第八話 結末と始まり
国王陛下が言っていたパーティーが開かれ、私は下ろしたばかりの新しいメイド服を着ている。胸中は不安な気持ちでいっぱいだ。こんなことを言うのは失礼だとは思うけれど、国王陛下にお願いしたのは間違いではなかったのだろうかと、後ろ向きな考えばかりしていた。
何が起こるか解らない。
それはすげー怖いんだぜ……。国王陛下。
国王陛下がたまにこちらをにやりと笑うのが、これまた嫌な予感しかしなかった。
パーティーが中盤に差し掛かると、国王陛下は周りに静かになるよう指示を出す。静かになった会場に、国王陛下の威厳ある声は響く。
「本日。我が息子であるフローレンスと、ティリエ家のご令嬢であるイザドラとの婚約を、再び結ぶことをここに宣言する」
辺りはざわつく。それはそうだ。あんな婚約破棄が公の場で行われ、社交界では流行りの話題だった。
国王陛下の話は続く。
「私はあの件があってからずっと思っていた。顔が整っていて才能溢れる次世代の男たちを、身分違いで十人並みの容姿をした少女が、侍らすことは可能なのかと」
可能です。国王陛下。
それが乙女ゲームってやつっす。
それがいいんす。
「その謎は五日前に解けた」
えっ!?
「王子たちはあの少女に呪いをかけられていたんだ。あの少女に恋をするという呪いを! しかし、そこの忠義を尽くしてくれたフローレンスのメイドによって、呪いは解かれた。そして、二人は真の愛を手に入れたのだ」
ヒロインのオリアーナが悪女キャラに加え、魔女という称号も手に入れてしまったようだった。
というか、視線が私に一気に集まる。
私は胸を張って、凛々しいメイドを演じた。
は、HAHAHA。そうです。私が忠義を尽くしたメイド。呪いの解除なんてお茶の子さいさいなのです。
冷や汗は垂れてないだろうなと、私は前髪を直すふりをした。
国王陛下の話が終わると、興味津々の貴族たちが私の周りを囲みだす。ヤバい逃げ場がない。
「何故、呪いがかかっていると解ったんですの?」
「…………お、王子がイザドラ様と愛し合っているのを知っておりましたので」
「どうやって、呪いを解いたんだ?」
「えっと。色々、試した内のどれかで解けたので、断定は……」
貴族との会話をなんとか無難な会話で切り上げ、私は会場の隅っこの方に逃げた。ダンスの音楽が流れ始め、周りは男女のダンスに視線を向ける。同じように色んな人に捕まっていたイザドラが私の隣に来て、私の大好物である唐揚げを持ってきてくれた。
もぐもぐ……うまー。
幸せ。
「ありがとうシャノン。貴女のおかげで、私はフローレンス王子と結ばれることが出来たわ」
幸せいっぱいのイザドラの笑みに、私も表情が緩む。
「私は何もしてないよ。何も出来なかったし、何も思い付かなかった。……他力本願で、皆が動いただけだった」
お礼を言われるようなことを、私自身は何もしていない。告白したのだってイザドラが決めたことだし、国王陛下は一芝居演じてくれたし。私は何もしていないのだ。
そう言うとイザドラはぱちくりと目を瞬かせ、私の頭をコツンと叩いた。
「何言ってるの。貴女が動かしたんじゃない」
イザドラの告白を促し、謹慎中の王子を連れ出し、国王陛下にお願いしたのは、他でもない貴女でしょうと、イザドラはむすっとした。
そうかもしれないけれど、私は私自身の手で二人を助けたかったのだ。
イザドラの胸には、見覚えのある花。グレープヒヤシンスのブローチが付いていた。
「そういえば、その花言葉のせいで王子がネガティブになったんだよ。なんで失望なんて花言葉を持つ花を贈るのさ」
そう言うと、イザドラはあらあらと笑った。
「確かにこの花には失望という意味はあるけれど、私が贈ったのは違う意味よ」
『通じ合う心』
どうか王子と自分の心が、愛が、通じて欲しいという意味だったらしい。そう願うなんて、自分は嫌な女だなぁという意味だったらしい。
紛らわしいよ!
王子とイザドラの婚約がきちんと結ばれ、私は幸せだった。あのパーティーから三日が経ち、国王陛下に呼び出されるまでは。
呼び出された理由が解らず、私はびくびくしていた。
「婚約破棄の一件も片付き、謹慎の身だったフローレンスと、事が解決するまで休学していたイザドラは、明日から無事登校することになった。しかし」
国王陛下は、使用人に私へ手紙を渡させる。そして、受け取った四通の手紙を開けるように指示され、私は中に入っている紙を取り出し、読んでいく。
天才魔術師と呼ばれた攻略対象者の一人、ダニエル・ラシュトンはあれ以来、魔術開発も学園への登校もせず、部屋に引きこもっているという。
騎士団団長の息子ロジャー・ローリーは、女性恐怖症になってしまい学園に退学届けを出し、騎士団へ入隊したのだが、父親は女性恐怖症を治して欲しいらしい。
宰相の息子マリウス・ウィルスは、ヒロインであるオリアーナのせいで人嫌いがさらに拗れたらしい。
才能溢れる芸術家ラングレー・ミラードは、奇行を繰り返し……君は元から変人キャラだから変わらないな。
とはいえ、婚約破棄の影響は、王子だけではなかったようである。
なるほど、国王陛下は後始末が大変ですね!
なんて思っていると、国王陛下は恐ろしいことを口にした。
「お前がフローレンスの為に頭を下げる時、俺は思った。コイツらを救えるのは、こうやって誰かを思いやることが出来る奴だと…………シャノン・フリエル。お前に国王である俺から命令する。コイツらを、なんとかしろ」
嘘………………だろ?
ティリエ家のところを
家と、
家名が無しでした。脱字すみません。