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エピソード11「小田巻聖剣VS風見凪」

 風見凪(かざみなぎ)は概ね優等生には程遠い人生を送ってきた。

 自身の特殊能力を使ってやることは喧嘩ばかり。暴力を振りかざしてついには高校を退学になった。

 そして行き場のなく彷徨っていた時、まだ子供の朝谷響(あさやひびき)に拾われた。その時彼は薄暗い人生にぱっと明かりがついたかのように思えた。

 彼が単身湾岸地区に殴りこんだのは、主人の朝谷姉妹を危険な目に合わせたくない一心である。

 その帰結として、鬼抜隊隊長小田巻聖剣(おだまきせいけん)と対峙する。

 風見凪は素早く拳銃を取り出し、三発撃った。弾丸は小田巻聖剣のトレンチコートを撃ち抜く――かと思いきや、どれも真っ二つに避けては見えない何かに弾かれた。

 小田巻聖剣の能力、射程内の物を切り刻む透明の刃。無敵の能力である。


「やはりこんなものでは倒せないか」


 風見凪は拳銃を放り投げる。すると空中で勝手に分解した。一体何事か、観戦していた阿刀田冷子(あとうだれいこ)は目を丸くする。


「聖剣と似た能力……? いや」

「何をした?」


 小田巻聖剣のトレンチコートがふわりとはためき、彼は頬を抑える。その指の隙間から確かに血が流れていた。


「風は切ることはできまい」

「射程距離か!」


 小田巻聖剣は屈みこむ。頭上を一陣の風が通り抜けた。切れ味鋭いつむじ風である。そのまま彼は前進する。相手よりおそらく短いであろう、射程距離に収めようと。しかし風見凪の身体はふわりと浮かび上がり、大きく後退した。

 黒いトレンチコートが引き裂かれる。風見凪は仕事用の黒手袋をしっかりはめ直す動作をした。その表情には余裕がある。


「私の能力の方が上だな。お前は下だよ、小田巻聖剣」

「引きずり下ろす」


 小田巻聖剣は構わず接近する。だが突如発生した突風に行く手を阻まれる。風見凪は宙を舞い、一方的にかまいたちで切り付けた。

 しかしながら小田巻聖剣もまた不敵に笑う。


「お前の能力は決定打に欠けるようだな」


 これはずばり的中だ。風見凪自身距離を取ってばかりはいられないと考えていた。彼の操る風は近ければ近いほど強風になる。敵を確実に仕留めるには接近しなければならない。そのタイミングを計っていた。

 風見凪は風で移動しながら四方八方嵐を吹き荒らし、敵を狙う。翻弄される小田巻聖剣。ついに風見凪は相手の背後を取る。


「終わりだ小田巻聖剣!」


 一気に接近し、風見凪は無数のつむじ風を小田巻聖剣に当てる。入った! 確実な手ごたえを彼は感じた。

 だがいつの間にか小田巻聖剣の姿は消えていた。風で吹き飛んだのか? 否、ふっと息で消された蝋燭の炎のような、幻であった。


「ククク、アハハ! 引っかかりましたね」

「その声……小田巻じゃない!?」


 風見凪は周囲を見渡す。しかしいつの間にか阿刀田冷子も藤堂虎太郎(とうどうとらたろう)もいなくなっていた。ただ笑い声が聞こえるのみ。


「貴方はすでに私の手の内なのですよ、フフフ……」

「鬼抜隊に未知数の能力を持つ者がいると聞いたが……お前か、(はざま)ピエール!」

「ご名答です、朝谷組の能力者。いや確か……名前は風見凪」

「たいした情報収集能力だ」


 風見凪は平静を装って言うが、内心焦っていた。幻術の類に引っかかるなんて。自分自身を殴りたくなる気持ちになる。


「どこに隠れているか知らないが、炙り出してやる!」


 全方位やみくもに突風を放つ風見凪。だが人の気配は彼の死角、背後だった。

 ピエロメイクの間ピエールではない。

 黒いトレンチコートに身を包んだ、本物の小田巻聖剣だった。

 風見凪は振り向く。だがすでに時遅し。

 ――響お嬢様、私はここまでのようです。

 最期にそう思ったか。風見凪は真っ二つに裂けて絶命した。

 空間までもが裂ける。だがこれは間ピエールの能力が生み出した異空間であった。元の世界に戻るとピエロマスクの男だけでなく阿刀田冷子と藤堂虎太郎の姿もあった。


「朝谷組、こんなものかしら聖剣」

「まさか」


 小田巻聖剣は煙草を取り出す。すると巨漢の藤堂虎太郎が何も言わずにライターで火をつけてやった。


「だが何人来ようが同じことだ。この街の能力者は全て殺す」


 一口吸った後、小田巻聖剣は煙草を放っては能力で粉微塵にした。


「それが甘粕への手向けにもなるだろう」


 死んだ仲間のことを想い、夜空を見上げる。

 これが鬼抜隊であった。

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