表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一旦仮  作者: 羽田智鷹
3/56

3

僕の日常は神社で怪しげな男と会ってからも何ら変わったことはなかった。

しかし変化はいつだって急に起こる。


僕はある日、朝目が覚めると日付が二日とんでいた。

デジタル時計で確認した。

スマートフォンで確認した。

新聞で。テレビで。


しかし現実は、日付が二日とんでいた。

外に出て、スーパーのカレンダーを、駅前の電子モニターを確認しに行く。


事実は変わらない。

空白の二日間だ。


僕は春休み期間中なので特段支障はないのだが、寝過ごしたみたいだった。

しかし寝過ごすレベルの睡眠の長さではないし、もしや体のどこかが悪いのではと疑う程だが、体調はいたっていつも通りだ。

寝過ぎたことによる倦怠感もまるで無い。

丸二日間も寝るなんてやっぱり不可能だと思ったので、別の可能性を考えてみることにした。


ということは、…… 何か超常現象が起きて時間が飛んだとか。

オカルト好きな幼馴染みが好きそうな話だなと思った。

しかしなぜ?


『世界が僕をだまそうとしている』などと思うほど、僕の思考回路はぶっ壊れていない。

頬をつねろうが、まだ冷たい水道水を顔に容赦なく浴びせようが、二日飛んでいるのは変わらぬ事実らしい。


なぜニュースになっていないのだろうか。

人々は洗脳されていて、僕だけがその事実に気づいているとか?

ばかばかしい。

しかし本当に僕だけが真実を知っているとしたら………… 。

僕はこれからどうすればいいのだろうか。



右往左往していた頃、これら諸々の疑問は内閣府宮内庁の所属を名乗る男が僕の家を訪ねたことで解決する。

宮内庁とはいえ、袴では無く黒いスーツだった。

仕事ができそうな雰囲気を漂わせた男で、またしてもおかしな人に目をつけられたのかと疑ってみる。

「二日も寝過ごした、とか思ってたりします?」

僕が日付について混乱していることをなぜか知っているらしい。


話があると言うことなので、考え、迷った末にその男を居間に上げた。


「君が阿久津君に逢ったのですね」


「アクツ君とは?」


「ああ、黒髪のやる気なさそうな男です。彼は君に何か言いましたか?」


一瞬、あの男にもちゃんと名前があったのだなと思った。

別に疑っていたわけではないが、しっかりとこの世に存在する人物だったらしい。


あの男に何か言われた気もするがあのときの奇妙な印象が強すぎて、逆に何を言われたのかは覚えていない。


「そもそもこれって、どういうことですか? 何で二日も日付が飛んでいるのに、なぜ誰も気にせず、普通に生活ができているのですか?」


まあまあと僕をなだめるように広げた両手を軽く上下させて、にっこりと微笑んでくる。

吸い込まれるような黒いスーツは毛玉一つないくらい清潔だった。


「自分はこの仕事が初めてですので、うまく説明できるか分かりませんが。まずは落ち着いて聞いてください。世界が二日飛んだのではありません。君が丸二日間寝ていたのです。」



………… ありえない。


明日世界が滅ぶと言われたくらいに。

僕の驚いた様子にその男は幾分満足そうに声を上げて上品に笑う。

少し癪だった。


「君は日本史がどうやって正しく伝わってきているか疑問に思ったことはありますか? 恐らく阿久津君が選んだ君ならきっとあるはずです。本当に聖徳太子は十人の話を同時に聞けたのか。歴史の陰に隠れてしまった功績者はいるのではないか。そもそも歴史なんて虚偽かもしれない。とか。ありますよね。歴史を読み解くに当たって、昔の冷たい書物を解析しているとでも思っていましたか? それは少し違います。書物じゃなくて実際は人伝いなのです。過去から現代に渡る正しい歴史を脈々と受け伝えている者がいるのです。温かいでしょ」


「……温かいかどうかはさておいて。そんな話、僕は聞いたことありませんが」


「聞いたことがないのは当たり前です。なにせ、ごくごく一部の人間にしか知らされていない事実ですから。何せ歴史の中には、社会通念と異なっていたり、表向きには明かしたくない事実であったり。国家機密のものもありますからね」


「それを僕に言ってもいいんですか?」


僕は行く先の不穏な空気を感じ取り、不安を露わにする。

しかし身体で怯えつつも、内心は話の続きを早く聞きたいと思ってしまったことがどうやら態度に出ていたらしい。


男は僕を見て意味ありげに微笑み、一つ深呼吸して話の前に意図的に(タメ)を作る。

僕はこれ以上感情が表情に出ないように、はやる気持ちを抑えながら男の言動をじっと見ていた。


「…… 。君は鋭いのですね。その人知れず秘密裏に歴史を伝える者というのが阿久津君であり、君なのです。君の身辺調査は軽くしました。あまり人付き内の多くない君には適性があるようでしたので」


「…… 人付き合いが多くないことが適正なんですか?」


「それに君の寿命、ひいては体質が変わったからです。今から詳しく話させていただきます。阿久津君が君を選んだからですが、それ以上に君が選ばれた理由があると思いますが。まあこれから長い付き合いになるでしょうし、どうぞよろしくお願いしますね」


おっとそうでした、まずは名乗っておきます。

そう言って男は上品な紙質の名刺を差し出す。


ーー内閣府宮内庁管轄下、特別歴史伝承保安官 山本直哉ーー


こうして僕は何やらよく分からない出来事に巻き込まれ、怪しげな連中に目をつけられた。


ついでによく分からない者になってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 地の文がとても丁寧で情景が浮かぶし、心情描写もテンポが良くて人柄が分かりやすく、楽しく読ませていただいています。 [一言] これからも応援してます。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ