始まり
-創造しよう。この星の全てを
想像しよう。この星の終わりを-
夜も更け、ホゥホゥと梟がなき月明かりが眩しい。
しーんっと静まりかえった社の灯りも落ちようとしていた。
広大な土地と豊かな資源。
占星術と神のお告げにより統治しているホシノ国。
全ては神の声を聞くことのできる巫女を女王として、世界を手中に収めるべく隣国へ戦を仕掛けていた。
「さて、次はどこに行こうか。
ヒノ国も和睦を申し込んできたしのう。」
黒く艶やかな髪をふわりと香らせ、首をかしげる。
褐色の細い首で飾り細工が施された金の輪がしゃらりと揺れ、妖艶な巫女を彩る。
孔雀の羽でできた扇子を揺らし、ぶどう酒の入った金杯に口付ける。
「神の子よ、わらわに聞かせておくれ。そなたの声を。」
ヒュンッ!と火のついた矢が放たれる。
草むらから幾重にも重なって弓兵が次々と矢を放つ。
炎は社に移りごうごうと燃え上がってゆく。
「何事だっ!」
火がもえさかり巫女のいた社の中まで熱が篭って行く。
ガゴンッ!
と大きな音がし、燃え移った炎が社の支柱を呑み込んでいく。
「衛兵はどこだ!なにをしている!」
羽織を肩にかけ廊下にでれば、巫女のいる社は燃え上がる炎に囲まれていた。
キンッキンッと金属の溢れる音に目をやると、
衛兵達は賊と戦いながら巫女のいる部屋まで押されていた。
戦力は圧倒的に分が悪い。
「巫女様あぁああああ!!お逃げください!」
業火の中起こる怒声。
火に囲まれ、社は燃え上がる。
火のついた矢が放たれ、次々と落ちていく兵士達。
賊と化した民衆に囲まれ逃げることはできなさそうだ。
「見ろ!この広大な領土を!
これが私の力だ!」
黒い甲冑を纏い、鈍い色した髪を靡かせながら吼える。
貧しく餓死しかけていた子供が、力を手にして変わってしまった。醜く肥え、過信する。
大地の豊富な緑と溢れる清らかな水は、黒く焦げた匂いをさせ兵器を作る工場群へと姿を変えた。
轟々と煙を吐き出し、溶けた鉛があちこちから漏れ出ている。
地は黒く染まり、緑は焼け焦げた。
水は枯れ、太陽は工場から吐き出される黒い煙に覆われしばらく見ていない。
「さあ、次はなにを手に入れよう!
ふ、ふはっふははははははは」
まただ。
「ん?何か言ったか?」
くるりと肩を反転させ、醜くい顔をこちらに向ける。
幼き頃
飢えた戦争孤児が誰よりも強い力を望んだので力を与えた。
力を手にした男の子は泣きながらも、戦い、剣を振り続けた。
いつしか戦争に招集され、死に直面することもあったが成果を上げることができた。
認められ、報酬を貰う。
飢えてガリガリだった体が、鍛えて大きくなり、強くなった。
ぼろぼろの穴だらけの布切れが、鎖帷子になり、銀色の甲冑になった。
パン一つで3日彷徨っていたのが、戦中に干し肉を嚙り、食べきれないほどの肉と酒に溺れた。
この国を変えたい。
飢えて死んだ妹を救えるようになりたい。
だから力が欲しい!
と泣きながら叫んでいた子供は、
自分と同じ孤児を生み出している。
はぁ。
憂鬱な気持ちを吐き出すようにため息をつく。
また
私は失敗してしまった。