるんかなってすごく面白そうだと思ったし」


「そうだったのかよ。河井、大胆で策士過ぎる」


そう言って僕が河井を見ると、彼女は恥ずかしそうに視線をそらす。


「ほんとっ。河井がここまですごいやつだったとはね。私も河井のことちゃんと分っていなかったみたい。古久根が河井の言うとおりに動くんだもの。舞台裏で感動しちゃった。事前に予想していた展開はおろか、河井が予想していたセリフまでほとんど一緒じゃない」


岩屋さんは笑いが一度収まったのか、一度軽く呼吸を整えてからそう言った。


感動するポイント違うくないですかー? と僕は岩屋さんを笑いながら睨む。


彼女は僕の視線をこそばゆそうに躱して笑っている。

なんだか僕がものすごく恥ずかしくなってきた。


「それにしてもなんで脚本の一部を変えたりしたんだ?」


みんなに褒められて頬を赤らめて照れていた河井さんに僕が問う。


彼女は初め少し恥ずかしそうな顔を見せたが、すぐに自信ありげな顔で笑いながら、


「だってこの脚本、私としゃち、二人の合作でしょ。いい展開が思い浮かんで私が変えたくなったからだよ」 


と胸を張って自信満々に言った。


はたして理由はそれだけなのだろうか。

そこには彼女なりの優しさがあるような気がした。


「そんな策士な君が僕の家に鞄を置き忘れていくなんて、お茶目で天然なところもあるもんなんだね」 


そう言って僕は仕返すように笑って僕の家に置き忘れていた河井の鞄を手渡すと、そのやり取りを聞いていた片山と岩屋さんが、河井の不自然な行動を訝しむ。

すぐさま、いつ家に行ったのかと色々と問い詰めていた。


どうやら僕の家に来たことを誰にも言っていなかったらしい。

河井さんは顔を赤らめて反論している。

とても可愛らしかった。

だから僕はその様子をただただ眺めていた。


もう眩しいとは思わない。

いくら僕が二十を過ぎた大人だとしても、それは彼らより少しだけ人生経験が豊富なだけ。

僕が今この瞬間の、高校生活を楽しんではいけない理由にはならない。


むしろ彼らは僕以上に色々なことを考え、悩み、僕が考え付かなかった素晴らしい終着点にたどり着くことすらあるのだ。

全くもって侮れない凄いやつらだ。


僕たちはその後四人で学校祭を回った。

流石に半日ではすべての催し物を回り切れなかったが、時間を忘れるくらい楽しい時間だった。



学祭が終わると、やっと夏休みらしい夏休みが来る。


あと一週間しかない休みだが、僕は何をしようかと考えた。


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