心中立て
ここは吉原。人々の欲が飛び交い、遊女達が咲き乱れる百花繚乱の地。
ある屋敷の寝室、二人の少女が床に入り話していた。
「ねぇお雪、この吉原ってお上から認められた遊郭なんですって。お姉様が言ってた。」
「不思議だねお春。こんな桃色の光で満ちた場所、私は目が潰れてしまいそうだよ....」
「──いつか、大人になったら、この街から抜け出しましょ?」
そう言うとお春は自分の髪を一本抜く。
それに対して、お雪は首を傾げる。
「お姉様に教わったの。人と契りを結ぶ時はこうやって自分の髪や爪を渡すの。『心中立て』っていうのよ。」
「お春は凄いなぁ...お琴や踊りもわたしより上手いし、物知りだし。」
そう言うと、お雪も髪を一本抜き、二人は自身の髪をお互いの小指に巻き付ける。
「約束よ。いつの日か、ふたりで一緒に吉原から抜け出すの。」
「うん、約束。ふたりで、絶対ね。」
──『心中立て』それは本来、遊女と客が互いの愛を確かめ合う誓い。
あるいは、客を自分のモノにするための手管。