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僕より先に死なないで  作者: 荒川 うみ
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第3章

月曜日会社に行くと、


月曜日会社に行くと僕の状況は少しだけ好転していた。

「やあ吉原君!」

会社のオフィスに白い扉を開けて入った瞬間に彼女の声が聞こえた。

「おはようございます吉原さん。」

すかさず挨拶が返せた今日の僕を僕は褒めてあげたいと窓際に置かれた自分のデスクに向けて歩きながら思った。うちの会社の規模がそんなに大きくないという話をしたが、この人材を扱う部署は主に15人で仕事を回している。基本的に社長は頭数に入れてはいない。中央の一番いかにもな場所に、席が用意してあるが、ほかの部署にも同じようにデスクが配置されており社長はすべての部署の部屋に席がある。僕が、入社するため説明会に来た時に聞いた話だが、社長室を作らないのは社員の働きを数字以外でも見たいという事と、ボケ防止に、おしゃべりがしたいんだ。と、もう70歳近い社長が笑いながら言っていたのがとても印象的で、この会社に入ろうと思った覚えがある。念願かなって今はこの会社に入ったはずが今では、窓際社員というわけだ。

だが、今日だけは、いつもと違った。彼女が僕に挨拶をしたという事が与えた衝撃と、営業職に戻ることが決まったからだ。朝から同行営業や引き継ぎやらで僕は、夜まで(定時は17時30分)残ったが、こんなに苦にならない残業は初めてだ。やる気が僕に眠気を誘わせない。一人でパソコンにしがみつき明後日からの復帰に向けて数字やグラフとにらめっこをした。

会社を出たのは22時過ぎで、会社を出てすぐに、自分の手がぐっと強く握りこまれていることに気づいた。会社を出てすぐの場所に、立ち止まって深呼吸をして力を抜き手を開いた。そこには何もなかったけれど、自分の中に意外なほどやる気があることを感じれた。

すると後ろから、声がした。「ややや、こんな時間まで残業かね?」そう言って彼女は楽しそうにくすくすと笑った。「君こそ、こんな時間まで?」とただ、疑問に思ったことを聞いたのだが、彼女は

「私がこの会社のエースだから」とすごくまじめな顔をした。言い終わってすぐに「ふふふ」と笑ったのだけれどそれが冗談ではなく本音の部分であろうことを察した。ここから再スタートする僕と現エースの彼女は、天と地ほどの実力差があるはずなのに、ライバルと思えた。彼女に負けられないと。

そして、あふれんばかりの気持ちがピークに達して僕はこう言った。


「これから飲みに行こう!」

僕は興奮状態で、しかし彼女の顔が、笑顔が曇った感じがして急に冷静になった。

「あ・・・あの・・・その・・・」

「なんですか?」

「ちょっとテンションが上がってしまったというかその、ごめんなさい」

「なんで謝るんですか?」

「はい・・・」

いたたまれない気持ちになった。この場から直ぐにでも逃げ出して、そうだ海を見て心を落ち着けようと思った。そんなことを考えいると

少し考えて、「まあ、いいですけど変なことしようと考えてたらぶっとばしてやる」と言った。

ごめんなさい。そんな度胸ないです。と内心思った。



どこにでもあるような大衆居酒屋に行き、本来は、4人掛けであろう席に通された。それなりの時間だというのにこの店はそれなりに忙しそうだ。最初は1時間の約束だった。ビールを一杯飲んでから、彼女は日本酒に切り替えた。僕も負けじと彼女に合わせて日本酒を注文した。

営業職をしていればある程度酒は飲めたほうがいいと僕は思っている。が、それにしても彼女は強い。僕のほうが眠くなってきた。

「ねねね、吉原さんはどんな子が好きですか?」そんな独身が集まればどこの誰でもするような話に僕は酒が入っていて真剣に答えた。答えてしまった。


「僕より先に死なない子」


一瞬の静寂が僕の酔いを少しだけ覚ました。あんなにうるさく聞こえた周りの声が全くしなかった。

「なんで?」と言った彼女のはじめてみせる表情に僕も冷静になりそしてまじめに答えなければと思った。

 内面をさらけ出すのは得意じゃない。たぶん誰だって。


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